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沈黙の森編
恋愛系のテンプレ
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森の中を双子石の示す方へと走って行く。
最早周りの様子など見えていない。
すでに他の者達とはぐれたことも気にせず、キーナは走っていた。
そして、いくつかの木立の影を通り過ぎた時、その灰色の人影が見えた。
「テル!!」
急ぎ近づき、その様子を見る。
「キーナか…?」
ぐったりとしながら、テルディアスがキーナを見た。いつもの人を見下すような元気はないようだ。
「良かった…」
とにかく、生きていたことにほっとする。
「待ってて!」
元気にそう言って、早速魔法で治療を…しようとして気付く。そうだ、ここでは魔法が役に立たない。
「どうしよう…」
と周りを見るも、いつの間にかメリンダやサーガ達の姿もなくなっている事に気付く。
いや、遅いだろ。
「メリンダさん? サーガ? ダン?」
周りを見渡すも、その姿はなく、声も音も聞こえない。
その様子を見て、テルディアスはいつもの事をしやがったなと溜息を吐いた。
「どうしよう…」
どうしようもないだろう。
「他の奴等は…?」
まさか森の中、単身突っ込んで来たわけではなかろうな?とテルディアスが問いかける。
「途中まで一緒に来てたんだけど…」
その途中がどこからなのか微妙だったが、キーナの様子からして、森のどこかまでは一緒だったのだろうと推測する。
サーガとメリンダだけだったら少し不安だが、今はダンがいる。
ダンの力ならば、この森でも何かどうにか出来るのではないかと期待するしかない。
出来るのか? 不安が頭をもたげる。
しかし、生い茂る木々の枝は太陽の姿さえ隠し、崖がどちらにあるのかも分からない。
キーナのこの様子では、多分どこから走って来たのかさえも分からないだろう。
大人しく待っているのが一番だと思える。
「このまま…、ここで大人しく…っつ!」
不意に襲い来る痛みに顔を顰める。
「テル?!」
慌てて治療を試みるも、やはり治療の手応えがない。
「だい…じょうぶ…だ」
ちっとも大丈夫そうには見えない。
(早く…、早く治療しないと…)
素人のキーナには、テルディアスの怪我がどれ程のものか見ただけでは見当がつかない。とにかく苦しそうな顔をしているので、その痛みを早く取ってやらねばと焦る。
もしかしたら命に関わるかもしれない。
そんなことを考えてしまったらもういても立ってもいられない。
(とにかく、とにかく森を出ないと…)
森を出れば魔法が使える。魔法が使えれば治療も出来る。
しかし出口が分からない。
(テルが…、テルが死んじゃう…)
最悪な考えしかもう思い浮かばない。
キーナの目の色が変わった。
意識を集中し、森を探る。
「テル、動ける?」
「?」
「森を抜けよう。そうしたら治療出来る」
「しかし…」
出口が分からないだろう?と答えようとして、キーナのその瞳に気付いた。いつもとは違うその瞳の色。髪は伸びていないが、それは御子の力を振るう時の瞳の色だった。
「分かった…」
痛みを堪え、キーナの手を借りて立ち上がる。
背の低いキーナの肩を借りながら、ヨタヨタと歩き始めた。
キーナの足取りに迷いはない。
テルディアスはキーナに進路を任せて、痛む足を引きずりながら進んだ。
どれくらい進んだか。
日が落ち始めているのか、森の中に差してくる太陽の光の量が減ってきていた。
「テル、出たよ!」
キーナの声に前を見れば、広がる草原。森を抜けていた。
ほっと一安心する。
「あ、あんな所に…」
どんな物好きが何の為に建てたのか、山小屋風の建物があった。
丁度良いとばかりにそちらへ向かう。
太陽はすでに山の端に半分程姿を隠していた。
ダンが首を横に振る。
さすがに暗くなって来た森の中を引き摺った跡を探しながら歩くのは難しい。
「ち」
サーガが舌打ちする。
何がいるのか、もしかしたら何もいないかもしれないが、そんな森の中をフラフラ歩き回るのも危険だ。少し開けた所に行き、久しぶりに地下ではない地上での普通の野宿をすることになった。
「大丈夫、よね?」
メリンダが心配そうに、誰ともなしに問いかける。
「まあ、テルディアスとは合流してるだろ」
サーガが投げやりに答える。
どんな状況になっているのかも分からない。
3人は眠れぬ夜を過ごしたのだった。
小屋に入ったキーナとテルディアス。
埃っぽいのは仕方ない。早速床にテルディアスを寝かせ、キーナが治療を試みる。
森を抜けたとは言え、まだ森の影響が残っているのか、いつもよりは魔法も効きずらかったものの、しばらくすると、苦しそうなテルディアスの顔が穏やかになっていった。
ほっと一安心。
安心すると不思議とお腹が空くもので、それを主張するかのように、キーナのお腹も「くう」と小さくなった。
しかし、近頃はダンがいたので、保存食の類いも持ち合わせていなかった。
(こういう時の為に、ダンに保存食を作って貰わないとだめかな?)
後で会えたら進言してみようと思ったキーナであった。
そして今は、何も食べる物などない。
小屋を見渡して見るも、食べ物が置かれている様子はなかった。
目に入った暖炉にとにかく火を灯そうと、薪らしき物が置かれている所へ行き、良さそうな木切れを持って暖炉に並べる。力は多少は戻って来ているので、火を付けるのはそう難しい事ではなかった。
火が付くと、これまた何故か安心感が増す不思議。キーナは何か役に立つ物がないかと見回すも、長い間使われていないのか、がらんとしていた。
と、テルディアスが寒そうに震えているのが目に入る。
暖炉までまだ距離があったので、近づけてあげようと、キーナはとても頑張ってテルディアスを引き摺った。
なにせ、テルディアスは身長187㎝、体重はおよそ80㎏前後。キーナの体重のおよそ1.7倍。計算しないでね。
疲れていたのか、痛みが引いて気が抜けたのか、テルディアスは眠っているようで動かない。起こすのも可哀相なので、キーナはとても頑張ったのであった。頑張ったのだ。
暖炉の側にやっと寝ころばせ、息を吐く。余計に腹が減る。
そして気付いた事があった。森の下草が濡れていたのか、テルディアスの衣服もキーナの衣服も水気を含んでいたのだ。これでは体温が奪われて風邪を引いてしまう。
暖炉が近くなったとは言え、衣服が濡れているのでテルディアスも心なしか寒そうにしている。そして、辺りにはかけてやれそうな布団の一枚もない。
15歳。乙女である。思春期真っ只中である。
普段色々と無頓着なキーナではあったが、現状を正しく理解しているキーナではあったが、さすがにこの場合は色々と躊躇われた。
衣服を脱がさなければならず、自分も脱がなければならないだろう事を。
とりあえず、マントを外した。テルディアスのも。
乾きやすいように、そこにあった樽に掛けた。マントが乾けば、せめてもの掛け布団に出来る。
早く乾くようにと、魔法で風を送ってみる。
「へくしゅ!」
自分でくしゃみをしてしまった。
風はちょっと不味いかもしれないとやめた。風を起こすとなると、空気が動く。となると、関係ない所の空気も動いて、キーナの身体にも風が当たる事になってしまうのだ。これはいけない。
先程より身体が冷えて来ている気がする。うん、これは早く服を乾かした方が良いだろう。
そして、テルディアスも…。
しかし、15歳乙女の心情が、その行動を阻害する。
いくら相手が寝ているとは言え、服を脱ぐのは…。
「ぶし!」
抑えていたくしゃみが飛び出た。これは身体から自分への警告かもしれない。
色々と悩みつつも、
(テルの上半身は見慣れてるしね!)
