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青い髪の少女編
返事はまだよ
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「今日は珍しく悲鳴が聞こえなかったけど、キーナ昨日は行かなかったのか?」
朝食の席でサーガが尋ねて来た。
「ううん。ちゃんと行ったよ」
そこ、ちゃんとは必要?
「ちょ、ちょっとサーガ…」
メリンダが止めに入る。なにせテルディアスの事にはうるさいシアも同じ席に着いている。
「どうせいずれバレるんだし、早い方がいんじゃね?」
とサーガ。
テルディアスの事以外興味もないシアは大人しく食事を進めていた。いや、チラチラ周りを見ながら食べている。密かにテルディアスの姿を探しているようだ。
「おい水っ子」
サーガに呼ばれるも、おかしな呼び名だったこともあり反応しないシア。
「テルディアスの事で大事な話が」
「なんですの?」
早い。
テルディアスという名前が出た途端にキラキラした瞳で見つめてくる。
「実はだな、キーナは毎晩テルディアスのベッドに忍んで行ってるんだよ」
「はあ? どういうことですの?」
声が響いた。周りにいた人達もぎょっとしてこちらを見てきた。気にしないシア。
メリンダが周りにすまないと言う風に頭を下げる。皆が集まるところで大き過ぎる声は失礼である。
「まんまの意味だよ。宿に泊まる時、毎晩キーナはテルディアスとベッドを共にしてるのさ」
「な、な、な…、は、破廉恥ですわ!!」
テーブルを叩きながら立ち上がる。
またもや大きな声だったが、サーガが結界でも張ったのか、今度は周りは振り向かなかった。
「だから昨日も行ったんだよな?」
サーガがキーナに問いかける。
「え…、その…、あの…」
シアにギロリと睨み付けられ、素直にうんと言えなくなってしまうキーナ。
「寝ているテルディアスのベッドに忍び込んで、朝まで寝てたんだろ?」
「ど、どうやって…! 結界もありましたでしょうに!」
「え?」
「え? 結界なんてあったのか?」
白々しくサーガが問いかける。
「ありましたわ! 私が行った時には結界があって入れませんでしたのよ!」
忍び込みに行ったと自白しました。
「鍵も掛かってなかったか?」
「掛かってましたわ! ですから鍵を壊して中に入ろうとしたのですわ! なのに結界が…」
「女将さ~ん。自白取れたよ~」
サーガが厨房に向かって声を掛けた。
宿の女将さんがこめかみに怒りマークを貼り付けながらやって来た。
「ありがとうねぇ。これで犯人が見つかったわ」
「いえいえ。こいつは俺達にひっついて来てるだけの無関係者だから、好きにしちゃってくださいな。水の王国の姫だっつーし、請求すればちゃんと払ってくれると思いますよ」
「そうなのかい。修繕費がきちんと取れるなら文句はないわね。さてお嬢さん、ちょっと裏に来て貰おうかしら?」
突然出て来た女将さんに訳が分からずポカンとしていたシア。しかし女将さんの目の奥に怒りの感情を見出し、青ざめる。
食事の途中ではあったが、そのままシアは女将さんに首根っこを引っつかまれて連行されていった。
「これで静かに飯が食えるな~」
「あんた、謀ったわね…」
「俺はドアノブ壊しの犯人捜しに協力しただけよ?」
しれっと食事を続ける。
しかしメリンダもうるさいのがいないのは有り難いと、それ以上気にせず食事を続けたのだった。
ちょっと気まずいキーナも大人しく食事を続け、ダンだけはシアが心配だったのか、終始そわそわとしていたのだった。
食事後、ダンはシアを心配して様子を見に行った。
キーナとメリンダは風文の返事が来たかどうかを確認しに行くサーガに付いていった。どうせ暇だし。
定住している者には風文が来た時などはお知らせしてくれたり配達をしてくれるのだが、旅人などにはお知らせは来ない。お金を払えば報せてくれるサービスもあるが、お金に余裕のない旅人は滅多に利用しない。
風文取り扱い所では配送業も兼任しており、各地から届けられた荷物などは1度ここに集められ、個別に配送される。キーナ達が訪れると、昨日街に届けられた荷物を丁度配送する所なのか少しざわついていた。
