36 / 296
奴の名はサーガ
おじいさんと光の者
しおりを挟む
ミドル王国の魔道士専用の塔の一室で、何やら書類を書いているおじいさん。
その後ろにいつの間にやら、人影が立った。
「何用じゃ?」
気づいていたのか、おじいさんが声をかけた。
三人ともフードを被り、顔が見えない。真ん中の一人が話し出した。
「レオナルド・ラオシャス、用件は分かっているのではないかね?」
「フン」
おじいさんが振り向き、鼻で笑う。
「さ~っぱりわからんのう。わしももうろくしてきたでのう」
「しらばっくれても無駄だ」
威圧するかのように、一歩前に出る。
「数日前より強い光の波動を感じた。調べてみたらば、光の御子様のものだと分かった。つい先日はこのミドル王国よりその波動を感じたのだ。
レオナルド・ラオシャス。『赤の賢者』とも呼ばれる程の者が…、裏切る気か?」
「裏切るも何も、わしは最初からぬしらの考えには反対しておるが」
「世界の理を乱す大逆者となってもよいのか?!」
「大逆者? つまり、わしを倒すと?」
おじいさんがすっと立ち上がった。
「その昔、『紅蓮の牙』と呼ばれておったわしを、倒すのか?」
少し挑むように、そしてからかうように、おじいさんは三人と対峙した。
「なんだと! 我々は光の…!」
「よさんか」
右後ろに控えていた少し若めの男が声を張り上げたが、真ん中の男が制止する。
「ラオシャス、我らは争いに来たのではない。迎えに来たのだ」
男は諭すように語りかける。
「正しき道へ導いてやらねば、ともすれば闇の者の餌食となってしまう。分かるだろう、御子様には我らが、必要なのだ。頼む、行き先を教えてくれ」
「知らん」
どきっぱり答えた。
清々しいほどに。
「な…?」
三人が固まる。
「確かにそのような感じのをうける者はおったが、数日前にふらりと出て行ってそれきりじゃ。じゃからわしは何も知らん」
ギラリと三人を睨み付ける。
「そ、そうか…」
気圧された真ん中の男が思わず体を引いた。
だが、
「貴様! なめるのも大概にしろ!」
「ま、待て! よせ!」
制止も間に合わず、若めの男が光の力をおじいさんに向かって放った。
ズバン!
光の力は狙い違わずおじいさんに命中。おじいさんは砕け散った。
「ふん、口ほどにもない」
勝ち誇るその男の目の前には、上半身を失ったおじいさんの下半身が倒れずに立っていた。
倒れずに?
「礼儀がなっとらんの」
「何?!」
下半身が喋った?!
いや違う、生きてた?!
「すぐに力を見せびらかす。子供と大して変わらん」
下半身がしゃべ…、ではなく、声がすると、飛び散ったおじいさんの欠片が集まっていき、かちゃかちゃと上半身が形成されていく。
「魔法はもっと奥深いものじゃよ」
あっという間に腹が、胸ができいく。
「光の力を操るものがそれでは情けない」
首が、顔が形成され、そこには何も変わらないおじいさんが立っていた。
当たり前のように。
「な、なんだと貴様…」
事の成り行きに驚いていた若めの者が、今度こそとばかりに力を集め始める。
「やめんか!」
真ん中の男が制止するが…。
「光の力を持っても、闇の力を持っても、所詮は人間」
突然若めの男の後ろから声がした。
そして首筋に冷たいものが当てられた。
「試してみるか?」
おじいさんがナイフを、若めの男の首筋に当てていた。
「え?」
「な?」
目の前にもおじいさん。
後ろにもおじいさん。
二人?!
