34 / 296
奴の名はサーガ
護衛のお仕事
しおりを挟む
街の所々に張り紙が貼られている。
その一つを何気なく見ていたサーガが、なにか思いついたらしい。
キーナに何かを告げた。
「いいよ。お金ならまだあるもん」
「ばかだな~、金だっていつかはなくなるんだぜ? 一泊分浮くし、金貰えるし、何より練習になんぜ?」
「練習?」
「お前戦い方はまるきし素人じゃねーか」
さすがは玄人のサーガ君。一応分かるのね。
「足でまといのままでいいってんなら別にいいけどな」
「やる!」
「そーこなくっちゃな!」
かくして、なんとなくサーガの言葉に踊らされた感もあったが、戦い方の練習にもなるということで、その張り紙に書いてある仕事を請け負うことになった。
その張り紙にはこう書いてあったのだ。
「宝玉泥棒を捕まえるために、腕の立つ者を募集中!」
キーナに果たして、できるのでありましょうか?
「いやにお若いですが、大丈夫ですか…?」
受付の男が聞いてきた。
「ああ、俺は戦場で戦ってきたし、それにコイツは…」
と何やら受付の男の耳元にボソボソと囁くサーガ。
しばらく二人でじっとキーナを見つめていたが、
「分かりました。しかしこちらの規定として、命の…」
「わーってる、わーってるって!」
と受付の男の肩をバシバシと叩くと、
「あんがとよ!」
と半分無理矢理中へ通った。
キューちゃんもフラフラと着いてくる。
案内された廊下を通って、屋敷内へ入っていく。
「何話してたの?」
キーナが聞いた。
「ん? ああ、あの受付の奴、お前のことがどうにも信用ならねぇって言うから、あの名高い赤の賢者、ラオシャス
魔道士の隠し子ってことにしたんだ」
キーナがずっこけた。
誰の隠し子だと?
「隠し子? ラオシャスって誰?」
「知らねぇか? 女たらしで有名なミドル王国の宮廷魔道士」
ミドル王国? 魔道士?
というと、おじいさん?!
「おじいさんの?!」
びっくりたまげた。
「知ってるのか?」
「修行受けてた」
「あの魔道士直々に?!」
今度はサーガがブッ飛んだ。
「驚くこと?」
「だ、だっておま…」
キーナには何が凄いのかよく分かっておりません。
「女ったらしでも魔導では右に出る者はいないと謳われてるほどの実力者で、滅多なことじゃ弟子もとらないって…。本当に気に入った者しか弟子にしないことで有名で、あの魔道士直々に教わることは、魔導を志す者にとっちゃ、とてつもないことだって聞くぞ!」
「そんななんだぁ?」
おかしいなぁ? 普通に親切に教えてくれたけどなぁ。
などと考えるキーナ。
まあまだいろんなことが分かっていないのだから仕方ない。
無自覚すぎるというか、鈍感すぎるというか…。
「だったら隠し子なんかにしなくても良かったな。それだけで十分話つけられたぜ」
と頭をかくサーガ。
「そうだよ! どうすんの!?」
「今更言っても遅い!」
そういう条件で入ってしまったのだ。今更間違いとも言えません。
「なるようにしかならねぇだろ」
「投げやり!」
と言い合いながら、待合室に到着した二人。
扉を開けると、中には既に待ち人が。
「あら?」
と色っぽい声が発せられた。
「これはこれは…」
まさに二枚目とも言える声が発せられる。
「可愛らしいこと…」
色っぽい上に、本当に服を着ているのかと思しき、まさに女魔道士とも言える服装の女が言った。ほぼ大事な部分しか隠れていないので、見ているこちらが赤くなりそうだ。
キーナの感想は、
(寒くないのかしら?)
