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サーガの村編
風の村の宴騒動
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「これ、俺が持って行っても平気?」
「別に良いぞ」
クラウダーの住居まで戻って来た一行。サーガがクラウダーに問えば、あっさり風の宝玉(本人達は分かっていないが)を借り受けることが出来た。
今まで事を思うと色々考えてしまうキーナとテルディアス。
「水の宝玉の時は…」
「火の宝玉の時も…」
地の宝玉の時も比較的簡単ではあったけど、その前に遭遇した地下施設…。遠い目。
サーガも苦笑いしながらも、
「ま、まあ、楽なことにこしたことはねーじゃん?」
「ていうか、こういう大事な物をそういう風に雑に扱ってるのが、いかにも風よね」
「・・・・・・」
メリンダの言葉に反論出来なかった。
折角なので村で一晩お世話になることに。夜はもちろん宴が繰り広げられる。
「んじゃ、今回は良い感じだったんだな」
「ああ。勝ってくれたおかげで報酬もたんまりだ」
サーガとクラウダーも久しぶりに向かい合って飲み合う。キーナとシアはお酒ではありません。特にキーナはテルディアスとサーガとメリンダが目を光らせている。
宴もたけなわ、久々の仲間達との再会に、サーガも酔いしれる。
そんな時、キーナは思いついた。
「ねえねえ、ダン」
ダンの袖を引っ張り、荷物からそれを取り出して貰う。旅の途中でも時折してもらっていたもの。
「サーガ! サーガ!」
キーナがサーガの側に駆け寄り、それを手渡す。
「折角だから吹いて!」
笛を手渡した。
「ん? ああ、いいぜ!」
サーガも機嫌良さそうに手に取った。いつもは若干渋い顔をするのだが。
「なんだ?」
「笛?」
「お前吹けるのか?」
「たりめーだろ!」
からかい口調の仲間に言い返し、サーガが口元に笛を付けた。そして笛から楽しそうな調べが滑り出してくる。
サーガの周りにいた者達が目を輝かせる。そして音に釣られるように立ち上がり、皆で踊り始めた。それを見て、サーガも吹きながら軽くステップを踏み始める。
「あたしもあたしも!」
メリンダも飛び込む。そこにいたキーナと共に体を動かし始めた。
「私も参りますわ!」
シアも立ち上がって踊りの輪に飛び込んだ。シアもサーガの笛は好きだった。ただ眠る前に聞いているといつの間にか眠ってしまうのでいつも最後まで聞けないのが残念に思っていた。
テルディアスもなんだかムズムズしている。動きたいなら動けば良いのに。
ダンは何やら組み立てて、太鼓を用意。サーガの調べに合わせて叩き始めた。
余計に盛り上がり始める。
曲が終わると仲間がサーガに群がる。
「なんだそれ! 面白いな!」
「俺にも! 俺にも貸してみ!」
「ちょい待て! これは俺のだ!」
サーガの笛に群がった。しかし平均よりも若干背が足りないサーガ。隙を突いて仲間に笛をぶんどられる。
「おいこら!」
サーガの制止も聞かず吹き始める。そこからはサーガに負けず劣らず見事な調べが滑り出る。
「面白そうだな!」
「次俺!」
群がり始める仲間達。
「ちっ」
ちょっと面白くないサーガ。何より上から押さえつけられるのは癪に障る。
「おい、ダン」
サーガがダンの所へ行き、荷物を顎で示す。ダンは頷き、荷物から例の物を出して組み立て始めた。あっという間にリュートの出来上がり。それを受け取るサーガ。
「こいつでどうだ!」
サーガが弾き始め、歌い出した。それにつられるように笛も楽しそうに音を奏でる。さらに宴が盛り上がる。そして曲が終わると、同じように人が群がった。
「俺に貸せ!」
「いや俺だ!」
たいそうな人気である。もちろんだが笛の方にも人が群がっていた。
「てめえら! これは俺のだっつーに!」