サーガが受付に確認しに行く。キーナ達は邪魔にならないように備え付けられていた長椅子に座って待っていた。
(郵便屋さんとクロネコ○マトみたい)
皆が同じ制服を着て慌ただしく動いている。雑然としながらテキパキ動く職員を見ているのは楽しかった。
「いや~、さすがにまだだったみたい」
サーガが戻って来る。昨日の夕方頃に出したのだ。サーガが直接送ったので経由地を辿って行くよりは早く着いたろうが、返事はどうしても経由地を辿って来ることになる。それにまあ、いろいろ偉くなると手続き等が面倒くさい事になるので、返事がまだ書かれていない可能性もある。
「気長に待つっきゃねえだろな」
夕方にもう一度確認しに来ることにして、そこを出た。
「おい」
テルディアスが待っていた。
「あ~ら残念。お返事はまだざんすよ~」
サーガがからかうように言う。
「ち」
余程残念だったのか、珍しく舌打ち。
「テル! 朝ご飯は? ちゃんと食べた?」
キーナがテルディアスを心配して駆け寄る。
「ああ。大丈夫だ」
そう言いながらキーナの頭をナデナデ。こういう時はテルディアスの顔は緩んでいる。
((正直な奴…))
最早見慣れたサーガとメリンダは胡乱な顔をして眺めていた。
その時、
「テルディアス様~~~!!」
シアの声が聞こえてきた。
テルディアスがビクリとなり、慌てて通りの向こうに目をやると、ダンと共に、いやダンを置き去りにして走ってくる青い髪の少女。
あっという間にテルディアスが姿を消した。
残されたキーナが寂しそうな顔をする。
「あん! テルディアス様! 何故お逃げになるの?!」
逃げられたシアが、テルディアスが逃げた方に向かって文句を飛ばした。
後からドタドタとダンが重そうに走ってくる。
「おい、なんでここにいんだよ」
サーガがダンを睨め上げた。宿で叱られているか、弁償代を払うまでただ働きさせられていると思っていた。
ダンが気まずそうに視線を逸らす。
「お前、もしかして肩代わりしてねーだろな?」
ダンの肩がビクリと揺れた。答えているも同然だ。
サーガとメリンダは深い溜息を吐いた。
「甘やかすとつけ上がるつったろ」
テルディアスを追って走りだそうとしたシアが盛大にすっころんでまた顔面衝突している。見れば足元に蔓が巻き付いている。蔓は役目を終えるとすぐに地面の下へと姿を消してしまうので、道行く人はシアが何もない所で転んだようにしか見えない。
「いたぁ…」
シアが身を起こして自分に治癒魔法を掛けていた。何度目だ。
「おい水っ子」
「変な呼び名で呼ばないでくださいまし!」
フンとシアが顔を背ける。
「お前金ねーんだろ。どんだけダンに借りを作る気だ?」
「お金なんて、王国に帰ればいくらでありますわ!」
王族のお金…。それは税金とも言う。
「今はねーんじゃん」
「仕方ありませんでしょ! なくなってしまったのですから!」
可愛くない。
サーガが溜息を吐く。世間知らずにも程がある。
サーガがシアに近づいてしゃがみ込み、その顔を覗き込む。
「お前さん、知らねーようだから教えてやるが…。あのな、金のない女に男は寄ってこねーんだよ」
「え?」
『男』というワードに『テルディアス』が当てはまってのだろう。シアがサーガの目を見つめた。
「当然だろ? 金がなきゃ宿にも泊まれないし食事も出来ない。特にテルディアスはあんな姿だから、街中では宿に泊まれないと困るだろ?」
「…そうですわね…」
シアが考え込んだ。サーガの言うことにも一理ある。
「お前さんが今金をいっぱい持ってたら、テルディアスに安心出来る宿を提供してやる事も出来た。そしたら奴も喜んだと思わん?」
「そうですわね!」
確かにそうだ。今泊まっている宿よりも格上の宿にテルディアスを泊めさせる事が出来たら、
「ありがとう、シア」
などと言って喜んでくれるかもしれない。それに頭をなでてもらって、もしかしたら抱きしめてくれるかもしれない…。
シアの妄想が膨らんでいく。
