妖しのハンター

小笠原慎二

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森の火の手

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「どうやらあの食獣植物の所は去ったらしい。もう日暮れも近いし、ここらで野宿にしようと思う」

ジャンがそう声を掛けると、皆ほっとしたような顔になった。やはり疲れたのだろう。俺もだ。
念の為周りを確認し、特に危なそうな物がない事も確認する。小高い丘になっているそこは、森からも遠い場所になっていて見晴らしが良い。「攫う者」の森も遠くに少し見下ろす形に見えていた。
まだ残っている携帯食料を口にする。実を言うと俺は裏の部屋・・・・にこういう時の為にと若干インスタントやらの食料があったりはするのだが、まさかこの場でそこから出すわけにもいかない。く、人がいるとまともに動けん。

携帯食料も皆そろそろ尽きる頃だろう。となれば、あの生臭い肉を食わなければならなくなるのだが…。く、解体さえ出来たなら…。
念の為焚き火を用意する。どんな生物もやはり火は恐れるものだ。それこそ火の中に住むと言われるような生物以外は。
焚き火用の薪は皆そこそこ持っていたので有り難かった。1人3日分の薪を手渡されても、3人で使うのは1人分しかない。在庫がある分には困らないからいい。

各々テントを張る。俺とエデルとジャンだけ少し離れ、それぞれの報告を上げた。エミリアが攫われたのはその後ろを走っていたアリーフェアを庇ったからだと分かった。アリーフェアが攻撃を受けたのだが、咄嗟に長銃で回避できたらしい。しかし長銃はその時に吹き飛ばされ、短銃で応戦するしかなくなった。短銃はフルオート機能がない。そのカバーにエミリアが入っていたのだが、狙われたアリーフェアを庇い代わりに攫われてしまったらしい。

「なんと言ったらいいか…」

やはり新人が足を引っ張ってしまったか…。こういうのが怖かったんだ。しかし助けられたはずのアリーフェアはさすがに顔を青くしていたが、それほど思い悩んだ顔はしていなかった気がする。もう少し自分の代わりに攫われたエミリアを思って泣いたりしていてもいいんじゃなかろうか? それは俺の身勝手な思い込みなのか?
俺も目の前の女の子が転けた話しをする。その時にエデルが担ぎ上げてくれたことも。

「ほお、やるじゃないかエデル。そんな気概があるとはな」
「俺は誰かと違って女の子には優しいからね」

と俺に視線を向けて来やがった。どうせ俺は冷たいですよ。今までに泣かせた女の子は数知れずですよ。その理由の殆どが子供が出来ないという癇癪だったけど。女性の場合妊娠するとハンターが免除されるからね。それを狙ってくる女性も多いのだ。だから上位ハンターで顔も良い俺は数多の女性から狙われていたのだ。まあそれは置いといて。

「俺の所のラシャードはいつの間にかって感じだな。水に流される前に確かいた気がするんだが…」

転んだ子を抱えて走り出した時には確かに確認している。となればその後に襲われたか、もしくは水の流れに上手く乗れなかったか…。

「もう1人は俺達が転んだ子を相手にしている時か?」
「そうみたいだな。エミリアが攫われた後にもう一度悲鳴が上がった。あのアリーフェアという子の後ろを走っていたはずだ」

短銃になったアリーフェア辺りの守りの薄くなった穴を狙われたということか。

「俺が中に入った方が良かったかな…」

そうすればもうちょっと上手くフォロー出来たかもしれない。

「いや、スリーマンセルに慣れ始めた新人の中にソロが入ると調整が難しくなるからな。あれは仕方がなかった」

スリーマンセルの3班で行動することに慣れ始めていた中に、俺をツッコむとバランスが余計に崩れていたかもしれないとジャンは言う。確かにその可能性はあったが、もっと何か出来たのではないかとやはり思ってしまう。

「起こってしまったことを悔いても仕方ない。俺達は、悔しいかもしれんが前に、ヨコハマまで進まなければならないんだ。出来るだけ気にするな」

チームメイトのエミリアが攫われて、誰よりも腸が煮えくり返っているだろうジャンに言われれば何も言えなくなってしまう。
先程アレクセイが言っていたこと、実はジャンが一番やりたがっている事だろう。誰よりも仲間を助けに行きたいと思っていても、この場にいる皆を生かす為に無謀な行動は出来ない。俺はちょっとジャンをカッコイイと思ってしまった。
そっち系の趣味ではないよ? 単純に憧れみたいなものでね? 腐らせないでね?
