今度はその小ささが役に立ったのか、リュートを抱えながらサーガが逃げ回る。
「そんなに欲しいならダンに作って貰えばいいだろ!」
サーガが余計な一言を発した。そう、元々は笛もリュートもダンが作った物だ。
「え? ダンて?」
「あの大きい人?」
サーガと笛を追いかけていた者達の視線が一斉にダンに集まる。体を固くするダン。そしてダンの元に人が群がった。
「頼む! 俺にも作って!」
「俺にも!」
「俺にも! 笛とあとあのやつ両方!」
群がられすぎてダンが押し潰された。
「ちょっと! 待ちなさいあんた達!」
「そうですわ! ダンに何をするのですの!」
ここで立ち上がった気の強い女性達。ダンに群がる者達を押しのけてダンを救出する。
「押しかけても作れないしょうが! 順番になさい!」
「そうですわ! さすがのダンもそんなにいっぺんには作れません! 順番をお決めなさいませ!」
群がっていた者達が顔を見合わせる。
「俺が一番!」
「何を言う! 俺が先だ!」
「俺が最初に声を掛けたんだぞ!」
はい、争いが勃発。
そのまま喧嘩に発展するかと思ったその時、
「あみだくじで決めたら?」
「あみだくじ?」
キーナの一言でその場が静まりかえった。
「うん。紙とペンある?」
近くの女性に聞くと、女性が頷いて1つの住居に走って行ってくれた。紙とペンを持って戻って来る。その間にキーナは参加者?の人数を確認する。人数分だけ線を引き、キーナが適当に横線を引いた。そして下にも適当に順番を振っていく。下を折り、順番に1つの線を選んで貰って行く。
「で、この線を降りて行って、当たった番号が順番ね!」
「「「なるほど~」」」
そいつは面白いと盛り上がる一同。そしてキーナがあみだくじをやり始めた。
「あなたは3番! 次の人は11番!」
悲喜こもごもの声が響き渡り、とりあえず順番は決められた。
「ということで、とりあえず笛の製作、大丈夫? ダン」
20本以上作ることになるのだが…。ダン、頷いた。
「あの~…」
その騒ぎを見守っていた女性の1人が手を上げた。
「あたしも、欲しいんだけど、追加してもらってもいい?」
「あ、それならあたしも…」
「あたしも~…」
参加していなかった女性陣からも次々と手が上がる。
さすがのダンの顔も若干青くなったようにキーナには見えた。
良さそうな木を見繕い、風の者達に伐採を頼む。風は切ることに関してはとても器用だったので、指定の大きさ、長さ、ついでに形まで整えて貰う。それを後はダンが中をくり抜いたりと笛としての形を整えていけば、はい、出来上がり。と言っても1本1本仕上げていくのは時間が掛かる。結局ダンは夜遅くまで夜なべ仕事に励むこととなってしまった。
見かねてキーナやメリンダやシアも手伝うが、流石に細かい所の微調整はダンでなければ出来ない。そして、ダンは凝り性だった。
もう寝ろという女性陣の声も振り切って、朝まで徹夜して、注文を受けた?本数の2/3を仕上げた。仕事人である。それ以降も続けようとしたので、キーナがテルディアスに頼んだ。
「ダンが休んでくれないの。ダンに休むように言って!」
と。
テルディアスとしては気の済むようにさせてあげたかったのだが、キーナの頼みとなれば断わることも出来ない。
作業場としてあてがわれたダンの住居テントにやって来ると、
「ダン、入るぞ」
断わって中に入った。
その声も届いていないのか、作業に集中しているダン。テルディアスは溜息を吐いた。
「おい、ダン」
気付かない。
「おい、ダン!」
先程より語調を強めるが、気付かない。
黙々と作業に集中してしまっている。
テルディアスはまた溜息を吐いた。そして、手刀を振り下ろす。
テントの外で様子を伺っていたキーナ、メリンダ、シア。どさりと中から音がして、テルディアスがのそりと出て来た。
「テル!」
キーナがパタパタと駆け寄る。
「ダンは?」
「お望み通り、寝てるぞ」