だったけど。
「お?」
思わず目がハートになるサーガ。
さすがスケベの権現。
これみよがしに、ソファーに腰掛ける色っぽいお姉さんの胸や腰や尻の辺りを眺めまわし、鼻の下を伸ばしている。
正直すぎるだろ。
「うへへへ…、お姉さん達もボディガード?」
涎の垂れそうな声でサーガが聞いた。
「そうよ。危ない仕事だから、実力のない者は帰ってもらってるの」
言うが早いか、後ろに立っていた髪の長い男が素早く動く。
気づいたサーガ、素早く剣を抜いて、
ガキィッ!!!
間一髪、剣を受け止めた。
「ふ、まぁ、そこそこの実力はありそうだな」
男がすんなり剣を引いた。
「意地汚ねぇぜ」
サーガが口の端をあげ、二人をぎらりと睨む。
「こうやって来た奴ら全員に奇襲をかけて追い出して、報酬独り占めか?」
ゆっくりと剣を納めるサーガ。
その後ろでキーナは何が起こったのかいまだに良く分かっていない顔をしている。
「ふふ…、ここの主人もね、できるだけ経費は節約したいそうなのよ。だから協力してあげてるのよ」
三人が睨み合う。
なぜこんな剣呑な空気になってしまっているのかいまいち良く分かっていないキーナだけはあたふたしている。
「みんなで仲良くやろうよう」
と言いたいのだけど、なんとなく言ってはいけないような気がしている。
正解。
「で? 俺達は合格?」
ようやくサーガが口を開いた。
「一応ね」
女魔道士がくすりと笑った。
「せいぜい、私達の足を引っ張らないように頑張って頂戴。坊や達」
ズシッ
キーナの頭に漬物石が降ってきた。
と言っても実際に降ってきているわけではなく、それだけの衝撃を受けたということです。
「ぼ、僕もがー!!!」
「お、落ち着けって…」
事態を察したサーガが慌てて止めに入る。
そしてボソボソとキーナに耳打ちする。
「面倒くせえから男だと思わせとけ」
「なんで?!」
キーナも小声で返す。
「あ~いうのはねちっこいんだよ。お前が女だって分かったらまたなにかしてくるかもしれねぇ。だから、な」
「う…ん」
煮え切らないものはあったが、これ以上ゴタゴタするのも嫌なので、この場は納得することにした。
(だけど僕、そんなに男に見えるかな?)
そのことについては…、作者沈黙。
色っぽいお姉さんと、その隣に立つハンサムで髪の長い男が自己紹介をした。
「私の名はイエムル。こっちはイグハ。あなたがたは?」
「サーガに、キーナだ」
キューちゃんについては自己紹介されなかった。
まあ仕方ないか。
依頼の内容はこうだ。
この館の主人、パーファッド・グネフトルーゼ氏が、とある筋からとても希少な宝玉、光の宝玉を手に入れた。すると先日、それを狙って賊がやってきたという。
その時賊は、展示用の贋作を持って去っていったということであるが、気がついてまた取りに来るかもしれない。
先に賊が来た折に、見張りにいた衛兵達はみなやられてしまったので、代わりに宝玉を守り、しいては賊を捉えて欲しい、ということだった。
「ねえ、サーガ」
「あん?」
「本当に来るのかな?」
「さあな」
お色気コンビが宝玉の周りの警戒に当たるというので、キーな達はとりあえず周りが見渡せる屋根に上がって周りの警戒にあたっていた。
といいながら耳くそほじってるサーガであるけど。やる気ないなこいつ。
「だいたいそんな伝説の宝玉がこんな所にあるわけねぇだろ」
「違うの?!」
てっきり本物だと思っていたキーナ。
人の話を素直に信じすぎだ。
「ったり前だろ。精巧な模造品だよ。ってか、お前も魔法使えるなら分かれよ」
「ふにゃ?」
まだまだそういう気配を感じるのは未熟なキーナ。なにせ、やっと精霊の気配を普通に感じ取れるようになったばかり。
仕方ないっちゃ仕方ない。
ウフォン…
突然空気が変わった。
「な、何?! なんにゃ?!」
慌てるキーナ。
「風の結界だろ」
ため息をつくサーガ。
そんなこともわからんで本当に魔道士かよ…。
と内心思ってみたりして。
「大方あの自信満々コンビがかけたんだろ」
と、ゴロリと横になる。
「そ~か~」
気の抜けた返事をするキーナ。
来るかどうかも分からない敵を待ち続けて、夜は更けていく…。
ウホ~
ウホ~
どこかでフクロウ?の鳴く声がする。
どれくらい時間が経ったのか、キーナもウトウトと自分の膝を枕替わりに、器用に体育座りの格好で眠っていた。
隣ではサーガがこれまた気持ちよさそうに、屋根から落ちないように器用に転がっていた。
細い三日月が心もとない弱い光で、夜空に浮かんでいる。
闇の濃くなる時間…。
不意に、キーナは目が覚めた。
何かよく分からない気配を感じて、辺りをキョロキョロと見回す。
特に変わった様子はなかった。
屋敷もみんな寝入っているのか静かであるし、風の結界もきちんと張られたまま。
何故自分の目が覚めたのかもよくわからなかった。
(何だろ…? よく分からないけど、胸がドキドキする…)
不整脈か? などと考えながら、とりあえず隣でグースカ寝ているサーガを起こす。
「サーガ、ねえサーガ」
「あん?」
寝ぼけ眼でキーナを見ると、
「なんだ? 便所か? 一人で行け」
「違うわ!」
小学生か! とつっこみを入れたかったが、この世界に小学生というものはないだろう。
その時、二人は気づいた。
その、異質な気配に。
ドオン!
突然屋敷が爆発した。
「なんにゃ?! なんにゃ?!」
「敵襲だ!」
屋根から落ちそうになって慌てるキーナ。慣れた様子のサーガ。
何かの力が働いたのは分かったが、それがどこから来たのか分からない。
「この結界破って、しかもこの威力か。相当な実力者だなこりゃ」
サーガがにやりと笑う。
揺れの収まった屋根にいまだにしがみついたまま、キーナは辺りを見回し、その気配に気づいた。
暗い夜空に黒い何かが浮かんでいる。
「サーガ」
「ん?」
キーナの指差す方を見ると、黒髪の黒いマントを身につけた若い男が、闇夜の中浮かんでいた。
「あいつか…」
「みたいだね」
静かに屋敷を見下ろしながら、ゆっくりと男は近づいてきた。
「派手にやってくれたわね」
階下から声が聞こえてきた。
「後片付けが大変だ」
あの自信満々、お色気ムンムンコンビの声だ。
覗いてみると、屋敷の壁は壊されていたが、中の方はほとんど被害がないようだった。
二重に結界を張っていたらしい。
「宝玉を… よこせ…」
男がつぶやいた。
「そうはいかないさ」
イグハがスラリと剣を抜き放つ。
「いいかキーナ。あいつらの戦い方よっく見とけよ」
「うん?」
キーナが首を傾げる。
(最悪報酬はなくなるかもしれんけど、魔道士と剣士の戦い方の手本見れるからいっか)
そこそこ戦い慣れしてそうな二人だ。それなりに手本となる動きをしてくれるに違いない。
なんとなく手本にするには性格の面で微妙ではあったが、キーナに見せる分には十分だろう。
「風(カウ)翔(レイ)」
イエムルが呪文を唱えると、イグハの体がふわりと浮き上がり、黒い男に向かって行った。
どうやら剣士の方は魔法が使えないようだった。
それだけでも三流だけど…、とサーガは心の中で突っ込む。
イグハの剣筋は悪くない。だが、黒い男はその剣をやすやすと受け止め、またはかわしている。
「ほえ~」
その戦いぶりを見ていたキーナがため息を漏らす。
「魔道士は剣士の援護をしながら、武器を伺って大きな魔法を練る」
「フムフム」
サーガ君の戦い方講座が始まった。
その一つを何気なく見ていたサーガが、なにか思いついたらしい。
キーナに何かを告げた。
「いいよ。お金ならまだあるもん」
「ばかだな~、金だっていつかはなくなるんだぜ? 一泊分浮くし、金貰えるし、何より練習になんぜ?」
「練習?」
「お前戦い方はまるきし素人じゃねーか」
さすがは玄人のサーガ君。一応分かるのね。
「足でまといのままでいいってんなら別にいいけどな」
「やる!」
「そーこなくっちゃな!」
かくして、なんとなくサーガの言葉に踊らされた感もあったが、戦い方の練習にもなるということで、その張り紙に書いてある仕事を請け負うことになった。
その張り紙にはこう書いてあったのだ。
「宝玉泥棒を捕まえるために、腕の立つ者を募集中!」
キーナに果たして、できるのでありましょうか?
