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食料の問題
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曲がり角から人影が現われた。
「よう、シアンか」
金髪の刈り上げに青いタレ目、俺と同じくらい良いガタイ。
「ええと、確か、12位のライオネスの…」
「エデル・ラインバッハだよ。覚えろ」
「俺より下の奴は基本覚えられなくて…」
「相変わらずムカつく奴だな!」
そう言ってエデルはガシリと俺の肩に腕を回してきた。
「なんか、生きてる奴に会えるのがこんなに嬉しいとはな…」
エデルの目が少し潤んでいる。
「それは同意する」
俺達のように暗くなる前に移動して来たのだろう。しかし少し俺達の方が早かったのだ。
「お前1人か? 他に誰かいなかったか?」
腕を外し、エデルが聞いてくる。
「俺はたまたま引率に出ててな。先に生徒達と一緒にホームに入って来てたよ。生き残りは、今の所見付けていない」
「そうか…」
エデルの瞳が暗くなる。
「しかし、お前が引率って珍しいな」
「たまたま人がいなかったんだよ。俺はやりたくないって前から言ってたのに」
基本の「き」しか教えられてないぞ。
「ああ。だが、それのおかげで生徒達も助かったんだ。ある意味良かったのか?」
「たまたま外に出てたってだけだろ」
「そうだけどな」
2人で倉庫に入って中を物色し始める。
「やっぱり転送ゲートは壊れてると思うか?」
エデルが聞いてくる。
「と思うな。奴等は人よりも賢いって聞いた事がある」
「そうか」
それ以上その事については聞いてこなかった。エデルも同じ考えなのだろう。
「銃はもう一つ予備があれば十分だよな?」
「弾は持てるだけ持っていくか? でも食料の問題も有るしな」
そんなことを話し合いながら、持って行く数を厳選していく。
弾は「火」「風」「水」「地」と「治療」「回復」「毒消し」「閃光」などがある。
「治療」はいわゆる「ヒール」。「回復」はそれよりも効能が強い「エクストラヒール」とでも言うのか、治療では治せない深い傷などを治す物である。そして「回復」は効能が高い為なのか、作るのも難しいらしく数も少ない。一応回復系は詰められるだけ持って行くことにする。
攻撃系の「火」「風」「水」「地」「閃光」は、使いどころが難しい。あれば便利だが、咄嗟にこれを使うという判断が出来なければただの宝の持ち腐れ。それに森の中では「火」は使えない。
「一応数は揃えた方が良いんじゃね?」
エデルの言葉に、これもまあ数を揃えることにした。何かあったときのためだ。
「毒消しっているか?」
「この辺りあまりいないんだよな…」
いないわけではないが、一番使わない系だ。しかしこれからの道程、必要かも知れない。とりあえずやはりある程度持って行くことにした。流石に倉庫にあるもの全部は入らない。
「そういえば、行く先は決まったのか?」
エデルに聞いてみた。
「南のヨコハマを目指してみようと思ってる。お前は?」
「俺も同じだ。確かヨコハマが一番近いと思った」
「だよな」
考える事は同じのようだ。良かった。
ある程度物色を済ませると、倉庫を出る。次は食料探しだ。しかし一歩出た所で足を止めた。
「おっと」
後ろからぶつかりそうになったエデルが寸でで足を止めた。
「誰だ?」
今はソナーしか使っていないので、誰かがいるということしか分からない。腰の短銃に手を掛けている。
「お前らか、生きてたのか」
6位チームのホワイトファングのリーダー、ジャン・ホワイトが角から現われた。
ジャンも持てるだけ詰め込むと、共に食料を求めて歩き出した。
「「跳ねる者」は美味いって聞いたことあるけど?」
「そうなのか?」
「俺も捌いたことはないな」
この中でも一番の年長者であるジャンもないようだった。ジャンは黒髪黒眼の少し濃い小麦色の肌の持ち主だ。ワイルドなおじさまといった感じである。
「しかし肉ばかりではな。どこかの調理機器が動いてくれれば有り難いんだが」
「そうだよな。調味料もないのにどうやって食うんだよ」
エデルが文句を言う。そういえば使わないので塩さえ持っていない。
「食堂…にもないよな」
思い出してみれば、食堂にも自動調理機器が付いている。ボタンを押せば料理が出てくる便利アイテム。
「未だに手料理にこだわっている街の店を探さないと、調味料は難しいだろうな」
ジャンが言った。
「あ、俺1つ知ってる…あー! でもノーザンテッドにあるからかなり遠いな」
ノーザンテッドは北の区画だ。ここは南区画のサウザンイーツ。今はゲートが使えないので歩いてノーザンテッドまで行かなければならない。遠い。
「タクシーの修理なんかが出来たらなぁ」
思わず呟く。そういうのも中低能力者達の仕事だったので、俺達は触ったこともない。
「魔力を流せば使える物が1つくらいあるかもしれないぜ?」
エデルが顔を輝かせる。
「試してみても良いかもしれんな」
ジャンも同意した。