と自分に言い訳しながら、テルディアスの上を脱がしにかかる。
悪戦苦闘しながらも、なんとか脱がし、適当な所に広げた。
朝までには乾いていてくれればいいが。
「へっぶし!」
早く脱げという身体からの警告なのだろうか。
これ以上は身体が本格的に冷えてしまうかもしれないと、キーナは脱ぐ決意を固める。
その前に、ちらりとテルディアスを見る。上を脱いで炎の熱が直接当たるようになり暖まって来たのか、穏やかに寝息を立てて眠っている。
「よし」
キーナは一気に脱いだ。こうなったら羞恥心など構ってはいられない。
適当に広げて置いて、ついでに下も、ズボンも脱いだ。下着は脱いでない。ズボンも適当に広げておく。
ちらりとテルディアスを見るが、眠っている。
よし。
そして、最後の難関が待っている。
テルディアスのズボンである。
これを脱がすと、つまりはテルディアスも下着一丁の姿になるわけである。
さすがにそれはキーナも恥ずかしさを覚える。
だがしかし、やはり地面に座っていたせいもあるのか、ズボンが一番濡れている。脱がさないわけにはいかない。
ここまで来たら腹をくくるべ、と、すでに下着姿になっているキーナは意を決して、テルディアスのズボンに取りかかった。
やはり悪戦苦闘をしつつも、テルディアスのズボンを剥ぎ取る事に成功。途中下着も一緒に脱げそうになったハプニングはあったが、なんとか見えずには済んだ。
何が?
テルディアスのズボンも広げ、早く乾けと祈る。
喉の渇きとお腹を誤魔化す為に、少し水を飲んで、さてこれからどうしようかと考える。
いや、もう暗いし寝るしかないのではあるが…。
どこに?
暖炉に薪を足して、色々誤魔化しながらどこで寝ようかと見回すも、暖炉の側しかないわけで。
なにせ少し離れただけでも寒い。服を着ていないせいか、余計に寒い。
そして、マントもまだ乾いていない。
となれば…。
キーナは読書家である。というか、まあ本を読むことは好きだ。特に絵が多い物とか…。つまりは漫画だ。いや、ラノベも読むよ。
ではなくて、本を読むのだからこういう展開も少女漫画などで見たことはある。恋愛系のテンプレとでも言うか。
雪山、山小屋に閉じ込められた2人が、お互いの体温で温め合う…。
キーナが勢いよく首を振る。
さすがに抱きついて寝るなどと、恥ずかしすぎて出来ない。
いや、毎夜テルディアスのベッドに潜り込みに行ってるだろうが。
ところが作者のツッコミなどキーナの耳には届かないわけで。
さすがにベッドでは、テルディアスも上は裸であるが下はちゃんと履いているし、キーナもきちんと服を着ている。
そこが羞恥心の分かれ目か。
今はテルディアスはパンツ一丁で転がっており、キーナも下着姿で暖炉の側で暖を取っている。
悩みどころであった。
これから夜が更けていけば、やはり気温は下がってくるだろう。暖炉の火だけで暖を取るのもいろいろ限界がある。人肌で温め合うのが一番の解決法であることは分かっているが、分かってはいるのだが。
さすがに下着姿で触れ合うのは、勇気がいる。
キーナは痴女ではない。ただテルディアスの側で寝るがの好きなだけだ。
キーナは唸る。
一番の解決法は分かっている。しかし、そこには羞恥心という壁がある。
せめてマントだけでも早く乾かないかと触ってみるが、さすがにそんなに早く乾くものでもない。
座って眠れぬものかとも思うが、壁は暖炉と離れすぎていて背もたれにするには遠すぎて寒い。マントを掛けた樽も、中身がないのか軽すぎてもたれかかると動いてしまう。
答えは一択のみとなってしまった。
暖まりながら眠るには…。
(ええい! 女は度胸!)
