キーナの魔法

小笠原慎二

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ミドル王国編

夢2

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またあの夢。
闇の中に独り。
音もなく気配もなく、ただ独りでそこに存在している。
闇の中にポツンと独り。

(また、この夢・・・。今はテルがいないのに・・・)

果てしなく独り。
孤独感に押しつぶされそうになる。
せめて光が、音があれば・・・。
ガッ・・・ガッ・・・ガッ・・・
音?
どこからか何かの音が聞こえてきた。

「? 何の音?」

キョロキョロと辺りを見回す。
すると、ボウッと何かが見えてきた。
黒髪で後姿だが、まぎれもなくそれはテルディアス。
昨日よりも背が高くなっていた。
なぜか壁をしきりに拳で殴っている。
既にその拳は血だらけになっていた。

「テルッ?!」

そのまま殴り続ければ、手が壊れてしまうだろう。

「テルッ!! 何してるの!」

慌ててキーナがその腕にしがみつき、殴るのを阻止しようとする。
だがしかし、

「何だお前・・・」

冷たい瞳でキーナを睨む。
あまりに冷ややかな瞳にキーナはギクリとした。

「邪魔だ!!」

パン!!

「あ・・・っ」

頬をしこたま殴られ、床に転がるキーナ。
そんなキーナに目もくれず、テルディアスは再び壁を殴り始めた。
ガッ・・・ガッ・・・ガッ・・・
痛みですぐに体を動かすことができない。

「テル・・・」

憎しみのこもった瞳で壁を殴り続けるテルディアス。
痛みをこらえ、キーナがよろよろとテルディアスの腰にしがみついた。

「だめ・・・」

テルディアスの動きが止まった。

「やめて・・・、手が、壊れちゃう・・・」

消え入りそうな、掠れた声だったが、かろうじてテルディアスの耳に届いた。
微かに声が震えている。
もしかしたら泣いているのかもしれない。

バン!!!!
ビクッ

テルディアスが大きく壁を叩いた音に、キーナが身をすくめる。
だがそれ以降は殴る音はしてこなかった。

「母様が死んだ・・・。どうしてもっと早く・・・」

やはり消え入りそうな声で、テルディアスが何か呟いているのがキーナには聞こえた。

「どうして・・・、俺に会いに来てくれなかった・・・・、父様・・・」

テルディアスの体は細かく震えていた。

(テル・・・)

母親が死んだと話していたテルは平気そうな顔をしていたが、やはり辛かったのか・・・。
そしてやはり、父親に会いたがっていたのだ。
表面上は平気そうにしていたのに・・・。
キーナはどうしていいかわからず、ただ、テルディアスの悲しみが少しでも晴れるように祈った。
不意にテルディアスが体を起こした。
腰に巻きついたキーナの腕をはがそうと手をかける。

「あ、ごめん・・・」

なんだかちょっと気恥ずかしくなってパッと腕を解くキーナ。
すると、フラッとテルディアスがどこかに向かって歩き始めた。

「? テル?」

その時

ゾクリ・・・

背筋を悪寒が走った。
足の力が抜けて、その場にへたり込んでしまうキーナ。

「あう・・・」

身震いが止まらない。
息が荒くなっていく。

(これは――――?)

いや、なんとなく分かっていた。

(だめ・・・テル!)

テルが歩いていってしまう。

「そっちに・・・行っちゃ、だめ・・・!」

テルの歩みは止まらない。

(テル! 戻って! じゃないと・・・)

テルの背中がどんどん遠ざかっていく。

「闇に・・・! 捕まっちゃう・・・!」

テルディアスの周りに、闇が集まり始めた。

「テルッ!!!」

そして魔女が現れ、テルディアスを抱えて・・・。

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