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青い髪の少女編
誰が夫だ
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「起き上がれませんわ」
「仲間が出来たなぁ…」
ベッドにグルグルに巻き付けられたシアとサーガが呟いた。
ダンが入り口を開けると、柔らかな朝の日差しが差し込んでくる。
「まあ、2人共自業自得だわね」
メリンダが呆れたように溜息を吐く。
今日も穏やかな一日が始まった。わけでもなかった。
ダンに戒めを解かれたシアが、
「おはようございますテルディアス様!」
とテルディアスに飛びつく体勢を取った。しかし、
「ダーディン?!」
「「「へ?」」」
キーナ、メリンダ、サーガがテルディアスを見る。テルディアスも久しぶりの反応に固まっている。ダンは、いつもの通り。
ここには事情を知る者しかいないのでフードは外していた。シアのことはしれっと忘れていたのだった。
「な、何故ダーディンがここにいますの?! テルディアス様は?!」
「あ~、そういえば、化粧してたわね」
メリンダがポンと手を打った。
「あれ? でも水の王国で面ばれしてなかったっけ?」
そんな話を聞いた気がすると、サーガがテルディアスに問いかける。
「した。王達は俺の事を知っているはずだ」
地下に落とされ、水中通路を通って出た時に、顔は見られている。
「ど、どういうことですの?!」
戦闘態勢をとるシア。しかしすぐにダンにグルグル巻きにされたのだった。
地下を閉め、朝食の準備をする一行。テルディアスとサーガは辺りを巡回。
「むー! むー! むー!」
いつもと違うのは、グルグル巻きにされてついでに口も塞がれて転がるシアがいることか。
しばらく暴れていたが、どうやっても戒めは解けない。暴れ疲れたのかいつの間にか静かになっていた。
仕度を整え、皆が集まる。ダンがシアの側に寄り、しゃがみ込む。
「騒がない、約束、する?」
ダンの言葉に、シアが頷いた。
ダンが口元の戒めを解いた。
「どうしてダーディンがいますの?! どうしてあなた達は平気な顔をしてますの?! どうしてもが!」
再び塞がれた。
「さ・わ・が・な・い」
ダンが顔を寄せる。その顔には珍しく怒りの感情が見える。
「あのダンを怒らせるなんて…」
「恐ろしい子…」
キーナとメリンダ、ダンの怒りの気配を感じて驚いていた。無表情で感情が見えにくく、それでいて性格は穏やかで今までに怒っているところなど見たことがない。そのダンを怒らせるなど…。
ダンの眼に宿る感情に気圧されて、シアは先程よりも激しく首を振る。
数秒シアを睨み付けていたダンが顔を離し、口元の戒めを解いた。今度は静かだった。
「ご飯、食べる?」
「…いただきますわ」
ダンがシアを抱き上げた。
「きゃ…」
キーナよりも小さいシアだ。ダンにとっては然程の重荷にもならないだろう。
皆が輪になっている所に運ばれて、ダンの側に座らされる。
「説明」
「ん? ああ。…丸投げかい」
サーガに説明を促し、食事が始まった。シアは念の為縛られたままなので、ダンが食事の介助をしてやる。ダン優しー。
サーガが一通り説明をする。
「そんな魔法なんてんぐんぐんぐ、聞いた事ありませんわんぐんぐんぐ」
口が開くとダンが次を突っ込んでくるのでシアが話す暇もない。もしかして、わざとか?
