255 / 296
光の宮三度
そ~れ飛んでけ!
しおりを挟む
「んじゃあお前は、王国の為だからっつって薬で眠らされてその間にお前が汚いつってた女達みたいな扱いを色んな男達にされても納得出来るってか?」
シアが黙り込んだ。
「キーナは別に王族でも貴族でもねーし、御子にだってなりたくてなってるわけでもねーし、そんな子作りの覚悟なんて出来てるわけねーだろ。まだまだジョーシキが足りてねーな」
シアが小さくなった。
メリンダ心の中で拍手喝采。口調は悪くともさすがはサーガ。見事にシアを黙らせて納得させた。
「光の宮ってのは名前が立派なだけのお前が毛嫌いしてる娼館と同じような場所なんだよ。んなとこに光の御子だろうがなかろうが無理矢理連れてかれたら助けに行くなんて当たり前の事じゃねーか」
「おい、口はいいからとっとと宮へ行け」
「やっとるわやかましい」
サーガはテルディアスを軽く睨み付けると前を見る。
シアはテルディアスに助けて貰ったのかと思い、熱い視線を向ける。
しかしテルディアスはただ進行速度が遅くならないかと心配していただけだったので、シアの視線に背筋が寒くなった。ちょっといらんことをしたかもと後悔した。
太陽が山の端に半分位隠れた頃、森の上に突き出たその白い建物が見え始めて来た。
宮からは少し離れた森の中に無事に着地する。ダンはすでに目を覚ましていた。
テルディアスとサーガはさすがに疲れたようで、ぐったりとしている。
サーガに変わり、ダンが様子を探り始めた。
宮の周りには数々の家が建ち並び、さながら1つの大きな街のようになっている。宮があるおかげかこの辺りは妖魔の影も少なく、人々は安心して暮らしていた。
その街の気配は気にせず、ダンは宮へと意識を伸ばす。街の北に位置する宮は、南から星の宮、月の宮、太陽の宮と建物が並び、一番北に神殿が建てられている。
ダン達がいるのは街の北の森なので、大分近いのは有り難い。
ダンは神殿に人が沢山集まっていることを感じた。祭壇らしき場所に寝かされている人物が1人。キーナだろう。
「どうだ?」
焦りを含んだ声でテルディアスがダンに尋ねる。
「多分、儀式。まだ大丈夫」
「そうか…」
テルディアスがほっとした顔になる。
その目の前に、ダンがずずいっと丸薬を差し出した。
目の前に迫る丸薬と、ダンを見比べるテルディアス。
「だがしかし、時間が…」
「儀式。まだ終わらない(と思う)。休む、大事」
確かに消耗したままで突入してもキーナを救出出来るか分からない。休む事は大事だと分かってはいるが、気が急く。
「儀式終わったら、起こす」
ずいずいとテルディアスの目の前に丸薬を押しつける。
「わ、分かった…」
一応効果はサーガで確認済みだ。テルディアスは素直にそれを飲み込んだ。そして横になり、眠りに就いた。
ダンがサーガを見る。サーガは目を逸らす。
「飲む」
「・・・・・・」
分かっちゃいるが、サーガも出来れば飲みたくない。それに起こすとは、メリンダの口に突っ込んだあの怪しいビンのことを言っているのだろう…。
メリンダは未だに口の中に味が残っているのか、時折渋い顔をしている。どんな味だったのか聞きたいような聞きたくないような…。
「飲む」
ダンがずずずいっと丸薬を目の前に押しだしてくる。
「わ、分かったよ…」
押し負けて、サーガも丸薬を飲んだ。
できるだけ儀式とやらが長引くようにと願いながら。
焚き火の明かりも抑え気味に、一行は森の中で待機する。テルディアスとサーガを本復させなければ動くことは叶わない。2人が目覚め次第動く。その前に儀式が終わるのであれば無理矢理起こす算段だ。
(なんか、力が集まってるのを感じるわね…)
気配を感じるのはあまり得意ではないメリンダだったが、宮の神殿に光の力が集まっていく熱のようなものを感じていた。広がっている熱をただ一点に集中させているように感じる。
ダンもキーナの気配だけに集中していた。キーナが動く、または周りに人が近寄れば、2人を無理矢理にでも起こす為にスタンバイしている。そのキーナの身体に力が集められていることを、ダンも感じていた。
珍しくシアも、なんとなく異様な気配を感じ取っていた。
(キーナさんて、本当に御子様でしたのね…)
そのことにも驚いていた。全く信じていなかったのだ。そして宮の方から感じる何か大きな力のうねり。空気中にももちろんだが若干の水分はある。それらがシアにそのうねりを教えていた。普段ならば感じることはないのだが。
(より良い子を成すは上に立つ者の責務…。でも、確かになんだかこれは、可笑しいですわ…)
眠らせて無理矢理連れて行く事も、本人が納得していない事も。そしてこの不自然な力のうねり。流石のシアも違和感を感じずにはいられなかった。
三人三様異様なものを感じていた為か、誰も何も話さず時は過ぎた。
広がる熱は一点に凝縮され、キーナの身体に力が凝縮された。力のうねりが落ち着いた事を感じた。
「起こしましょう」
メリンダの言葉にダンが頷く。
メリンダがコップを用意し、シアがそこに水を用意する。ダンは小さじで瓶の中の物を掬い、2人の口に突っ込んだ。
すぐに2人の目がかっと開かれ、体を起こす。
「っぐぅ…!!!」
「っどぅ…!!!」
メリンダとシアが差し出したコップを慌てて口に運ぶ2人。
「「もう一杯!」」
シアが急いで水を入れると、またもや口に運ぶ。
もう一杯と言う前に、ダンが2人の目の前に飴のような物を差し出す。
「口直し」
その一言を聞いて、2人は急いでそれを口に含んだ。そしてほっとした顔になる。
「なんなんだ今のは…」
「想像以上のものだった…」
ぼそりと感想を呟く2人。余程の味なのだろう…。
「2人共、体調は? そろそろ行くわよ」
メリンダが2人に尋ねる。
「ああ、大丈夫だ」
「ばっちし」
2人が立ち上がる。
ダンが荷物を木陰に隠し、なにやらいそいそ準備している。
「おい、何やってんだ」
風の結界を張ろうとしていたサーガがダンを呼ぶ。サーガが全員を宮まで運ぶつもりだったのだが…。
少し開けた場所で、木と木の間に縄のような物が張られている。真ん中辺りは少し編まれて編み目が細かくなっている。
ダンがちょいちょいと手招きをする。皆が何だろうと行くと、真ん中辺りに詰められる。
「押す」
と言うと、ダンが背中でそれを押し始めた。縄がピンと張り、さらに伸びていく。
状況を理解した男達が微妙な顔をしたが、魔力を使わないで行けるのも楽かとサーガも背中で押し始める。テルディアスもそれも早いかもしれないと押し始める。
「え? なにこれ?」
若干理解出来ていないメリンダも、よく分からないが押し始める。
「なんですの?」
これまたよく分かっていないが、皆がやっているので一緒に押し始めるシア。
木がしなり、縄、ただの縄ではなくゴム製の縄が限界まで伸びた。
「行く!」
ダンの声と共に男達が地面から足を離した。
「え? え? ええええええええ!!!」
「え? は? いやああああああ!!!」
しなった木が元に戻る力と、伸ばされたゴムが元に戻る力が合わさり、5人の体は空中へともの凄い勢いで放り出された。
もちろんだが、さりげなくメリンダの体をサーガが、シアの体をダンが支えている。
「・・・・・・!!!」
今までに感じたことのない勢いと風圧で、メリンダも悲鳴にならない悲鳴を上げる。
シアは意識を失いかけている。
空中で上手く体勢を整えながら、男達は女性達を補助しながら(テルディアスはしていないが)綺麗な軌道を描き、宮へと迫る。
ダンは普段からその手段に慣れていたのか、平気な顔。
サーガはもちろんだが空中はお手の物。
テルディアスは崖から落ちたりなどでそこそこ慣れがあったのかもしれない。
つまり男達は慣れていたということで。
神殿が近づいて来る。丁度上部にある窓へと突っ込めそうである。ダンの計算は正しかったようだ。
男2人が風を纏う。もちろん着地する為である。と、蹴破ろうとしていた窓に、あっという間に蔓が生えてきて覆ってしまった。
「まさかあれで着地の衝撃を和らげるのか…」
サーガの呟きにダンが頷いた。
一応風を纏ったまま、窓へと突っ込む。
ガシャーン!!
盛大に窓が割れる音。そして蔓のブチブチ切れる音。
「やっぱ、全部受けきれねーじゃん」
男2人は風を纏ったままブレーキをかける。ダンの体はそのまま通り過ぎて行く。
しかしいつの間に生やしていたのか、神殿の中に不自然に生えた木がダンの体を受け止めた。
「なるほど…」
テルディアスとメリンダを抱いたサーガが着地。ダンもシアを抱え、木からするすると伸びてきた枝を滑り台のようにして降りてくる。
「なんだ?!」
神殿の中はもちろん騒然となっていた。突如窓を割って現われた不審人物達。おまけに突然床から木が生えたのだ。
だがしかし、何故かほとんどの者が床に伏せったまま動けないようだった。
なんとか動ける数人が、テルディアス達を取り囲む。
「曲者!」
光の者達が力を使おうとするが、
「?! なんだ?!」
「何故だ?! 何故応えない?!」
何か慌てている。
「キーナはあっちだ!」
風で探っていたのか、サーガが祭殿より奥にある壁を指さす。そこには地下へと続く階段のような物が見えた。
走り出そうとしたテルディアスが足を止める。
バチイッ!!
その目の前を光の力が迸った。
「く、四大精霊の力は使えなくとも…」
「我らには光の力がある!」
その手に光の力を収束させているようだ。
「通さない」
ダンが呟き、結界を張る。その顔には珍しく怒りの感情が見える。
「しゃーねえ。援護してやるからお前行け」
サーガも剣を抜き放った。
「キーナちゃんを無事に取り戻さないと酷いわよ」
メリンダも力を集め出す。
「私はご一緒に…」
「お前もこっち」
サーガに襟首を掴まれたシアが、渋々ダンの横に並ぶ。
テルディアスの走りにシアがついていけるわけがないのである。
「任せろ」
テルディアスが床を蹴る。
光の力が迸る。
「させません!」
テルディアスの前に現われた水の壁がその力を散らした。
4人に迫る力もダンの強固な結界の前に阻まれる。
「灰におなり!」
メリンダの特大火球が神殿内に降り注ぐ。
慌てて光の力でそれを散らし始める光の者達。
そこへ、風を纏って素早く近づいたサーガが昏倒させていく。
その間にテルディアスは素早く階段へと身を潜らせた。
シアが黙り込んだ。
「キーナは別に王族でも貴族でもねーし、御子にだってなりたくてなってるわけでもねーし、そんな子作りの覚悟なんて出来てるわけねーだろ。まだまだジョーシキが足りてねーな」
シアが小さくなった。
メリンダ心の中で拍手喝采。口調は悪くともさすがはサーガ。見事にシアを黙らせて納得させた。
「光の宮ってのは名前が立派なだけのお前が毛嫌いしてる娼館と同じような場所なんだよ。んなとこに光の御子だろうがなかろうが無理矢理連れてかれたら助けに行くなんて当たり前の事じゃねーか」
「おい、口はいいからとっとと宮へ行け」
「やっとるわやかましい」
サーガはテルディアスを軽く睨み付けると前を見る。
シアはテルディアスに助けて貰ったのかと思い、熱い視線を向ける。
しかしテルディアスはただ進行速度が遅くならないかと心配していただけだったので、シアの視線に背筋が寒くなった。ちょっといらんことをしたかもと後悔した。
太陽が山の端に半分位隠れた頃、森の上に突き出たその白い建物が見え始めて来た。
宮からは少し離れた森の中に無事に着地する。ダンはすでに目を覚ましていた。
テルディアスとサーガはさすがに疲れたようで、ぐったりとしている。
サーガに変わり、ダンが様子を探り始めた。
宮の周りには数々の家が建ち並び、さながら1つの大きな街のようになっている。宮があるおかげかこの辺りは妖魔の影も少なく、人々は安心して暮らしていた。
その街の気配は気にせず、ダンは宮へと意識を伸ばす。街の北に位置する宮は、南から星の宮、月の宮、太陽の宮と建物が並び、一番北に神殿が建てられている。
ダン達がいるのは街の北の森なので、大分近いのは有り難い。
ダンは神殿に人が沢山集まっていることを感じた。祭壇らしき場所に寝かされている人物が1人。キーナだろう。
「どうだ?」
焦りを含んだ声でテルディアスがダンに尋ねる。
「多分、儀式。まだ大丈夫」
「そうか…」
テルディアスがほっとした顔になる。
その目の前に、ダンがずずいっと丸薬を差し出した。
目の前に迫る丸薬と、ダンを見比べるテルディアス。
「だがしかし、時間が…」
「儀式。まだ終わらない(と思う)。休む、大事」
確かに消耗したままで突入してもキーナを救出出来るか分からない。休む事は大事だと分かってはいるが、気が急く。
「儀式終わったら、起こす」
ずいずいとテルディアスの目の前に丸薬を押しつける。
「わ、分かった…」
一応効果はサーガで確認済みだ。テルディアスは素直にそれを飲み込んだ。そして横になり、眠りに就いた。
ダンがサーガを見る。サーガは目を逸らす。
「飲む」
「・・・・・・」
分かっちゃいるが、サーガも出来れば飲みたくない。それに起こすとは、メリンダの口に突っ込んだあの怪しいビンのことを言っているのだろう…。
メリンダは未だに口の中に味が残っているのか、時折渋い顔をしている。どんな味だったのか聞きたいような聞きたくないような…。
「飲む」
ダンがずずずいっと丸薬を目の前に押しだしてくる。
「わ、分かったよ…」
押し負けて、サーガも丸薬を飲んだ。
できるだけ儀式とやらが長引くようにと願いながら。
焚き火の明かりも抑え気味に、一行は森の中で待機する。テルディアスとサーガを本復させなければ動くことは叶わない。2人が目覚め次第動く。その前に儀式が終わるのであれば無理矢理起こす算段だ。
(なんか、力が集まってるのを感じるわね…)
気配を感じるのはあまり得意ではないメリンダだったが、宮の神殿に光の力が集まっていく熱のようなものを感じていた。広がっている熱をただ一点に集中させているように感じる。
ダンもキーナの気配だけに集中していた。キーナが動く、または周りに人が近寄れば、2人を無理矢理にでも起こす為にスタンバイしている。そのキーナの身体に力が集められていることを、ダンも感じていた。
珍しくシアも、なんとなく異様な気配を感じ取っていた。
(キーナさんて、本当に御子様でしたのね…)
そのことにも驚いていた。全く信じていなかったのだ。そして宮の方から感じる何か大きな力のうねり。空気中にももちろんだが若干の水分はある。それらがシアにそのうねりを教えていた。普段ならば感じることはないのだが。
(より良い子を成すは上に立つ者の責務…。でも、確かになんだかこれは、可笑しいですわ…)
眠らせて無理矢理連れて行く事も、本人が納得していない事も。そしてこの不自然な力のうねり。流石のシアも違和感を感じずにはいられなかった。
三人三様異様なものを感じていた為か、誰も何も話さず時は過ぎた。
広がる熱は一点に凝縮され、キーナの身体に力が凝縮された。力のうねりが落ち着いた事を感じた。
「起こしましょう」
メリンダの言葉にダンが頷く。
メリンダがコップを用意し、シアがそこに水を用意する。ダンは小さじで瓶の中の物を掬い、2人の口に突っ込んだ。
すぐに2人の目がかっと開かれ、体を起こす。
「っぐぅ…!!!」
「っどぅ…!!!」
メリンダとシアが差し出したコップを慌てて口に運ぶ2人。
「「もう一杯!」」
シアが急いで水を入れると、またもや口に運ぶ。
もう一杯と言う前に、ダンが2人の目の前に飴のような物を差し出す。
「口直し」
その一言を聞いて、2人は急いでそれを口に含んだ。そしてほっとした顔になる。
「なんなんだ今のは…」
「想像以上のものだった…」
ぼそりと感想を呟く2人。余程の味なのだろう…。
「2人共、体調は? そろそろ行くわよ」
メリンダが2人に尋ねる。
「ああ、大丈夫だ」
「ばっちし」
2人が立ち上がる。
ダンが荷物を木陰に隠し、なにやらいそいそ準備している。
「おい、何やってんだ」
風の結界を張ろうとしていたサーガがダンを呼ぶ。サーガが全員を宮まで運ぶつもりだったのだが…。
少し開けた場所で、木と木の間に縄のような物が張られている。真ん中辺りは少し編まれて編み目が細かくなっている。
ダンがちょいちょいと手招きをする。皆が何だろうと行くと、真ん中辺りに詰められる。
「押す」
と言うと、ダンが背中でそれを押し始めた。縄がピンと張り、さらに伸びていく。
状況を理解した男達が微妙な顔をしたが、魔力を使わないで行けるのも楽かとサーガも背中で押し始める。テルディアスもそれも早いかもしれないと押し始める。
「え? なにこれ?」
若干理解出来ていないメリンダも、よく分からないが押し始める。
「なんですの?」
これまたよく分かっていないが、皆がやっているので一緒に押し始めるシア。
木がしなり、縄、ただの縄ではなくゴム製の縄が限界まで伸びた。
「行く!」
ダンの声と共に男達が地面から足を離した。
「え? え? ええええええええ!!!」
「え? は? いやああああああ!!!」
しなった木が元に戻る力と、伸ばされたゴムが元に戻る力が合わさり、5人の体は空中へともの凄い勢いで放り出された。
もちろんだが、さりげなくメリンダの体をサーガが、シアの体をダンが支えている。
「・・・・・・!!!」
今までに感じたことのない勢いと風圧で、メリンダも悲鳴にならない悲鳴を上げる。
シアは意識を失いかけている。
空中で上手く体勢を整えながら、男達は女性達を補助しながら(テルディアスはしていないが)綺麗な軌道を描き、宮へと迫る。
ダンは普段からその手段に慣れていたのか、平気な顔。
サーガはもちろんだが空中はお手の物。
テルディアスは崖から落ちたりなどでそこそこ慣れがあったのかもしれない。
つまり男達は慣れていたということで。
神殿が近づいて来る。丁度上部にある窓へと突っ込めそうである。ダンの計算は正しかったようだ。
男2人が風を纏う。もちろん着地する為である。と、蹴破ろうとしていた窓に、あっという間に蔓が生えてきて覆ってしまった。
「まさかあれで着地の衝撃を和らげるのか…」
サーガの呟きにダンが頷いた。
一応風を纏ったまま、窓へと突っ込む。
ガシャーン!!
盛大に窓が割れる音。そして蔓のブチブチ切れる音。
「やっぱ、全部受けきれねーじゃん」
男2人は風を纏ったままブレーキをかける。ダンの体はそのまま通り過ぎて行く。
しかしいつの間に生やしていたのか、神殿の中に不自然に生えた木がダンの体を受け止めた。
「なるほど…」
テルディアスとメリンダを抱いたサーガが着地。ダンもシアを抱え、木からするすると伸びてきた枝を滑り台のようにして降りてくる。
「なんだ?!」
神殿の中はもちろん騒然となっていた。突如窓を割って現われた不審人物達。おまけに突然床から木が生えたのだ。
だがしかし、何故かほとんどの者が床に伏せったまま動けないようだった。
なんとか動ける数人が、テルディアス達を取り囲む。
「曲者!」
光の者達が力を使おうとするが、
「?! なんだ?!」
「何故だ?! 何故応えない?!」
何か慌てている。
「キーナはあっちだ!」
風で探っていたのか、サーガが祭殿より奥にある壁を指さす。そこには地下へと続く階段のような物が見えた。
走り出そうとしたテルディアスが足を止める。
バチイッ!!
その目の前を光の力が迸った。
「く、四大精霊の力は使えなくとも…」
「我らには光の力がある!」
その手に光の力を収束させているようだ。
「通さない」
ダンが呟き、結界を張る。その顔には珍しく怒りの感情が見える。
「しゃーねえ。援護してやるからお前行け」
サーガも剣を抜き放った。
「キーナちゃんを無事に取り戻さないと酷いわよ」
メリンダも力を集め出す。
「私はご一緒に…」
「お前もこっち」
サーガに襟首を掴まれたシアが、渋々ダンの横に並ぶ。
テルディアスの走りにシアがついていけるわけがないのである。
「任せろ」
テルディアスが床を蹴る。
光の力が迸る。
「させません!」
テルディアスの前に現われた水の壁がその力を散らした。
4人に迫る力もダンの強固な結界の前に阻まれる。
「灰におなり!」
メリンダの特大火球が神殿内に降り注ぐ。
慌てて光の力でそれを散らし始める光の者達。
そこへ、風を纏って素早く近づいたサーガが昏倒させていく。
その間にテルディアスは素早く階段へと身を潜らせた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる