あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍

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1 捨てた(元)妻 ※ルドヴィク

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 銀髪に青い目、妖精のように美しい王妃セレーネ。
 いや、正しくは妻、王妃だ。

「なぜ、王妃でなくなったお前が、ここにいる!」
「国王陛下にお会いするため、王宮へ戻って参りました」

 賢く美しいセレーネ――侯爵令嬢だった彼女は幼い頃から、評判がよかった。
 王妃にするには申し分ないと思ったから、自分の妻に選んだのだ。
 だが、次代の王を身籠ったのは彼女ではなかった。

「セレーネ……」

 今の俺の妻(王妃)、デルフィーナは驚き、言葉を失っていた。
 デルフィーナは赤い髪と赤茶色の瞳、気の強さが顔に出ているが、美人だ。
 彼女には、セレーネのように特別なものは感じなかったが、セレーネと違うからこそ、惹かれるものがあった。
 
「デルフィーナ。驚いているけれど、私が王宮に戻らないと思っていたのかしら?」

 ――その通りだ。まさか、数年経って目の前に現れるとは……

 セレーネがデルフィーナに微笑む。
 デルフィーナも負けてはいない。

「わたくしは王妃なのよ。なれなれしく口をきかないでちょうだい。今さら戻ってきて、いったいなんのつもりかしら」
「デルフィーナ。私がなぜ戻ってきたか、あなたにはわかるのではなくて?」

 優雅に微笑んだセレーネ。
 彼女はまだ二十代後半。
 その美しさは健在だった。
 デルフィーナの顔が憎しみと嫉妬で歪んだ。
 だが、セレーネは動じない。
 二人は王妃を目指し、争っていた関係だ。
 いや、他にも候補者はいた。
 だが、最終的に残ったのはこの二人。
 そして、俺が選んだのは宝石のように美しいセレーネだった。
 
 ――セレーネだったのだ。
 
 だが、今の王妃はデルフィーナ。
 理由は簡単だ。
 デルフィーナが王の血を引く子供を産んだからだ。
 王の血を引く子は特別な力を持つ。 
 デルフィーナの子は王女で、人の心を読む能力を持っている。
 
「セレーネ。お前もこの国の貴族令嬢として生まれた。デルフィーナは王の血を引く子を身籠った。放って置くわけにはいかなかったのだ」
「ええ。そうでしょう。王の血を引く子供は王になる可能性があるのですから」

 やけに物わかりがいい。
 それが、よけい不気味だった。

「もちろん、私の子にも王になる資格があります」
「うん? お前の子だと?」

 セレーネの後ろにいた小さな人影が動く。
 その小さな人影は、セレーネによく似た銀髪に青い瞳の男の子だった。
 七歳くらいだろうか。
 デルフィーナが生んだ王女、ロゼッテと同じ年頃に見える。

「ルチアノと申します。あなたの子です」
「なんだと!」
「嘘おっしゃい!」

 デルフィーナが声を荒げた。

「お初にお目にかかります。ルチアノです。ようやく父上にお会いできました」

 セレーネによく似て、賢そうで利発な子供だ。
 セレーネはデルフィーナではなく、俺だけに語りかけた。

「その証拠にルドヴィク様。あなたの力は消えたはずです」

 陛下ではなく、昔のように名で呼ぶセレーネ。
 それは王への死刑宣告だった。
 王に相応しい子供が生まれたなら、王は力を失う。
 
「女王になるのは、わたくしの子、ロゼッテよ!」
「ロゼッテ王女とルチアノは同じ年齢です」
「まさか……」
「王宮を追われた時、私のお腹にルチアノが宿っていました。けれど、陛下の愛情も後ろ盾も失っていた私は、この子を王宮で育てる自信がなかった」

 ロゼッテと同じ年齢というが、ルチアノのほうがしっかりして見え、むしろ年上に見える。
 子供の一歳差は大きい。
 別れた後、できた子ではなさそうだ。

「王位に相応しいのはロゼッテよっ! それに陛下の子供とは限らないわ!」

 半狂乱になり、デルフィーナはセレーネの子を否定する。
 俺が力を失っているのは間違いない。
 てっきり、デルフィーナが生んだ子ロゼッテが原因だと思っていた。

「偽者っ! 偽者に決まってるわっ!」

 大騒ぎしているデルフィーナをセレーネは無視し、俺に告げた。

「力を失った王は王位から退かねばならない――そうでしたわよね?」

 そして、気づく。
 ――捨てた妻が、自分と浮気相手のデルフィーナに復讐するため、王宮へ戻ってきたのだと。
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