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風の女
風の色
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「じゃあ、ここに座って」
物が散乱…いや、実験室のような場所に移動し、タナーが端に置いてあった椅子を指し示した。
「はあ…」
なんとなく訝しくも感じながらも、素直に腰を下ろすテルディアス。
「では、失礼して」
タナーがテルディアスに近づき、手を翳す。
すると、ふわりと風が動いた。
(風…?)
なんとも心地よい風に、テルディアスが目を閉じ、身を任せた。
タナーも目を閉じ、テルディアスを包む魔力を分析する。
異質な闇の力。それがテルディアスの体中を包んでいる。
(これをリムリィが?! あり得ない! 確かに彼女はかなりの実力を持った魔導師だったけど…。こんな複雑な闇の魔法、闇の者ではない彼女に出来るわけがない!)
タナーの記憶の彼女は、正義感の強い、ただ研究熱心な、普通の魔導師だった。
タナーが力を解除し、手を下ろした。
「なるほどね。これは彼も匙を投げるはずだわ」
終わった事に気付いたテルディアスが目を開ける。
「彼…とは…?」
「もち、レオちゃんのことよ。彼に出来ないことを、あたし達がどうこうできるわけがないわ」
それって、あの女好きの魔導師爺がとても凄い人だと言っているように聞こえるのだが…。
確かにそんな話は聞いてはいたが、テルディアスは懐疑的な目でタナーを見つめてしまう。
「あはは~。君、彼のことかなり誤解してるみたいだけど、彼はあたし達四賢者の中でも、最高位の実力を持った人よ」
(アレが?)
テルディアスの記憶の中のあの人は、確かに魔法については凄いと思える人ではあったが、どうにも女性と遊んでばかりのイメージばかりしか思い浮かばない。
そして、女性の言葉に引っかかりを覚える。
あたし達四賢者?
「あなたも賢者のお一人なのですか?」
そうとしか思えない言葉であった。
タナーが内心ギクリとする。
(アホかあたしは~~~~! 自分でバラしてどうすんじゃ―――!!)
焦りながらもどうにか顔にしないように注意しながら、
「や、やだ~、違うわよ~。お師匠様に決まってるじゃな~~~い」
と、姿を現さないという設定のお師匠様にすべて被せる。
「それでね、テルディアス君」
ポス、とテルディアスの両肩に手を置くと、
「今の話聞かなかったことにしてくれる? ここが賢者の住処って知られると面倒だから」
言うこと聞かなきゃどうなるか分かるわよね?
という暗い笑顔のままで、テルディアスに語りかける。
「はあ…」
テルディアスに拒否権はなかった。
まあ特に話す気もないのではあるが。
おほほほほっと笑って誤魔化すタナー。
「さてと、そんじゃ…」
(あたしが見れるモノもないし、終わるか)
と考え、もういいわよ。と言おうとしたタナーであったが、
「服を脱いで」
何故か口からそんな言葉が出て来た。
あれ?
自分でも不思議に思う。
「は? はあ…」
テルディアスも不思議な顔をして返事する。
(あれ? あたし今何つった? なんか、抗えない力に支配されたような…)
自分の意思とは違う何かに意識を突き動かされたような、そんな違和感を覚える。
「あ、いえ、そのね…」
慌てて自分の言葉を撤回しようとテルディアスを振り見る。
「は?」
すでにマントを脱ぎ捨て、上を脱ぎかけ、その鍛えられた腹筋を晒し始めている最中だった。
それを目にし、タナーが言葉を止める。
「なんでもないわ。そのまま脱いで」
「はあ…」
欲望のままにテルディアスの行動を促した。
こら。
テルディアスがシャツを脱ぎ、その鍛えられた体を晒し出す。
タナーは表情を変えずに、じっとそれを見つめていた。
内心は、
(イー体しとるやんけワレ――――!!)
大興奮だった。
こら。
上を脱いで、待ち構えるテルディアスに、タナーが言う。
「下は?」
「え?」
「下も脱がないとちゃんと検査出来ないわよ」
じゅるり、と密かに舌舐めずりしながら、下を指さす。
テルディアスはなんとなくズボンを押さえながら、
「い、いや、さすがに下は…」
と抵抗を示すが、
「脱~ぎ~ま~せ~う」
目をぎらつかせたタナーが迫った。
「ちょ、あの…!」
(迷っちゃった…)
おトイレを借りたメリンダが、道を間違え行く方向が分からなくなって迷っていた。
すると、どこからか何か騒いでいる声が聞こえてきた。
「さあさあさあ!!」
「いや! ちょっと…! やめ…!」
テルディアス?
なにやら抵抗するような声は、聞き間違いでは無ければ、聞き慣れたテルディアスの声。
何かあったのかと部屋に近づく。
「さすがにコレは…!」
「いいからいいから♡」
何かあったのかと、メリンダがそっと部屋を覗くと、テルディアスのズボンに手をかけ、もつれ合う二人。
「あ」
タナーがメリンダに気付いた。
「何、を?」
おかしな状況に問いかけるメリンダ。
「あ、いや~、その、ちょっと、体を、調べようとね…」
それでもテルディアスのズボンから手を放そうとしない。
「呪いの検証じゃなかったんですか?」
「も、もちろん! それもあるわよ!」
メリンダの冷たい視線を受け、慌ててタナーがズボンから手を放し、釈明を始める。
「でも、彼の体はいろいろ興味深いからね。あちこち調べさせてもらおうかと思って…」
シラけた空気が広がった。
あまりにも取って付けたような理由…。
メリンダもテルディアスも、氷河期のような冷たい視線をタナーに突きつける。
その視線の痛みを感じながら、慌てて言葉を続けるタナー。
「だ、だって! あなたも気にならない?! PがPになってるのか? とか!!」
メリンダの目が点になった。
テルディアスは開いた口が塞がらなくなった。
「確かに!」
「でしょ!」
「おい!!」
同意を示すメリンダに突っ込むテルディアス。
助けに来たのではなかったのか?
「PがPしてPするのかとか!!」
「それは気になるわ!」
「よね!」
「コラ!!」
タナーの言葉に首を縦に振るメリンダ。
完全にタナーの陣に取り込まれた。
怪しく光る女性2人の目。
孤立無援となってしまったテルディアス。
となると、取る行動は一つ。
ガッシャーン!
窓を割って外に飛び出した。
「逃げたわ!」
「お待ち!」
メリンダが窓の方へ走り寄り、タナーがその両手を翳す。
すると、テルディアスの周りを風が渦巻き、空中に縛り付けられてしまう。
(身動きが…!)
ただでさえ身動きの取りにくい空中。風で自由を奪われてしまっては為す術もない。
「逃がさないわよ」
にたりと笑う女性達の笑顔に、背筋が凍るテルディアス。
なんとか逃げられないものかとジタバタするも、どうにもならない。
そこへ、
「何だ?! 何だ?!」
廊下をもう1人の青年が走って来た。
「何があった?!」
突然窓の割れる音がしたので、慌てて走って来たサーガであったが、その部屋に到着するなり、硬直した。
窓の外で風により身動きの取れなくなっているテルディアス。
その風を操っていると見えるタナー。
それを扇動しているかのようなメリンダ。
「・・・・・・」
サーガはゆっくりと態勢をなおし、腕を組む。
「で? どーゆー状況?」
「えと…」
「その…」
言い淀む女性達。
そこへ、トテトテともう一つ足音が近づいて来て、
「何? 何? 何かあったの?」
ひょこっとキーナが顔を覗かせた。
「キ…」
「キーナちゃん?!」
キーナの登場に慌てふためく女性陣。
と、慌てた為か、魔法への集中力が切れたらしく、
「え…」
突然自由にされたテルディアスは、そのまま自由落下となった。
「のおあああああああ!!」
ビターーーーン!
痛そうな音がした。
「あ」
「あ」
「・・・・・・」
テルディアスのことだから、多分大丈夫だとは思うのだが…。やはりちょっと可哀相かな?
