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イトメとゆかいな仲間たち
なんか迷ったようだけど
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昨夜、今朝と、昨日よりもちょっといいご飯を食べ、宿も昨日はいっぱいになってしまったあの宿に泊まることができた。少し値段は上がったけど、それだけの価値はあった。なによりベッドが黴臭くなかった。
そして今日も掲示板の前に来る。
「ううむ」
と言っても、昨日の仕事だけじゃまだ何も分からない。また人材募集がないかと足を動かす。
「あの…」
反射的に振り向いた。ああ、僕で良かったようだ。声をかけられることなどほとんどないので、自分かどうか自信がなかった。
「僕ですか?」
「はい。あの、一昨日一緒に登録試験、受けてましたよね?」
誰だっけ?
僕と同じくらいの背丈の可愛い系の女の子だ。一緒に試験を受けていたという口ぶりから、冒険者登録試験のことだろう。
「すみません。覚えがなくて…」
「ああ、いえ、いいんです。私もあなた以外の人はあまり覚えていないので」
「僕以外?」
「だって、あの、試験官の人吹っ飛ばしてましたよね?」
あれを見ていた子か…。ここで頭を掴んで記憶操作したら目立つな。
「あの、そのことは、その、あまり口外してほしくないんですけど…」
「え? なんでですか?」
「えと、事情がありまして、あまり目立ちたくないんです」
「あ、そうなんですね。分かりました」
にっこり笑う。いい人っぽい。
「あ、それでですね。もし、お仕事お探しなら、クエストに誘われてるんですけど、一緒にいかがですか?」
「え? いいんですか?」
「はい。昨日、重たそうな荷物を平気で担いで行くのを見かけたので、丁度いいかなと思ったんですけど」
昨日のも見てたのか。エンカ率高いな。
「荷物持ちが必要なんですか?」
「はい。迷いの森に狩猟に行く依頼なんです。それで荷物持ちがいた方が動きやすいんじゃないかと話してまして」
なるほど。確かに狩った物を持ってくれる者がいた方が多くを狩りやすいだろう。
「朝から行けばギリギリ夕方には帰って来られるくらいの距離なので、もしまだ何もなければ一緒にいかがですか?」
よく分からないけど、知見を広げるにはちょうどいいだろう。
「分かりました。一緒に行かせてください」
「はい。ではこっちへ」
招かれるままについて行く。
「あ、私、ミアって言います。あなたは?」
「僕は威無人です。でも目が細いのでイトメとも呼ばれます」
「イトメ? 可愛いあだ名ですね。私もイトメ君て呼んでもいいですか?」
可愛い? どちらかというと貶されているようなあだ名だと思うけど…。
でもなんだろう。彼女にそう呼ばれるのは嫌じゃない。
「はい。好きに呼んでください」
案内された場所には4人の人がいた。
「あの、言っていた心当たりの人で、イトメ君って言います」
「ああ、昨日重そうな荷物持ってたって奴だね。あたしはチータ。この夜明けの風のリーダーやってる」
「俺はエド」
「俺はザザン」
「あたしはリシェよ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「とても力持ちに見えそうにないけど、大丈夫?」
「よく言われますけど、そこそこ力持ちだと思います」
能力を解放したらもっと凄いと思います。しないけど。
「まあいいか。じゃあよろしくね。出発するよ」
渡された荷物を背負い、総勢6人でギルドから出発した。
迷いの森まではミアさんも役目がないからと、僕と一緒に最後尾を歩いてくれた。
「役目ですか?」
「うん。私、元々猟師をやっていたからね。斥候として臨時で仲間になったの。この先相性とか悪くなければ、このパーティーに入れてもらえることになってるの」
「そうなんですね」
「イトメ君もパーティーを探してるの?」
「そうですね。僕も知らないことだらけなので、どこかに入れたらいいなとは思ってます」
「ふふ。このまま一緒に入れたらいいね」
…。女の子とまともに話すなんて、何年ぶりだろう…。もちろん姉さん以外で、だ。
ミアさんはさすがというか、僕よりいろいろ知っていた。
今いる街はファナストと言って、レンドリアス王国の南にある街らしい。近場の森は街の南のあたりにあり、今向かっている迷いの森は街の西にあるのだそうだ。迷いの森はその名の通り、ちょっとダンジョン風になっているので、気を付けないと迷って出られなくなってしまうらしい。
なので斥候の知識と経験を持つ者は重宝されるらしい。
「斥候というか、森で迷わないようにする知識とかなんだけどね」
「いやいや。それでも凄いと思いますよ」