使う場が違う気もするが、キーナは覚悟を決めて、テルディアスの側に寄る。
テルディアスは気持ち良さそうに、規則正しい寝息を立てている。起きそうな気配はない。
ゴクリと1度生唾を飲み込み、そっとテルディアスの横に寝てみた。
もちろんだが、腕枕を借りている。いつもの癖かもしれない。
(温かい…)
男性の方が女性より少し体温が高いとも聞く。しかしそれだけでもないだろう。
ピタリと寄り添うと、テルディアスの体温がキーナを温めてくれる。その心地よさに、キーナは目を閉じた。
すぐに眠りの精がキーナの意識をまどろみへと誘っていく。
すぐに2人分の気持ちよさそうな寝息が聞こえてくるようになった。
最早周りの様子など見えていない。
すでに他の者達とはぐれたことも気にせず、キーナは走っていた。
そして、いくつかの木立の影を通り過ぎた時、その灰色の人影が見えた。
「テル!!」
急ぎ近づき、その様子を見る。
「キーナか…?」
ぐったりとしながら、テルディアスがキーナを見た。いつもの人を見下すような元気はないようだ。
「良かった…」
とにかく、生きていたことにほっとする。
「待ってて!」
元気にそう言って、早速魔法で治療を…しようとして気付く。そうだ、ここでは魔法が役に立たない。
「どうしよう…」
と周りを見るも、いつの間にかメリンダやサーガ達の姿もなくなっている事に気付く。
いや、遅いだろ。
「メリンダさん? サーガ? ダン?」
周りを見渡すも、その姿はなく、声も音も聞こえない。
その様子を見て、テルディアスはいつもの事をしやがったなと溜息を吐いた。
「どうしよう…」
どうしようもないだろう。
「他の奴等は…?」
まさか森の中、単身突っ込んで来たわけではなかろうな?とテルディアスが問いかける。
「途中まで一緒に来てたんだけど…」
その途中がどこからなのか微妙だったが、キーナの様子からして、森のどこかまでは一緒だったのだろうと推測する。
サーガとメリンダだけだったら少し不安だが、今はダンがいる。
ダンの力ならば、この森でも何かどうにか出来るのではないかと期待するしかない。
出来るのか? 不安が頭をもたげる。
しかし、生い茂る木々の枝は太陽の姿さえ隠し、崖がどちらにあるのかも分からない。
キーナのこの様子では、多分どこから走って来たのかさえも分からないだろう。
大人しく待っているのが一番だと思える。
「このまま…、ここで大人しく…っつ!」
不意に襲い来る痛みに顔を顰める。
「テル?!」
慌てて治療を試みるも、やはり治療の手応えがない。
「だい…じょうぶ…だ」
ちっとも大丈夫そうには見えない。
(早く…、早く治療しないと…)
素人のキーナには、テルディアスの怪我がどれ程のものか見ただけでは見当がつかない。とにかく苦しそうな顔をしているので、その痛みを早く取ってやらねばと焦る。
もしかしたら命に関わるかもしれない。
そんなことを考えてしまったらもういても立ってもいられない。
(とにかく、とにかく森を出ないと…)
森を出れば魔法が使える。魔法が使えれば治療も出来る。
しかし出口が分からない。
(テルが…、テルが死んじゃう…)
最悪な考えしかもう思い浮かばない。
キーナの目の色が変わった。
意識を集中し、森を探る。
「テル、動ける?」
「?」
「森を抜けよう。そうしたら治療出来る」
「しかし…」
出口が分からないだろう?と答えようとして、キーナのその瞳に気付いた。いつもとは違うその瞳の色。髪は伸びていないが、それは御子の力を振るう時の瞳の色だった。
「分かった…」
痛みを堪え、キーナの手を借りて立ち上がる。
背の低いキーナの肩を借りながら、ヨタヨタと歩き始めた。
キーナの足取りに迷いはない。
テルディアスはキーナに進路を任せて、痛む足を引きずりながら進んだ。
どれくらい進んだか。
日が落ち始めているのか、森の中に差してくる太陽の光の量が減ってきていた。
「テル、出たよ!」
キーナの声に前を見れば、広がる草原。森を抜けていた。
ほっと一安心する。
「あ、あんな所に…」
どんな物好きが何の為に建てたのか、山小屋風の建物があった。
丁度良いとばかりにそちらへ向かう。
太陽はすでに山の端に半分程姿を隠していた。
ダンが首を横に振る。
さすがに暗くなって来た森の中を引き摺った跡を探しながら歩くのは難しい。
「ち」
サーガが舌打ちする。
何がいるのか、もしかしたら何もいないかもしれないが、そんな森の中をフラフラ歩き回るのも危険だ。少し開けた所に行き、久しぶりに地下ではない地上での普通の野宿をすることになった。
「大丈夫、よね?」
メリンダが心配そうに、誰ともなしに問いかける。
「まあ、テルディアスとは合流してるだろ」
サーガが投げやりに答える。
どんな状況になっているのかも分からない。
3人は眠れぬ夜を過ごしたのだった。
小屋に入ったキーナとテルディアス。
埃っぽいのは仕方ない。早速床にテルディアスを寝かせ、キーナが治療を試みる。
森を抜けたとは言え、まだ森の影響が残っているのか、いつもよりは魔法も効きずらかったものの、しばらくすると、苦しそうなテルディアスの顔が穏やかになっていった。
ほっと一安心。
安心すると不思議とお腹が空くもので、それを主張するかのように、キーナのお腹も「くう」と小さくなった。
しかし、近頃はダンがいたので、保存食の類いも持ち合わせていなかった。
(こういう時の為に、ダンに保存食を作って貰わないとだめかな?)
後で会えたら進言してみようと思ったキーナであった。
そして今は、何も食べる物などない。
小屋を見渡して見るも、食べ物が置かれている様子はなかった。
目に入った暖炉にとにかく火を灯そうと、薪らしき物が置かれている所へ行き、良さそうな木切れを持って暖炉に並べる。力は多少は戻って来ているので、火を付けるのはそう難しい事ではなかった。
火が付くと、これまた何故か安心感が増す不思議。キーナは何か役に立つ物がないかと見回すも、長い間使われていないのか、がらんとしていた。
と、テルディアスが寒そうに震えているのが目に入る。
暖炉までまだ距離があったので、近づけてあげようと、キーナはとても頑張ってテルディアスを引き摺った。
なにせ、テルディアスは身長187㎝、体重はおよそ80㎏前後。キーナの体重のおよそ1.7倍。計算しないでね。
疲れていたのか、痛みが引いて気が抜けたのか、テルディアスは眠っているようで動かない。起こすのも可哀相なので、キーナはとても頑張ったのであった。頑張ったのだ。
暖炉の側にやっと寝ころばせ、息を吐く。余計に腹が減る。
そして気付いた事があった。森の下草が濡れていたのか、テルディアスの衣服もキーナの衣服も水気を含んでいたのだ。これでは体温が奪われて風邪を引いてしまう。
暖炉が近くなったとは言え、衣服が濡れているのでテルディアスも心なしか寒そうにしている。そして、辺りにはかけてやれそうな布団の一枚もない。
15歳。乙女である。思春期真っ只中である。
普段色々と無頓着なキーナではあったが、現状を正しく理解しているキーナではあったが、さすがにこの場合は色々と躊躇われた。
衣服を脱がさなければならず、自分も脱がなければならないだろう事を。
とりあえず、マントを外した。テルディアスのも。
乾きやすいように、そこにあった樽に掛けた。マントが乾けば、せめてもの掛け布団に出来る。
早く乾くようにと、魔法で風を送ってみる。
「へくしゅ!」
自分でくしゃみをしてしまった。
風はちょっと不味いかもしれないとやめた。風を起こすとなると、空気が動く。となると、関係ない所の空気も動いて、キーナの身体にも風が当たる事になってしまうのだ。これはいけない。
先程より身体が冷えて来ている気がする。うん、これは早く服を乾かした方が良いだろう。
そして、テルディアスも…。
しかし、15歳乙女の心情が、その行動を阻害する。
いくら相手が寝ているとは言え、服を脱ぐのは…。
「ぶし!」
抑えていたくしゃみが飛び出た。これは身体から自分への警告かもしれない。
色々と悩みつつも、
(テルの上半身は見慣れてるしね!)