「いやにお若いですが、大丈夫ですか…?」
受付の男が聞いてきた。
「ああ、俺は戦場で戦ってきたし、それにコイツは…」
と何やら受付の男の耳元にボソボソと囁くサーガ。
しばらく二人でじっとキーナを見つめていたが、
「分かりました。しかしこちらの規定として、命の…」
「わーってる、わーってるって!」
と受付の男の肩をバシバシと叩くと、
「あんがとよ!」
と半分無理矢理中へ通った。
キューちゃんもフラフラと着いてくる。
案内された廊下を通って、屋敷内へ入っていく。
「何話してたの?」
キーナが聞いた。
「ん? ああ、あの受付の奴、お前のことがどうにも信用ならねぇって言うから、あの名高い赤の賢者、ラオシャス
魔道士の隠し子ってことにしたんだ」
キーナがずっこけた。
誰の隠し子だと?
「隠し子? ラオシャスって誰?」
「知らねぇか? 女たらしで有名なミドル王国の宮廷魔道士」
ミドル王国? 魔道士?
というと、おじいさん?!
「おじいさんの?!」
びっくりたまげた。
「知ってるのか?」
「修行受けてた」
「あの魔道士直々に?!」
今度はサーガがブッ飛んだ。
「驚くこと?」
「だ、だっておま…」
キーナには何が凄いのかよく分かっておりません。
「女ったらしでも魔導では右に出る者はいないと謳われてるほどの実力者で、滅多なことじゃ弟子もとらないって…。本当に気に入った者しか弟子にしないことで有名で、あの魔道士直々に教わることは、魔導を志す者にとっちゃ、とてつもないことだって聞くぞ!」
「そんななんだぁ?」
おかしいなぁ? 普通に親切に教えてくれたけどなぁ。
などと考えるキーナ。
まあまだいろんなことが分かっていないのだから仕方ない。
無自覚すぎるというか、鈍感すぎるというか…。
「だったら隠し子なんかにしなくても良かったな。それだけで十分話つけられたぜ」
と頭をかくサーガ。
「そうだよ! どうすんの!?」
「今更言っても遅い!」
そういう条件で入ってしまったのだ。今更間違いとも言えません。
「なるようにしかならねぇだろ」
「投げやり!」
と言い合いながら、待合室に到着した二人。
扉を開けると、中には既に待ち人が。
「あら?」
と色っぽい声が発せられた。
「これはこれは…」
まさに二枚目とも言える声が発せられる。
「可愛らしいこと…」
色っぽい上に、本当に服を着ているのかと思しき、まさに女魔道士とも言える服装の女が言った。ほぼ大事な部分しか隠れていないので、見ているこちらが赤くなりそうだ。
キーナの感想は、
(寒くないのかしら?)