「姐さん、前にさ、女を襲う男は最低とか言ってたよね」
「ハイ…」
「男を襲う女もどうかと思うぜ?」
「「・・・・・・」」
正座させられた2人は、サーガの言葉に返す言葉もなかった。
さっくしさっくし、草を踏み踏み、キーナが歩く。
「テールー!」
テルディアスを探しながら。
窓から落ちたテルディアス。さすがに大丈夫だったらしく、身の危険を感じていたためか、家に戻らず森の中に姿を隠していた。
「あ、いたー!」
キーナの呼ぶ声に反応し、木の陰から様子を伺っていたテルディアス。
キーナ1人であることを確認して、恐る恐る出てくる。
「はい、服」
「ああ…、スマン…」
上を脱いだままだったので、上半身裸のままだった。
キーナの持って来てくれた服を受け取り、着替え始める。
「タナーさんとメリンダさんから伝言。ゴメンナサイって。もうしないから安心して中に入ってって」
(できない…)
信じられるわけがない。
「何があったの?」
きょとんと疑問を口に出すキーナ。
「・・・。別に」
なんとなく、キーナには説明しにくい。
さっさと服を着終わると、
「キーナ…」
「ん?」
「今日だけ…、一緒の部屋で寝て良いか…?」
なんとなくではあるが、キーナの側にいれば、あの2人も手を出せない気がした。
身の安全を図るため、普段は決して言わない事を口にする。
まずいことは分かってはいるのだが…。
しかし、キーナは嬉しそうに顔を輝かせ、
「毎日でも!!」
ちょっとは危機感を持て。
キーナの言葉に、本気で心配になるテルディアスであった。
あ、いつもか。
地図が欲しいとタナーに問えば、一枚しかないから書き写してくれと言われたサーガ。
1人で頑張ってそれを書き写した。
「うし!」
おかげで一晩やっかいになることになったのだが。
困ったのはテルディアスだけだし、まあよかろう。
「それじゃ、お世話になりました~」
キーナが手を振り、サーガとメリンダも頭を下げる。
テルディアスは背を向けたままだった。その背中が早く立ち去りたいと言っている。
「ええ、道中気をつけて」
タナーが手を振り、4人を見送った。
森の中へと消えていく4人。
4人の姿が見えなくなって、手を下ろす。
(あの子達が行ったら、結界を見直しとこう)
そう決意した風の賢者であった。
本来ならば結界には認めた者しか入れない。無理矢理入って来た者ならば、すぐに気付いてそれなりに準備ができたはず。なのに、あの4人はどうやってか知らないが、結界を抜けて来たのだ。
敵意も感じられなかったので、対応が後手に回ってしまったが。
それと、あの赤い男にも、一応連絡しておこうと思ったのだった。
「いい人だったね~」
「そうね」
無邪気に話すキーナの言葉に、疑問を持つ男達。でも口にするほど野暮ではない。
「サーガと似た匂いがしたね~」
匂い?
キーナの言葉を理解しかねる3人。
「キーナちゃん、それ女性に言っちゃダメよ」
「うに?」
メリンダがキーナに注意を促す。
うん、女性に匂いの話はいろいろまずいです。
サーガもくんくん自分の匂いを嗅いでいる。
男といえども気になるのですね。
そして、ニブチンキーナ、自分の言葉の意味をやっと理解し、
「ああ! えと、匂いっていうか、雰囲気が似てるっていうか…。纏う風の色が、少し似てたな~と」
風の色?
ますますキーナの言ってることが分からなくなる3人。
(色?)
(風の色?)
(何色?)
キーナの目には何が映っていたのだろう…。
「なんというか、もやっというか、さわっというか、そんな色?」
(どんな色だ!!)
「ゴメンナサイ、キーナちゃん…。さすがにちょっと分からないわ…」
男達は内心で突っ込み、メリンダは降参の旗を掲げた。
キーナの感性についていける者は、この中にはいなかった。
「てなことがあったのよ~」
「ほ~う」
通信の魔法で赤い男を呼び出し、4人が来たことを楽しそうに告げる。
「それで不思議なことに、結界は正常に働いてたし、綻びもなかったのよ」
あの後、4人がいなくなってから、結界の様子を調べに行ったが、特に異常は見当たらなかったのである。
「どうやって入って来たのかしら?」
と首を傾げる。
「ほう。う~ん、それは、もしかしたら、御子の特性かもしれないな」
皿の上に灯る不思議な炎が、首を傾げるような仕草を取る。
「へ~。なるほどね」
御子に関してはまだまだ分からない事が多い。もしかしたら、そういう力を持っていても不思議ではない。
「ああ、でも…。キーナちゃん可愛かったわ~。テルディアス君も…。垂涎ものでした…」
何を思いだしたのか、じゅるり、とツバを飲み込む女性。
頬が仄かに赤くなっている。
「・・・。襲ってないよな?」
その言葉に、しばし固まる女性。
「も、モチロンよ~」
振り向いた顔は、目が思い切り泳いでいたが…。
(やったのか…)
不思議な炎が、がっくりと項垂れたようになった。
物が散乱…いや、実験室のような場所に移動し、タナーが端に置いてあった椅子を指し示した。
「はあ…」
なんとなく訝しくも感じながらも、素直に腰を下ろすテルディアス。
「では、失礼して」
タナーがテルディアスに近づき、手を翳す。
すると、ふわりと風が動いた。
(風…?)
なんとも心地よい風に、テルディアスが目を閉じ、身を任せた。
タナーも目を閉じ、テルディアスを包む魔力を分析する。
異質な闇の力。それがテルディアスの体中を包んでいる。
(これをリムリィが?! あり得ない! 確かに彼女はかなりの実力を持った魔導師だったけど…。こんな複雑な闇の魔法、闇の者ではない彼女に出来るわけがない!)
タナーの記憶の彼女は、正義感の強い、ただ研究熱心な、普通の魔導師だった。
タナーが力を解除し、手を下ろした。
「なるほどね。これは彼も匙を投げるはずだわ」
終わった事に気付いたテルディアスが目を開ける。
「彼…とは…?」
「もち、レオちゃんのことよ。彼に出来ないことを、あたし達がどうこうできるわけがないわ」
それって、あの女好きの魔導師爺がとても凄い人だと言っているように聞こえるのだが…。
確かにそんな話は聞いてはいたが、テルディアスは懐疑的な目でタナーを見つめてしまう。
「あはは~。君、彼のことかなり誤解してるみたいだけど、彼はあたし達四賢者の中でも、最高位の実力を持った人よ」
(アレが?)
テルディアスの記憶の中のあの人は、確かに魔法については凄いと思える人ではあったが、どうにも女性と遊んでばかりのイメージばかりしか思い浮かばない。
そして、女性の言葉に引っかかりを覚える。
あたし達四賢者?
「あなたも賢者のお一人なのですか?」
そうとしか思えない言葉であった。
タナーが内心ギクリとする。
(アホかあたしは~~~~! 自分でバラしてどうすんじゃ―――!!)
焦りながらもどうにか顔にしないように注意しながら、
「や、やだ~、違うわよ~。お師匠様に決まってるじゃな~~~い」
と、姿を現さないという設定のお師匠様にすべて被せる。
「それでね、テルディアス君」
ポス、とテルディアスの両肩に手を置くと、
「今の話聞かなかったことにしてくれる? ここが賢者の住処って知られると面倒だから」
言うこと聞かなきゃどうなるか分かるわよね?
という暗い笑顔のままで、テルディアスに語りかける。
「はあ…」
テルディアスに拒否権はなかった。
まあ特に話す気もないのではあるが。
おほほほほっと笑って誤魔化すタナー。
「さてと、そんじゃ…」
(あたしが見れるモノもないし、終わるか)
と考え、もういいわよ。と言おうとしたタナーであったが、
「服を脱いで」
何故か口からそんな言葉が出て来た。
あれ?
自分でも不思議に思う。
「は? はあ…」
テルディアスも不思議な顔をして返事する。
(あれ? あたし今何つった? なんか、抗えない力に支配されたような…)
自分の意思とは違う何かに意識を突き動かされたような、そんな違和感を覚える。
「あ、いえ、そのね…」
慌てて自分の言葉を撤回しようとテルディアスを振り見る。
「は?」
すでにマントを脱ぎ捨て、上を脱ぎかけ、その鍛えられた腹筋を晒し始めている最中だった。
それを目にし、タナーが言葉を止める。
「なんでもないわ。そのまま脱いで」
「はあ…」
欲望のままにテルディアスの行動を促した。
こら。
テルディアスがシャツを脱ぎ、その鍛えられた体を晒し出す。
タナーは表情を変えずに、じっとそれを見つめていた。
内心は、
(イー体しとるやんけワレ――――!!)
大興奮だった。
こら。
上を脱いで、待ち構えるテルディアスに、タナーが言う。
「下は?」
「え?」
「下も脱がないとちゃんと検査出来ないわよ」
じゅるり、と密かに舌舐めずりしながら、下を指さす。
テルディアスはなんとなくズボンを押さえながら、
「い、いや、さすがに下は…」
と抵抗を示すが、
「脱~ぎ~ま~せ~う」
目をぎらつかせたタナーが迫った。
「ちょ、あの…!」
(迷っちゃった…)
おトイレを借りたメリンダが、道を間違え行く方向が分からなくなって迷っていた。
すると、どこからか何か騒いでいる声が聞こえてきた。
「さあさあさあ!!」
「いや! ちょっと…! やめ…!」
テルディアス?