「それに美味いものもたらふく食わせてやれたし、それにあいつ風呂好きだから、浴場貸し切りにしてゆっくり浸からせることも出来たろ?」
美味しい物を2人きりで食べる。
「美味しいな、シア」
と微笑んでくれるテルディアス。
そして貸し切りのお風呂…。
「一緒に入るか?」
などと言われて、その筋肉美、肉体美を余すことなく披露してくれるかもしれない…。
シアの顔が徐々に徐々に緩んでいく。これ以上無いほどに。
「そ、そんな…。恥ずかしいですわ…」
何やら1人でモジモジし始める。
「だがしかし、現実には金がない」
一気に現実に引き戻されたシア。だらしなく開いていた口も閉じられた。
「そ、そうですわ…。私、お金が…」
ようやっとお金がないという現実を理解したようである。
「王国にあるっつったって、王国は南の端にあるんじゃなかったか? そこまで取りに行く気か? テルディアスも待ってくれないぞ?」
「うぐ…」
送金してもらう、という手もないわけでもないが、それなりに日数もかかる。なのであえて言わない。
「だろ? だったらどうしたら良いと思う?」
「どうしたらいいんですの?!」
「働けばいいんだ」
サーガがぴし、とシアの目の前に人差し指を立てた。
「出来そうな仕事を探して、働いて、そんで報酬をもらう。そしたら金が手に入る。そしたら思う存分テルディアスに貢ぐことが出来る」
「! な、なるほど!」
キーナとメリンダが苦笑いしている。
「金がない女には男は寄ってこないが、金のある女には男が寄ってくるんだ!」
「よく分かりましたわ!」
いや、分かってないと思うけど…。口出す勇気はキーナにもメリンダにもなかった。
「んじゃあ何か出来る仕事がないか探しに行ってみっか!」
「分かりましたわ! いっぱいお金を稼いでテルディアス様に貢ぎますわ!」
貢ぎ宣言…。
サーガが先に立って仕事斡旋所までシアを案内して行く。
「流石というか、なんというか…」
「乗せるのが上手いわね~…」
シアが単純過ぎるせいもあるのかもしれないが、その気にさせるサーガも流石である。
ダンも内心拍手をサーガに送る。自分ではああまで上手くシアを誘導できない。
ルンルン気分のシアに少々呆れながら、3人も後を付いて行くのだった。
朝食の席でサーガが尋ねて来た。
「ううん。ちゃんと行ったよ」
そこ、ちゃんとは必要?
「ちょ、ちょっとサーガ…」
メリンダが止めに入る。なにせテルディアスの事にはうるさいシアも同じ席に着いている。
「どうせいずれバレるんだし、早い方がいんじゃね?」
とサーガ。
テルディアスの事以外興味もないシアは大人しく食事を進めていた。いや、チラチラ周りを見ながら食べている。密かにテルディアスの姿を探しているようだ。
「おい水っ子」
サーガに呼ばれるも、おかしな呼び名だったこともあり反応しないシア。
「テルディアスの事で大事な話が」
「なんですの?」
早い。
テルディアスという名前が出た途端にキラキラした瞳で見つめてくる。
「実はだな、キーナは毎晩テルディアスのベッドに忍んで行ってるんだよ」
「はあ? どういうことですの?」
声が響いた。周りにいた人達もぎょっとしてこちらを見てきた。気にしないシア。
メリンダが周りにすまないと言う風に頭を下げる。皆が集まるところで大き過ぎる声は失礼である。
「まんまの意味だよ。宿に泊まる時、毎晩キーナはテルディアスとベッドを共にしてるのさ」
「な、な、な…、は、破廉恥ですわ!!」
テーブルを叩きながら立ち上がる。
またもや大きな声だったが、サーガが結界でも張ったのか、今度は周りは振り向かなかった。
「だから昨日も行ったんだよな?」
サーガがキーナに問いかける。
「え…、その…、あの…」
シアにギロリと睨み付けられ、素直にうんと言えなくなってしまうキーナ。
「寝ているテルディアスのベッドに忍び込んで、朝まで寝てたんだろ?」
「ど、どうやって…! 結界もありましたでしょうに!」
「え?」
「え? 結界なんてあったのか?」
白々しくサーガが問いかける。
「ありましたわ! 私が行った時には結界があって入れませんでしたのよ!」
忍び込みに行ったと自白しました。
「鍵も掛かってなかったか?」
「掛かってましたわ! ですから鍵を壊して中に入ろうとしたのですわ! なのに結界が…」
「女将さ~ん。自白取れたよ~」
サーガが厨房に向かって声を掛けた。
宿の女将さんがこめかみに怒りマークを貼り付けながらやって来た。
「ありがとうねぇ。これで犯人が見つかったわ」
「いえいえ。こいつは俺達にひっついて来てるだけの無関係者だから、好きにしちゃってくださいな。水の王国の姫だっつーし、請求すればちゃんと払ってくれると思いますよ」
「そうなのかい。修繕費がきちんと取れるなら文句はないわね。さてお嬢さん、ちょっと裏に来て貰おうかしら?」
突然出て来た女将さんに訳が分からずポカンとしていたシア。しかし女将さんの目の奥に怒りの感情を見出し、青ざめる。
食事の途中ではあったが、そのままシアは女将さんに首根っこを引っつかまれて連行されていった。
「これで静かに飯が食えるな~」
「あんた、謀ったわね…」
「俺はドアノブ壊しの犯人捜しに協力しただけよ?」
しれっと食事を続ける。
しかしメリンダもうるさいのがいないのは有り難いと、それ以上気にせず食事を続けたのだった。
ちょっと気まずいキーナも大人しく食事を続け、ダンだけはシアが心配だったのか、終始そわそわとしていたのだった。
食事後、ダンはシアを心配して様子を見に行った。
キーナとメリンダは風文の返事が来たかどうかを確認しに行くサーガに付いていった。どうせ暇だし。
定住している者には風文が来た時などはお知らせしてくれたり配達をしてくれるのだが、旅人などにはお知らせは来ない。お金を払えば報せてくれるサービスもあるが、お金に余裕のない旅人は滅多に利用しない。
風文取り扱い所では配送業も兼任しており、各地から届けられた荷物などは1度ここに集められ、個別に配送される。キーナ達が訪れると、昨日街に届けられた荷物を丁度配送する所なのか少しざわついていた。
サーガが受付に確認しに行く。キーナ達は邪魔にならないように備え付けられていた長椅子に座って待っていた。
(郵便屋さんとクロネコ○マトみたい)
皆が同じ制服を着て慌ただしく動いている。雑然としながらテキパキ動く職員を見ているのは楽しかった。
「いや~、さすがにまだだったみたい」
サーガが戻って来る。昨日の夕方頃に出したのだ。サーガが直接送ったので経由地を辿って行くよりは早く着いたろうが、返事はどうしても経由地を辿って来ることになる。それにまあ、いろいろ偉くなると手続き等が面倒くさい事になるので、返事がまだ書かれていない可能性もある。
「気長に待つっきゃねえだろな」
夕方にもう一度確認しに来ることにして、そこを出た。
「おい」
テルディアスが待っていた。
「あ~ら残念。お返事はまだざんすよ~」
サーガがからかうように言う。
「ち」
余程残念だったのか、珍しく舌打ち。
「テル! 朝ご飯は? ちゃんと食べた?」
キーナがテルディアスを心配して駆け寄る。
「ああ。大丈夫だ」
そう言いながらキーナの頭をナデナデ。こういう時はテルディアスの顔は緩んでいる。
((正直な奴…))
最早見慣れたサーガとメリンダは胡乱な顔をして眺めていた。
その時、
「テルディアス様~~~!!」
シアの声が聞こえてきた。
テルディアスがビクリとなり、慌てて通りの向こうに目をやると、ダンと共に、いやダンを置き去りにして走ってくる青い髪の少女。
あっという間にテルディアスが姿を消した。
残されたキーナが寂しそうな顔をする。
「あん! テルディアス様! 何故お逃げになるの?!」
逃げられたシアが、テルディアスが逃げた方に向かって文句を飛ばした。
後からドタドタとダンが重そうに走ってくる。
「おい、なんでここにいんだよ」
サーガがダンを睨め上げた。宿で叱られているか、弁償代を払うまでただ働きさせられていると思っていた。
ダンが気まずそうに視線を逸らす。
「お前、もしかして肩代わりしてねーだろな?」
ダンの肩がビクリと揺れた。答えているも同然だ。
サーガとメリンダは深い溜息を吐いた。
「甘やかすとつけ上がるつったろ」
テルディアスを追って走りだそうとしたシアが盛大にすっころんでまた顔面衝突している。見れば足元に蔓が巻き付いている。蔓は役目を終えるとすぐに地面の下へと姿を消してしまうので、道行く人はシアが何もない所で転んだようにしか見えない。
「いたぁ…」
シアが身を起こして自分に治癒魔法を掛けていた。何度目だ。
「おい水っ子」
「変な呼び名で呼ばないでくださいまし!」
フンとシアが顔を背ける。
「お前金ねーんだろ。どんだけダンに借りを作る気だ?」
「お金なんて、王国に帰ればいくらでありますわ!」
王族のお金…。それは税金とも言う。
「今はねーんじゃん」
「仕方ありませんでしょ! なくなってしまったのですから!」
可愛くない。
サーガが溜息を吐く。世間知らずにも程がある。
サーガがシアに近づいてしゃがみ込み、その顔を覗き込む。
「お前さん、知らねーようだから教えてやるが…。あのな、金のない女に男は寄ってこねーんだよ」
「え?」
『男』というワードに『テルディアス』が当てはまってのだろう。シアがサーガの目を見つめた。
「当然だろ? 金がなきゃ宿にも泊まれないし食事も出来ない。特にテルディアスはあんな姿だから、街中では宿に泊まれないと困るだろ?」
「…そうですわね…」
シアが考え込んだ。サーガの言うことにも一理ある。
「お前さんが今金をいっぱい持ってたら、テルディアスに安心出来る宿を提供してやる事も出来た。そしたら奴も喜んだと思わん?」
「そうですわね!」
確かにそうだ。今泊まっている宿よりも格上の宿にテルディアスを泊めさせる事が出来たら、
「ありがとう、シア」
などと言って喜んでくれるかもしれない。それに頭をなでてもらって、もしかしたら抱きしめてくれるかもしれない…。
シアの妄想が膨らんでいく。
「それに美味いものもたらふく食わせてやれたし、それにあいつ風呂好きだから、浴場貸し切りにしてゆっくり浸からせることも出来たろ?」
美味しい物を2人きりで食べる。
「美味しいな、シア」
と微笑んでくれるテルディアス。
そして貸し切りのお風呂…。
「一緒に入るか?」
などと言われて、その筋肉美、肉体美を余すことなく披露してくれるかもしれない…。
シアの顔が徐々に徐々に緩んでいく。これ以上無いほどに。
「そ、そんな…。恥ずかしいですわ…」
何やら1人でモジモジし始める。
「だがしかし、現実には金がない」
一気に現実に引き戻されたシア。だらしなく開いていた口も閉じられた。
「そ、そうですわ…。私、お金が…」
ようやっとお金がないという現実を理解したようである。
「王国にあるっつったって、王国は南の端にあるんじゃなかったか? そこまで取りに行く気か? テルディアスも待ってくれないぞ?」
「うぐ…」
送金してもらう、という手もないわけでもないが、それなりに日数もかかる。なのであえて言わない。
「だろ? だったらどうしたら良いと思う?」
「どうしたらいいんですの?!」
「働けばいいんだ」
サーガがぴし、とシアの目の前に人差し指を立てた。
「出来そうな仕事を探して、働いて、そんで報酬をもらう。そしたら金が手に入る。そしたら思う存分テルディアスに貢ぐことが出来る」
「! な、なるほど!」
キーナとメリンダが苦笑いしている。
「金がない女には男は寄ってこないが、金のある女には男が寄ってくるんだ!」
「よく分かりましたわ!」
いや、分かってないと思うけど…。口出す勇気はキーナにもメリンダにもなかった。
「んじゃあ何か出来る仕事がないか探しに行ってみっか!」
「分かりましたわ! いっぱいお金を稼いでテルディアス様に貢ぎますわ!」
貢ぎ宣言…。
サーガが先に立って仕事斡旋所までシアを案内して行く。
「流石というか、なんというか…」
「乗せるのが上手いわね~…」
シアが単純過ぎるせいもあるのかもしれないが、その気にさせるサーガも流石である。
ダンも内心拍手をサーガに送る。自分ではああまで上手くシアを誘導できない。
ルンルン気分のシアに少々呆れながら、3人も後を付いて行くのだった。
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