だったけど。
「お?」
思わず目がハートになるサーガ。
さすがスケベの権現。
これみよがしに、ソファーに腰掛ける色っぽいお姉さんの胸や腰や尻の辺りを眺めまわし、鼻の下を伸ばしている。
正直すぎるだろ。
「うへへへ…、お姉さん達もボディガード?」
涎の垂れそうな声でサーガが聞いた。
「そうよ。危ない仕事だから、実力のない者は帰ってもらってるの」
言うが早いか、後ろに立っていた髪の長い男が素早く動く。
気づいたサーガ、素早く剣を抜いて、
ガキィッ!!!
間一髪、剣を受け止めた。
「ふ、まぁ、そこそこの実力はありそうだな」
男がすんなり剣を引いた。
「意地汚ねぇぜ」
サーガが口の端をあげ、二人をぎらりと睨む。
「こうやって来た奴ら全員に奇襲をかけて追い出して、報酬独り占めか?」
ゆっくりと剣を納めるサーガ。
その後ろでキーナは何が起こったのかいまだに良く分かっていない顔をしている。
「ふふ…、ここの主人もね、できるだけ経費は節約したいそうなのよ。だから協力してあげてるのよ」
三人が睨み合う。
なぜこんな剣呑な空気になってしまっているのかいまいち良く分かっていないキーナだけはあたふたしている。
「みんなで仲良くやろうよう」
と言いたいのだけど、なんとなく言ってはいけないような気がしている。
正解。
「で? 俺達は合格?」
ようやくサーガが口を開いた。
「一応ね」
女魔道士がくすりと笑った。
「せいぜい、私達の足を引っ張らないように頑張って頂戴。坊や達」
ズシッ
キーナの頭に漬物石が降ってきた。
と言っても実際に降ってきているわけではなく、それだけの衝撃を受けたということです。
「ぼ、僕もがー!!!」
「お、落ち着けって…」
事態を察したサーガが慌てて止めに入る。
そしてボソボソとキーナに耳打ちする。
「面倒くせえから男だと思わせとけ」
「なんで?!」
キーナも小声で返す。
「あ~いうのはねちっこいんだよ。お前が女だって分かったらまたなにかしてくるかもしれねぇ。だから、な」
「う…ん」
煮え切らないものはあったが、これ以上ゴタゴタするのも嫌なので、この場は納得することにした。
(だけど僕、そんなに男に見えるかな?)
そのことについては…、作者沈黙。
色っぽいお姉さんと、その隣に立つハンサムで髪の長い男が自己紹介をした。
「私の名はイエムル。こっちはイグハ。あなたがたは?」
「サーガに、キーナだ」
キューちゃんについては自己紹介されなかった。
まあ仕方ないか。
依頼の内容はこうだ。
この館の主人、パーファッド・グネフトルーゼ氏が、とある筋からとても希少な宝玉、光の宝玉を手に入れた。すると先日、それを狙って賊がやってきたという。
その時賊は、展示用の贋作を持って去っていったということであるが、気がついてまた取りに来るかもしれない。
先に賊が来た折に、見張りにいた衛兵達はみなやられてしまったので、代わりに宝玉を守り、しいては賊を捉えて欲しい、ということだった。
「ねえ、サーガ」
「あん?」
「本当に来るのかな?」
「さあな」
お色気コンビが宝玉の周りの警戒に当たるというので、キーな達はとりあえず周りが見渡せる屋根に上がって周りの警戒にあたっていた。
といいながら耳くそほじってるサーガであるけど。やる気ないなこいつ。
「だいたいそんな伝説の宝玉がこんな所にあるわけねぇだろ」
「違うの?!」
てっきり本物だと思っていたキーナ。
人の話を素直に信じすぎだ。
「ったり前だろ。精巧な模造品だよ。ってか、お前も魔法使えるなら分かれよ」
「ふにゃ?」
まだまだそういう気配を感じるのは未熟なキーナ。なにせ、やっと精霊の気配を普通に感じ取れるようになったばかり。
仕方ないっちゃ仕方ない。
ウフォン…
突然空気が変わった。
