妖しのハンター

小笠原慎二

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魚の解体

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「内臓って、どこにあるんだ?」
「試しに開いてみては?」
「開くってどうやって?」

調理された魚しか見たことがない俺達にとって、魚を開くということさえ言葉でしか知らない。

「とにかく、肛門がこっちにあるんだから、腸とかもこの辺りにあるんだろう?」

腹の辺りをエデルが指で示す。確かにそうだ。

「まず切ってみるか」

ソードをナイフの形にして、恐る恐る腹を切ってみる。ぞろりと内臓が出て来た。

「うわ、キモ!」
「俺、無理…」

エデルが逃げた。おいこら。

「確か、内臓取り出して洗うんじゃなかったっけ?」

覗き込んでいたグレハムからお言葉が。

「やる?」
「任せた!」

良い笑顔で応えんじゃねえ!

「お前ら、後学のために、挑戦してみねえ?」
「「遠慮します」」

同じく覗き込んでいたトニーレオンとダルシュも声を揃えて拒否。こいつら。
仕方なしに腹を割き、そのまま川の水に浸して内臓を取り出し洗い出す。

「こ、こんなもんか?」

なんだか腹だけなくなったおかしな魚が出来上がったけど…。これでいいのだろうか。

「そんで、棒に突き刺して焼くんだよな?」

昔昔のお話の中にそんな挿絵があったことを思い出す。

「森でないか見てくるわ。おい、エデル」

グレハムが遠巻きに見ていたエデルに声をかけ、共に森へと向かった。
捌いた?魚をバッグに入れて、次を取り出す。

「お前らも、自分の食べる分だけでもやれよ?」

にっこり笑ってそういうと、笑顔を引き攣らせつつ2人も魚を取りだした。ソードをナイフの形にして、俺と同じように腹を割いていく。
ガイアンドは見張りをしているから放っておこう。チラチラ岩の方を見ているけど一応見張りはちゃんとこなしているようだし。

捌いている途中で女性陣が岩陰から出て来た。存分に水浴びして来たようだ。
魚を刺す用のと薪になりそうな小枝を拾ってきたエデルとグレハムも加わり、女性陣に火起こしと魚を焼くのを頼んで岩陰に入って行く。
魚の焼き方? 俺が知るわけない。良い感じに頑張れと手を振った。納得いかない顔をしていたけど、手探りで魚を捌いた俺達だって同じようなものだ。

エデルとグレハムとガイアンドが見張りに立ち、俺とトニーレオンとダルシュが先に水浴びをする。久しぶりにスーツを脱ぐと開放感があった。
体を適当に洗った後、エデルに一言断り、川の中程に進んでみる。途中から川は深くなっており、流れも早くなっている。俺だったらスーツを着れば泳ぎ切れるかもしれないが、大分下流に流されそうだ。

(泳いで渡るのは難しそうだな)

ソナーでは見えにくい岩陰などに変な魔物でもいたら、水の中では動きが鈍くなる分全滅の恐れもある。無理は出来ない。
川から上がり、エデル達と交代する。体は拭かなくともスーツを着てしまえば勝手に乾く。なんと便利。
エデル達も川から上がり岩陰から出ていくと、煌々と燃える焚き火の炎が見えた。その周りに串刺しにされた魚が突き立てられている。うん、昔昔のお話の挿絵でこんな感じの光景みたことあるぜ。

「どんな感じよ?」
「こんな感じよ」

近づいて問いかければ、ポーラが答えた。うん、大分態度が軟化してるよね。

「う、ちょっと良い匂いだな…」
「お前逃げたくせに」
「るせーな。気持ち悪かったんだよ」

涎を垂らしそうなエデルの脇を突くと、決まり悪そうに突き返してきた。

「どれくらい焼けばいいのかよく分からないです」

マルチナが少し困ったように見上げて来た。

「そうだよな。誰か食べてみないと分からないよな」

で、何故俺に視線が集まる。

「俺毒味係かよ!」
「これ、ちょっと良い感じ」

ポーラが少し焦げ目のついた魚を1匹差し出して来た。もう片方の手には「毒消し」の弾が握られている。食べろと。
拒否できない空気の中、ポーラが差し出して来た魚を受け取る。皮に少し焦げ目はあるが、実に美味しそうな匂いがする。
適当に腰を下ろし、皆の顔を見回した後、勇気を振り絞って魚に齧り付く。

「!」
「どうだ?」
「これは…」

バッグをゴソゴソと漁る。

「おい、シアン?」
「塩気が足りない!」

塩の小瓶を取り出すと、魚にパパッと振りかけた。そしてもう一口。

「!!!!!」
「おい、シアン!」
「もう少し焼いても良いかもしれんが…。美味すぎて泣ける…」
「おい! 焼けたのあるか?!」
「お、俺にも!」
「駄目! 女子が先!」

(俺男子だけど…)

その後は焼けた魚を奪い合うようにして、ついでにエデルも塩の小瓶を出して皆魚に振りかけた。皆一様に美味そうな顔をして魚を食っていた。








「魚は捕りたてが美味いとは聞くけど、こういうことだったのか…?」
「それ刺身じゃね?」

エデルの呟きにツッコむ。
1人冷静に見張りをしてくれていたグレハムと交代し、エデルと見張りをしている。魚が美味すぎて見張りを忘れていたとは、リーダー失格だな。

「で、この川多分渡らないといけないみたいだけど、どうするエデル」
「飛び越える、のは無理そうだな」
「川の中程は深くなってるうえに流れも早い。泳ぐのは難しそうだぞ」
「俺泳げねーわ」
「まじか」