試してみた。駄目だった。見た感じ、コアとなる部分が割れていた。これじゃあ魔力を溜めることも出来ない。他の車体を見てみたが、やはり同じような状態だった。遠出は無理だ。
「大丈夫よ。この辺りのお店で良い所あったから」
6位チームのホワイトファングに所属しているエミリア・ハーベストがウィンクした。
今は続々と戻って来る仲間達を壁の壊れた所で待っている所だ。皆この辺りを集合場所にしていたらしい。
エミリアも転送ゲートの確認と食料を探しに行き、途中生徒達と合流したらしい。そして手料理していた料理店を発見。なんとかそこにある食べられそうな物と調味料をバッグに押し込んできたのだそうだ。ありがたや。
転送ゲートはやはり壊されていたそうだ。他の場所も多分駄目だろう。万が一を考えて確かめに行くのも時間が掛かる。食糧問題やここに雪崩れ込んで来るだろう魔物の事を考えると、確認しに行くのも難しい所だ。
その他の仲間達も帰って来るのが見えた。成果はそれぞれ。荷物は均等に分けることにし、どうしても分けられない物、例えば塩の小瓶などはそれぞれのリーダーが責任持って持つことにする。
この場合、俺とエデルとジャンになるわけだ。
この日の夜はとりあえず持っていた食料で腹を満たした。既に陽が暮れているので凝った料理は出来ない。というかみんなした事がないので要領が分からないのだ。
それぞれにテントを張り、今夜はここで野宿することになった。静かな街は無気味だが、まだ若干残っているだろう魔物除けの効果を期待したのだ。一応携帯用魔物除けのお香は焚いておく。
「エデル、ジャン、ちょっといいか」
食事の後に2人を呼びつけた。
「なんだ?」
「何か?」
2人共チームのリーダー。それなりに頼りになることは知れている。
「これからのことの情報の共有と、それと…」
言い辛いが、いつかはぶち当たる壁である。
「念の為、解体の練習をしてみたいから…付き合ってくんね?」
2人も微妙な顔になった。
情報の共有は上手くいった。皆転送ゲートを確認に行きたいが、この先の食糧事情を考えるとあまり時間もかけられない。なので南に向かうことで同意している。
「南の「攫う者」がちょっと厄介だな」
「それは弾も使ってなんとかするしかないだろうな」
「東と西もそれぞれ「晒す者」に「隠す者」だろ。生きて抜けられる気がしないよ」
俺もジャンもエデルも、同じ意見のようだ。
ちなみに北には「殺す者」というライオンに似た魔物がいる。こいつはテリトリーに入るとすぐさま殺しに来るのでそう呼ばれるようになった。1度母親が面白そうだと(どこがだ!)狩りに行ったが、勝負付かずで戻って来たらしい。すげえわ俺の母親。
あの戦闘狂でも敵わないならと、北は手つかずになっている。
東も「晒す者」と呼ばれるナメクジのような魔物がいる。こいつは音もなく近づいて来て、長い触手で絡めとる。触手の先にはトゲがあり、それには痺れる系の毒があるらしく巻き付かれるとそのまま動けなくなるという厄介な奴だ。襲った獲物を木の枝に刺してしばし置いてから食す習性があるらしく、後で様子を見に戻ったとあるチームが仲間の晒されている死体をみて絶叫したとか。ナメクジのくせに俊敏で、見つかれば逃げるのは難しい。母親が行かなかったのは、そういうヌルヌル系が苦手だったからだとか。
西の「隠す者」は、その正体さえ今だ分かっていない。ただ影の中に入ると一瞬で人が姿を消してしまうのだそうだ。それがどの影なのかも分からず、森の中は影だらけ。母親もその噂を聞きつけて狩りに行ったが、一歩も踏み込むことも出来ず帰って来たとか。怖いわ。
残る南の「攫う物」。こいつは白いヒヒのような魔物だ。その名の通り通る者を攫って行く。いや、人型のメスを攫うと言った方が正解か。オスはその場で殺される。そして攫われたメスは、人型の魔物あるあるというのか、まあ、子作りの苗床にされるわけだ。そんな魔物は「小鬼」だけで腹一杯なんだけどな。
こいつの面倒くさいのは数が多いこと。そして樹上から襲ってくることだ。木に巻き付いている蔓や蔦を使い、樹上から地上目がけて襲ってくるので対処が難しい。ここを突破して行こうとしたチームもいたが、数の暴力に勝てなかったらしい。母親?もちろん数の暴力で逃げ帰ってきたらしいよ。悔しそうにしてたけど。
そう、トーキョーのホームは四方をそんな魔物達に囲まれているので、はっきり言って逃げ場がない。だから唯一逃げられるかも知れないというのが、南ということになるのだ。あとは弾を利用して数の暴力をどうにかすれば、なんとか…なるかな?なって欲しいな。
「よし、じゃあ、試しにやってみようか!」
話しが暗くなって来た所で、バッグから「跳ねる者」を取り出した。
「で? どすんの? 俺知らないよ?」
開始する前から投げ出すエデル。
「俺も全く分からん。少しは勉強しておくべきだったな」
顎髭をさすりながら言うジャン。
「俺は本で軽く見たことがあるけど…」
2人の視線が集まる。いや、軽~く見たことがあるだけだからね。興味本位で見たけど結構グロくてすぐに閉じちゃったんだよね。だから覚えてないよ?
