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地底宮の冒険
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キーナが必死に走る。
「サーガ!」
崩れた壁の穴を覗き込む。
ぐったりとサーガが横たわっている。
「サーガ!」
体に乗っている瓦礫をどかすと、サーガの腕がゆっくりと動き、力の籠もらないピースサインを示した。
「い…生きてるよ…。ナントカ…」
弱々しくキーナに笑いかけた。
ほっと息を吐いたキーナ、すぐさま治療を開始した。
その後ろではテルディアスがまだ動いていた。
最後の一体の体を上る。
(これで…、最後だ!)
炎を纏った剣を、土人形の胸の印に突き立てる。
ガラガラガラガラ…
あっという間に土人形は、ただの土塊へと還っていった。
(さすがテル)
治療をしながらそれを見たキーナ。
テルディアスの華麗な身のこなしに称賛。
「・・・・・・」
サーガが何やら呟いた。
「ん? 何か言った?」
「地は苦手だって」
サーガが頭を抱えている。
全身を治しているのに、頭がまだ痛いのかしら?と首を捻りながらも、キーナは治療を続ける。
オイシイトコロゼンブモッテキヤガッタ・・・
結局サーガは一体も倒せてないものね。
テルディアスがキーナに近づいていく。
「キーナ、大丈夫か?」
まずはキーナの心配から。
定石ですね。
「うん! 平気!」
こちらも通常運転。
「サーガもこの通り、大丈夫だよ!」
治療を終えたサーガが、むくりと体を起こした。
あちこち血で汚れてはいるけれども。
「フン、魔法に集中しすぎて周りの注意が散漫になったマヌケか」
これみよがしに盛大な溜息を吐く。
イラッとするサーガであったが、その通りなので何も言えない。
「ん?」
祭壇の方に目を向けたテルディアス、それを見つけた。
「あれは…」
と言って指で指し示すと、
「そうそう、メリンダさんも!」
そう言ってキーナバタバタと駆け出した。
テルディアスが指し示している物は祭壇の上に出ている物であって、メリンダではないのだけれど…。
天然無視されたテルディアス、指し示した指をどうしようか悩んだ。
「メリンダさん、大丈夫?」
「力を使い過ぎただけだから、休んでれば大丈夫よ」
祭壇の裏でキーナがメリンダを支えながら、メリンダの体を起こした。
まあ、いわゆる魔力切れという状態ですな。
時間が経てばまた魔力も戻るので、心配は無いだろう。
テルディアスとサーガが祭壇に近づき、先程までパズルのあった場所に出て来たその丸くて黒い石を眺める。
「これ本当に宝玉?」
「出て来た以上そうなのだろう」
サーガが首を傾げる。
テルディアスはそれ以外考えられんと、石に向かって手を伸ばす。
(え? 宝玉?)
テルディアスとサーガの話が聞こえて来て、キーナが顔を上げ、祭壇の上を見た。
そういえば、さっきまでなかった黒い石がそこに出て来ていた。
「これで終わりだ」
テルディアスがその石に手を掛けた。
「! 待って! テル!」
「え?」
テルディアスがその石を手に持っていた。
「あ」
遅かった。
ズズン!!
今までと比べものにならないほどの大きな揺れが襲った。
「なんだ?!」
「やっぱし~~…」
キーナ半べそ。
「どうゆう事だ?! 何か知ってるのか?!」
揺れはだんだんと大きくなっていく。
「よくある手だよ。最後のお宝が最後の罠なんだ」
「最後の罠?」
「うん、だから…。たぶん、ここが崩れ落ちる」
キーナの言葉に三人が固まる。
崩れる?
ここが?
地下だぞ?
つまるところ、ぺっしゃんこ…。
テルディアスそっと石を戻すが、
「戻しても無理」
キーナから突っ込まれた。
ゴガン!
天井の一部が落ちてきて、派手に割れる。
「逃げるぞ!」
テルディアスが踵を返す。
「あ、待って…。メリンダさんがまだ…」
動けなかった。
かといって暢気に動けるまで待っているわけにはいかない。
「俺が担ぐから、行け!」
サーガが駆け寄ってきて、メリンダを抱き上げる。
「う、うん」
こう見えてもサーガ何気に力持ち。
メリンダを抱えて走るのもわけない。
実際さっきやってたし。
テルディアスが先行し、部屋の扉を開けようと力を込める。
(そういえば…)
ふと思い出したけれども。
テルディアスが扉を数㎝開けると、そこには土人形が。
「やっぱし、いた…」
この部屋に入る前に追いかけられてたんだよね。
と、土人形が手を伸ばしてきて、
ベチコン!
