キーナの魔法

小笠原慎二

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青い髪の少女編

シアの仕事

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斡旋所に着くと、案内板の前へと向かう。
大まかに分類された紹介書がいくつも張ってある。
接客系の仕事はさらっと飛ばし、サーガが案内板をざっと見た。

「お? まだ捕まってないのか?」

見れば手配書も目立つ所に張ってあった。この囚人騒ぎのおかげでテルディアスが化粧する羽目になったのだ。早く捕まることを祈る。

「ふ~ん。これなんかいいんじゃね?」

紹介書を手に取りシアに見せる。

「水路の清掃?」
「そ。水は専門だろ? 朝飯前じゃね?」
「もちろんですわ! 水に関して私の右に出る者はいませんわ!」
「よし。んじゃ受注してくら」

サーガが受け付けに行った。

「水路の清掃って…」
「つまり溝掃除よ」

キーナとメリンダがヒソヒソと言葉を交す。
体力仕事で汚れ仕事なのであまり人気がない。なのでだいたいどこの街に行ってもある(残っている)仕事である。

「お~し、受注してきたぜ。んじゃま、行ってみっか」

斡旋所を出て、街の上流の方へと向かった。

「この辺りの区画だな」

サーガが紹介書を見ながら指さす。
街に張り巡らされた水路の一画。さすがに全部やるのは難しいので、何区画かに別れている。今回はそのうちの一画である。

「小さい川だね」
「あまり綺麗じゃないわね…」

キーナ達が水路の手前に設けられた柵から覗くと、それほど大きくはない水の流れが見えた。お世辞にも綺麗とは言えない流れだった。

「ここから、あそこの端までだな」

普通ならば下に降りて、スコップなどでヘドロなどを掬って綺麗にして行くものである。なので一日かけてもそれほど長い距離を出来るわけがない。

「分かりましたわ。綺麗にすればいいのですわね」

シアが持っていた杖をとん、と軽く地面に叩きつけた。
すると、水の流れが止まった。
見ていたキーナとメリンダも驚いて目を見開く。

「ではここからは先に流れて行ってもらいましょう」

とシアが言って手を振ると、水が綺麗に切れて、それ以下の下流の水は綺麗に流れ去っていった。川底が見える。

「この汚れを取ってしまえばいいのですわね」

シアが手を上に上げると、動かずに止まっていた水の中からいくつか水の球が浮き上がってくる。そして水の球から勢いよく水が飛び出し、川底を洗っていく。高圧洗浄である。
あっという間に川底が洗い流されて行く。剥ぎ取られた汚れはそのまま水と一緒に流れて行く。

「うはぁ、すっげ」

紹介したサーガも驚いていた。まさかここまで便利に使えるとは。

「さすがだなぁ。これならあっという間に終わりそうだな」
「当然ですわ! これくらい私にかかれば!」

シアを持ち上げることも忘れない。

「さすがは水の扱いに長けたお嬢さん! これならまだまだ受注しても出来そうだな!」
「おーっほっほ。もちろんですわ! 私ならばできましてよ!」
「よし! 追加で取ってくらぁ!」

そう言うとサーガはまさに飛んで行った。水路掃除は区画ごとなので、その分だけ仕事量がある。

「仕事させる気だね」
「乗せるのが上手いわね」

キーナとメリンダはそのままシアの仕事を見学していた。綺麗になっていくものを見るのは何故か面白いものである。ダンも無表情ではあるが、感心しているのかシアの仕事っぷりを眺めていた。
途中昼休憩を挟み、シアはほぼ街中の水路を掃除し終えた。途中シアの魔法に驚いた見物客も増え始め「凄いなお嬢ちゃん!」「高名な魔導師なのね?!」などというお褒めの言葉をもらい、シアは鼻高々。サーガはちゃっかり見物料を徴収していた。さすがである。
鼻高々のシアは限界まで頑張り、終わる頃には魔力を使い切ったのか、ぐでっとしていた。

