キーナの魔法

小笠原慎二

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最終章~光の御子と闇の御子~

宮と賢者達

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「リーステイン! あんた光の宮に行き過ぎ…って御子様達?!」

執務室らしき所で仕事をしていたルイスの前に穴を開けたら、いきなり怒鳴られた。

「こりゃすんません。人違いで…」

ぺこぺこ謝るルイス。

「いえいえ。リーステインさんはいないんですか?」
「それが…」

言いにくそうにルイスが視線を逸らす。

「光の宮とそれなりに交流が始まったのは良いんですけど…、リーステインが何かと理由をつけてあちらに入り浸るようになっちゃって…」
「あらら」
「僕にはこんなに仕事押しつけてるくせに…」

もう一つの執務机、書類の山の向こうから不満声が聞こえて来た。

「オルトは文句言える立場じゃねーだろが」
「それは分かってるけど…」

書類の山の陰から覗いて見れば、そこには青年の姿になったオルトが座っていた。必死に書類に齧り付いているようだ。

「ロウニーちゃんからもちゃんと見るよう言われてるんだ。早く仕事覚えて一人前になれ」
「僕だって会いたいのに…」

ぶちぶち言いながらもきちんと手を動かしている。今までの罪滅ぼしも兼ねているので一応真面目にやっているようである。

「せっかくだから茶でも飲んでいって下さいな」

とルイスが案内に立つ。

「あ、僕も…」
「お前はその山が終わったら休憩な」
「ぐえ…」

半泣きのオルトを残して部屋を出る。
応接室で茶と茶菓子を出してもらい、対面に座る。

「御子さん達が姿を消した後の事だけど…」

ルイスがキーナが聞きたいと思っていた事を話し始めた。
サーガ達がそれぞれに光を纏って姿を消してしまった後、魔女に捕らわれていた男達が吐き出されるように姿を現わした。意識はあるもののぐったりとしていたので、皆でとりあえず外に出す。空間も揺らぎ始めていたので皆退避した。全員が退避するのを待っていたかのように、全員が外に出た後すぐ、魔女の空間は消滅してしまった。

「あの辺りの空間の歪みはもう取れてるよ」

捕まっていた男達はとりあえず闇の宮へと運ばれた。調子をみながら今後のことを考えるという。

「なにせ、全員元の場所には帰ることが出来ないだろうから…」

中には何十年と捕まっていた者もいる。今更故郷に帰っても帰る場所が残っているか分からない。このまま宮に留まって働くもいいし、帰りたいならば故郷へ帰るも良いだろう。

「いやしかし、まさかあんたが闇の御子とはな。まあいろいろ合点がいったけどな」
「合点?」
「俺の闇の戒めを解いたろ? あの人の力かと思ってたけど、あんた自身の力だったんだな~と」

ルイスに捕まった時確かにそんなことがあったなと思い出す。あれも闇の御子だったからこそ出来たことだ。思い返してみればそんなことが多々あった。まあ宝玉がなかったので不完全ではあったのだが。

「それと、あの4人もなあ。あの時に皆納得してたよ。なんで制御を横取りできなかったのか」
「? メリンダさん達のこと?」
「そ。あの4人が四大精霊の頂点に立つ者達だったんだろ? 俺達の言うこと聞かなくなって当たり前だってね」

四大精霊の頂点に立つ者達が頭を垂れるのは二神精霊のみ。その力を扱うたかが人間に従うことはない。そして精霊達にとっては四大精霊の頂点に立つ者の命令が優先される。故に4人を前にして制御を横取りすることは不可能だった。

「あ~、だから皆「なんで?!」って言ってたんだね~」

納得したと首を動かすキーナ。
その後少し雑談をして、闇の宮をお暇する。

「それじゃあ、さようなら」
「ああ。さよなら。あ、闇の御子さんてかテルディアス、様? いつかでいいから、リーステインに一言注意してやってくれん? あの人一応最高位の人だから、俺達が言っても言うこと聞いてくれなくて…」
「…分かった。近いうちに」

テルディアスが穴を開け、2人がその穴へ入って消えた。

「さて、オルトに茶でも持って行ってやるか」

余った茶菓子を持って、ルイスがオルトの分を用意し始めた。
















風の賢者の家の前に2人が降り立つ。

「賢者だったら、お爺さんの居場所も知ってるかな?」

その気になれば探せないこともないが、知っている人がいるなら聞いた方が早い。
呼び鈴を鳴らすと、

「は~い」

今回は素直に出て来てくれた。

「早かったわね~。あら?」
「こんにちはー」
「き、キーナちゃん?!」

驚かせてしまったようだ。
中へと入れて貰い、また茶を頂く。赤の賢者から大体の経緯は聞いていたようだった。

「で、その、リー・リムリィは…」

彼女がどうなったのか気にしているようだった。その昔、風の賢者はリー・リムリィと親友と言って良いほどに仲が良かったのである。彼女が狂ってしまった後もどうにかしようと動いていたのだとか。