思い切り扉に当たる。
(あ、入れないのか…)
どうやら扉を開けるような細かい動きは出来ないらしい。
しきりに扉をベチコンベチコン叩いている。
テルディアスがその合間を見計らい、扉の隙間から外に出た。
・・・・・ドン!
ガラガラガラガラ…
テルディアスが扉の隙間から顔を覗かせた。
「行くぞ」
(早…)
対処法が分かれば、テルディアスは仕事が早かった。
長い廊下をひた走る。
揺れと轟音が増していく。
「出口分かってるのか?!」
「うん! さっき見つけた!」
サーガの問いにキーナが答える。
(やっぱりキーナちゃんだったか…)
メリンダはサーガの腕の中で大人しくしていた。
先頭をテルディアスが走っていく。
何度目かの曲がり角を曲がった時、急にテルディアスが足を止めた。
キーナ達も曲がり角を曲がると、
「うわ!」
「なんだこりゃ?!」
通路の床が消えていた。
そこはちょうどキーナが落ちてきた辺り。
テルディアスが発動させた罠が床を脆くさせていたのか、7、8メートルくらいに渡って床が失くなっていた。
とてもじゃないが、助走で飛び越えられるような距離ではない。
その中心辺りで、ブラブラと天井からぶら下がりながら揺れているものがある。
キーナが切った、あの木の根のようなもの。
テルディアスがキーナを抱え上げる。
「行くぞ、キーナ」
「はい?」
有無を言わさず、テルディアス走り始めた。
「再びー?!」
なにやらいきなり説明もなしに担ぎ上げられたキーナが叫んだ。
訳も分からず、とりあえず必死にテルディアスにしがみつくキーナ。
そしてテルディアス、穴のギリギリで跳んだ。
揺れる木の根に手を伸ばし、反動を利用して向こう側へ。
綺麗に着地した。
「うわ~…」
それを見ていたメリンダが、声を漏らした。
自分もこれからあれをしなければならないのだ。
「姐さん、俺にしっかり掴まってろよ!」
「う、うん」
メリンダ、力の入らない腕に、精一杯の力を込めてサーガに抱きつく。
「胸の弾力が気持ちいい♡」
「こんな時にアホ言ってる場合か!!」
ま、サーガですから。
珍しくサーガが真剣な表情になり、強く息を吐くと、床を蹴った。
十分に助走をつけ、ギリギリで跳ぶ。
メリンダの足を抱えていた腕を放し、手を伸ばす。
ギリギリで木の根に手が届いた。
振り子の原理を利用して反対側へ。
すぽ
すっぽ抜けた。
「え?」
サーガとメリンダの体が、勢いを失って穴へと落ちていく。
(やべえ! 姐さんだけでも…!)
必死にメリンダだけでもと、その体を放り投げようと考えるが、
シュ
サーガの目の前に、それは投げられた。
それはツタか。
先がご丁寧に結ばれて、滑らない仕様になっている。
必死に手を伸し、それを掴むサーガ。
「ぐ…」
そのツタの先で、体にそのツタを巻き付け、踏ん張るテルディアスの姿があった。
キーナもそのツタに飛びつき、引っ張る。
「ふぎい!」
サーガとメリンダの落下が止まる。
ブラブラと宙で揺れる二人。
キーナが上から顔を覗かせる。
「サーガー! 大丈夫―?!」
「お~う」
「すぐ引き上げるからー!」
「頼むわ~」
その言葉通り、ゆっくりと体が上に上って行く。
「何? 何? 今目を開けても平気?」
怖くて今まで目を瞑っていたメリンダ。
「今目を開けるとすんごいもの見ちゃうから止めた方がいいよ♪」
「反対に気になるわ!」
でも怖くて目を開けられないメリンダだった。
まあ、辺り一面、暗いだけなんだけどね。
引っ張り上げられたメリンダと再会を喜ぶキーナ。
サーガもほっと一息。
まだ全てが終わったわけではないけど、今くらい無事を喜んでも良いだろう。
ところがテルディアス、そこに水を差す。
「ふん。もう少し考えて跳ばんか。マヌケが」
イラッとするサーガ。
「っせーな! 思ったより重かったんだよ!」
グサ
『重かった』メリンダの心にトゲが刺さった。
「見るからに重いことくらい分かるだろう」
グサグサ
『見るからに重い』メリンダの心に特大のトゲが刺さった。
もとより、女性の平均身長よりも高いメリンダ。
おまけに胸もかなり肉付きが良い。
となると、小柄な女性よりはどうしても体重が多くなりがちになるわけで。