と自分に言い訳しながら、テルディアスの上を脱がしにかかる。
悪戦苦闘しながらも、なんとか脱がし、適当な所に広げた。
朝までには乾いていてくれればいいが。
「へっぶし!」
早く脱げという身体からの警告なのだろうか。
これ以上は身体が本格的に冷えてしまうかもしれないと、キーナは脱ぐ決意を固める。
その前に、ちらりとテルディアスを見る。上を脱いで炎の熱が直接当たるようになり暖まって来たのか、穏やかに寝息を立てて眠っている。
「よし」
キーナは一気に脱いだ。こうなったら羞恥心など構ってはいられない。
適当に広げて置いて、ついでに下も、ズボンも脱いだ。下着は脱いでない。ズボンも適当に広げておく。
ちらりとテルディアスを見るが、眠っている。
よし。
そして、最後の難関が待っている。
テルディアスのズボンである。
これを脱がすと、つまりはテルディアスも下着一丁の姿になるわけである。
さすがにそれはキーナも恥ずかしさを覚える。
だがしかし、やはり地面に座っていたせいもあるのか、ズボンが一番濡れている。脱がさないわけにはいかない。
ここまで来たら腹をくくるべ、と、すでに下着姿になっているキーナは意を決して、テルディアスのズボンに取りかかった。
やはり悪戦苦闘をしつつも、テルディアスのズボンを剥ぎ取る事に成功。途中下着も一緒に脱げそうになったハプニングはあったが、なんとか見えずには済んだ。
何が?
テルディアスのズボンも広げ、早く乾けと祈る。
喉の渇きとお腹を誤魔化す為に、少し水を飲んで、さてこれからどうしようかと考える。
いや、もう暗いし寝るしかないのではあるが…。
どこに?
暖炉に薪を足して、色々誤魔化しながらどこで寝ようかと見回すも、暖炉の側しかないわけで。
なにせ少し離れただけでも寒い。服を着ていないせいか、余計に寒い。
そして、マントもまだ乾いていない。
となれば…。
キーナは読書家である。というか、まあ本を読むことは好きだ。特に絵が多い物とか…。つまりは漫画だ。いや、ラノベも読むよ。
ではなくて、本を読むのだからこういう展開も少女漫画などで見たことはある。恋愛系のテンプレとでも言うか。
雪山、山小屋に閉じ込められた2人が、お互いの体温で温め合う…。
キーナが勢いよく首を振る。
さすがに抱きついて寝るなどと、恥ずかしすぎて出来ない。
いや、毎夜テルディアスのベッドに潜り込みに行ってるだろうが。
ところが作者のツッコミなどキーナの耳には届かないわけで。
さすがにベッドでは、テルディアスも上は裸であるが下はちゃんと履いているし、キーナもきちんと服を着ている。
そこが羞恥心の分かれ目か。
今はテルディアスはパンツ一丁で転がっており、キーナも下着姿で暖炉の側で暖を取っている。
悩みどころであった。
これから夜が更けていけば、やはり気温は下がってくるだろう。暖炉の火だけで暖を取るのもいろいろ限界がある。人肌で温め合うのが一番の解決法であることは分かっているが、分かってはいるのだが。
さすがに下着姿で触れ合うのは、勇気がいる。
キーナは痴女ではない。ただテルディアスの側で寝るがの好きなだけだ。
キーナは唸る。
一番の解決法は分かっている。しかし、そこには羞恥心という壁がある。
せめてマントだけでも早く乾かないかと触ってみるが、さすがにそんなに早く乾くものでもない。
座って眠れぬものかとも思うが、壁は暖炉と離れすぎていて背もたれにするには遠すぎて寒い。マントを掛けた樽も、中身がないのか軽すぎてもたれかかると動いてしまう。
答えは一択のみとなってしまった。
暖まりながら眠るには…。
(ええい! 女は度胸!)
使う場が違う気もするが、キーナは覚悟を決めて、テルディアスの側に寄る。
テルディアスは気持ち良さそうに、規則正しい寝息を立てている。起きそうな気配はない。
ゴクリと1度生唾を飲み込み、そっとテルディアスの横に寝てみた。
もちろんだが、腕枕を借りている。いつもの癖かもしれない。
(温かい…)
男性の方が女性より少し体温が高いとも聞く。しかしそれだけでもないだろう。
ピタリと寄り添うと、テルディアスの体温がキーナを温めてくれる。その心地よさに、キーナは目を閉じた。
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