「彼女は―――」

風の賢者こと、本名シェザリアは俯いた。

「もう少しして落ち着いたら、会いに行ってあげて下さい」
「ありがとう…。何もできなくて、ごめんなさい…」

シェザリアは涙を流す。キーナ達はその涙が落ち着くまで待った。

「もう一つ、貴女達賢者に伝えなければならないことがあって―――」

それを告げると、シェザリアは覚悟を決めたような顔になった。

「分かったわ。ありがとう」

そう言って微笑んだ。
キーナとテルディアスはなんとも言えない顔になる。

「私達が引き起こした事なんだから、あなた達がそんな顔することないわ」

そしてよいしょと椅子から立ち上がると、

「ということは、もしかして赤の賢者のレオちゃんを探してたりしない?」
「あ、探してます」
「あの人しょっちゅうウロウロしてるから。ちょっと待っててね」

そう言って奥に引っ込んだ。
しばらく待っていると戻って来た。

「エレクトラに聞いたけど、北の方のディレヌドっていう街に今いるみたい。そこから動くなってエレクトラから伝えて置いてもらったから、足を伸ばしてみて?」
「「ありがとうございます」」

緑の賢者の詳細な居場所も聞き、ディレヌドの街の位置も確認する。

「さようなら」

そう言ってキーナが穴へと消え、テルディアスも軽く頭を下げて穴に消えて行った。

「ルティウスにも教えなきゃだわね。あいつだけ直接会ってないから、悔しがるかしら」

ルティウスとは本編でもちらりとしか出てこなかった水の賢者である。
後に1人だけ御子と対面できなかったと、シェザリアの想像通り悔しがることになった。
















緑の賢者の住処へと降り立ち、事情を聞いていたエレクトラにすぐに中に入れて貰えた。
緑の賢者は洞窟の奥深くに住んでいた。
助けて貰ったことに礼を言い、それからシェザリアに話したことと同じ事を伝える。
少し悲しげな顔をした後、

「わざわざ教えて頂いて、ありがとうございます」

エレクトラは頭を下げた。
エレクトラにも別れを言い、次は赤の賢者、レオナルド・ラオシャスの元へ。テルディアスが空間を繋ぎ、人通りのない裏路地に穴を開けた。

「近いな」

テルディアスが気配を探り、レオナルド・ラオシャスがいる宿へと向かった。
部屋の扉をノックすると、

「どうぞ」

と中から声。扉を開けて入ってみると、髭を付けずに若い姿のままのレオナルドが出迎えた。

「お前の前で隠す必要がなくなったからな」

とのこと。
そこそこ良い宿のようで、寝室とは別に応接室がある。そこのソファーに向かい合って座る。

「まさかとは思ったが、お前が闇の御子とはな。お前、前世で俺に会いに来なかっただろう」

テルディアスの顔がギクリとなる。正確には前前世となるが、その時の光の御子とレオナルドは会っていた。レオナルドが落ち込んで生きる気力を失くしていた時、時折光の御子が様子を見に来てくれたものだ。しかし、何故か闇の御子は共に来なかった。

「い、忙しかったので…」
「ヤキモチを焼いてたんだろ?」

ニヤニヤとテルディアスを見るレオナルド。テルディアスの顔に図星の文字が見えるようだった。

「まあいい。とにかく、2人が目覚められて何よりだ。俺の考えも大体当たっていたようだしな」

レオナルドは御子という存在が何故いるのかということを長年調べていたのだ。今回のことや世界の気の流れを見て、自分の考えに確信を得た。

「で、俺の元にわざわざやって来た用件は?」

キーナが居住まいを正す。

「まずは、いろいろ手助けして頂いて、ありがとうございました。お爺さんのおかげでいろいろ助かりました」
「ははは、御子から頭を下げられるとはね。俺がやりたくてやったことだよ。気にしなくて良いさ。それに、こちらもいろいろヒントを貰えたからね」
「それと、賢者の皆さんにお伝えしていることがありまして」
「うん」
「終わりが、近づいています。心して下さい」

レオナルドが数秒固まった。

「そうか。わざわざありがとう」
「いえ…」

キーナとテルディアスが暗い顔になる。

「そんな顔をしないでくれ。俺達にとっては待ちに待った時でもあるんだ。それに、こうして伝えて貰えて、十分だよ」

2人の顔は暗いままだったが、レオナルドの顔は明るかった。
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