しかしやらなければならないわけで…。
「し、失敗前提だからな!」
ソードを取り出し、うろ覚えの喉に切り込みを入れた。
あんなに血って噴き出すものなんだ…。
見事に血まみれになった俺達。解体も散々。なんとか見様見真似で内臓は取り除けたけど、肉はボロボロ。本当に食べられるのか真に謎な物体が出来上がった。
貴重ではあったが血まみれでいるのも嫌なので、水の弾を使って体に付いた血を洗い流した。風呂代わりに使える水の弾。便利です。
弾は魔力の込め具合により威力が変わってくるので、風呂代わりにもなるが最大まで込めると津波くらいの威力になる。使い方を間違えると大変である。
「よし、早速実食だ!」
塩と胡椒があればなんとかなるだろう! 適当に火を付けて(火の弾を使ってしまった)適当に焼き目を入れる。きつね色になった感じで塩胡椒を振りかけ、3人で一緒に実食。
「食え…なくはない…」
「よく食えるな…こんな生臭いもの…」
「…最悪の非常食だな…」
俺、エデル、ジャン共に、感想は最悪だった。
「よう、シアンか」
金髪の刈り上げに青いタレ目、俺と同じくらい良いガタイ。
「ええと、確か、12位のライオネスの…」
「エデル・ラインバッハだよ。覚えろ」
「俺より下の奴は基本覚えられなくて…」
「相変わらずムカつく奴だな!」
そう言ってエデルはガシリと俺の肩に腕を回してきた。
「なんか、生きてる奴に会えるのがこんなに嬉しいとはな…」
エデルの目が少し潤んでいる。
「それは同意する」
俺達のように暗くなる前に移動して来たのだろう。しかし少し俺達の方が早かったのだ。
「お前1人か? 他に誰かいなかったか?」
腕を外し、エデルが聞いてくる。
「俺はたまたま引率に出ててな。先に生徒達と一緒にホームに入って来てたよ。生き残りは、今の所見付けていない」
「そうか…」
エデルの瞳が暗くなる。
「しかし、お前が引率って珍しいな」
「たまたま人がいなかったんだよ。俺はやりたくないって前から言ってたのに」
基本の「き」しか教えられてないぞ。
「ああ。だが、それのおかげで生徒達も助かったんだ。ある意味良かったのか?」
「たまたま外に出てたってだけだろ」
「そうだけどな」
2人で倉庫に入って中を物色し始める。
「やっぱり転送ゲートは壊れてると思うか?」
エデルが聞いてくる。
「と思うな。奴等は人よりも賢いって聞いた事がある」
「そうか」
それ以上その事については聞いてこなかった。エデルも同じ考えなのだろう。
「銃はもう一つ予備があれば十分だよな?」
「弾は持てるだけ持っていくか? でも食料の問題も有るしな」
そんなことを話し合いながら、持って行く数を厳選していく。
弾は「火」「風」「水」「地」と「治療」「回復」「毒消し」「閃光」などがある。
「治療」はいわゆる「ヒール」。「回復」はそれよりも効能が強い「エクストラヒール」とでも言うのか、治療では治せない深い傷などを治す物である。そして「回復」は効能が高い為なのか、作るのも難しいらしく数も少ない。一応回復系は詰められるだけ持って行くことにする。
攻撃系の「火」「風」「水」「地」「閃光」は、使いどころが難しい。あれば便利だが、咄嗟にこれを使うという判断が出来なければただの宝の持ち腐れ。それに森の中では「火」は使えない。
「一応数は揃えた方が良いんじゃね?」
エデルの言葉に、これもまあ数を揃えることにした。何かあったときのためだ。
「毒消しっているか?」
「この辺りあまりいないんだよな…」
いないわけではないが、一番使わない系だ。しかしこれからの道程、必要かも知れない。とりあえずやはりある程度持って行くことにした。流石に倉庫にあるもの全部は入らない。
「そういえば、行く先は決まったのか?」
エデルに聞いてみた。
「南のヨコハマを目指してみようと思ってる。お前は?」
「俺も同じだ。確かヨコハマが一番近いと思った」
「だよな」
考える事は同じのようだ。良かった。
ある程度物色を済ませると、倉庫を出る。次は食料探しだ。しかし一歩出た所で足を止めた。
「おっと」
後ろからぶつかりそうになったエデルが寸でで足を止めた。
「誰だ?」
今はソナーしか使っていないので、誰かがいるということしか分からない。腰の短銃に手を掛けている。
「お前らか、生きてたのか」
6位チームのホワイトファングのリーダー、ジャン・ホワイトが角から現われた。
ジャンも持てるだけ詰め込むと、共に食料を求めて歩き出した。
「「跳ねる者」は美味いって聞いたことあるけど?」
「そうなのか?」
「俺も捌いたことはないな」
この中でも一番の年長者であるジャンもないようだった。ジャンは黒髪黒眼の少し濃い小麦色の肌の持ち主だ。ワイルドなおじさまといった感じである。
「しかし肉ばかりではな。どこかの調理機器が動いてくれれば有り難いんだが」
「そうだよな。調味料もないのにどうやって食うんだよ」
エデルが文句を言う。そういえば使わないので塩さえ持っていない。
「食堂…にもないよな」
思い出してみれば、食堂にも自動調理機器が付いている。ボタンを押せば料理が出てくる便利アイテム。
「未だに手料理にこだわっている街の店を探さないと、調味料は難しいだろうな」
ジャンが言った。
「あ、俺1つ知ってる…あー! でもノーザンテッドにあるからかなり遠いな」
ノーザンテッドは北の区画だ。ここは南区画のサウザンイーツ。今はゲートが使えないので歩いてノーザンテッドまで行かなければならない。遠い。
「タクシーの修理なんかが出来たらなぁ」
思わず呟く。そういうのも中低能力者達の仕事だったので、俺達は触ったこともない。
「魔力を流せば使える物が1つくらいあるかもしれないぜ?」
エデルが顔を輝かせる。
「試してみても良いかもしれんな」
ジャンも同意した。
試してみた。駄目だった。見た感じ、コアとなる部分が割れていた。これじゃあ魔力を溜めることも出来ない。他の車体を見てみたが、やはり同じような状態だった。遠出は無理だ。
「大丈夫よ。この辺りのお店で良い所あったから」
6位チームのホワイトファングに所属しているエミリア・ハーベストがウィンクした。
今は続々と戻って来る仲間達を壁の壊れた所で待っている所だ。皆この辺りを集合場所にしていたらしい。
エミリアも転送ゲートの確認と食料を探しに行き、途中生徒達と合流したらしい。そして手料理していた料理店を発見。なんとかそこにある食べられそうな物と調味料をバッグに押し込んできたのだそうだ。ありがたや。
転送ゲートはやはり壊されていたそうだ。他の場所も多分駄目だろう。万が一を考えて確かめに行くのも時間が掛かる。食糧問題やここに雪崩れ込んで来るだろう魔物の事を考えると、確認しに行くのも難しい所だ。
その他の仲間達も帰って来るのが見えた。成果はそれぞれ。荷物は均等に分けることにし、どうしても分けられない物、例えば塩の小瓶などはそれぞれのリーダーが責任持って持つことにする。
この場合、俺とエデルとジャンになるわけだ。
この日の夜はとりあえず持っていた食料で腹を満たした。既に陽が暮れているので凝った料理は出来ない。というかみんなした事がないので要領が分からないのだ。
それぞれにテントを張り、今夜はここで野宿することになった。静かな街は無気味だが、まだ若干残っているだろう魔物除けの効果を期待したのだ。一応携帯用魔物除けのお香は焚いておく。
「エデル、ジャン、ちょっといいか」
食事の後に2人を呼びつけた。
「なんだ?」
「何か?」
2人共チームのリーダー。それなりに頼りになることは知れている。
「これからのことの情報の共有と、それと…」
言い辛いが、いつかはぶち当たる壁である。
「念の為、解体の練習をしてみたいから…付き合ってくんね?」
2人も微妙な顔になった。
情報の共有は上手くいった。皆転送ゲートを確認に行きたいが、この先の食糧事情を考えるとあまり時間もかけられない。なので南に向かうことで同意している。
「南の「攫う者」がちょっと厄介だな」
「それは弾も使ってなんとかするしかないだろうな」