「俺達もまあ、半信半疑ではあるんだけどなぁ」
サーガがちらりとテルディアスを見る。テルディアスも睨み返してくる。
「でもまあ、こいつの故郷とか行っていろいろ見聞きしたりしたしなぁ。普通に人間やってたことは嘘じゃねーんだなと、まあ納得してやってるわけよ」
故郷と言われて、テルディアスの顔が歪む。いろいろ見られたり聞かれたり(その大本はほぼアスティである)したせいだ。
「故郷? ウクルナ山脈ですの?」
「うんにゃ。南の方にあるファルトウンていう街だ」
ダーディンだからウクルナ山脈。皆が考えそうなことだね。
「え? ダーディンなのに…」
「だから元は人間だっちうに」
サーガの説明、耳に入ってるんだろうか。
「でもどうしてそんな突拍子もない話、皆さんは信じられましたの?」
皆の視線がキーナに集まる。
「まあ、キーナかな」
「キーナちゃんだわね」
ダンも頷いた。
「ふにゃ?」
何故皆がキーナを見つめるのか、本人は分かっていない。シアも訳が分からずキーナを見る。
「これは極秘事項だから、あんま人には言うなよ?」
サーガが真剣な眼でシアを見た。
「実はな、キーナは、光の御子なんだよ。だから信じたんだ」
「はあ? 頭湧いてますの?」
酷い言われよう。
「いや、本当のことなんだが…」
「それは嘘だと言うことは流石に分かりますわ」
シアの食事が終わったので、ダンが食べ始めた。
「私も道々光の御子のお噂は耳にしましたわ。なんでも目が眩むほどの絶世の美女らしいですわよ! そんな芋くさいような方が光の御子だなんて、語るにも程がありますわ!」
シアがない胸を張る。
風と地は気質を探るのに向いているので、キーナのこともある程度察する事が出来た。しかし水はそれほどでもない。なのでキーナのちょっと違う気配に気づけない。
(あ~、それ、俺が流した噂)
偽情報がつつがなく広まっている事に安堵しつつ、また説明が面倒くさいと頭を抱える。
「光の御子云々は置いといても、今まで一緒に旅をしてきて、害はない(どころかヘタレ過ぎる)って分かったしね」
メリンダが助け船を出す。
「本当にテルが人を食べるんだったら、僕なんかもうとっくに食べられちゃってるよ」
キーナも笑った。
「まあそんな感じだな。こんな姿だけど害はねーし。いや、俺にとってはある…?!」
「私情を混ぜるんじゃないの」
メリンダがサーガを睨んだ。
「どれくらい一緒にいますの?」
シアが懐疑的な眼を向けたまま質問する。
「もう、2年近く? になる?」
「…そうだな」
キーナがテルディアスに聞いてみる。テルディアスも考えてみればそれくらいかと頷く。
「あたしとはもう、1年半くらいかな?」
メリンダも頭を捻りながら言った。そんなに長くいるのだなと感慨深く思った。
「俺は1度離れてるけど、なんだかんだで1年以上一緒にいるんだな…」
なんやかんや、この一行にいると退屈しないので、サーガも付いてきている。というかサーガの村を探しているので、メリンダが首根っこ引っつかんでいるというところか。
今は別の意味でもサーガを離そうとしないだろうが…ゴホンゴホン。
「3、4ヶ月?」
ダンも首を傾げた。こんなに長い間村を離れるのも初めてだが、郷愁の念に駆られることなく進んできていた。自分の成長を確認してちょっと嬉しくなるダン。
「そんなに…」
たかだか数日、数週間ならばシアも鼻で笑ったかもしれないが、さすがに年を越えているとなると信憑性も出てくる。
テルディアスに目を向ける。
肌の色、耳、髪の色がなければ、普通にいい男である。というか、シアのドストライクに嵌まっていた。
(か、カッコイイですわ…。彫像にして飾っておきたい程に…)
テルディアスの背筋が何故か寒くなった。
(いろいろ信じられない事ばかりですけれど、確かに闇の力には認識を阻害するような力もあったと聞いた事がありますわ)
一応巫女候補なので知識はある。
(闇の上位の者ならば、もしかしたらそのようなことも出来るかもしれませんわね)
うんうんと頷く。
(それに、例えダーディンであったとしても、人を食さないのであれば、問題ないのではありません事?)
何がだろうか。
(そうですわ。それに、多少障害がある方が、恋は燃え上がると聞いてますわ!)
それは両思いを前提として…。
(そうですわ! テルディアス様の妻として、夫のことは信じなければなりませんわ!)
