キーナの魔法

小笠原慎二

文字の大きさ
上 下
38 / 296
奴の名はサーガ

不思議な夢

しおりを挟む
「え?」

なんだか呼ばれたような気がしてキーナは振り向いた。
でも誰もいるはずがない。
なぜならここはいつもの夢の中。
真っ暗な空間に一人、キーナは立っていた。
だがいつものような孤独感は何故かなかった。

「誰かに呼ばれたよーな」

まいっか、とキーナは前を向いた。
すると遥か先に誰か立っている。

テルだ!

そう思ってキーナはダッシュ!

「わーい! 見ーっけ!」

そして勢いをつけたまま、

「どーーーーん!」

と体当たりをくらわす。

「ぐえ!」
「ん?」

なんだか声が違う…。
そういえば…、肌も普通の肌色。
顔を上げてみると、

「てめ…」

痛みをこらえて睨み付けるサーガの顔があった。

「人違い!」

キーナは逃げ出した。

「キーナ!」

違う方向から自分を呼ぶ声。
青緑の肌。
今度こそ本物のテルだ!

「テルぅ」
「なにしとるんだ」

慌ててテルディアスにしがみつく。
すると、顎を軽く掴まれ、上に向かされる。

「?」

意味の分からないキーナがテルを見返すが、なぜかテルの顔がどんどん迫ってくる。

「てててててててテル!」

このままでは俗にいうキスという状態になってしまうという恐怖に襲われ、慌ててテルを押し返そうとするが、

「いーじゃねーか、キスくらい」
「あ?」

いつの間にやらサーガに変わっていた。

「うぎゃーーーーー!」

容赦ないストレートをかまし、一目散に逃げた。
だいぶ走って疲れて座り込んだ。
ここまでくればなんとかかんとか。

「なんちう夢だ…」

ぜいぜいはあはあ、なんだかとても疲れた。
そこへパタパタとキューちゃんがやってきた。

「キューちゃん」

キューちゃんを掌に乗せ、やっと落ち着いた。

「平和が一番だね~」

と縁側で日向ぼっこでもするかのようにほのぼのとしていたが、ふと気づくと、

「ん? キューちゃん? じゃない?」

いつの間にか、キューちゃんが何か不思議な球体に変わっていた。
不思議な色を湛えた球体。
赤にも青にも黄にも緑にも、そして白かったり黒かったり。
様変わりしながら球体の中で何かが動いていた。
すると突然、その球体が何かに押しつぶされるかのように変形していく。

「え?!」

ぴしり

とヒビが入った。

「あ! こ、壊れちゃう! どうしよう!」

焦るキーナ、だがヒビはすぐに広まっていき、

パキン

一部が欠けてしまった。

「あ!!」

どうっ!!

もの凄い力の奔流がキーナを押し包んだ。
息ができない。
目を開けることもできない。
このままでは…死…。












「…!」

目を開けて、キーナは息を大きく吸い込んだ。
外では小鳥達がちゅんちゅんと朝ご飯でも探しているようだ。

「…夢? 変な夢…」

胸の上でキューちゃんがすやすやと眠っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...