いや、どちらかはダミーなのであろうが、あまりにも精巧に作られ、気配でさえも同じものを感じ、三人には見分けがつかなかった。
「わしは何も知らん。分かったな?」
ナイフを首に当てたおじいさんがドスのきいた声で囁く。
「早々に去れ」
三人の前に立つおじいさんが、にやりと笑った。
そそくさと三人は部屋を出て行った。
その後から、
「まったく、強い力を持つ者ほど馬鹿が多くなる。見せびらかすためにすぐに破壊行動に移ってしまう。しょーもない奴らじゃの」
と、部屋の奥から、三人目のおじいさんが出てきて呟いた。
そう、三人の相手をしていた二人のおじいさん共にダミーだったのだ。
本物は部屋の奥で結界を張り、事の成り行きをすべて見守っていたのである。
「こんな簡単な魔法も分からんとは…」
初歩とはいかないまでも、中級くらいの魔法である。力のあるものならすぐに気づくレベルのものだ。
だが、光のものは往々にして自分の力を過信し過ぎている。なので初歩的な魔法であっても、気づかないことも多かった。
姿を変えていた観葉植物達を元に戻す。
「ここはもう大丈夫として、あの子はまた力を解放したようじゃし、下手をすると見つかるのも時間の問題か…。その前にテルディアスと会えればよいが…」
おじいさんは遠く道行く二人の無事を祈った。
城を出て歩む三人の光の者達。
相変わらずフードを目深に被っている。
「あの男何者なんですか! ただの魔道士とは思えない!」
若めの男が前を行く二人に聞いた。
「…奴は…、あの百年前の魔道対戦で、『紅蓮の牙』と恐れられた男だ…」
百年ほど前に、数か国を巻き込む大きな戦が起きた。
その時に『紅蓮の牙』と名を馳せたのが、レオナルド・ラオシャス。おじいさんだ。
一度腕を振るえば辺り一面火の海。
二度腕を振るえば辺りは突風が吹き荒れ、
三度腕を振るった時には、動いている者は何もなし。
と謳われたほどの実力者であった。
光や闇の者とさえも、互角に戦うこともあったとかなかったとか。
魔法だけではなく、戦の才気にも溢れ、女に手も早いと有名だった。
女は今でもか。
「そのまま魔道戦士となるかと思いきや、大魔道士となってしまった。昔の奴からは考えられんそうだ」
「大魔道士などと大人しい役職に就くなどと…」
「今でもいずれ世界を征服するに違いないと噂されていて…」
なぜかひそひそと二人が声を静める。
「奴にたてついて消えてしまった光の者も何人かいるらしい。血気盛んなのはいいが、お前も気をつけろ」
若めの男の背筋に冷たいものが走った。
いったい…何者なのだ? あの男は…。
というか、…今いくつ?
ぶひぇっくしょーーーい!!
おじいさんが派手にくしゃみをした。
その後ろにいつの間にやら、人影が立った。
「何用じゃ?」
気づいていたのか、おじいさんが声をかけた。
三人ともフードを被り、顔が見えない。真ん中の一人が話し出した。
「レオナルド・ラオシャス、用件は分かっているのではないかね?」
「フン」
おじいさんが振り向き、鼻で笑う。
「さ~っぱりわからんのう。わしももうろくしてきたでのう」
「しらばっくれても無駄だ」
威圧するかのように、一歩前に出る。
「数日前より強い光の波動を感じた。調べてみたらば、光の御子様のものだと分かった。つい先日はこのミドル王国よりその波動を感じたのだ。
レオナルド・ラオシャス。『赤の賢者』とも呼ばれる程の者が…、裏切る気か?」
「裏切るも何も、わしは最初からぬしらの考えには反対しておるが」
「世界の理を乱す大逆者となってもよいのか?!」
「大逆者? つまり、わしを倒すと?」
おじいさんがすっと立ち上がった。
「その昔、『紅蓮の牙』と呼ばれておったわしを、倒すのか?」
少し挑むように、そしてからかうように、おじいさんは三人と対峙した。
「なんだと! 我々は光の…!」
「よさんか」
右後ろに控えていた少し若めの男が声を張り上げたが、真ん中の男が制止する。
「ラオシャス、我らは争いに来たのではない。迎えに来たのだ」
男は諭すように語りかける。
「正しき道へ導いてやらねば、ともすれば闇の者の餌食となってしまう。分かるだろう、御子様には我らが、必要なのだ。頼む、行き先を教えてくれ」
「知らん」
どきっぱり答えた。
清々しいほどに。
「な…?」
三人が固まる。
「確かにそのような感じのをうける者はおったが、数日前にふらりと出て行ってそれきりじゃ。じゃからわしは何も知らん」
ギラリと三人を睨み付ける。
「そ、そうか…」
気圧された真ん中の男が思わず体を引いた。
だが、
「貴様! なめるのも大概にしろ!」
「ま、待て! よせ!」
制止も間に合わず、若めの男が光の力をおじいさんに向かって放った。
ズバン!