一応義務教育の中に水泳は必須科目だったはずだが…。泳げない奴もいるもんだな。

「筏、とか?」
「この人数乗せるとなるとどうなるんだろうな」

生き残り10人。筏を作る技術など持っていない。川の流れも早いし、まともに川を渡れる気がしない。

「昔は橋を架けてたんだろ? それが何処かに残ってたりしないかな?」
「川上か川下に移動してみるしかないか」

俺の提案にエデルが溜息を吐いた。何百年も前に架けられた橋が残っているとは思えないが、その残骸でも残って足場さえあればなんとかなるかもしれない。しかしそれが何処にあるのか、川に沿って歩いてみなければ分からない。そしてあるかも分からない。
他に方法も見つからないので、結局歩くことに決まるが、さて問題は川上か川下か。

「「う~ん」」

2人で唸る。
あまりうろうろして変な魔物がいる所に踏み込むことになってはまずい。かといってここから見ただけではなんの手掛かりもない。いや待てよ、俺が高い所から見れば多少は分かるか?

「高い木に登って試しに見渡してみるか?」
「シアン、お前木登りも出来るのかよ」
「出来るけど」

え、みんな出来ないの? あ、普通はしないものか?
他に手掛かりもないし、ということでエデルと共に森へと向かう。その間の見張りはガイアンドとトニーレオンとダルシュに頼む。グレハムはまだ食ってる。
森の手前にあるできるだけ高い木によいせと登り、ギリギリ上から川を見渡す。多少川の方が低くなっているとは言えど、そこまで見晴らしが変わるものでもなかった。それに川は蛇行しているので、その先は森やら何やらで見えなくなっている。
しかし俺には妖の力がある。エデルからは死角になっていることを確認し、遠見の力を使う。遠見の力はどんな遮蔽物があっても周りを見渡す事が出来る便利な力だ。

「川上はやめておけ。川下の方がよいぞ」
「!!」

だから、いきなり後ろから声を掛けられると驚くっつーに!

「川下の方がホームに近い上に、いろいろ瓦礫が溜まっている場所がある。そこならば下の金づちも渡れるだろうの」
「聞いてたんかよ」

金づちじゃないよ。泳ぎ方が分かってないだけだよ。きっと。

「って、ホーム、近いのか?!」
「まだまだだがの。大分近づいておるの」
「そっか…」

思わず笑みが零れる。もう少し頑張ればゴールなのだ。こんなに嬉しいことはない。

「せめて、今いる奴等全員で行けたらな…」
「甘い考えは捨てるべきだの」

辛いことを言う。

「すでに死相が見えている者もおる」
「! 誰だ?!」
「それは言えぬ。言ったところで多分結果は覆らぬ」
「でも…!」
「運命を変えるにはそれ以上に大きな力がいるものだの。まあ、下の奴ではないとは言っといてやろう。下の奴は精神的に折れそうになっておる。気をつけてやれだの」
「え? エデルが?」
「余程あのジャンとか言う黒い男が消えたのがこたえているようだの。彼奴もまだ27歳か? 全てを背負うにはまだ精神が至らなかったようだの」
「じゃあ、なんとなくエデルが暗い顔してるのって…」
「不安に押しつぶされそうになっているのだの。下手をすれば彼奴自滅するぞ?」

背筋がぞっとなる。毎日誰かが目の前で死んでいる今の異常な状態。ポーラが口数が多くなったのも、エデルと同じようなものなのかもしれない。俺もともすれば不安に押しつぶされそうになるが、俺にはこの黒猫がいる。そのおかげか踏みとどまれている。
生徒達だってそうだ。トニーレオンとダルシュも川ではしゃいでいたが、それも不安の裏返しかもしれない。ロミーナだって明るく振る舞っているが、目の前でアンをミミズに食われている。アリーフェアがダルシュといいことしているのも、正気を保つ1つの方法なのかもしれない。
皆明日は我が身という不安と戦っているのだ。

そんな中で皆を引っ張らなければならない大役を負ったエデル。きっと今まで以上にいろいろ背負い込んでいるのだろう。かといって俺に何が出来る?

「何もせぬでも、側にいてやれば良い。お主の存在に随分助けられているようだからの」
「え? 俺? なんかしたっけか?」
「だから何もせぬで良いと言っておるだろうがの」

よく分からんが、あまり長く木の上にいすぎて疑問を持たれてもまずい。さっさと消えた黒猫は無視して木をスルスルと下りていった。

「よう、何か見えたか」
「ああ、川下の方にもしかしたら渡れるかもしれない場所がある。大分歩くけど行ってみよう」
「分かったそうしよう」

明るく笑ったエデルが背を向けて歩き出す。その背を追い、エデルの横に並んだ。

「ここまで来たんだ。ヨコハマのホームももう近いさ」

俺の言葉にエデルはちょっと驚いたような顔をした。

「ああ、そうだといいな」

エデルがホームがあるだろう方向に遠い視線を向けた。
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