「な、何?! なんにゃ?!」
慌てるキーナ。
「風の結界だろ」
ため息をつくサーガ。
そんなこともわからんで本当に魔道士かよ…。
と内心思ってみたりして。
「大方あの自信満々コンビがかけたんだろ」
と、ゴロリと横になる。
「そ~か~」
気の抜けた返事をするキーナ。
来るかどうかも分からない敵を待ち続けて、夜は更けていく…。
ウホ~
ウホ~
どこかでフクロウ?の鳴く声がする。
どれくらい時間が経ったのか、キーナもウトウトと自分の膝を枕替わりに、器用に体育座りの格好で眠っていた。
隣ではサーガがこれまた気持ちよさそうに、屋根から落ちないように器用に転がっていた。
細い三日月が心もとない弱い光で、夜空に浮かんでいる。
闇の濃くなる時間…。
不意に、キーナは目が覚めた。
何かよく分からない気配を感じて、辺りをキョロキョロと見回す。
特に変わった様子はなかった。
屋敷もみんな寝入っているのか静かであるし、風の結界もきちんと張られたまま。
何故自分の目が覚めたのかもよくわからなかった。
(何だろ…? よく分からないけど、胸がドキドキする…)
不整脈か? などと考えながら、とりあえず隣でグースカ寝ているサーガを起こす。
「サーガ、ねえサーガ」
「あん?」
寝ぼけ眼でキーナを見ると、
「なんだ? 便所か? 一人で行け」
「違うわ!」
小学生か! とつっこみを入れたかったが、この世界に小学生というものはないだろう。
その時、二人は気づいた。
その、異質な気配に。
ドオン!
突然屋敷が爆発した。
「なんにゃ?! なんにゃ?!」
「敵襲だ!」
屋根から落ちそうになって慌てるキーナ。慣れた様子のサーガ。
何かの力が働いたのは分かったが、それがどこから来たのか分からない。
「この結界破って、しかもこの威力か。相当な実力者だなこりゃ」
サーガがにやりと笑う。
揺れの収まった屋根にいまだにしがみついたまま、キーナは辺りを見回し、その気配に気づいた。
暗い夜空に黒い何かが浮かんでいる。
「サーガ」
「ん?」
キーナの指差す方を見ると、黒髪の黒いマントを身につけた若い男が、闇夜の中浮かんでいた。
「あいつか…」
「みたいだね」
静かに屋敷を見下ろしながら、ゆっくりと男は近づいてきた。
「派手にやってくれたわね」
階下から声が聞こえてきた。
「後片付けが大変だ」
あの自信満々、お色気ムンムンコンビの声だ。
覗いてみると、屋敷の壁は壊されていたが、中の方はほとんど被害がないようだった。
二重に結界を張っていたらしい。
「宝玉を… よこせ…」
男がつぶやいた。
「そうはいかないさ」
イグハがスラリと剣を抜き放つ。
「いいかキーナ。あいつらの戦い方よっく見とけよ」
「うん?」
キーナが首を傾げる。
(最悪報酬はなくなるかもしれんけど、魔道士と剣士の戦い方の手本見れるからいっか)
そこそこ戦い慣れしてそうな二人だ。それなりに手本となる動きをしてくれるに違いない。
なんとなく手本にするには性格の面で微妙ではあったが、キーナに見せる分には十分だろう。
「風(カウ)翔(レイ)」
イエムルが呪文を唱えると、イグハの体がふわりと浮き上がり、黒い男に向かって行った。
どうやら剣士の方は魔法が使えないようだった。
それだけでも三流だけど…、とサーガは心の中で突っ込む。
イグハの剣筋は悪くない。だが、黒い男はその剣をやすやすと受け止め、またはかわしている。
「ほえ~」
その戦いぶりを見ていたキーナがため息を漏らす。
「魔道士は剣士の援護をしながら、武器を伺って大きな魔法を練る」
「フムフム」
サーガ君の戦い方講座が始まった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる