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青い髪の少女編
謝罪
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「置いて行って下さいませ! 置いて行って下さいませ!」
ずぶ濡れになったシアが泣き喚いている。
「いやほら~、濡れたから臭いもほとんど分かんねえし、テルディアスにも絶対に言わないから…」
「置いて行って下さいませ!」
さすがに恥ずかしかったのか、シアがなかなか泣き止まない。かと言って置いて行くわけにも行かず、ダンとサーガは困り果てる。
「またほら、あんなのが来るかも知れないぜ?」
「構いません! 死んだ方がましです!」
いい加減面倒くさくなって来た。
「よし。分かった。じゃあ置いてくわ」
そう言ってサーガが歩き出した。
オロオロとするダンの腕も引っ張る。
「置いてけっつってんだ。言う通りにしてやれ」
その後にサーガの口が少し動いた。ダンが心配そうにしながらも、サーガについて歩き出した。
まさか本当にいなくなってしまうとも思わず、シアが顔を上げる。ダンは待っていてくれるだろうと思いながら。
しかし、2人の姿はない。
「え…。本当に行ってしまったんですの…?」
シアは途端に怖くなってきた。
「ま、待って…、待って下さいませ!」
僅かな月明かり。鬱蒼と茂る森。ざわざわとざわめく木の葉の音。改めて1人になると、恐怖が背筋を這い上がる。そして気付いた。自分がどちらから来たのか分からない。
「待って下さいませ! どこに行ったのですの?!」
シアが声を張り上げた。
「こっちだこっち。早く来ねえと本当に置いてくぞ」
右手の方からサーガの声が聞こえてきた。
「置いて行かないで下さいませ!」
さっきと言ってる事が違うぞ。
シアがサーガの声のする方へと走り出した。
木々の間に2人の姿が見えた時、ほっとした。
「なんで置いて行くんですの?!」
「置いてけって言ったのはお前だろ」
シアが口をへの字にする。
「お前も我が儘は大概にしろよ。そのうちテルディアスじゃないけど、マジに森に置いてくぞ」
シアの顔が悲しげになる。
「私、我が儘でしたの?」
「自覚なかったんかい」
サーガがこめかみを押さえた。
「自分の要求を押し通し過ぎるのは我が儘ってんだよ。もう少し相手の事を考えろ。あと口が過ぎるのも嫌われる原因だぞ」
「口が、過ぎる?」
「お前は相手の話聞かないで一方的に喋るだけだろ。もっと人の話を聞け」
「そ、そうなのですね…」
嫌われる原因。そういえばテルディアスも同じようなことを言っていたとシアは思い出す。
「しゃ、喋らなければ良いのですね?」
「いや、ダンみてえに喋らなすぎもあれだけど」
ダンが照れたように頭を掻く。傷は既に治したらしい。さすが。
というか、褒めてないぞ?
「そうだな~。まずは喋らないようにして、周りの様子を見てみたら? 誰もお前ほどがつがつ喋って無いぜ?」
「そうなのですね…」
お喋りというか、1人うるさいというか。これで少しでも静かになってくれたら儲けもの、とサーガは思う。
「あと、勝手な行動はするなよな。お前が勝手に動いたから、ダンが怪我したんだぞ」
「あ…」
シアが心配そうにダンを見上げた。
「大丈夫。治した」
「…治したら反省できねえじゃん…」
ダンに怪我をさせたという負い目を負わせたかったのだが…。
これみよがしにダンの肩口がビリビリに破けてしまってはいるが、これだけでは罪の意識もあまり持てないだろう。
「いえ。私が悪いのですわ。ダン、庇って下さってありがとうございます」
おや、とサーガは思った。一応素直な性格はしているけれど、自分の行動を顧みるほど殊勝ではなかったような…。
シアも今までであれば尊大な態度で礼を言ったかもしれない。しかし、あの時感じた死の恐怖。あの衝撃が心に突き刺さっている。
そして、動けないシアを、体を張って守ってくれたダンに深い感謝の念を覚える。ダンがいなければ、シアは悲鳴を上げることも許されずに死んでいただろう。まさに命の恩人だ。
シアのことを本気で守ろうとしてくれていたその姿に、シアも心打たれていた。今まで周りにいた者達とは何かが違う。どちらかというと父が付けてくれた付き人達に似ている。胸が仄かに温かくなる。
焚き火の明かりが近づき、その前に座っているテルディアスが見えて来た。
決まりが悪く、俯いたまま歩いて行くシア。
「おう、ものぐさ野郎。少しは働けよ」
「お前の方が早かったから、丁度良いだろう」
「あんだあ? お前の分まで俺様が働いてあげちゃってるのよ?」
何故か喧嘩腰の2人。
ダンがポンとシアの背を軽く叩く。
シアが見上げると、うんと頷くダン。
「あ、あの…。テルディアス様…」
恐る恐るシアが一歩踏みだし、テルディアスに声を掛ける。
テルディアスがちらりとシアを見た。
「あの、申し訳ございませんでした。私の、口が過ぎましたわ…」
テルディアスが持っていた湯飲みを口元に運ぶ。一応話しは聞いている様子である。
「その、どれだけテルディアス様が、キーナさんの事を好きなのか、ダンから聞きました」
ブフォッ!!
テルディアスが盛大に吹いた。顔中にお茶を被った。
「きったね!」
サーガが距離を取って自分の湯飲みを守った。
「わ、私、これからいろいろ態度を改めますので、よろしければ、その、まだ一緒にお供してもよろしいでしょうか…?」
顔中がお茶まみれになり、前髪や顎からお茶を垂らしながら、テルディアスがシアを見た。
「うるさくしなければ、別に構わない」
微妙に格好がつかないが、一先ずテルディアスはシアを許すことにした。
「ありがとうございますわ!」
シアは嬉しそうに笑った。
そしてシアはダンに促され、キーナとメリンダが入っているお風呂へ向かった。洗いたいものもあるしね!
「うるさくしなければ~ね。俺は知らねーぞ」
ダンに改めて淹れてもらったお茶を啜りつつ、男達が話し出す。
テルディアスもダンに手渡されたタオルで顔を拭きつつ、新しく入ったお茶を啜る。
「置いて行くわけにもいかんのだろう? 一応金づるではあるのだし」
そういう扱いかーい!
「ま~そうだけどな」
苦笑いしつつ、テルディアスをちらりと見る。きっとこいつは気付いてはいないだろう。
テルディアスがいない時に、キーナがどれだけ寂しそうな顔をしているか。
しかし、サーガにそれを教えるような親切心は、もちろんだが持ち合わせていなかった。
お風呂にシアが行くと、キーナとメリンダが待っていた。
「遅かったわね。そろそろ上がろうかと思ってたのよ」
「良かった。無事だったんだね」
シアが来るのを当然のように待っていた2人。なんだかシアは恥ずかしくなって来た。
「い、いろいろあったのですわ!」
顔を背けつつ、服を脱ぐ。洗濯に慣れていないシアに、キーナとメリンダが丁寧にやり方を教える。何故か今日のシアは洗濯にとても真面目に取り組んだ。ナンデカナー。
「あの、キーナさん、先程は、ごめんなさい…」
湯船に浸かって落ち着いた所で、シアは素直にキーナに謝った。
キーナとメリンダが顔を見合わせる。なんだかシアが前よりも素直になっている気がする。
キーナは小首を傾げつつ、
「う~ん。そうね~。僕もちょっと傷ついたし。すぐに許すとは言えないかな~?」
さすがにもう温まっているキーナとメリンダは風呂の淵に座って足だけお湯に浸けていた。
読者サービス! でも絵がない!
シアがしゅんとなる。
「だからそうね~。人の悪口をもう言わないって約束出来るなら、許してあげても良いよ?」
シアが顔を上げた。
キーナがにっこりと笑う。
その笑顔を見て、何故か胸がキュンとなるシア。
(な、何かしら…?)
裸の状態で見ているせいか、キーナがとても女性らしく見える。しかもとても綺麗だ。
ドギマギしつつ、なんとか声を出す。
「やや、や、約束、しますわ…」
「うん、約束ね」
何故かキーナの顔を直視できない。シアは誤魔化す為に、口元までお湯に浸かる。
「そうだ。あたしへの暴言も謝ってよ」
メリンダが言った。
シアがメリンダを見て頭を捻る。何か言ったかしら?
「覚えてなさそうな顔ね。お・ば・さ・んって言ったでしょうが」
怖い笑みを浮かべてメリンダがシアを見下ろす。
「おばさん?」
シアが首を傾げる。
「二十歳を過ぎるとおばさんと教わりましたけど?」
ボコボコボコッ!
メリンダの周りから熱湯が!
「シア! お姉さん! お姉さんだよ! 謝って!」
キーナが慌ててシアに謝るように促す。
シアも状況を察したのか、メリンダに素直に謝ったのだった。
男達の風呂タイム。シアはキーナにテルディアスと会った時の話しを聞いてみた。
「どうしてテルディアス様の言うことを信じられたのですの?」
「え? う~ん」
キーナが悩む。
「直前に助けられてたし、僕を襲うような感じもなかったし、寂しそうな目をしてたし…。う~ん。あ、あと、ダーディンの事も知らなかったし…」
「は? ダーディンのことを知らない?」
「うん。ちょっと事情があってね~。知らなかったの」
シアがポカンと口を開ける。
キーナも異世界云々の説明は面倒なので省いた。
「なにより、命の恩人だしね。その後もなんだかんだで助けて貰ったし。それに、最初は一緒に行きたくないって言われたんだよ?」
川から溺れている所を助けて貰い、服を乾かす為にも助けて貰い、獲った魚も分けて貰った。その後も街道まで送ろうとしてくれていた。一緒に行くとごねたキーナに、これでもかと素顔を晒したのだ。
「本当にダーディンで人を襲う気だったなら、一緒に行くって言った僕を離そうとはしなかったはずでしょ? 素顔を晒してまで僕を引き離そうとして、その時はなんでなのか理由は分からなかったけど。良い人なんだなって思ったから」
野生の勘、だけではなかったようである。
「そ、それでも、全部お芝居だった可能性もあったのではありませんの?」
「そこまでは考えなかったな~」
やはり野生の勘か。
「まあ結局良い人だったんだし、いいんじゃない?」
(大丈夫かしら、この人…)
人のこと言えた義理ではないと思うが、シアはキーナが心配になった。目の端でメリンダも軽く頭を抱えているのが見えた。メリンダも同じようなことを考えているのだろう。
男達も風呂から上がり、就寝時間となる。
サーガとシアは念の為ベッドに縛り付けられた。
「わ、私、反省していますのよ!」
「俺だって!」
「あんたが一番信用ならんわ!」
メリンダに頭を叩かれるサーガ。
信用を得るには時間がかかるとシアを説得し、渋々受け入れるシア。
そして灯りが落とされる。
「俺は?」
サーガの言葉が部屋に響いたが、誰も何も反応しなかった。
多分誰も信用していないと思う。
ずぶ濡れになったシアが泣き喚いている。
「いやほら~、濡れたから臭いもほとんど分かんねえし、テルディアスにも絶対に言わないから…」
「置いて行って下さいませ!」
さすがに恥ずかしかったのか、シアがなかなか泣き止まない。かと言って置いて行くわけにも行かず、ダンとサーガは困り果てる。
「またほら、あんなのが来るかも知れないぜ?」
「構いません! 死んだ方がましです!」
いい加減面倒くさくなって来た。
「よし。分かった。じゃあ置いてくわ」
そう言ってサーガが歩き出した。
オロオロとするダンの腕も引っ張る。
「置いてけっつってんだ。言う通りにしてやれ」
その後にサーガの口が少し動いた。ダンが心配そうにしながらも、サーガについて歩き出した。
まさか本当にいなくなってしまうとも思わず、シアが顔を上げる。ダンは待っていてくれるだろうと思いながら。
しかし、2人の姿はない。
「え…。本当に行ってしまったんですの…?」
シアは途端に怖くなってきた。
「ま、待って…、待って下さいませ!」
僅かな月明かり。鬱蒼と茂る森。ざわざわとざわめく木の葉の音。改めて1人になると、恐怖が背筋を這い上がる。そして気付いた。自分がどちらから来たのか分からない。
「待って下さいませ! どこに行ったのですの?!」
シアが声を張り上げた。
「こっちだこっち。早く来ねえと本当に置いてくぞ」
右手の方からサーガの声が聞こえてきた。
「置いて行かないで下さいませ!」
さっきと言ってる事が違うぞ。
シアがサーガの声のする方へと走り出した。
木々の間に2人の姿が見えた時、ほっとした。
「なんで置いて行くんですの?!」
「置いてけって言ったのはお前だろ」
シアが口をへの字にする。
「お前も我が儘は大概にしろよ。そのうちテルディアスじゃないけど、マジに森に置いてくぞ」
シアの顔が悲しげになる。
「私、我が儘でしたの?」
「自覚なかったんかい」
サーガがこめかみを押さえた。
「自分の要求を押し通し過ぎるのは我が儘ってんだよ。もう少し相手の事を考えろ。あと口が過ぎるのも嫌われる原因だぞ」
「口が、過ぎる?」
「お前は相手の話聞かないで一方的に喋るだけだろ。もっと人の話を聞け」
「そ、そうなのですね…」
嫌われる原因。そういえばテルディアスも同じようなことを言っていたとシアは思い出す。
「しゃ、喋らなければ良いのですね?」
「いや、ダンみてえに喋らなすぎもあれだけど」
ダンが照れたように頭を掻く。傷は既に治したらしい。さすが。
というか、褒めてないぞ?
「そうだな~。まずは喋らないようにして、周りの様子を見てみたら? 誰もお前ほどがつがつ喋って無いぜ?」
「そうなのですね…」
お喋りというか、1人うるさいというか。これで少しでも静かになってくれたら儲けもの、とサーガは思う。
「あと、勝手な行動はするなよな。お前が勝手に動いたから、ダンが怪我したんだぞ」
「あ…」
シアが心配そうにダンを見上げた。
「大丈夫。治した」
「…治したら反省できねえじゃん…」
ダンに怪我をさせたという負い目を負わせたかったのだが…。
これみよがしにダンの肩口がビリビリに破けてしまってはいるが、これだけでは罪の意識もあまり持てないだろう。
「いえ。私が悪いのですわ。ダン、庇って下さってありがとうございます」
おや、とサーガは思った。一応素直な性格はしているけれど、自分の行動を顧みるほど殊勝ではなかったような…。
シアも今までであれば尊大な態度で礼を言ったかもしれない。しかし、あの時感じた死の恐怖。あの衝撃が心に突き刺さっている。
そして、動けないシアを、体を張って守ってくれたダンに深い感謝の念を覚える。ダンがいなければ、シアは悲鳴を上げることも許されずに死んでいただろう。まさに命の恩人だ。
シアのことを本気で守ろうとしてくれていたその姿に、シアも心打たれていた。今まで周りにいた者達とは何かが違う。どちらかというと父が付けてくれた付き人達に似ている。胸が仄かに温かくなる。
焚き火の明かりが近づき、その前に座っているテルディアスが見えて来た。
決まりが悪く、俯いたまま歩いて行くシア。
「おう、ものぐさ野郎。少しは働けよ」
「お前の方が早かったから、丁度良いだろう」
「あんだあ? お前の分まで俺様が働いてあげちゃってるのよ?」
何故か喧嘩腰の2人。
ダンがポンとシアの背を軽く叩く。
シアが見上げると、うんと頷くダン。
「あ、あの…。テルディアス様…」
恐る恐るシアが一歩踏みだし、テルディアスに声を掛ける。
テルディアスがちらりとシアを見た。
「あの、申し訳ございませんでした。私の、口が過ぎましたわ…」
テルディアスが持っていた湯飲みを口元に運ぶ。一応話しは聞いている様子である。
「その、どれだけテルディアス様が、キーナさんの事を好きなのか、ダンから聞きました」
ブフォッ!!
テルディアスが盛大に吹いた。顔中にお茶を被った。
「きったね!」
サーガが距離を取って自分の湯飲みを守った。
「わ、私、これからいろいろ態度を改めますので、よろしければ、その、まだ一緒にお供してもよろしいでしょうか…?」
顔中がお茶まみれになり、前髪や顎からお茶を垂らしながら、テルディアスがシアを見た。
「うるさくしなければ、別に構わない」
微妙に格好がつかないが、一先ずテルディアスはシアを許すことにした。
「ありがとうございますわ!」
シアは嬉しそうに笑った。
そしてシアはダンに促され、キーナとメリンダが入っているお風呂へ向かった。洗いたいものもあるしね!
「うるさくしなければ~ね。俺は知らねーぞ」
ダンに改めて淹れてもらったお茶を啜りつつ、男達が話し出す。
テルディアスもダンに手渡されたタオルで顔を拭きつつ、新しく入ったお茶を啜る。
「置いて行くわけにもいかんのだろう? 一応金づるではあるのだし」
そういう扱いかーい!
「ま~そうだけどな」
苦笑いしつつ、テルディアスをちらりと見る。きっとこいつは気付いてはいないだろう。
テルディアスがいない時に、キーナがどれだけ寂しそうな顔をしているか。
しかし、サーガにそれを教えるような親切心は、もちろんだが持ち合わせていなかった。
お風呂にシアが行くと、キーナとメリンダが待っていた。
「遅かったわね。そろそろ上がろうかと思ってたのよ」
「良かった。無事だったんだね」
シアが来るのを当然のように待っていた2人。なんだかシアは恥ずかしくなって来た。
「い、いろいろあったのですわ!」
顔を背けつつ、服を脱ぐ。洗濯に慣れていないシアに、キーナとメリンダが丁寧にやり方を教える。何故か今日のシアは洗濯にとても真面目に取り組んだ。ナンデカナー。
「あの、キーナさん、先程は、ごめんなさい…」
湯船に浸かって落ち着いた所で、シアは素直にキーナに謝った。
キーナとメリンダが顔を見合わせる。なんだかシアが前よりも素直になっている気がする。
キーナは小首を傾げつつ、
「う~ん。そうね~。僕もちょっと傷ついたし。すぐに許すとは言えないかな~?」
さすがにもう温まっているキーナとメリンダは風呂の淵に座って足だけお湯に浸けていた。
読者サービス! でも絵がない!
シアがしゅんとなる。
「だからそうね~。人の悪口をもう言わないって約束出来るなら、許してあげても良いよ?」
シアが顔を上げた。
キーナがにっこりと笑う。
その笑顔を見て、何故か胸がキュンとなるシア。
(な、何かしら…?)
裸の状態で見ているせいか、キーナがとても女性らしく見える。しかもとても綺麗だ。
ドギマギしつつ、なんとか声を出す。
「やや、や、約束、しますわ…」
「うん、約束ね」
何故かキーナの顔を直視できない。シアは誤魔化す為に、口元までお湯に浸かる。
「そうだ。あたしへの暴言も謝ってよ」
メリンダが言った。
シアがメリンダを見て頭を捻る。何か言ったかしら?
「覚えてなさそうな顔ね。お・ば・さ・んって言ったでしょうが」
怖い笑みを浮かべてメリンダがシアを見下ろす。
「おばさん?」
シアが首を傾げる。
「二十歳を過ぎるとおばさんと教わりましたけど?」
ボコボコボコッ!
メリンダの周りから熱湯が!
「シア! お姉さん! お姉さんだよ! 謝って!」
キーナが慌ててシアに謝るように促す。
シアも状況を察したのか、メリンダに素直に謝ったのだった。
男達の風呂タイム。シアはキーナにテルディアスと会った時の話しを聞いてみた。
「どうしてテルディアス様の言うことを信じられたのですの?」
「え? う~ん」
キーナが悩む。
「直前に助けられてたし、僕を襲うような感じもなかったし、寂しそうな目をしてたし…。う~ん。あ、あと、ダーディンの事も知らなかったし…」
「は? ダーディンのことを知らない?」
「うん。ちょっと事情があってね~。知らなかったの」
シアがポカンと口を開ける。
キーナも異世界云々の説明は面倒なので省いた。
「なにより、命の恩人だしね。その後もなんだかんだで助けて貰ったし。それに、最初は一緒に行きたくないって言われたんだよ?」
川から溺れている所を助けて貰い、服を乾かす為にも助けて貰い、獲った魚も分けて貰った。その後も街道まで送ろうとしてくれていた。一緒に行くとごねたキーナに、これでもかと素顔を晒したのだ。
「本当にダーディンで人を襲う気だったなら、一緒に行くって言った僕を離そうとはしなかったはずでしょ? 素顔を晒してまで僕を引き離そうとして、その時はなんでなのか理由は分からなかったけど。良い人なんだなって思ったから」
野生の勘、だけではなかったようである。
「そ、それでも、全部お芝居だった可能性もあったのではありませんの?」
「そこまでは考えなかったな~」
やはり野生の勘か。
「まあ結局良い人だったんだし、いいんじゃない?」
(大丈夫かしら、この人…)
人のこと言えた義理ではないと思うが、シアはキーナが心配になった。目の端でメリンダも軽く頭を抱えているのが見えた。メリンダも同じようなことを考えているのだろう。
男達も風呂から上がり、就寝時間となる。
サーガとシアは念の為ベッドに縛り付けられた。
「わ、私、反省していますのよ!」
「俺だって!」
「あんたが一番信用ならんわ!」
メリンダに頭を叩かれるサーガ。
信用を得るには時間がかかるとシアを説得し、渋々受け入れるシア。
そして灯りが落とされる。
「俺は?」
サーガの言葉が部屋に響いたが、誰も何も反応しなかった。
多分誰も信用していないと思う。
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