キーナの魔法

小笠原慎二

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奴の名はサーガ

おじいさんと光の者

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ミドル王国の魔道士専用の塔の一室で、何やら書類を書いているおじいさん。
その後ろにいつの間にやら、人影が立った。

「何用じゃ?」

気づいていたのか、おじいさんが声をかけた。
三人ともフードを被り、顔が見えない。真ん中の一人が話し出した。

「レオナルド・ラオシャス、用件は分かっているのではないかね?」
「フン」

おじいさんが振り向き、鼻で笑う。

「さ~っぱりわからんのう。わしももうろくしてきたでのう」
「しらばっくれても無駄だ」

威圧するかのように、一歩前に出る。

「数日前より強い光の波動を感じた。調べてみたらば、光の御子様のものだと分かった。つい先日はこのミドル王国よりその波動を感じたのだ。
レオナルド・ラオシャス。『赤の賢者』とも呼ばれる程の者が…、裏切る気か?」
「裏切るも何も、わしは最初からぬしらの考えには反対しておるが」
「世界の理を乱す大逆者となってもよいのか?!」
「大逆者? つまり、わしを倒すと?」

おじいさんがすっと立ち上がった。

「その昔、『紅蓮の牙』と呼ばれておったわしを、倒すのか?」

少し挑むように、そしてからかうように、おじいさんは三人と対峙した。

「なんだと! 我々は光の…!」
「よさんか」

右後ろに控えていた少し若めの男が声を張り上げたが、真ん中の男が制止する。

「ラオシャス、我らは争いに来たのではない。迎えに来たのだ」

男は諭すように語りかける。

「正しき道へ導いてやらねば、ともすれば闇の者の餌食となってしまう。分かるだろう、御子様には我らが、必要なのだ。頼む、行き先を教えてくれ」
「知らん」

どきっぱり答えた。
清々しいほどに。

「な…?」

三人が固まる。

「確かにそのような感じのをうける者はおったが、数日前にふらりと出て行ってそれきりじゃ。じゃからわしは何も知らん」

ギラリと三人を睨み付ける。

「そ、そうか…」

気圧された真ん中の男が思わず体を引いた。
だが、

「貴様! なめるのも大概にしろ!」
「ま、待て! よせ!」

制止も間に合わず、若めの男が光の力をおじいさんに向かって放った。

ズバン!

光の力は狙い違わずおじいさんに命中。おじいさんは砕け散った。

「ふん、口ほどにもない」

勝ち誇るその男の目の前には、上半身を失ったおじいさんの下半身が倒れずに立っていた。
倒れずに?

「礼儀がなっとらんの」
「何?!」

下半身が喋った?!
いや違う、生きてた?!

「すぐに力を見せびらかす。子供と大して変わらん」

下半身がしゃべ…、ではなく、声がすると、飛び散ったおじいさんの欠片が集まっていき、かちゃかちゃと上半身が形成されていく。

「魔法はもっと奥深いものじゃよ」

あっという間に腹が、胸ができいく。

「光の力を操るものがそれでは情けない」

首が、顔が形成され、そこには何も変わらないおじいさんが立っていた。
当たり前のように。

「な、なんだと貴様…」

事の成り行きに驚いていた若めの者が、今度こそとばかりに力を集め始める。

「やめんか!」

真ん中の男が制止するが…。

「光の力を持っても、闇の力を持っても、所詮は人間」

突然若めの男の後ろから声がした。
そして首筋に冷たいものが当てられた。

「試してみるか?」

おじいさんがナイフを、若めの男の首筋に当てていた。

「え?」
「な?」

目の前にもおじいさん。
後ろにもおじいさん。
二人?!
いや、どちらかはダミーなのであろうが、あまりにも精巧に作られ、気配でさえも同じものを感じ、三人には見分けがつかなかった。

「わしは何も知らん。分かったな?」

ナイフを首に当てたおじいさんがドスのきいた声で囁く。

「早々に去れ」

三人の前に立つおじいさんが、にやりと笑った。










そそくさと三人は部屋を出て行った。
その後から、

「まったく、強い力を持つ者ほど馬鹿が多くなる。見せびらかすためにすぐに破壊行動に移ってしまう。しょーもない奴らじゃの」

と、部屋の奥から、三人目のおじいさんが出てきて呟いた。
そう、三人の相手をしていた二人のおじいさん共にダミーだったのだ。
本物は部屋の奥で結界を張り、事の成り行きをすべて見守っていたのである。

「こんな簡単な魔法も分からんとは…」

初歩とはいかないまでも、中級くらいの魔法である。力のあるものならすぐに気づくレベルのものだ。
だが、光のものは往々にして自分の力を過信し過ぎている。なので初歩的な魔法であっても、気づかないことも多かった。
姿を変えていた観葉植物達を元に戻す。

「ここはもう大丈夫として、あの子はまた力を解放したようじゃし、下手をすると見つかるのも時間の問題か…。その前にテルディアスと会えればよいが…」

おじいさんは遠く道行く二人の無事を祈った。










城を出て歩む三人の光の者達。
相変わらずフードを目深に被っている。

「あの男何者なんですか! ただの魔道士とは思えない!」

若めの男が前を行く二人に聞いた。

「…奴は…、あの百年前の魔道対戦で、『紅蓮の牙』と恐れられた男だ…」

百年ほど前に、数か国を巻き込む大きな戦が起きた。
その時に『紅蓮の牙』と名を馳せたのが、レオナルド・ラオシャス。おじいさんだ。

一度腕を振るえば辺り一面火の海。
二度腕を振るえば辺りは突風が吹き荒れ、
三度腕を振るった時には、動いている者は何もなし。
と謳われたほどの実力者であった。

光や闇の者とさえも、互角に戦うこともあったとかなかったとか。
魔法だけではなく、戦の才気にも溢れ、女に手も早いと有名だった。
女は今でもか。

「そのまま魔道戦士となるかと思いきや、大魔道士となってしまった。昔の奴からは考えられんそうだ」
「大魔道士などと大人しい役職に就くなどと…」
「今でもいずれ世界を征服するに違いないと噂されていて…」

なぜかひそひそと二人が声を静める。

「奴にたてついて消えてしまった光の者も何人かいるらしい。血気盛んなのはいいが、お前も気をつけろ」

若めの男の背筋に冷たいものが走った。
いったい…何者なのだ? あの男は…。
というか、…今いくつ?








ぶひぇっくしょーーーい!!
おじいさんが派手にくしゃみをした。
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