昔とあるお客さんの上で頑張っていたら、「重い」と言われてかなり傷ついていたりもして…。
女性に対して、やはり何処の世界でも体重に関しては禁句のようです。
男二人は、メリンダの鉄拳による制裁を受けることになったという…。
メリンダの体力も幾分か回復したということで、4人で出口に向かって走っている。
壁が、天井が崩れ、揺れにより走りにくい。
気のせいか、天井が変形して来ている気もする。
出口はもうすぐそこだ。
鍵はかけなかったのだから、そのまま横に引けば扉は開くはず。
なのだが。
「ふんぎいいいいい!!」
キーナがいくら引っ張っても、扉は一ミリたりとも動こうとはしない。
「あ…、開かない」
なんでじゃー!と焦る。
「代われ」
テルディアスに選手交代。
扉に手を掛け、壁に足を掛け、渾身の力を込めて、テルディアスが扉を引っ張る。
「……っあ!!」
なんとか通れるくらいの隙間が開いた。
「通れるか?」
「うん!」
キーナは体を少し斜めにしながら通り抜けた。
テルディアスは体を横にしてなんとか通り抜けた。
「大丈夫か? 姐さん」
「ええ、なんとか」
体力のことを聞かれたのかと、返事を返すが、
「いや、もし詰まったら、俺が手助けするから」
と手を胸の辺りでワキワキワキ。
「いらんわ!」
ふんとにしょーもない奴である。
だがしかし、メリンダ少し胸を押しながら通り抜けたという。
整備されていない洞窟のような通路を、4人が走っていく。
いよいよ揺れが大きくなり、轟音も追いかけるように大きくなっていく。
その時、テルディアスとサーガが気付いた。
「キーナ!」
「わ」
「姐さん!」
「キャ」
ドガガガガガガ!!!
天井が崩れた。
通路の端で、テルディアスがキーナを抱えて蹲っている。
音が止み、天井の崩落もどうやら収まったらしい。
「大丈夫か? キーナ」
腕の中のキーナの無事を確かめるテルディアス。
「うん…。大丈夫…」
テルディアスのおかげでかすり傷一つ負っていない。
「テルは? 怪我ない?」
キーナもテルディアスの体を心配する。
「俺は大丈夫だ」
どうやら崩落に巻き込まれる事態は避けられたらしい。
ほっと一息、身を乗り出す。
「サーガとメリンダさんは…」
テルディアスの後ろには、崩れ落ちた岩の山。
完全に通路が埋まってしまっている。
「サーガ?! メリンダさん?!」
サーガ達はテルディアスよりもキーナよりも後ろを走っていた。
しかしそこには岩の山。
「サーガ!!」
「生きてるよ」
キーナの声が聞こえたのか、サーガの声が聞こえてきた。
「サーガ…」
「姐さんも無事だ」
キーナが良かったと息を吐いたが、
「俺達を置いて先に行け」
サーガの言葉に凍り付いた。
「え…」
「またいつ崩れるとも分からねぇ」
2人を置いてなど行けるわけがない。
そうキ-ナが口を開きかけた時、
「テルディアス、キーナを連れてけ」
キーナの言葉を予想したのか、サーガが言い放った。
「無論だ」
テルディアスがキーナを抱え、出口に向かって走り出した。
「ヤダ! 待って! 止まって! テル!」
テルディアスは止まらない。
全速力でその場を離れていく。
「2人を…2人を…助けなきゃ!」
魔法さえ使えれば、2人の救助など容易いはずだ。
だがしかし、まだこの場は虹石の影響を受けているのか、魔力は乏しい。
分かっていた。
まともに魔法が使えないことは分かってはいた。
「お願い! 止まってー!」
テルディアスは足を止めない。
暴れるキーナを押さえつけながら、出口に向かって走る。
「サーガー!! メリンダさーん!!」
キーナの叫び声が、洞窟の奥まで響き渡った。
「サーガ!」
崩れた壁の穴を覗き込む。
ぐったりとサーガが横たわっている。
「サーガ!」
体に乗っている瓦礫をどかすと、サーガの腕がゆっくりと動き、力の籠もらないピースサインを示した。
「い…生きてるよ…。ナントカ…」
弱々しくキーナに笑いかけた。
ほっと息を吐いたキーナ、すぐさま治療を開始した。
その後ろではテルディアスがまだ動いていた。
最後の一体の体を上る。
(これで…、最後だ!)