「こ、これで終わりですわね…」
「おう、ご苦労さん」

ダンに抱え上げられ、斡旋所へ向かう。仕事の完了を確認して貰い、あとは報酬を受け取るだけである。
隅に設えられた椅子に腰掛け、サーガが受け付けに行くのを待つ。サーガが紹介書を持って行くと、受付のお姉さんが嬉しそうな顔をした。そしてサーガが出した書類の束を見ながら、サーガとなにやら楽しそうにお話ししている。

「メリンダさん。椅子が燃えちゃうよ?」
「おほほほ。あたしったら…」

笑っているのに、何故かその顔を怖いと思ったキーナだった。

談笑を終えてサーガが帰ってくる。

「お~、凄いぜ。街中で噂になってたって。完了確認もしなくて済んだ。…姐さん?」

メリンダの怖い笑顔にサーガが気付いた。

「なに?」
「いえ…」

サーガ、目を逸らした。

「ほ、報酬もきっちり貰えたし。ほれ、これお前の分な」

とお金の入った袋をシアに渡した。

「これが…私が稼いだお金ですのね…」

シアがちょっと嬉しそうに袋を覗き込む。

「サーガ、その袋は?」

キーナがサーガが持っているもう一つの袋を指し示す。

「ん? もちろんこれは授業料指導料紹介料手数料諸々を込めた俺の取り分」

ちゃっかりとしっかりしていなさる。

「おい水っ子。お前まずはダンに借りた分返せよ」

お金にはきっちりしているらしい。
シアがサーガの顔を見て、

「そうですわね」

と頷いた。こういうところは素直である。

「さあダン。お受け取りになって」

と袋ごとダンに手渡した。

「この中から好きなだけお取りになってくださいまし」

ダンが目を見開く。

「いやいやいや、ちょっと待てやお嬢さん」

サーガのストップが入りました。

「借りた分だけ返しゃいいんだよ。好きに取れってなんだよ」
「あら? お金とはこういうふうに払うのではなくて?」

シア以外の面々の顔がピカソが書いた絵のようになった。

「ちょっと待て。まさか今までもこうやって支払いしてたのか?」
「そうですわ。私、お金の勘定の仕方なんて知りませんもの。付き人がいてくれた時はその方達にお願いしてましたけど。はぐれてしまってからはこうやってしてましたわ」

シア以外の面々が頭を抱える。

「金が減るの早かったんじゃね?」
「さあ? そういうものなのではありませんの?」

シア以外の面々が余計に頭を抱えた。
シアがお金を持っていないのは、シアが管理できないのもあり、ついてはあちこちに余計にばらまいていたせいだと分かった。何故こんな奴に金を預けた付き人よ…。

「おいダン。お前面倒みるっつったよな。あとは任せた」

面倒くさくなったのか、サーガはダンに丸投げした。
ダンはアワアワしつつも、とりあえずお金を全部預かることにした。

「宿、行ってから、数える」
「分かりましたわ」

宿に行ってから、シアと一緒に金勘定をするつもりである。ただ、シアに伝わったかどうかは不明である。

「お前らは先に帰ってろよ。俺は返事が来てないか確認してから帰る」
「僕も行きたい」
「あたしも」
「返事?」
「帰る。勘定する。お金、大事」

ダンがシアを引き留めて、ダンとシアは一足先に宿へ帰る事になった。疲れてるしね。
ダン達と別れ、風文取り扱い所へ向かう。

「ねえサーガ。さっきの受付のお姉さんと何話してたの?」

キーナが聞いてみた。

「ん? 別に。あの水っ子の話してただけだぜ? あのお姉さんも休憩時間に丁度見たらしいんだよ。それが凄かったですね~ってさ。だから完了確認も適当で済んだってわけ」

ただの世間話をしていただけらしい。
キーナ、ちらりとメリンダを見た。メリンダの顔付きが先程より穏やかになっていた。
受付のお姉さんとサーガが楽しそうに話し出した頃から、徐々にメリンダの周りの温度が上がっていったのだ。軽い恐怖である。