もうツッコミどころが分からない。
「分かりましたわ! 妻として、夫の言葉を信じますわ!」
「誰が夫だ!!!」
テルディアスのツッコミが響き渡った。
ダンも食べ終わり、騒々しい朝食は終わった。
シアの腰に縄代わりの蔓を巻き付け、行動を制限したダン。テルディアスが安心して歩けるようにという配慮であった。しかししばらく皆と一緒に歩いていたテルディアスは、
「視線が気持ち悪い」
と言って森の中へと姿を隠してしまった。
「あん、テルディアス様…」
まあ原因はこいつなのだが…。
先頭にキーナとテルディアス、次にサーガとメリンダ、最後尾にダンとシアという順に並んで歩いていた。そして最後尾から時折「後ろ姿も素敵ですわ」とか「振り向いていただけないかしら」などと言う呟きが聞こえ、おまけにねっとりとした視線が突き刺さってくる。
別に視線を向けられている訳でも無いサーガとメリンダも、なんとなく気持ち悪い物を感じていた。隣を歩いているだけのキーナもその余波を感じてしまっていたのだから、どれだけねちっこいものだったのか。
テルディアスが我慢出来なくなってしまったのも仕方ないことである。
テルディアスが森の中に姿を隠し、5人で街道を歩いて行く。
「前、危ない」
と後ろから聞こえてくるのは、シアが余所見をしながら歩いているからだろう。視線の方向は見ずとも分かる。
かくいうキーナも、いつも側にいたテルディアスの姿がないことに寂しさを感じ、チラチラと森の方へ視線を飛ばしていた。見えるわけないのは分かっていたけれど。
昼を大分過ぎた頃には街が見えて来た。中途半端な時間なので今日は街へ泊まることになる。
「ん? 面確認してるみたいだな」
遠目に見えて来た街の入り口で、人が並んでいるのが見えた。サーガ情報によるとどうやらそこで顔を改めているらしい。まだ捕まっていないのだろうか。
立ち止まり、サーガがテルディアスと連絡を取り始める。便利だな。
「俺は野宿でも構わん」
というテルディアスの声が聞こえた。風で声を運んでいるらしい。
「まあ別にいいけど。もしかしたら街に2、3日泊まる事になるかもしれねーけど。一応水の王国に風文出して、水っ子のこと報せようと思うんだ。その返事にどれくらいかかるのか分からねぇし。その間外で待てっか?」
サーガがそう言って少しすると、
「大丈夫だ」
という声が聞こえた。
「テルディアス様が野宿されるのでしたら私もいたしますわ!」
とシアが声を上げた。
「外にいると水娘が突撃していく可能性もあるけど、本当に外で良いのか? 水の王国の返事次第では水娘引き取りに来てくれるかもしれんぞ?」
沈黙…。
少しすると、恐る恐るという感じでテルディアスが木陰から姿を現わした。
「テルディアス様~!」
飛びつこうとするシアの腰紐をしっかり掴んで離さないダン。おかげでシアは突入することは叶わなかった。テルディアスは思わず一歩引いていた。
ダンを睨み付けるシア。しかしダンは平然としたもの。あれ、女性恐怖症はどうした?