話しているうちに、森の入り口にやって来た。
そしてミアさんが先頭へと行き、森の中へと入っていく。
なるほどなぁ。確かになんとなく知覚が狂いそうになる感覚がある。よほど慣れた人とかじゃないと、ここに来るのは危険なのだろう。
不思議なことに奥へ進むほどに霧が濃くなっていく。
猟師をやっていたという言は嘘ではなかったようで、彼女は獲物を発見するのが上手かった。
チータさんは盾持ちの片手剣。エドさんは大剣持ちの前衛。ザザンさんは弓を構え、リシェさんは魔法で援護するという、かなりバランスのいいチームだと思う。獲物を見つけ次第、あっさりと仕留めて行く。
ミアさんは双剣使いだった。そういえばいたな。
「いいペースだね。これなら早めに戻ってもいいかもしれない」
予定の時間よりも早く帰ろうということになった。
羽うさぎとは違うウサギのようなものが5匹に、鹿よりも小さい鹿と、猪よりも体が丸い猪。なかなかの収穫だ。
「ラビーは手分けして持つとして、ディンカはエド背負えるかい? イトメ君は…」
「こいつですね」
太った猪を背負う。
「ウェイトンボアを軽々と…。なるほど。確かに力持ちだね」
帰り道もミアさんを先頭に、霧がかった森の中を歩く。
途中までは順調だったのだが、なんだかおかしな感じになってきた。
歩みが遅くなり、ついには止まってしまう。
「何やってんだい?」
前の方から声がする。
「す、すいません…。目印が…何故か見つからなくて…」
「なんだって?」
トラブルのようだ。
「ここまではきちんとあったんです…。でも、何故かここから先には見当たらなくて…」
「何か間違えたとか、見落としてるとかじゃないのか?」
「かもしれません。少し戻ってみてもいいですか?」
戻ることになった。
しばらく戻った後、また進んでいく。
やっぱり足が止まる。
「どうなってるんだい?」
「すいません。目印を意図的に消されたとしか…」
「なんてこった…」
迷子になったようだ。
「だいたいの方角とか、分からないかい?」
「すいません。霧が濃くて、太陽の位置が分かりずらくて…」
「ただでさえ森の中だしねぇ。仕方ない。今日はここで野営する覚悟をするしかないね」
ということで野宿することになった。
なるほど。こういう時もあるのだな。
お水はリシェさんが魔法で出せるので心配ない。こういう時の為に水魔法も習っておいた方がいいかもしれない。
で、みんな携帯食料というものを持っているらしい。どうしよう。僕はおやつしか持っていない。
さっき今日の分は食べてしまったから、もう今日は食べることは出来ない。
仕方ない。今晩は夕飯抜きだ。
ウェイトンボアを下ろしてぼーっとしていると、
「イトメ君大丈夫ですか?」
ミアさんが心配そうに声をかけてきた。
「? 何がですか?」
「あの、お昼も持ってなかったみたいだから…」
「そうですね。携帯食料、僕も用意しないとですね」
「ごめんなさい。みんな普通に持ってるものだと思ってて…」
「いいんですよ。僕が気づかなかったのが悪いんです」
昨日帰ってから買いに行くべきだったのだ。甘いものに気を取られて忘れていた。
「あの、良かったら…」
ミアさんの分だろうか。携帯食料を差し出してきた。
「でも、ミアさんは?」
「私は余分に持ってきてるんで、大丈夫です」
「そうなんですか。では有難く」
有難く頂戴して、一口齧る。
「む…」
「どうしました?」
隣に腰を下ろしたミアさんも、平気な顔で携帯食料を齧っている。
見た目はカロリーメ〇トみたいなのだが…、味が…。
「味は二の次、栄養満点、てやつですね…」
「食べたことなかったんですか?」
「ええと、記憶喪失でして…」
便利な記憶喪失だ。
「ふふ、確かに、これ初めて食べた時は顔が曲がりました」
どんな顔だったのだろう。
森の中のせいか、日が暮れるとあっという間に真っ暗だ。適当に薪を組んで火を起こす。
「3交代で見張ろう。あたしとミア、エドとリシェ、ザザンとイトメだ」
1日目の夜は何事もなく過ぎた。
「あの、私、少し見て来ようかと思うのですけど」
朝になるとミアさんが周りを見てきたいと言い出した。
「だが、ここは迷いの森だよ? はぐれたりしたら、もしかしたらひとりで彷徨うことになるかもしれないんだよ?」
「でも、私が帰り道を探さないと…!」
「…。分かった。あまり遠くには行かないようにね」
「はい!」
いい返事をして、霧の中へと体を潜らせる。
昨日より霧が濃くなっている気がする。いや、気のせいじゃないな。
何かがいる。
こちらを伺っているみたいだけど、手を出してくる雰囲気はない。もしかしたら弱ったところを襲ってくる類のものかもしれない。一応警戒しておこう。
しかしミアさん、アレを見落としてるだけだと思うんだけど。う~ん、どうやったら自然に気づかせてあげられるのだろう?
彼女には食事のお世話になっているし(今朝ももらってしまった)、姉さんにも人に何かしてもらったら必ずお礼をしろと言われているし。どうにかして気づかせてあげられないかな? というか、気づかないってことは、何か意識的に邪魔が入っているということかもしれない。
ちらりと視線を寄越してくる何かを伺う。手を出してくる気配はない。
ミアさんは道々枝を折ったり、木に傷をつけたり、下草を特徴的に均したりしていた。それが目印になっているのだと思う。それが目の前にあるのに、何故か気づかないで道が分からないと言っていたのだ。妨害が入っているとしか思えない。
迷いの森か…。
ちょっとだけ能力を解放。千里眼でミアさんの様子を探る。
一生懸命道を探しているようだが、やはりその目印には不自然に気づかないようだ。
僕も甘いものが無くなる前には、街に戻りたいなぁ。
ん? 能力を使ったせいか、ミアさんの頭のあたりに何か靄がかかっているのが見える…。
これか…。
しばらくするとミアさんが戻って来た。
道が見つかったかもしれないと、また歩き始める。
しかしまたすぐに歩みが止まってしまう。
チータさんは焦らずに見つけてくれと慰めるが、それもプレッシャーになってしまっているようだ。
昼も取らずひとりで道を探し続けるミアさん。どんどん顔が暗くなっていっている。大丈夫かな?
「ごめんなさい。これしかなくて…」
再び夜が来て、夕飯の時間だ。最後の一本らしい。ミアさんが差し出してくる。
「いえいえ。持ってない僕が悪いんですから。ミアさんが食べてください」
一応おやつは食べたし。
「でも、私のせいで…」
「ミアさんは今日も一日動きっぱなしだったじゃないですか。僕はほとんど動いてませんから。ミアさんが食べてください」
「…ごめんなさい」
暗い顔で隣で食べられると、なんて声をかけていいのか分からない。
「きっと見つかりますよ。大丈夫ですよ」
「…」
気まずい…。
そして今日も掲示板の前に来る。
「ううむ」
と言っても、昨日の仕事だけじゃまだ何も分からない。また人材募集がないかと足を動かす。
「あの…」
反射的に振り向いた。ああ、僕で良かったようだ。声をかけられることなどほとんどないので、自分かどうか自信がなかった。
「僕ですか?」
「はい。あの、一昨日一緒に登録試験、受けてましたよね?」
誰だっけ?
僕と同じくらいの背丈の可愛い系の女の子だ。一緒に試験を受けていたという口ぶりから、冒険者登録試験のことだろう。
「すみません。覚えがなくて…」
「ああ、いえ、いいんです。私もあなた以外の人はあまり覚えていないので」
「僕以外?」
「だって、あの、試験官の人吹っ飛ばしてましたよね?」
あれを見ていた子か…。ここで頭を掴んで記憶操作したら目立つな。
「あの、そのことは、その、あまり口外してほしくないんですけど…」
「え? なんでですか?」
「えと、事情がありまして、あまり目立ちたくないんです」
「あ、そうなんですね。分かりました」
にっこり笑う。いい人っぽい。
「あ、それでですね。もし、お仕事お探しなら、クエストに誘われてるんですけど、一緒にいかがですか?」
「え? いいんですか?」
「はい。昨日、重たそうな荷物を平気で担いで行くのを見かけたので、丁度いいかなと思ったんですけど」
昨日のも見てたのか。エンカ率高いな。
「荷物持ちが必要なんですか?」
「はい。迷いの森に狩猟に行く依頼なんです。それで荷物持ちがいた方が動きやすいんじゃないかと話してまして」
なるほど。確かに狩った物を持ってくれる者がいた方が多くを狩りやすいだろう。
「朝から行けばギリギリ夕方には帰って来られるくらいの距離なので、もしまだ何もなければ一緒にいかがですか?」
よく分からないけど、知見を広げるにはちょうどいいだろう。
「分かりました。一緒に行かせてください」
「はい。ではこっちへ」
招かれるままについて行く。
「あ、私、ミアって言います。あなたは?」
「僕は威無人です。でも目が細いのでイトメとも呼ばれます」
「イトメ? 可愛いあだ名ですね。私もイトメ君て呼んでもいいですか?」
可愛い? どちらかというと貶されているようなあだ名だと思うけど…。
でもなんだろう。彼女にそう呼ばれるのは嫌じゃない。
「はい。好きに呼んでください」
案内された場所には4人の人がいた。
「あの、言っていた心当たりの人で、イトメ君って言います」
「ああ、昨日重そうな荷物持ってたって奴だね。あたしはチータ。この夜明けの風のリーダーやってる」
「俺はエド」
「俺はザザン」
「あたしはリシェよ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「とても力持ちに見えそうにないけど、大丈夫?」
「よく言われますけど、そこそこ力持ちだと思います」
能力を解放したらもっと凄いと思います。しないけど。
「まあいいか。じゃあよろしくね。出発するよ」
渡された荷物を背負い、総勢6人でギルドから出発した。
迷いの森まではミアさんも役目がないからと、僕と一緒に最後尾を歩いてくれた。
「役目ですか?」
「うん。私、元々猟師をやっていたからね。斥候として臨時で仲間になったの。この先相性とか悪くなければ、このパーティーに入れてもらえることになってるの」
「そうなんですね」
「イトメ君もパーティーを探してるの?」
「そうですね。僕も知らないことだらけなので、どこかに入れたらいいなとは思ってます」
「ふふ。このまま一緒に入れたらいいね」
…。女の子とまともに話すなんて、何年ぶりだろう…。もちろん姉さん以外で、だ。
ミアさんはさすがというか、僕よりいろいろ知っていた。
今いる街はファナストと言って、レンドリアス王国の南にある街らしい。近場の森は街の南のあたりにあり、今向かっている迷いの森は街の西にあるのだそうだ。迷いの森はその名の通り、ちょっとダンジョン風になっているので、気を付けないと迷って出られなくなってしまうらしい。
なので斥候の知識と経験を持つ者は重宝されるらしい。
「斥候というか、森で迷わないようにする知識とかなんだけどね」
「いやいや。それでも凄いと思いますよ」
話しているうちに、森の入り口にやって来た。
そしてミアさんが先頭へと行き、森の中へと入っていく。
なるほどなぁ。確かになんとなく知覚が狂いそうになる感覚がある。よほど慣れた人とかじゃないと、ここに来るのは危険なのだろう。
不思議なことに奥へ進むほどに霧が濃くなっていく。
猟師をやっていたという言は嘘ではなかったようで、彼女は獲物を発見するのが上手かった。
チータさんは盾持ちの片手剣。エドさんは大剣持ちの前衛。ザザンさんは弓を構え、リシェさんは魔法で援護するという、かなりバランスのいいチームだと思う。獲物を見つけ次第、あっさりと仕留めて行く。
ミアさんは双剣使いだった。そういえばいたな。
「いいペースだね。これなら早めに戻ってもいいかもしれない」
予定の時間よりも早く帰ろうということになった。
羽うさぎとは違うウサギのようなものが5匹に、鹿よりも小さい鹿と、猪よりも体が丸い猪。なかなかの収穫だ。
「ラビーは手分けして持つとして、ディンカはエド背負えるかい? イトメ君は…」
「こいつですね」
太った猪を背負う。
「ウェイトンボアを軽々と…。なるほど。確かに力持ちだね」
帰り道もミアさんを先頭に、霧がかった森の中を歩く。
途中までは順調だったのだが、なんだかおかしな感じになってきた。
歩みが遅くなり、ついには止まってしまう。
「何やってんだい?」
前の方から声がする。
「す、すいません…。目印が…何故か見つからなくて…」
「なんだって?」
トラブルのようだ。
「ここまではきちんとあったんです…。でも、何故かここから先には見当たらなくて…」
「何か間違えたとか、見落としてるとかじゃないのか?」
「かもしれません。少し戻ってみてもいいですか?」
戻ることになった。
しばらく戻った後、また進んでいく。
やっぱり足が止まる。
「どうなってるんだい?」
「すいません。目印を意図的に消されたとしか…」
「なんてこった…」
迷子になったようだ。
「だいたいの方角とか、分からないかい?」
「すいません。霧が濃くて、太陽の位置が分かりずらくて…」
「ただでさえ森の中だしねぇ。仕方ない。今日はここで野営する覚悟をするしかないね」
ということで野宿することになった。
なるほど。こういう時もあるのだな。
お水はリシェさんが魔法で出せるので心配ない。こういう時の為に水魔法も習っておいた方がいいかもしれない。
で、みんな携帯食料というものを持っているらしい。どうしよう。僕はおやつしか持っていない。
さっき今日の分は食べてしまったから、もう今日は食べることは出来ない。
仕方ない。今晩は夕飯抜きだ。
ウェイトンボアを下ろしてぼーっとしていると、
「イトメ君大丈夫ですか?」
ミアさんが心配そうに声をかけてきた。
「? 何がですか?」
「あの、お昼も持ってなかったみたいだから…」
「そうですね。携帯食料、僕も用意しないとですね」
「ごめんなさい。みんな普通に持ってるものだと思ってて…」
「いいんですよ。僕が気づかなかったのが悪いんです」
昨日帰ってから買いに行くべきだったのだ。甘いものに気を取られて忘れていた。
「あの、良かったら…」
ミアさんの分だろうか。携帯食料を差し出してきた。
「でも、ミアさんは?」
「私は余分に持ってきてるんで、大丈夫です」
「そうなんですか。では有難く」
有難く頂戴して、一口齧る。
「む…」
「どうしました?」
隣に腰を下ろしたミアさんも、平気な顔で携帯食料を齧っている。
見た目はカロリーメ〇トみたいなのだが…、味が…。
「味は二の次、栄養満点、てやつですね…」
「食べたことなかったんですか?」
「ええと、記憶喪失でして…」
便利な記憶喪失だ。
「ふふ、確かに、これ初めて食べた時は顔が曲がりました」
どんな顔だったのだろう。
森の中のせいか、日が暮れるとあっという間に真っ暗だ。適当に薪を組んで火を起こす。
「3交代で見張ろう。あたしとミア、エドとリシェ、ザザンとイトメだ」
1日目の夜は何事もなく過ぎた。
「あの、私、少し見て来ようかと思うのですけど」
朝になるとミアさんが周りを見てきたいと言い出した。
「だが、ここは迷いの森だよ? はぐれたりしたら、もしかしたらひとりで彷徨うことになるかもしれないんだよ?」
「でも、私が帰り道を探さないと…!」
「…。分かった。あまり遠くには行かないようにね」
「はい!」
いい返事をして、霧の中へと体を潜らせる。
昨日より霧が濃くなっている気がする。いや、気のせいじゃないな。
何かがいる。
こちらを伺っているみたいだけど、手を出してくる雰囲気はない。もしかしたら弱ったところを襲ってくる類のものかもしれない。一応警戒しておこう。
しかしミアさん、アレを見落としてるだけだと思うんだけど。う~ん、どうやったら自然に気づかせてあげられるのだろう?
彼女には食事のお世話になっているし(今朝ももらってしまった)、姉さんにも人に何かしてもらったら必ずお礼をしろと言われているし。どうにかして気づかせてあげられないかな? というか、気づかないってことは、何か意識的に邪魔が入っているということかもしれない。
ちらりと視線を寄越してくる何かを伺う。手を出してくる気配はない。
ミアさんは道々枝を折ったり、木に傷をつけたり、下草を特徴的に均したりしていた。それが目印になっているのだと思う。それが目の前にあるのに、何故か気づかないで道が分からないと言っていたのだ。妨害が入っているとしか思えない。
迷いの森か…。
ちょっとだけ能力を解放。千里眼でミアさんの様子を探る。
一生懸命道を探しているようだが、やはりその目印には不自然に気づかないようだ。
僕も甘いものが無くなる前には、街に戻りたいなぁ。
ん? 能力を使ったせいか、ミアさんの頭のあたりに何か靄がかかっているのが見える…。
これか…。
しばらくするとミアさんが戻って来た。
道が見つかったかもしれないと、また歩き始める。
しかしまたすぐに歩みが止まってしまう。
チータさんは焦らずに見つけてくれと慰めるが、それもプレッシャーになってしまっているようだ。
昼も取らずひとりで道を探し続けるミアさん。どんどん顔が暗くなっていっている。大丈夫かな?
「ごめんなさい。これしかなくて…」
再び夜が来て、夕飯の時間だ。最後の一本らしい。ミアさんが差し出してくる。
「いえいえ。持ってない僕が悪いんですから。ミアさんが食べてください」
一応おやつは食べたし。
「でも、私のせいで…」
「ミアさんは今日も一日動きっぱなしだったじゃないですか。僕はほとんど動いてませんから。ミアさんが食べてください」
「…ごめんなさい」
暗い顔で隣で食べられると、なんて声をかけていいのか分からない。
「きっと見つかりますよ。大丈夫ですよ」
「…」
気まずい…。
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