「そか。良かった良かった」
「? 何が?」

サーガもそこで、メリンダの雰囲気が幾分か和らいでいることに気付いた。
触らぬ神に祟りなし。
サーガは素知らぬふりで足を動かしたのだった。














返事はまだ来ていなかった。
風文取り扱い所を出ると、やはりテルディアスが出て来た。

「まだか?!」
「まだだよ」

隠れんぼじゃあるまいし。

「ほれ、あいつからの迷惑料・・・

そう言って先程の袋から幾らかつかみ出してテルディアスに渡した。テルディアスは若干嫌そうな顔をしながらも、素直に受け取ったのだった。
誰が稼ごうが、金は金だ。

「美味いもんでも食うんだな」
「そうしよう」

ぱーっと使うようである。

「テルはまた1人で外?」
「ああ。大丈夫だ。美味いもんを食ってくるから」

そう行ってキーナの頭をナデナデ。嬉しそうなキーナ。胡乱な目のサーガとメリンダ。
そしてテルディアスと別れ、3人は宿へと向かうのだった。















「サーガさん! 嘘を吐きましたわね!」
「何が?」

夕飯の席で、何故かシアがサーガに突っかかった。

「お金を稼げばテルディアス様を良い宿に泊まらせることが出来ると仰ったじゃありませんか!」
「言ったな」

確かに言っていた。しかしそれが何か?

「お金を稼いだのに全く足りないと、ダンに言われましたわ!」

ダンを指で指すのはやめましょう。

「当然だろ」
「当然ですって?!」
「なにより、お前が金の価値を知らないのが悪いんじゃん」
「はあ?!」
「ダンに聞かなかったのか? この宿の代金が幾らかとか、この食事代が幾らかとか、ドアノブの修理代が幾らかとか」

ちなみに、テルディアスの部屋は別の部屋に変えてもらっている。ドアノブの修理代には使えない期間の部屋代なども含まれていたはずだ。

「聞きましたけど…」
「お前払ったんだろ?」
「払いましたわ!」
「で? 金はあと幾ら残ってる?」
「分かりませんわ」
「はい、そこで駄目~」
「何故ですの?!」
「あれくらいの金勘定も出来ないとはな。おい水っ子」
「変な名前で呼ばないでくださいませ!」
「俺は最初に言っただろ? 金のない女に男は寄りつかないと」
「言ってましたわね」
「金ってのはな、あればあれだけいいんだよ。お前、今日ちょっとしか稼いでねーじゃん」
「私、仕事しましたのよ!」
「あれだけの仕事じゃな~。そんなに稼げるわけないじゃん」

その半分くらいはサーガの取り分になってしまっているしね。

「金持ちは良い服着て美味いもん食える。でも金無しは良い服も着れなけりゃ美味いもんも食えない。これくらいはお前でも分かるよな?」
「わ、分かりますわ」
「で、お前今朝まで金無しだったじゃん。そんなのが一日仕事しただけで金持ちになれるわけねーだろ。だったらその辺に転がってる金無しだってあっちゅーまに金持ちになってるだろ」
「・・・・・・」

一応シアも貧民を見たことがあるらしい。住む所もなく食べる物にも困っている人が、転がっている所はある。キーナも迷い込んだことはあるが、すぐにサーガやテルディアスに引っ張り出された。そういう所は治安も良くない。
サーガが肉を指したフォークでシアを指す。

「お前さんはまず金の価値をきちんと知って、どれくらい稼げばテルディアスが喜ぶか知らなきゃならん。ただ稼げばいいってもんじゃねーんだよ」

そう言って肉を口に運んだ。

「どれくらい稼いだら、テルディアス様は喜んでくれるのかしら…」

シアが溜息を吐いた。

「そうだな~。とりあえず今日稼いだあの袋が100個くらいあったらテルディアスが喜んで飛んで来そうだよな~」
「! そうなんですね?!」
「あ、でも中身がセルじゃ駄目だぜ。リルで一杯にしないと」
「リルで? なるほど、そうなんですね?!」

シアの目が輝いた。
ちなみに、セルはおよそ100円。リルはおよそ10000円である。
10000円の硬貨で一杯の袋が100個…。まず一緒に旅は出来そうにないな。
話を聞きながら、キーナ達は苦笑いしていた。それだけ稼ぐなんて、どれだけ働かせる気なのか…。しかし誰も口を挟まなかった。
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