炎を纏った剣を、土人形の胸の印に突き立てる。
ガラガラガラガラ…
あっという間に土人形は、ただの土塊へと還っていった。
(さすがテル)
治療をしながらそれを見たキーナ。
テルディアスの華麗な身のこなしに称賛。
「・・・・・・」
サーガが何やら呟いた。
「ん? 何か言った?」
「地は苦手だって」
サーガが頭を抱えている。
全身を治しているのに、頭がまだ痛いのかしら?と首を捻りながらも、キーナは治療を続ける。
オイシイトコロゼンブモッテキヤガッタ・・・
結局サーガは一体も倒せてないものね。
テルディアスがキーナに近づいていく。
「キーナ、大丈夫か?」
まずはキーナの心配から。
定石ですね。
「うん! 平気!」
こちらも通常運転。
「サーガもこの通り、大丈夫だよ!」
治療を終えたサーガが、むくりと体を起こした。
あちこち血で汚れてはいるけれども。
「フン、魔法に集中しすぎて周りの注意が散漫になったマヌケか」
これみよがしに盛大な溜息を吐く。
イラッとするサーガであったが、その通りなので何も言えない。
「ん?」
祭壇の方に目を向けたテルディアス、それを見つけた。
「あれは…」
と言って指で指し示すと、
「そうそう、メリンダさんも!」
そう言ってキーナバタバタと駆け出した。
テルディアスが指し示している物は祭壇の上に出ている物であって、メリンダではないのだけれど…。
天然無視されたテルディアス、指し示した指をどうしようか悩んだ。
「メリンダさん、大丈夫?」
「力を使い過ぎただけだから、休んでれば大丈夫よ」
祭壇の裏でキーナがメリンダを支えながら、メリンダの体を起こした。
まあ、いわゆる魔力切れという状態ですな。
時間が経てばまた魔力も戻るので、心配は無いだろう。
テルディアスとサーガが祭壇に近づき、先程までパズルのあった場所に出て来たその丸くて黒い石を眺める。
「これ本当に宝玉?」
「出て来た以上そうなのだろう」
サーガが首を傾げる。
テルディアスはそれ以外考えられんと、石に向かって手を伸ばす。
(え? 宝玉?)
テルディアスとサーガの話が聞こえて来て、キーナが顔を上げ、祭壇の上を見た。
そういえば、さっきまでなかった黒い石がそこに出て来ていた。
「これで終わりだ」
テルディアスがその石に手を掛けた。
「! 待って! テル!」
「え?」
テルディアスがその石を手に持っていた。
「あ」
遅かった。
ズズン!!
今までと比べものにならないほどの大きな揺れが襲った。
「なんだ?!」
「やっぱし~~…」
キーナ半べそ。
「どうゆう事だ?! 何か知ってるのか?!」
揺れはだんだんと大きくなっていく。
「よくある手だよ。最後のお宝が最後の罠なんだ」
「最後の罠?」
「うん、だから…。たぶん、ここが崩れ落ちる」
キーナの言葉に三人が固まる。
崩れる?
ここが?
地下だぞ?
つまるところ、ぺっしゃんこ…。
テルディアスそっと石を戻すが、
「戻しても無理」
キーナから突っ込まれた。
ゴガン!
天井の一部が落ちてきて、派手に割れる。
「逃げるぞ!」
テルディアスが踵を返す。
「あ、待って…。メリンダさんがまだ…」
動けなかった。
かといって暢気に動けるまで待っているわけにはいかない。
「俺が担ぐから、行け!」
サーガが駆け寄ってきて、メリンダを抱き上げる。
「う、うん」
こう見えてもサーガ何気に力持ち。
メリンダを抱えて走るのもわけない。
実際さっきやってたし。
テルディアスが先行し、部屋の扉を開けようと力を込める。
(そういえば…)
ふと思い出したけれども。
テルディアスが扉を数㎝開けると、そこには土人形が。
「やっぱし、いた…」
この部屋に入る前に追いかけられてたんだよね。
と、土人形が手を伸ばしてきて、
ベチコン!
思い切り扉に当たる。
(あ、入れないのか…)
どうやら扉を開けるような細かい動きは出来ないらしい。
しきりに扉をベチコンベチコン叩いている。
テルディアスがその合間を見計らい、扉の隙間から外に出た。
・・・・・ドン!
ガラガラガラガラ…
テルディアスが扉の隙間から顔を覗かせた。
「行くぞ」
(早…)
対処法が分かれば、テルディアスは仕事が早かった。
長い廊下をひた走る。
揺れと轟音が増していく。
「出口分かってるのか?!」
「うん! さっき見つけた!」
サーガの問いにキーナが答える。
(やっぱりキーナちゃんだったか…)
メリンダはサーガの腕の中で大人しくしていた。
先頭をテルディアスが走っていく。
何度目かの曲がり角を曲がった時、急にテルディアスが足を止めた。
キーナ達も曲がり角を曲がると、
「うわ!」
「なんだこりゃ?!」
通路の床が消えていた。
そこはちょうどキーナが落ちてきた辺り。
テルディアスが発動させた罠が床を脆くさせていたのか、7、8メートルくらいに渡って床が失くなっていた。
とてもじゃないが、助走で飛び越えられるような距離ではない。
その中心辺りで、ブラブラと天井からぶら下がりながら揺れているものがある。
キーナが切った、あの木の根のようなもの。
テルディアスがキーナを抱え上げる。
「行くぞ、キーナ」
「はい?」
有無を言わさず、テルディアス走り始めた。
「再びー?!」
なにやらいきなり説明もなしに担ぎ上げられたキーナが叫んだ。
訳も分からず、とりあえず必死にテルディアスにしがみつくキーナ。
そしてテルディアス、穴のギリギリで跳んだ。
揺れる木の根に手を伸ばし、反動を利用して向こう側へ。
綺麗に着地した。
「うわ~…」
それを見ていたメリンダが、声を漏らした。
自分もこれからあれをしなければならないのだ。
「姐さん、俺にしっかり掴まってろよ!」
「う、うん」
メリンダ、力の入らない腕に、精一杯の力を込めてサーガに抱きつく。
「胸の弾力が気持ちいい♡」
「こんな時にアホ言ってる場合か!!」
ま、サーガですから。
珍しくサーガが真剣な表情になり、強く息を吐くと、床を蹴った。
十分に助走をつけ、ギリギリで跳ぶ。
メリンダの足を抱えていた腕を放し、手を伸ばす。
ギリギリで木の根に手が届いた。
振り子の原理を利用して反対側へ。
すぽ
すっぽ抜けた。
「え?」
サーガとメリンダの体が、勢いを失って穴へと落ちていく。
(やべえ! 姐さんだけでも…!)
必死にメリンダだけでもと、その体を放り投げようと考えるが、
シュ
サーガの目の前に、それは投げられた。
それはツタか。
先がご丁寧に結ばれて、滑らない仕様になっている。
必死に手を伸し、それを掴むサーガ。
「ぐ…」
そのツタの先で、体にそのツタを巻き付け、踏ん張るテルディアスの姿があった。
キーナもそのツタに飛びつき、引っ張る。
「ふぎい!」
サーガとメリンダの落下が止まる。
ブラブラと宙で揺れる二人。
キーナが上から顔を覗かせる。
「サーガー! 大丈夫―?!」
「お~う」
「すぐ引き上げるからー!」
「頼むわ~」
その言葉通り、ゆっくりと体が上に上って行く。
「何? 何? 今目を開けても平気?」
怖くて今まで目を瞑っていたメリンダ。
「今目を開けるとすんごいもの見ちゃうから止めた方がいいよ♪」
「反対に気になるわ!」
でも怖くて目を開けられないメリンダだった。
まあ、辺り一面、暗いだけなんだけどね。
引っ張り上げられたメリンダと再会を喜ぶキーナ。
サーガもほっと一息。
まだ全てが終わったわけではないけど、今くらい無事を喜んでも良いだろう。
ところがテルディアス、そこに水を差す。
「ふん。もう少し考えて跳ばんか。マヌケが」
イラッとするサーガ。
「っせーな! 思ったより重かったんだよ!」
グサ
『重かった』メリンダの心にトゲが刺さった。
「見るからに重いことくらい分かるだろう」
グサグサ
『見るからに重い』メリンダの心に特大のトゲが刺さった。
もとより、女性の平均身長よりも高いメリンダ。
おまけに胸もかなり肉付きが良い。
となると、小柄な女性よりはどうしても体重が多くなりがちになるわけで。