魔物除けの香を焚き、見張りを立てて休むことになった。ベテランと新人を混ぜての4交代だ。おおよそ3時間ほどの交代で俺は3グループ目の一番中途半端な時間に割り当てられた。この時間だけ新人がおらず、俺とエデルとジャンの3人だけだ。一番変な時間帯だから責任者が割り当てられたのだと。仕方ない。
テントに潜り込み、体を休める。きちんと休まなければこれからの行軍にも影響が出る。休める時に休んでおかなければ。そうして横になっていくらか経った時だった。
何か外が騒がしくなった。気になり体を起こす。そしてテントを出て唖然。森が燃えていた。あの方角は「攫う者」の森だ。

「何があった?!」

声を掛けるもみんな右往左往。どうして殆どみんな起きているんだ。

「シアン!」

名を呼ばれ振り向けば、ジャンがエデルと立っていた。そちらに合流する。

「何があったんだ?!」
「アレクが火を付けにいったらしい」

アレクセイが?!
アレクセイは同じチームの無口な赤毛の女性ポーラと新人のアリーフェアとマルチナの4人で最初の見張りグループだったはずだ。それが何故?

「隙を見て森に向かったらしいな。そして火の弾を使ったようだ」

そして火に気付いたポーラがジャンを呼びに行った。その間にアリーフェアとマルチナが騒いでしまい、結局みんな起き出してしまったらしい。

「消しに行かないのか?!」
「お前なら行けるか?」

ジャンが尋ねて来た。そういえばあそこは食獣植物の原だ。真っ直ぐ行けば良いというものではない。きっとアレクセイも昼間つけた俺達の足跡を辿ってあそこまで行ったのだろう。それでも時間がかなり掛かったはずだ。

「分かった。俺1人で行く。後はここで待ってろ」

誰か一緒になどと言ったらそれこそ面倒くさいことになる。俺は銃器を確認し、森へ向かって駆け出した。
気持ちが悪いと思う所は踏まないように、出来るだけ早く足を動かす。暗くとも感覚が危険を教えてくれるのは有り難い。目だけに頼らずに済むというのはなんと便利なことか。
ソナーはあまり役に立っていなかった。ここの食獣植物達は魔力を殆ど持っていないようで、探知に引っ掛からないからだ。

「はーっはっはっは! 燃えちまえクソザル共め!」

アレクセイの高笑いが聞こえて来た。何笑ってるんだあいつは。もしあれで生存者がいたとしても、煙に巻かれるか火に巻かれて焼け死んでしまうだろう。その辺りきちんと考えているのだろうか?

「アレクセイ!」
「その声は、シアンか?」

やっと声が届く所までは来たがまだ遠い。

「早く離れろ! お前も死ぬぞ!」
「俺は死なん。俺は最強の男なんだ」

頭の回路狂ってないかこいつ。
年はジャンより2、3若いくらいだが、そんなに幼稚な頭でよくこれまでやってこれたものだ。よほどジャンがいいリーダーだったのだな。

「あいつはエミリアを奪った! これこそ天罰! 我らに刃向かうものには死を!」

どこの独裁者の考えだよ。てかあいつ、エミリアに惚れてたのか? だとしたがあの狂喜染みた瞳も分かる気がする。
その時、焼ける森の中から白い影がいくつか飛び出して来た。火に追われた「攫う者」だ。
そして、アレクセイの首から上が俺の目の前で吹っ飛んだ。
俺は足を止める。まずい。このままだと囲まれる。
火に追われたせいか「攫う者」も殺気立っている。平野に降り立った時などは恐る恐るという感じになるのだが、今は怯えた気配はない。そしてそいつらがこちらを向いた。俺に気付いていたのだ。
慌てて反転する。まだ距離はあるが、奴等の跳躍力は半端ない。

「ギャ―――――!」

1匹が甲高い声を上げると、一斉に俺に向かって襲いかかってきた。無我夢中で引き金を引く。何匹か途中で落ち、バタンバタンとあちこちで音が鳴った。

「ギャ―――――!」

しかしそれでも無事な者達が襲いかかってくる。まずい、やられる!
距離が詰められ、銃が役に立たなくなる。俺はソードを構えた。近接戦闘ならこっちの方が戦いやすい。一応ソードの戦い方も、母親に仕込まれているからなんとかなる。
足元に注意しながら、襲いかかる「攫う者」に対処する。て、無理! 数とか半端ねえ!
あっという間に囲まれる。その間にもバタンバタンとあちらこちらから音がする。何匹食われてんだよ。
さすがにもう駄目か…。「攫う者」が一斉に襲いかかってきた。そして俺は…。

バタン!

食獣植物に飲み込まれた。
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