なにやら抵抗するような声は、聞き間違いでは無ければ、聞き慣れたテルディアスの声。
何かあったのかと部屋に近づく。
「さすがにコレは…!」
「いいからいいから♡」
何かあったのかと、メリンダがそっと部屋を覗くと、テルディアスのズボンに手をかけ、もつれ合う二人。
「あ」
タナーがメリンダに気付いた。
「何、を?」
おかしな状況に問いかけるメリンダ。
「あ、いや~、その、ちょっと、体を、調べようとね…」
それでもテルディアスのズボンから手を放そうとしない。
「呪いの検証じゃなかったんですか?」
「も、もちろん! それもあるわよ!」
メリンダの冷たい視線を受け、慌ててタナーがズボンから手を放し、釈明を始める。
「でも、彼の体はいろいろ興味深いからね。あちこち調べさせてもらおうかと思って…」
シラけた空気が広がった。
あまりにも取って付けたような理由…。
メリンダもテルディアスも、氷河期のような冷たい視線をタナーに突きつける。
その視線の痛みを感じながら、慌てて言葉を続けるタナー。
「だ、だって! あなたも気にならない?! PがPになってるのか? とか!!」
メリンダの目が点になった。
テルディアスは開いた口が塞がらなくなった。
「確かに!」
「でしょ!」
「おい!!」
同意を示すメリンダに突っ込むテルディアス。
助けに来たのではなかったのか?
「PがPしてPするのかとか!!」
「それは気になるわ!」
「よね!」
「コラ!!」
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完全にタナーの陣に取り込まれた。
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すると、テルディアスの周りを風が渦巻き、空中に縛り付けられてしまう。
(身動きが…!)
ただでさえ身動きの取りにくい空中。風で自由を奪われてしまっては為す術もない。
「逃がさないわよ」
にたりと笑う女性達の笑顔に、背筋が凍るテルディアス。
なんとか逃げられないものかとジタバタするも、どうにもならない。
そこへ、
「何だ?! 何だ?!」
廊下をもう1人の青年が走って来た。
「何があった?!」
突然窓の割れる音がしたので、慌てて走って来たサーガであったが、その部屋に到着するなり、硬直した。
窓の外で風により身動きの取れなくなっているテルディアス。
その風を操っていると見えるタナー。
それを扇動しているかのようなメリンダ。
「・・・・・・」
サーガはゆっくりと態勢をなおし、腕を組む。
「で? どーゆー状況?」
「えと…」
「その…」
言い淀む女性達。
そこへ、トテトテともう一つ足音が近づいて来て、
「何? 何? 何かあったの?」
ひょこっとキーナが顔を覗かせた。
「キ…」
「キーナちゃん?!」
キーナの登場に慌てふためく女性陣。
と、慌てた為か、魔法への集中力が切れたらしく、
「え…」
突然自由にされたテルディアスは、そのまま自由落下となった。
「のおあああああああ!!」
ビターーーーン!
痛そうな音がした。
「あ」
「あ」
「・・・・・・」
テルディアスのことだから、多分大丈夫だとは思うのだが…。やはりちょっと可哀相かな?
「姐さん、前にさ、女を襲う男は最低とか言ってたよね」
「ハイ…」
「男を襲う女もどうかと思うぜ?」
「「・・・・・・」」
正座させられた2人は、サーガの言葉に返す言葉もなかった。
さっくしさっくし、草を踏み踏み、キーナが歩く。
「テールー!」
テルディアスを探しながら。
窓から落ちたテルディアス。さすがに大丈夫だったらしく、身の危険を感じていたためか、家に戻らず森の中に姿を隠していた。
「あ、いたー!」
キーナの呼ぶ声に反応し、木の陰から様子を伺っていたテルディアス。
キーナ1人であることを確認して、恐る恐る出てくる。
「はい、服」
「ああ…、スマン…」
上を脱いだままだったので、上半身裸のままだった。
キーナの持って来てくれた服を受け取り、着替え始める。
「タナーさんとメリンダさんから伝言。ゴメンナサイって。もうしないから安心して中に入ってって」
(できない…)
信じられるわけがない。
「何があったの?」
きょとんと疑問を口に出すキーナ。
「・・・。別に」
なんとなく、キーナには説明しにくい。
さっさと服を着終わると、
「キーナ…」
「ん?」
「今日だけ…、一緒の部屋で寝て良いか…?」
なんとなくではあるが、キーナの側にいれば、あの2人も手を出せない気がした。
身の安全を図るため、普段は決して言わない事を口にする。
まずいことは分かってはいるのだが…。
しかし、キーナは嬉しそうに顔を輝かせ、
「毎日でも!!」
ちょっとは危機感を持て。
キーナの言葉に、本気で心配になるテルディアスであった。
あ、いつもか。
地図が欲しいとタナーに問えば、一枚しかないから書き写してくれと言われたサーガ。
1人で頑張ってそれを書き写した。
「うし!」
おかげで一晩やっかいになることになったのだが。
困ったのはテルディアスだけだし、まあよかろう。
「それじゃ、お世話になりました~」
キーナが手を振り、サーガとメリンダも頭を下げる。
テルディアスは背を向けたままだった。その背中が早く立ち去りたいと言っている。
「ええ、道中気をつけて」
タナーが手を振り、4人を見送った。
森の中へと消えていく4人。
4人の姿が見えなくなって、手を下ろす。
(あの子達が行ったら、結界を見直しとこう)
そう決意した風の賢者であった。
本来ならば結界には認めた者しか入れない。無理矢理入って来た者ならば、すぐに気付いてそれなりに準備ができたはず。なのに、あの4人はどうやってか知らないが、結界を抜けて来たのだ。
敵意も感じられなかったので、対応が後手に回ってしまったが。
それと、あの赤い男にも、一応連絡しておこうと思ったのだった。
「いい人だったね~」
「そうね」
無邪気に話すキーナの言葉に、疑問を持つ男達。でも口にするほど野暮ではない。
「サーガと似た匂いがしたね~」
匂い?
キーナの言葉を理解しかねる3人。
「キーナちゃん、それ女性に言っちゃダメよ」
「うに?」
メリンダがキーナに注意を促す。
うん、女性に匂いの話はいろいろまずいです。
サーガもくんくん自分の匂いを嗅いでいる。
男といえども気になるのですね。
そして、ニブチンキーナ、自分の言葉の意味をやっと理解し、
「ああ! えと、匂いっていうか、雰囲気が似てるっていうか…。纏う風の色が、少し似てたな~と」
風の色?
ますますキーナの言ってることが分からなくなる3人。
(色?)
(風の色?)
(何色?)
キーナの目には何が映っていたのだろう…。
「なんというか、もやっというか、さわっというか、そんな色?」
(どんな色だ!!)
「ゴメンナサイ、キーナちゃん…。さすがにちょっと分からないわ…」
男達は内心で突っ込み、メリンダは降参の旗を掲げた。
キーナの感性についていける者は、この中にはいなかった。
「てなことがあったのよ~」
「ほ~う」
通信の魔法で赤い男を呼び出し、4人が来たことを楽しそうに告げる。
「それで不思議なことに、結界は正常に働いてたし、綻びもなかったのよ」
あの後、4人がいなくなってから、結界の様子を調べに行ったが、特に異常は見当たらなかったのである。
「どうやって入って来たのかしら?」
と首を傾げる。
「ほう。う~ん、それは、もしかしたら、御子の特性かもしれないな」
皿の上に灯る不思議な炎が、首を傾げるような仕草を取る。
「へ~。なるほどね」
御子に関してはまだまだ分からない事が多い。もしかしたら、そういう力を持っていても不思議ではない。
「ああ、でも…。キーナちゃん可愛かったわ~。テルディアス君も…。垂涎ものでした…」
何を思いだしたのか、じゅるり、とツバを飲み込む女性。
頬が仄かに赤くなっている。
「・・・。襲ってないよな?」
その言葉に、しばし固まる女性。
「も、モチロンよ~」
振り向いた顔は、目が思い切り泳いでいたが…。
(やったのか…)
不思議な炎が、がっくりと項垂れたようになった。
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いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
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※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
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最強主人公はイケメンでハーレム。
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そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
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