シアから大分距離をとって、メリンダが再びテルディアスに化粧を施す。
「はい、出来上がり」
「ああ、すまんな」
テルディアスの化粧を終え、メリンダと共に戻って来る。
「お疲れ、テル…」
「テルディアス様! 素敵ですわ!」
とシアがキーナを押しのけ、テルディアスに飛びついた。
「おい! 腰縄はどうした!」
「街に入るのにつけてたらおかしいだろ」
サーガが答える。
確かに、街の検問を抜けるのに、腰に蔓を巻き付けていたら怪しまれる。
「ちっとの間だから我慢しろい」
「ぐ…」
「うふふふふ。テルディアス様ぁ~」
ここぞとばかりにシアがテルディアスの腕に縋り付く。テルディアスが引っぺがそうとしても食らいついてくる。
おかしなコントを繰り広げる2人を横目に、メリンダがキーナの肩を押した。
「さ、行きましょ」
「う、うん…」
キーナは視線を、コントを繰り広げる2人からなかなか離すことができなかった。
「仲間が出来たなぁ…」
ベッドにグルグルに巻き付けられたシアとサーガが呟いた。
ダンが入り口を開けると、柔らかな朝の日差しが差し込んでくる。
「まあ、2人共自業自得だわね」
メリンダが呆れたように溜息を吐く。
今日も穏やかな一日が始まった。わけでもなかった。
ダンに戒めを解かれたシアが、
「おはようございますテルディアス様!」
とテルディアスに飛びつく体勢を取った。しかし、
「ダーディン?!」
「「「へ?」」」
キーナ、メリンダ、サーガがテルディアスを見る。テルディアスも久しぶりの反応に固まっている。ダンは、いつもの通り。
ここには事情を知る者しかいないのでフードは外していた。シアのことはしれっと忘れていたのだった。
「な、何故ダーディンがここにいますの?! テルディアス様は?!」
「あ~、そういえば、化粧してたわね」
メリンダがポンと手を打った。
「あれ? でも水の王国で面ばれしてなかったっけ?」
そんな話を聞いた気がすると、サーガがテルディアスに問いかける。
「した。王達は俺の事を知っているはずだ」
地下に落とされ、水中通路を通って出た時に、顔は見られている。
「ど、どういうことですの?!」
戦闘態勢をとるシア。しかしすぐにダンにグルグル巻きにされたのだった。
地下を閉め、朝食の準備をする一行。テルディアスとサーガは辺りを巡回。
「むー! むー! むー!」
いつもと違うのは、グルグル巻きにされてついでに口も塞がれて転がるシアがいることか。
しばらく暴れていたが、どうやっても戒めは解けない。暴れ疲れたのかいつの間にか静かになっていた。
仕度を整え、皆が集まる。ダンがシアの側に寄り、しゃがみ込む。
「騒がない、約束、する?」
ダンの言葉に、シアが頷いた。
ダンが口元の戒めを解いた。
「どうしてダーディンがいますの?! どうしてあなた達は平気な顔をしてますの?! どうしてもが!」
再び塞がれた。
「さ・わ・が・な・い」
ダンが顔を寄せる。その顔には珍しく怒りの感情が見える。
「あのダンを怒らせるなんて…」
「恐ろしい子…」
キーナとメリンダ、ダンの怒りの気配を感じて驚いていた。無表情で感情が見えにくく、それでいて性格は穏やかで今までに怒っているところなど見たことがない。そのダンを怒らせるなど…。
ダンの眼に宿る感情に気圧されて、シアは先程よりも激しく首を振る。
数秒シアを睨み付けていたダンが顔を離し、口元の戒めを解いた。今度は静かだった。
「ご飯、食べる?」
「…いただきますわ」
ダンがシアを抱き上げた。
「きゃ…」
キーナよりも小さいシアだ。ダンにとっては然程の重荷にもならないだろう。
皆が輪になっている所に運ばれて、ダンの側に座らされる。
「説明」
「ん? ああ。…丸投げかい」
サーガに説明を促し、食事が始まった。シアは念の為縛られたままなので、ダンが食事の介助をしてやる。ダン優しー。
サーガが一通り説明をする。
「そんな魔法なんてんぐんぐんぐ、聞いた事ありませんわんぐんぐんぐ」
口が開くとダンが次を突っ込んでくるのでシアが話す暇もない。もしかして、わざとか?
「俺達もまあ、半信半疑ではあるんだけどなぁ」
サーガがちらりとテルディアスを見る。テルディアスも睨み返してくる。
「でもまあ、こいつの故郷とか行っていろいろ見聞きしたりしたしなぁ。普通に人間やってたことは嘘じゃねーんだなと、まあ納得してやってるわけよ」
故郷と言われて、テルディアスの顔が歪む。いろいろ見られたり聞かれたり(その大本はほぼアスティである)したせいだ。
「故郷? ウクルナ山脈ですの?」
「うんにゃ。南の方にあるファルトウンていう街だ」
ダーディンだからウクルナ山脈。皆が考えそうなことだね。
「え? ダーディンなのに…」
「だから元は人間だっちうに」
サーガの説明、耳に入ってるんだろうか。
「でもどうしてそんな突拍子もない話、皆さんは信じられましたの?」
皆の視線がキーナに集まる。
「まあ、キーナかな」
「キーナちゃんだわね」
ダンも頷いた。
「ふにゃ?」
何故皆がキーナを見つめるのか、本人は分かっていない。シアも訳が分からずキーナを見る。
「これは極秘事項だから、あんま人には言うなよ?」
サーガが真剣な眼でシアを見た。
「実はな、キーナは、光の御子なんだよ。だから信じたんだ」
「はあ? 頭湧いてますの?」
酷い言われよう。
「いや、本当のことなんだが…」
「それは嘘だと言うことは流石に分かりますわ」
シアの食事が終わったので、ダンが食べ始めた。
「私も道々光の御子のお噂は耳にしましたわ。なんでも目が眩むほどの絶世の美女らしいですわよ! そんな芋くさいような方が光の御子だなんて、語るにも程がありますわ!」
シアがない胸を張る。
風と地は気質を探るのに向いているので、キーナのこともある程度察する事が出来た。しかし水はそれほどでもない。なのでキーナのちょっと違う気配に気づけない。
(あ~、それ、俺が流した噂)
偽情報がつつがなく広まっている事に安堵しつつ、また説明が面倒くさいと頭を抱える。
「光の御子云々は置いといても、今まで一緒に旅をしてきて、害はない(どころかヘタレ過ぎる)って分かったしね」
メリンダが助け船を出す。
「本当にテルが人を食べるんだったら、僕なんかもうとっくに食べられちゃってるよ」
キーナも笑った。
「まあそんな感じだな。こんな姿だけど害はねーし。いや、俺にとってはある…?!」
「私情を混ぜるんじゃないの」
メリンダがサーガを睨んだ。
「どれくらい一緒にいますの?」
シアが懐疑的な眼を向けたまま質問する。
「もう、2年近く? になる?」
「…そうだな」
キーナがテルディアスに聞いてみる。テルディアスも考えてみればそれくらいかと頷く。
「あたしとはもう、1年半くらいかな?」
メリンダも頭を捻りながら言った。そんなに長くいるのだなと感慨深く思った。
「俺は1度離れてるけど、なんだかんだで1年以上一緒にいるんだな…」
なんやかんや、この一行にいると退屈しないので、サーガも付いてきている。というかサーガの村を探しているので、メリンダが首根っこ引っつかんでいるというところか。
今は別の意味でもサーガを離そうとしないだろうが…ゴホンゴホン。
「3、4ヶ月?」
ダンも首を傾げた。こんなに長い間村を離れるのも初めてだが、郷愁の念に駆られることなく進んできていた。自分の成長を確認してちょっと嬉しくなるダン。
「そんなに…」
たかだか数日、数週間ならばシアも鼻で笑ったかもしれないが、さすがに年を越えているとなると信憑性も出てくる。
テルディアスに目を向ける。
肌の色、耳、髪の色がなければ、普通にいい男である。というか、シアのドストライクに嵌まっていた。
(か、カッコイイですわ…。彫像にして飾っておきたい程に…)
テルディアスの背筋が何故か寒くなった。
(いろいろ信じられない事ばかりですけれど、確かに闇の力には認識を阻害するような力もあったと聞いた事がありますわ)
一応巫女候補なので知識はある。
(闇の上位の者ならば、もしかしたらそのようなことも出来るかもしれませんわね)
うんうんと頷く。
(それに、例えダーディンであったとしても、人を食さないのであれば、問題ないのではありません事?)
何がだろうか。
(そうですわ。それに、多少障害がある方が、恋は燃え上がると聞いてますわ!)
それは両思いを前提として…。
(そうですわ! テルディアス様の妻として、夫のことは信じなければなりませんわ!)
もうツッコミどころが分からない。
「分かりましたわ! 妻として、夫の言葉を信じますわ!」
「誰が夫だ!!!」
テルディアスのツッコミが響き渡った。
ダンも食べ終わり、騒々しい朝食は終わった。
シアの腰に縄代わりの蔓を巻き付け、行動を制限したダン。テルディアスが安心して歩けるようにという配慮であった。しかししばらく皆と一緒に歩いていたテルディアスは、
「視線が気持ち悪い」
と言って森の中へと姿を隠してしまった。
「あん、テルディアス様…」
まあ原因はこいつなのだが…。
先頭にキーナとテルディアス、次にサーガとメリンダ、最後尾にダンとシアという順に並んで歩いていた。そして最後尾から時折「後ろ姿も素敵ですわ」とか「振り向いていただけないかしら」などと言う呟きが聞こえ、おまけにねっとりとした視線が突き刺さってくる。
別に視線を向けられている訳でも無いサーガとメリンダも、なんとなく気持ち悪い物を感じていた。隣を歩いているだけのキーナもその余波を感じてしまっていたのだから、どれだけねちっこいものだったのか。
テルディアスが我慢出来なくなってしまったのも仕方ないことである。
テルディアスが森の中に姿を隠し、5人で街道を歩いて行く。
「前、危ない」
と後ろから聞こえてくるのは、シアが余所見をしながら歩いているからだろう。視線の方向は見ずとも分かる。
かくいうキーナも、いつも側にいたテルディアスの姿がないことに寂しさを感じ、チラチラと森の方へ視線を飛ばしていた。見えるわけないのは分かっていたけれど。
昼を大分過ぎた頃には街が見えて来た。中途半端な時間なので今日は街へ泊まることになる。
「ん? 面確認してるみたいだな」
遠目に見えて来た街の入り口で、人が並んでいるのが見えた。サーガ情報によるとどうやらそこで顔を改めているらしい。まだ捕まっていないのだろうか。
立ち止まり、サーガがテルディアスと連絡を取り始める。便利だな。
「俺は野宿でも構わん」
というテルディアスの声が聞こえた。風で声を運んでいるらしい。
「まあ別にいいけど。もしかしたら街に2、3日泊まる事になるかもしれねーけど。一応水の王国に風文出して、水っ子のこと報せようと思うんだ。その返事にどれくらいかかるのか分からねぇし。その間外で待てっか?」
サーガがそう言って少しすると、
「大丈夫だ」
という声が聞こえた。
「テルディアス様が野宿されるのでしたら私もいたしますわ!」
とシアが声を上げた。
「外にいると水娘が突撃していく可能性もあるけど、本当に外で良いのか? 水の王国の返事次第では水娘引き取りに来てくれるかもしれんぞ?」
沈黙…。
少しすると、恐る恐るという感じでテルディアスが木陰から姿を現わした。
「テルディアス様~!」
飛びつこうとするシアの腰紐をしっかり掴んで離さないダン。おかげでシアは突入することは叶わなかった。テルディアスは思わず一歩引いていた。
ダンを睨み付けるシア。しかしダンは平然としたもの。あれ、女性恐怖症はどうした?
シアから大分距離をとって、メリンダが再びテルディアスに化粧を施す。
「はい、出来上がり」
「ああ、すまんな」
テルディアスの化粧を終え、メリンダと共に戻って来る。
「お疲れ、テル…」
「テルディアス様! 素敵ですわ!」
とシアがキーナを押しのけ、テルディアスに飛びついた。
「おい! 腰縄はどうした!」
「街に入るのにつけてたらおかしいだろ」
サーガが答える。
確かに、街の検問を抜けるのに、腰に蔓を巻き付けていたら怪しまれる。
「ちっとの間だから我慢しろい」
「ぐ…」
「うふふふふ。テルディアス様ぁ~」
ここぞとばかりにシアがテルディアスの腕に縋り付く。テルディアスが引っぺがそうとしても食らいついてくる。
おかしなコントを繰り広げる2人を横目に、メリンダがキーナの肩を押した。
「さ、行きましょ」
「う、うん…」
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