眠らされたというか、昏倒させられたというか…。
キーナ達が中を覗くと、顔面から地面に突っ伏しているダンの姿。何があったかを察する。
慌ててキーナ達がダンが眠れるようにと場を整え始めた。ただ、ダンは重いのでテルディアスも手伝う羽目になった。
「なになに~? 俺の分もう出来た~?」
順番が後ろの方だったのか、その男性が様子を見に来た。
「いいや。しばらく休ませるからまだ待ってくれ」
部屋の片付けや布団などを女性陣に任せて外に出たテルディアスが対応する。
「えー! マジかよ! 次俺の番なのに!」
勝手極まるその発言に、流石のテルディアスもちょっと怒りを覚える。こういう気質はサーガそっくりである。
「昨日から徹夜で作ってくれている者に対してその台詞か?」
と、つい怒気を発してしまう。
「ぬ?」
男がテルディアスに、何か気付いた用に目をやった。
「もしかして兄さん、結構戦れる方?」
男の目がキラリと光る。
なんだか面倒くさい感じがして、テルディアスは黙り込む。男は肯定と受け取ったのか、にやりと笑った。
「うし、じゃあ暇つぶしに、お兄さんが相手してくれよ」
こういうところもサーガそっくりだなと、テルディアスは思ったのだった。
その一画では出来たての笛を口にし、思い思いの音を奏でている。
1人で演奏する者、同じ曲を合奏する者。まさに様々な音が入り乱れていた。その一画だけ騒音問題が発生していそうだ。というかうるさいからとこの一画に集められたのかもしれない。
そこへテルディアスを連れたその男とテルディアスがやって来た。
少し広場になっているそこは、元々訓練場みたいなものだったのだろう。
「俺ザイル。あんたは?」
「テルディアスだ」
お互い名乗り合い、少し距離を開けて練習用の木剣を構えた。
周りで騒音を奏でていた者達も、これから起こることに期待の目を向け始めた。一転して場が静かになる。
「行くぜ!」
ザイルが地を蹴り、テルディアスに迫る。テルディアスはそれを少し体を右に傾けて避けた。避けられることを予想していたのか、そのまま無理矢理剣の軌道を変えた。
カン!
木がぶつかる固い音が森に響き渡る。周りで見物を決め込んでいた者達も囃し立て始めた。
「行け! そこだ! ザイル!」
「あの兄さん言い動きしてんじゃねーか」
笛を吹くことを忘れて戦いに見入る者達。笛を応援の道具にするんじゃありません。
誰が思いついたのか、誰かが狂騒曲のようなものを吹き始めた。それに便乗し、皆で同じ曲を奏で出す。
「うわあ…」
様子を見に来ていたキーナが声を上げた。
「まるで何かの剣劇みたいだね」
「剣戟?」
「お芝居みたいだねってこと」
キーナにくっついて様子を見に来ていたメリンダが首を傾げる。メリンダはお芝居というものを見たことがなかった。
2人の動きに合わせ、曲が盛り上がったり速くなったり、その辺り風の気質か、曲がピッタリ追いついてくる。まるであらかじめ用意されていた舞台のようだった。なんだか見ているこちらも気持ちが盛り上がってくる。
「いけいけ! テル! そこだー!」
「なんか分かんないけど行けー! テルディアス!」
場の雰囲気に飲まれ、2人も観戦し始めてしまったのだった。
しかしここでアクシデント発生。テルディアスがフードを忘れていたのか見誤っていたのか、ザイルの振るった木刀がテルディアスのフードに引っ掛かり、外れてしまった。
「「あ」」
我に返るキーナとメリンダ。
テルディアスも慌てて顔を隠そうとするが後の祭り。
「な、ダーディン…?」
「え? ダーディン…?」
ざわざわと声が沸き起こっていく。
そういえばまだ説明していなかったとキーナ思い出す。いつもならば宝玉を借りるのに殊更に細かく説明するのだが、あっけなく手に入ってしまい、説明を怠った。いや、忘れていた。
「ちょ、ちょっと待って! 違うの…!」
キーナが割って入ろうとしたその時、
ゴウ!