光の力は狙い違わずおじいさんに命中。おじいさんは砕け散った。
「ふん、口ほどにもない」
勝ち誇るその男の目の前には、上半身を失ったおじいさんの下半身が倒れずに立っていた。
倒れずに?
「礼儀がなっとらんの」
「何?!」
下半身が喋った?!
いや違う、生きてた?!
「すぐに力を見せびらかす。子供と大して変わらん」
下半身がしゃべ…、ではなく、声がすると、飛び散ったおじいさんの欠片が集まっていき、かちゃかちゃと上半身が形成されていく。
「魔法はもっと奥深いものじゃよ」
あっという間に腹が、胸ができいく。
「光の力を操るものがそれでは情けない」
首が、顔が形成され、そこには何も変わらないおじいさんが立っていた。
当たり前のように。
「な、なんだと貴様…」
事の成り行きに驚いていた若めの者が、今度こそとばかりに力を集め始める。
「やめんか!」
真ん中の男が制止するが…。
「光の力を持っても、闇の力を持っても、所詮は人間」
突然若めの男の後ろから声がした。
そして首筋に冷たいものが当てられた。
「試してみるか?」
おじいさんがナイフを、若めの男の首筋に当てていた。
「え?」
「な?」
目の前にもおじいさん。
後ろにもおじいさん。
二人?!
いや、どちらかはダミーなのであろうが、あまりにも精巧に作られ、気配でさえも同じものを感じ、三人には見分けがつかなかった。
「わしは何も知らん。分かったな?」
ナイフを首に当てたおじいさんがドスのきいた声で囁く。
「早々に去れ」
三人の前に立つおじいさんが、にやりと笑った。
そそくさと三人は部屋を出て行った。
その後から、
「まったく、強い力を持つ者ほど馬鹿が多くなる。見せびらかすためにすぐに破壊行動に移ってしまう。しょーもない奴らじゃの」
と、部屋の奥から、三人目のおじいさんが出てきて呟いた。
そう、三人の相手をしていた二人のおじいさん共にダミーだったのだ。
本物は部屋の奥で結界を張り、事の成り行きをすべて見守っていたのである。
「こんな簡単な魔法も分からんとは…」
初歩とはいかないまでも、中級くらいの魔法である。力のあるものならすぐに気づくレベルのものだ。
だが、光のものは往々にして自分の力を過信し過ぎている。なので初歩的な魔法であっても、気づかないことも多かった。
姿を変えていた観葉植物達を元に戻す。
「ここはもう大丈夫として、あの子はまた力を解放したようじゃし、下手をすると見つかるのも時間の問題か…。その前にテルディアスと会えればよいが…」
おじいさんは遠く道行く二人の無事を祈った。
城を出て歩む三人の光の者達。
相変わらずフードを目深に被っている。
「あの男何者なんですか! ただの魔道士とは思えない!」
若めの男が前を行く二人に聞いた。
「…奴は…、あの百年前の魔道対戦で、『紅蓮の牙』と恐れられた男だ…」
百年ほど前に、数か国を巻き込む大きな戦が起きた。
その時に『紅蓮の牙』と名を馳せたのが、レオナルド・ラオシャス。おじいさんだ。
一度腕を振るえば辺り一面火の海。
二度腕を振るえば辺りは突風が吹き荒れ、
三度腕を振るった時には、動いている者は何もなし。
と謳われたほどの実力者であった。
光や闇の者とさえも、互角に戦うこともあったとかなかったとか。
魔法だけではなく、戦の才気にも溢れ、女に手も早いと有名だった。
女は今でもか。
「そのまま魔道戦士となるかと思いきや、大魔道士となってしまった。昔の奴からは考えられんそうだ」
「大魔道士などと大人しい役職に就くなどと…」
「今でもいずれ世界を征服するに違いないと噂されていて…」
なぜかひそひそと二人が声を静める。
「奴にたてついて消えてしまった光の者も何人かいるらしい。血気盛んなのはいいが、お前も気をつけろ」
若めの男の背筋に冷たいものが走った。
いったい…何者なのだ? あの男は…。
というか、…今いくつ?
ぶひぇっくしょーーーい!!
おじいさんが派手にくしゃみをした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる