キーナの魔法

小笠原慎二

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古代魔獣の遺跡編

生理談義

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朝日が差し込み、小鳥達が騒ぎ出す。
いつもと同じ、穏やかな朝。
であるのだが。

「ん…」

光に誘われて目を開けたメリンダが体を起こす。

「朝…?」

朝になっている。
いや、それはそうなのだけれど。
頭をボリボリかく。

(朝にしてはな~んか物足りないような…)

と寝ぼけた頭で考え、ふと隣のベッドに視線が移る。
そこには、布団にくるまれ、くうくうと静かな寝息をたてるキーナの姿。
その姿に違和感を感じる。

(キーナちゃんが……いる!!)

そこではたと気付く。
毎朝の目覚まし代わりになっている、テルディアスの叫び声を聞いていないのだ。
いいのかそんな日常。
いつもとの違いにメリンダが戸惑っていると、

「むにゃ?」

キーナが目を開けた。
むくりと起きだし、

「おふぁよ~、メリンダさん」

と発音定かではない朝の挨拶をする。

「お、おはよ…」

こんなに穏やかに朝の挨拶をするのも初めてだなどと思いながらも、

「め、珍しいわね。キーナちゃんがいるなんて…」

と疑問を口にする。
キーナが目をパチクリさせる。

「ああ!」

言われている意味を理解すると、何やらモジモジとし始めた。

「あの~、その~」

微かに赤らめたその顔に、メリンダがピンとくる。

「ああ! 生理?」

ズバッと聞き込む。
キーナにとってはその単語も発するのがちょっと恥ずかしいので、

「う、うん…」

とどもってしまう。

「な~んとなく、近づくと精霊の気配とか、な~んとなく感じにくくなるから…」

とモジモジモジ。

「へぇ~」

メリンダ感心。
メリンダはあまりそういうのを感じたことがない。

「まだ、なってないみたいだけど…、今日中にはなるかも…」

とモジモジモジ。

「あらまあ」

そいつは大変。

「下着は?」
「もう着けてる」

この世界にも、整理用の下着などがあるのです。
女性はそれが近づくと、なんとなく分かる人が多いので、始まる前から生理用品を着けておくことがあります。
なにせ相手は血液。
下着に付くと、洗濯でもなかなか落とせなかったりします。
下手すると下着を突き抜けて、履いてるズボンやスカートに付着することも…。
なので、そうならないためにも、始まる前から備えているのです。

閑話休題。

「なら平気ね。生理になると体調悪くなる?」

メリンダがキーナの隣に移動してきて座る。
そしておでこに手を当てた。
体調不良による発熱などがあることもあるからだ。

「うん…。生理になると…」

キーナの顔が暗く沈む。

「生理痛酷いし、体重くなるし、気分も鬱になるし、風邪も引きやすくなる…」

その時の心理状態を思い出し、いっそう気分が暗くなる。

「でも食欲はあるんだ!」

と鼻息を荒くする。
生理は病気ではない!とでも言いたげに。

「そう。なら平気ね」

食欲があれば大丈夫だろう。

「痛むってどのくらい?」

キーナが思い出してまた顔をさらに暗くする。

「悶えるくらい…」

ちなみに作者、一応生物学的に女なので、毎月生理があるのですが、中学生の頃などは、そのあまりの痛さに、五体投地のように地面に丸まり、そのあまりの痛さに、畳を爪で引っかいていたことがあります。
痛さのあまり何も考えられず、何もできない。
薬を飲むのもあまり良くないのではと信じていたあの頃は、できるだけ飲まないように頑張っておりました。
その後、社会人になり、とある人の一言で考えががらりと変わり、きちんと薬を服用するようになりました。

「痛いストレスを抱え込むより、楽になった方が体にもいいでしょ」

みたいな言葉だったと思います。
その後、卵巣破裂で病院に駆け込む事になるのですが。

閑話休題。

「あら、じゃあ薬は強いの飲んでる?」
「んっと、分かんない。とりあえず貰ったやつ」

この世界に来て、よく分からないので女将さんに貰った薬。
あれを愛用している。

「あらまあ。そか」

メリンダ立ち上がり、視線を右上に向けて考え込む。

「う~ん、あたしは痛みがないから、よく分からないのよね~」
「そーなの?!」

そんな羨ましい!

「ええ、生理が来てもいつもと変わらないのよ。さすがに魔法は弱くなるけど」

人によっては全く痛みがない人もいます。
こういう人は本当に羨ましいです。
反対に寝込んでしまうほど辛い人もいます。
まさに千差万別。

「いいなぁ。僕もそうならいいのに…」

痛みを持つ女性なら誰もが思うこと。
メリンダが寝間着を脱ぎ始める。

「カルタットで働いてた仲間の女の子に、酷い子がいたわ。痛みが酷すぎて吐いちゃうって子。一日二日は必ず寝込んでた」

人によっては、頭痛、吐き気、腰痛などもあるとか。

「あ~、酷い人は酷いって聞くよ」

一度ならず訪れたことのある保健室で、そのようなことを聞いたことがある。

「僕、まだましなのかしら?」
「どうかしらね?」

スカートを履き、ブラを着けていたメリンダが答える。
ここで一言。
人と比べてまだ自分は軽いから、などと考えないで下さい。
苦しいものは苦しい、痛いものは痛い。
できるだけ早めに病院を受診することをお勧めします。
作者のように倒れないうちに。
まあ、作者のは希だけれども。





コンコン

キーナ達の部屋の扉を叩く者がいた。

「ハイ?」

メリンダが答える。

「俺だ」

扉の向こうから聞こえてきた声は、珍しく今朝絶叫を上げなかったテルディアスのもの。

「テルだ」
「何? どうしたの?」
「いや…その…」

扉の向こうで言い淀む。

「キーナは大丈夫か?」

その言葉に引っかかりを感じた。

「あ~ん?」

”貴様何を知っている”感を漂わせ、メリンダ扉の向こうの人物に圧をかける。

「いや…、だから…その。だ、大丈夫ならいいんだ。じゃあ」

とそそくさと立ち去ろうとしたテルディアス。
素早く扉を開け、その背を向けた肩に手を置き、止めるメリンダ。

「で? どーゆーことかな?」

メリンダの方が背が低いはずなのに、何故か上から見下ろされたようになるテルディアス。

「だ、だから…」

言い淀むテルディアスを、メリンダが無理矢理部屋に引っ張り込んだ。














椅子に(無理矢理)座らされ、後ろ手に(無理矢理)縛られ、何故か尋問されるような格好になっているテルディアス。

「その…、大概、俺の所に来ない時は…、月のものが…」

男であるテルディアスにとって、月のものと口にするのも、いささか恥ずかしいことだったりする。

「だから…」

と必死に何故か言い訳めいた言葉を吐き出す。

「ハ~~~~~~ン」

と何か言いたげにテルディアスを見下ろすメリンダ。
ベッドの上で少し赤くなりながら、

「さすがに、コレの時は、何となく…」

とキーナが頭をかく。

「ヘ~~~~~~エ」

とニヤニヤ顔のメリンダ。
テルディアスにそっと顔を近づけると、

「よく分かっていらっしゃって」

とからかう。
女でなければ速攻でぶっ飛ばしてやるのに!などとテルディアスが腹の中で考えていた。

「ん、でもね。まだ来てないの」
「…そうなのか?」

さすがに細かいことまでは知りません。

「ん、でも、今日中には来そうだから、またここで泊まっていい?」
「お前が動けないなら仕方ないだろう」
「ゴメンねテル。僕のせいで足止めくっちゃって」

キーナが済まなそうにポリポリと顔をかく。

「こればかりは仕方ないだろう」

毎度の事でもあるのだし。
と口には出さない。
側ではニヤニヤと、メリンダが二人の会話を生暖かい目をして聞いていた。
その気配がうるさい。

「言いたいことがあるなら言え!」

テルディアス我慢しきれなかった。

「べ~つ~に~」

メリンダ口笛を吹いて誤魔化した。















マスクにフードのいつもの格好に戻り、テルディアスが出かけようとする。

「じゃ、俺は宿の手続きと、何か宝玉について手掛かりがないか探してくる。メリンダ、キーナを頼むぞ」
「あら」

メリンダがベッドから立ち上がった。

「あんたがついてなくていいの?」

とニヤニヤ聞いてくる。

「何で俺が? お前の方が分かるだろう?」

男のテルディアスには生理というものがさっぱり分からない。
メリンダが側に居た方が、何かとキーナも頼みやすいだろう。

「あんたの方がよく分かってるのかと思って」

メリンダがペロリと舌を出した。
からかってやがる…。
どついてやりたい衝動をなんとか堪える。

「冗談よ。手続きはよろしく頼むわ」

とメリンダやっと素直に手を振った。

「ああ、キーナを頼んだ」

少し怒気を込めて言葉を吐き捨て、テルディアスがバタンとドアを閉めて出て行った。
その後からあかんべえをするメリンダ。

「ハ~イハイ」

キーナの方を見ると、なんだかキーナがお腹を押さえている。

「キーナちゃん? どうしたの?」

テルディアスとは打って変わって優しい態度。

「ぬ…。来たかも…。痛くなってきた…」

と顔色が悪くなっていく。

「あらまあ! 来たなんて分かるのね~。薬飲む?」
「うん…。メリンダさん分かんないの?」
「あたしは分からないわね。気付いたらなってる」

メリンダが水を用意する。

「そうなんだ」

その後も、二人は生理について色々語り合った。
学校などでは教えてくれないようなこともメリンダは知っていたので、キーナにとってとても有意義な時間でもあった。
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