急な突風が巻いた。
「わ!」
「うわあ!」
突風によろめく人々。キーナも身を屈めて体を守る。
「な~にやってんだよ」
突風が止むと、響き渡る声。声のした方を見れば、いつの間にかテルディアスの近くにサーガが立っていた。
「お、おい、サーガ、そいつ…」
1人がサーガに声を掛けるが、
「まあまあ、驚くのも無理はねえ。しかしちょいと落ち着け」
サーガが手を広げて静まれと周りの者達に声を掛ける。
「確かにこいつは見かけはダーディンだ。だがしかしなぁ…」
サーガが声を低めた。
「こいつは、まだ童貞だ!」
場が静まりかえった。その静まりかえりっぷりに、今のサーガの言葉が谺している気がする。
「こいつは人を食ったことはないが、女も食ったことがないという奴なんだ! だから安心しろ…」
ボゴ!
「いってぇ!!」
サーガの頭をテルディアスが小突いていた。
「何を言っとる…」
顔を赤らめたテルディアスが、震える声でもう一度腕を振り上げる。
「貴様!!」
「へ~んだ! 事実だろうが~!」
追いかけっこが始まる。
サーガがいまだぼんやりしていたザイルの手から木刀を奪い、テルディアスに応戦し始めた。
「俺様の機転に感謝しろやこの童貞が!」
「やかましい! 下半身脳みそ男!!」
2人の打ち合いは激しさを増していく。反対に、周りは冷静さを取り戻していった。
「あ~、うん。あいつが言うなら、大丈夫、か?」
「あの様子じゃぁなぁ。大丈夫じゃね?」
なんとなく受け入れられたようだった。
その様子に一先ず胸をなで下ろすキーナ。
「良かった…」
「そうね…」
若干苦笑いのメリンダ。
「ええと、メリンダさん。聞いてもいい?」
「なあに?」
「あの、どうていって、何?」
メリンダが言葉に詰まった。
「別に良いぞ」
クラウダーの住居まで戻って来た一行。サーガがクラウダーに問えば、あっさり風の宝玉(本人達は分かっていないが)を借り受けることが出来た。
今まで事を思うと色々考えてしまうキーナとテルディアス。
「水の宝玉の時は…」
「火の宝玉の時も…」
地の宝玉の時も比較的簡単ではあったけど、その前に遭遇した地下施設…。遠い目。
サーガも苦笑いしながらも、
「ま、まあ、楽なことにこしたことはねーじゃん?」
「ていうか、こういう大事な物をそういう風に雑に扱ってるのが、いかにも風よね」
「・・・・・・」
メリンダの言葉に反論出来なかった。
折角なので村で一晩お世話になることに。夜はもちろん宴が繰り広げられる。
「んじゃ、今回は良い感じだったんだな」
「ああ。勝ってくれたおかげで報酬もたんまりだ」
サーガとクラウダーも久しぶりに向かい合って飲み合う。キーナとシアはお酒ではありません。特にキーナはテルディアスとサーガとメリンダが目を光らせている。
宴もたけなわ、久々の仲間達との再会に、サーガも酔いしれる。
そんな時、キーナは思いついた。
「ねえねえ、ダン」
ダンの袖を引っ張り、荷物からそれを取り出して貰う。旅の途中でも時折してもらっていたもの。
「サーガ! サーガ!」
キーナがサーガの側に駆け寄り、それを手渡す。
「折角だから吹いて!」
笛を手渡した。
「ん? ああ、いいぜ!」
サーガも機嫌良さそうに手に取った。いつもは若干渋い顔をするのだが。
「なんだ?」
「笛?」
「お前吹けるのか?」
「たりめーだろ!」
からかい口調の仲間に言い返し、サーガが口元に笛を付けた。そして笛から楽しそうな調べが滑り出してくる。
サーガの周りにいた者達が目を輝かせる。そして音に釣られるように立ち上がり、皆で踊り始めた。それを見て、サーガも吹きながら軽くステップを踏み始める。
「あたしもあたしも!」
メリンダも飛び込む。そこにいたキーナと共に体を動かし始めた。
「私も参りますわ!」
シアも立ち上がって踊りの輪に飛び込んだ。シアもサーガの笛は好きだった。ただ眠る前に聞いているといつの間にか眠ってしまうのでいつも最後まで聞けないのが残念に思っていた。
テルディアスもなんだかムズムズしている。動きたいなら動けば良いのに。
ダンは何やら組み立てて、太鼓を用意。サーガの調べに合わせて叩き始めた。
余計に盛り上がり始める。
曲が終わると仲間がサーガに群がる。
「なんだそれ! 面白いな!」
「俺にも! 俺にも貸してみ!」
「ちょい待て! これは俺のだ!」
サーガの笛に群がった。しかし平均よりも若干背が足りないサーガ。隙を突いて仲間に笛をぶんどられる。
「おいこら!」
サーガの制止も聞かず吹き始める。そこからはサーガに負けず劣らず見事な調べが滑り出る。
「面白そうだな!」
「次俺!」
群がり始める仲間達。
「ちっ」
ちょっと面白くないサーガ。何より上から押さえつけられるのは癪に障る。
「おい、ダン」
サーガがダンの所へ行き、荷物を顎で示す。ダンは頷き、荷物から例の物を出して組み立て始めた。あっという間にリュートの出来上がり。それを受け取るサーガ。
「こいつでどうだ!」
サーガが弾き始め、歌い出した。それにつられるように笛も楽しそうに音を奏でる。さらに宴が盛り上がる。そして曲が終わると、同じように人が群がった。
「俺に貸せ!」
「いや俺だ!」
たいそうな人気である。もちろんだが笛の方にも人が群がっていた。
「てめえら! これは俺のだっつーに!」
今度はその小ささが役に立ったのか、リュートを抱えながらサーガが逃げ回る。
「そんなに欲しいならダンに作って貰えばいいだろ!」
サーガが余計な一言を発した。そう、元々は笛もリュートもダンが作った物だ。
「え? ダンて?」
「あの大きい人?」
サーガと笛を追いかけていた者達の視線が一斉にダンに集まる。体を固くするダン。そしてダンの元に人が群がった。
「頼む! 俺にも作って!」
「俺にも!」
「俺にも! 笛とあとあのやつ両方!」
群がられすぎてダンが押し潰された。
「ちょっと! 待ちなさいあんた達!」
「そうですわ! ダンに何をするのですの!」
ここで立ち上がった気の強い女性達。ダンに群がる者達を押しのけてダンを救出する。
「押しかけても作れないしょうが! 順番になさい!」
「そうですわ! さすがのダンもそんなにいっぺんには作れません! 順番をお決めなさいませ!」
群がっていた者達が顔を見合わせる。
「俺が一番!」
「何を言う! 俺が先だ!」
「俺が最初に声を掛けたんだぞ!」
はい、争いが勃発。
そのまま喧嘩に発展するかと思ったその時、
「あみだくじで決めたら?」
「あみだくじ?」
キーナの一言でその場が静まりかえった。
「うん。紙とペンある?」
近くの女性に聞くと、女性が頷いて1つの住居に走って行ってくれた。紙とペンを持って戻って来る。その間にキーナは参加者?の人数を確認する。人数分だけ線を引き、キーナが適当に横線を引いた。そして下にも適当に順番を振っていく。下を折り、順番に1つの線を選んで貰って行く。
「で、この線を降りて行って、当たった番号が順番ね!」
「「「なるほど~」」」
そいつは面白いと盛り上がる一同。そしてキーナがあみだくじをやり始めた。
「あなたは3番! 次の人は11番!」
悲喜こもごもの声が響き渡り、とりあえず順番は決められた。
「ということで、とりあえず笛の製作、大丈夫? ダン」
20本以上作ることになるのだが…。ダン、頷いた。
「あの~…」
その騒ぎを見守っていた女性の1人が手を上げた。
「あたしも、欲しいんだけど、追加してもらってもいい?」
「あ、それならあたしも…」
「あたしも~…」
参加していなかった女性陣からも次々と手が上がる。
さすがのダンの顔も若干青くなったようにキーナには見えた。
良さそうな木を見繕い、風の者達に伐採を頼む。風は切ることに関してはとても器用だったので、指定の大きさ、長さ、ついでに形まで整えて貰う。それを後はダンが中をくり抜いたりと笛としての形を整えていけば、はい、出来上がり。と言っても1本1本仕上げていくのは時間が掛かる。結局ダンは夜遅くまで夜なべ仕事に励むこととなってしまった。
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と。
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「ダン、入るぞ」
断わって中に入った。
その声も届いていないのか、作業に集中しているダン。テルディアスは溜息を吐いた。
「おい、ダン」
気付かない。
「おい、ダン!」
先程より語調を強めるが、気付かない。
黙々と作業に集中してしまっている。
テルディアスはまた溜息を吐いた。そして、手刀を振り下ろす。
テントの外で様子を伺っていたキーナ、メリンダ、シア。どさりと中から音がして、テルディアスがのそりと出て来た。
「テル!」
キーナがパタパタと駆け寄る。
「ダンは?」
「お望み通り、寝てるぞ」
眠らされたというか、昏倒させられたというか…。
キーナ達が中を覗くと、顔面から地面に突っ伏しているダンの姿。何があったかを察する。
慌ててキーナ達がダンが眠れるようにと場を整え始めた。ただ、ダンは重いのでテルディアスも手伝う羽目になった。
「なになに~? 俺の分もう出来た~?」
順番が後ろの方だったのか、その男性が様子を見に来た。
「いいや。しばらく休ませるからまだ待ってくれ」
部屋の片付けや布団などを女性陣に任せて外に出たテルディアスが対応する。
「えー! マジかよ! 次俺の番なのに!」
勝手極まるその発言に、流石のテルディアスもちょっと怒りを覚える。こういう気質はサーガそっくりである。
「昨日から徹夜で作ってくれている者に対してその台詞か?」
と、つい怒気を発してしまう。
「ぬ?」
男がテルディアスに、何か気付いた用に目をやった。
「もしかして兄さん、結構戦れる方?」
男の目がキラリと光る。
なんだか面倒くさい感じがして、テルディアスは黙り込む。男は肯定と受け取ったのか、にやりと笑った。
「うし、じゃあ暇つぶしに、お兄さんが相手してくれよ」
こういうところもサーガそっくりだなと、テルディアスは思ったのだった。
その一画では出来たての笛を口にし、思い思いの音を奏でている。
1人で演奏する者、同じ曲を合奏する者。まさに様々な音が入り乱れていた。その一画だけ騒音問題が発生していそうだ。というかうるさいからとこの一画に集められたのかもしれない。
そこへテルディアスを連れたその男とテルディアスがやって来た。
少し広場になっているそこは、元々訓練場みたいなものだったのだろう。
「俺ザイル。あんたは?」
「テルディアスだ」
お互い名乗り合い、少し距離を開けて練習用の木剣を構えた。
周りで騒音を奏でていた者達も、これから起こることに期待の目を向け始めた。一転して場が静かになる。
「行くぜ!」
ザイルが地を蹴り、テルディアスに迫る。テルディアスはそれを少し体を右に傾けて避けた。避けられることを予想していたのか、そのまま無理矢理剣の軌道を変えた。
カン!
木がぶつかる固い音が森に響き渡る。周りで見物を決め込んでいた者達も囃し立て始めた。
「行け! そこだ! ザイル!」
「あの兄さん言い動きしてんじゃねーか」
笛を吹くことを忘れて戦いに見入る者達。笛を応援の道具にするんじゃありません。
誰が思いついたのか、誰かが狂騒曲のようなものを吹き始めた。それに便乗し、皆で同じ曲を奏で出す。
「うわあ…」
様子を見に来ていたキーナが声を上げた。
「まるで何かの剣劇みたいだね」
「剣戟?」
「お芝居みたいだねってこと」
キーナにくっついて様子を見に来ていたメリンダが首を傾げる。メリンダはお芝居というものを見たことがなかった。
2人の動きに合わせ、曲が盛り上がったり速くなったり、その辺り風の気質か、曲がピッタリ追いついてくる。まるであらかじめ用意されていた舞台のようだった。なんだか見ているこちらも気持ちが盛り上がってくる。
「いけいけ! テル! そこだー!」
「なんか分かんないけど行けー! テルディアス!」
場の雰囲気に飲まれ、2人も観戦し始めてしまったのだった。
しかしここでアクシデント発生。テルディアスがフードを忘れていたのか見誤っていたのか、ザイルの振るった木刀がテルディアスのフードに引っ掛かり、外れてしまった。
「「あ」」
我に返るキーナとメリンダ。
テルディアスも慌てて顔を隠そうとするが後の祭り。
「な、ダーディン…?」
「え? ダーディン…?」
ざわざわと声が沸き起こっていく。
そういえばまだ説明していなかったとキーナ思い出す。いつもならば宝玉を借りるのに殊更に細かく説明するのだが、あっけなく手に入ってしまい、説明を怠った。いや、忘れていた。
「ちょ、ちょっと待って! 違うの…!」
キーナが割って入ろうとしたその時、
ゴウ!
急な突風が巻いた。
「わ!」
「うわあ!」
突風によろめく人々。キーナも身を屈めて体を守る。
「な~にやってんだよ」
突風が止むと、響き渡る声。声のした方を見れば、いつの間にかテルディアスの近くにサーガが立っていた。
「お、おい、サーガ、そいつ…」
1人がサーガに声を掛けるが、
「まあまあ、驚くのも無理はねえ。しかしちょいと落ち着け」
サーガが手を広げて静まれと周りの者達に声を掛ける。
「確かにこいつは見かけはダーディンだ。だがしかしなぁ…」
サーガが声を低めた。
「こいつは、まだ童貞だ!」
場が静まりかえった。その静まりかえりっぷりに、今のサーガの言葉が谺している気がする。
「こいつは人を食ったことはないが、女も食ったことがないという奴なんだ! だから安心しろ…」
ボゴ!
「いってぇ!!」
サーガの頭をテルディアスが小突いていた。
「何を言っとる…」
顔を赤らめたテルディアスが、震える声でもう一度腕を振り上げる。
「貴様!!」
「へ~んだ! 事実だろうが~!」
追いかけっこが始まる。
サーガがいまだぼんやりしていたザイルの手から木刀を奪い、テルディアスに応戦し始めた。
「俺様の機転に感謝しろやこの童貞が!」
「やかましい! 下半身脳みそ男!!」
2人の打ち合いは激しさを増していく。反対に、周りは冷静さを取り戻していった。
「あ~、うん。あいつが言うなら、大丈夫、か?」
「あの様子じゃぁなぁ。大丈夫じゃね?」
なんとなく受け入れられたようだった。
その様子に一先ず胸をなで下ろすキーナ。
「良かった…」
「そうね…」
若干苦笑いのメリンダ。
「ええと、メリンダさん。聞いてもいい?」
「なあに?」
「あの、どうていって、何?」
メリンダが言葉に詰まった。
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それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
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