昔とあるお客さんの上で頑張っていたら、「重い」と言われてかなり傷ついていたりもして…。
女性に対して、やはり何処の世界でも体重に関しては禁句のようです。
男二人は、メリンダの鉄拳による制裁を受けることになったという…。
メリンダの体力も幾分か回復したということで、4人で出口に向かって走っている。
壁が、天井が崩れ、揺れにより走りにくい。
気のせいか、天井が変形して来ている気もする。
出口はもうすぐそこだ。
鍵はかけなかったのだから、そのまま横に引けば扉は開くはず。
なのだが。
「ふんぎいいいいい!!」
キーナがいくら引っ張っても、扉は一ミリたりとも動こうとはしない。
「あ…、開かない」
なんでじゃー!と焦る。
「代われ」
テルディアスに選手交代。
扉に手を掛け、壁に足を掛け、渾身の力を込めて、テルディアスが扉を引っ張る。
「……っあ!!」
なんとか通れるくらいの隙間が開いた。
「通れるか?」
「うん!」
キーナは体を少し斜めにしながら通り抜けた。
テルディアスは体を横にしてなんとか通り抜けた。
「大丈夫か? 姐さん」
「ええ、なんとか」
体力のことを聞かれたのかと、返事を返すが、
「いや、もし詰まったら、俺が手助けするから」
と手を胸の辺りでワキワキワキ。
「いらんわ!」
ふんとにしょーもない奴である。
だがしかし、メリンダ少し胸を押しながら通り抜けたという。
整備されていない洞窟のような通路を、4人が走っていく。
いよいよ揺れが大きくなり、轟音も追いかけるように大きくなっていく。
その時、テルディアスとサーガが気付いた。
「キーナ!」
「わ」
「姐さん!」
「キャ」
ドガガガガガガ!!!
天井が崩れた。
通路の端で、テルディアスがキーナを抱えて蹲っている。
音が止み、天井の崩落もどうやら収まったらしい。
「大丈夫か? キーナ」
腕の中のキーナの無事を確かめるテルディアス。
「うん…。大丈夫…」
テルディアスのおかげでかすり傷一つ負っていない。
「テルは? 怪我ない?」
キーナもテルディアスの体を心配する。
「俺は大丈夫だ」
どうやら崩落に巻き込まれる事態は避けられたらしい。
ほっと一息、身を乗り出す。
「サーガとメリンダさんは…」
テルディアスの後ろには、崩れ落ちた岩の山。
完全に通路が埋まってしまっている。
「サーガ?! メリンダさん?!」
サーガ達はテルディアスよりもキーナよりも後ろを走っていた。
しかしそこには岩の山。
「サーガ!!」
「生きてるよ」
キーナの声が聞こえたのか、サーガの声が聞こえてきた。
「サーガ…」
「姐さんも無事だ」
キーナが良かったと息を吐いたが、
「俺達を置いて先に行け」
サーガの言葉に凍り付いた。
「え…」
「またいつ崩れるとも分からねぇ」
2人を置いてなど行けるわけがない。
そうキ-ナが口を開きかけた時、
「テルディアス、キーナを連れてけ」
キーナの言葉を予想したのか、サーガが言い放った。
「無論だ」
テルディアスがキーナを抱え、出口に向かって走り出した。
「ヤダ! 待って! 止まって! テル!」
テルディアスは止まらない。
全速力でその場を離れていく。
「2人を…2人を…助けなきゃ!」
魔法さえ使えれば、2人の救助など容易いはずだ。
だがしかし、まだこの場は虹石の影響を受けているのか、魔力は乏しい。
分かっていた。
まともに魔法が使えないことは分かってはいた。
「お願い! 止まってー!」
テルディアスは足を止めない。
暴れるキーナを押さえつけながら、出口に向かって走る。
「サーガー!! メリンダさーん!!」
キーナの叫び声が、洞窟の奥まで響き渡った。
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いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
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※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
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