「東と西もそれぞれ「晒す者」に「隠す者」だろ。生きて抜けられる気がしないよ」
俺もジャンもエデルも、同じ意見のようだ。
ちなみに北には「殺す者」というライオンに似た魔物がいる。こいつはテリトリーに入るとすぐさま殺しに来るのでそう呼ばれるようになった。1度母親が面白そうだと(どこがだ!)狩りに行ったが、勝負付かずで戻って来たらしい。すげえわ俺の母親。
あの戦闘狂でも敵わないならと、北は手つかずになっている。
東も「晒す者」と呼ばれるナメクジのような魔物がいる。こいつは音もなく近づいて来て、長い触手で絡めとる。触手の先にはトゲがあり、それには痺れる系の毒があるらしく巻き付かれるとそのまま動けなくなるという厄介な奴だ。襲った獲物を木の枝に刺してしばし置いてから食す習性があるらしく、後で様子を見に戻ったとあるチームが仲間の晒されている死体をみて絶叫したとか。ナメクジのくせに俊敏で、見つかれば逃げるのは難しい。母親が行かなかったのは、そういうヌルヌル系が苦手だったからだとか。
西の「隠す者」は、その正体さえ今だ分かっていない。ただ影の中に入ると一瞬で人が姿を消してしまうのだそうだ。それがどの影なのかも分からず、森の中は影だらけ。母親もその噂を聞きつけて狩りに行ったが、一歩も踏み込むことも出来ず帰って来たとか。怖いわ。
残る南の「攫う物」。こいつは白いヒヒのような魔物だ。その名の通り通る者を攫って行く。いや、人型のメスを攫うと言った方が正解か。オスはその場で殺される。そして攫われたメスは、人型の魔物あるあるというのか、まあ、子作りの苗床にされるわけだ。そんな魔物は「小鬼」だけで腹一杯なんだけどな。
こいつの面倒くさいのは数が多いこと。そして樹上から襲ってくることだ。木に巻き付いている蔓や蔦を使い、樹上から地上目がけて襲ってくるので対処が難しい。ここを突破して行こうとしたチームもいたが、数の暴力に勝てなかったらしい。母親?もちろん数の暴力で逃げ帰ってきたらしいよ。悔しそうにしてたけど。
そう、トーキョーのホームは四方をそんな魔物達に囲まれているので、はっきり言って逃げ場がない。だから唯一逃げられるかも知れないというのが、南ということになるのだ。あとは弾を利用して数の暴力をどうにかすれば、なんとか…なるかな?なって欲しいな。
「よし、じゃあ、試しにやってみようか!」
話しが暗くなって来た所で、バッグから「跳ねる者」を取り出した。
「で? どすんの? 俺知らないよ?」
開始する前から投げ出すエデル。
「俺も全く分からん。少しは勉強しておくべきだったな」
顎髭をさすりながら言うジャン。
「俺は本で軽く見たことがあるけど…」
2人の視線が集まる。いや、軽~く見たことがあるだけだからね。興味本位で見たけど結構グロくてすぐに閉じちゃったんだよね。だから覚えてないよ?
しかしやらなければならないわけで…。
「し、失敗前提だからな!」
ソードを取り出し、うろ覚えの喉に切り込みを入れた。
あんなに血って噴き出すものなんだ…。
見事に血まみれになった俺達。解体も散々。なんとか見様見真似で内臓は取り除けたけど、肉はボロボロ。本当に食べられるのか真に謎な物体が出来上がった。
貴重ではあったが血まみれでいるのも嫌なので、水の弾を使って体に付いた血を洗い流した。風呂代わりに使える水の弾。便利です。
弾は魔力の込め具合により威力が変わってくるので、風呂代わりにもなるが最大まで込めると津波くらいの威力になる。使い方を間違えると大変である。
「よし、早速実食だ!」
塩と胡椒があればなんとかなるだろう! 適当に火を付けて(火の弾を使ってしまった)適当に焼き目を入れる。きつね色になった感じで塩胡椒を振りかけ、3人で一緒に実食。
「食え…なくはない…」
「よく食えるな…こんな生臭いもの…」
「…最悪の非常食だな…」
俺、エデル、ジャン共に、感想は最悪だった。
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