キーナの魔法

小笠原慎二

文字の大きさ
上 下
3 / 296
始まりの始まり

事の起こり

しおりを挟む
服が乾いたので少女が着替えると、その男は言った。

「街道近くまでは送ってやる。その後は一人で行け」

ブーたれても意見は聞き入れてくれなさそうだ。

「あなたは何してる人なの?」

少女が歩きながら聞いてみる。

「俺か?俺は…、あるものを探して旅をしている」
「じゃ、僕も一緒に旅をさせてよ!」
「は?」
「異世界から来たって言ったっしょ。行くとこもないし頼れる人もいないしお金もないし…」
「だからサンスリーに行け」
「いやだ!一緒に行く!行く!!行く!!!行く!!!!」
「だめだ。だめだ。だめだ」
「じゃあ、顔を見せて」

脈絡もくそもない。

「顔を見せるか一緒に連れてくか二つに一つ!」

最早見る気満々のワクワクした表情で、少女は逃がさないように男のマントの裾を掴んでいる。
その男は思った。

(俺に選択権はないのか?)

そしてあきらめた。

「仕方ない、顔を見せてやる。だが、…後悔しても知らんぞ」

フードをゆっくりと脱いでいく。
ドキドキワクワク!
かっこいい顔か、ブッ細工な顔か。

(ブッ細工だったらほかに人を探そう)

なんてやつだ。
フードがはずされ、口元を覆っていたマスクもはずされた。
するとそこから出てきた顔は…
一言で言ってしまえば

「端正な顔立ち」

だけど、だけど、だけど・・・

髪は銀髪。
肌の色は青緑。
耳は長く伸びてつんと尖っている。

「これでわかったろ」

そういってその男は顔を俯かせた。

「お、…お肌ってそんな色してんの!?」

というとその男は見事にその場にずっこけた。

「は?」
「へ~、耳もとんがってるし、髪は銀髪か~。妖精みたいなんだね~。初めて見たな~」

あまりにも珍しいので(というか初めて見るし)ずずいっと顔を近づける。

「ちょっとまて。何を言ってるんだ。よく見ろ」

といわれたので余計に顔を近づけて、じ―――――――――――っとよく見る。

「何か違うの? あ、お肌の色ね! 青緑色? 僕と違うのね~」

と感心。

「そうじゃない! …お前なぁ、ダーディンを知らんのか?」
「ダーディン?知らない」

きっぱり。

「何それ?」
「だ~か~ら~…ウクルナ山脈の向こうに住むと言われている喰人鬼だ。肌の色は青緑。髪は銀髪。尖った耳をしている冷酷無比な連中だ」
「へ~、そんなのもいるんだ~…ん?」

銀髪の髪。青緑の肌。尖った耳。

「まさか…その…ダーディン?」
「その反応が普通なんだ!」

男は思った。

(疲れる…)
「信じないとは思うが、俺はダーディンじゃない。元は普通の人間なんだ。質の悪い魔女にこんな姿にされたんだ…」

哀しみをその瞳に湛え、言いにくそうにその男は言った。

「そ~なんだ~、大変だね~」

少女は納得したように首をうんうんと振った。
その様子を見て男の顔が曇る。

「…信じるのか?」
「嘘なの?」
「いや、嘘ではないが…」

あまりに予想外の反応に男はなんと言ったらいいのか困った。

「もしホントにそのダーディンだったらもう食べられてるでしょ。そんな悪意感じないし、溺れてる僕を助けてくれたし、フードを取らなかったのも僕を恐がらせないためでしょ? なにより命の恩人だし、信じるよ」


―――――信じる。


その言葉は何よりも重い言葉である。 


―――――信じる


いともたやすくその少女は口にした。
如何に重いことかも知らずに。

思いがけない言葉に男は絶句した。
顔が赤くなりそうなのを必死に隠そうと後ろを向いた。

「ち、ちょっと待ってくれ」

赤くなったのが自分で感じ取れるほど。

(何なんだこの女? 異世界から来たなどと変な事は言うわ、ダーディンのことを何一つ知らないわ、それに…会ったばかりのわけの分からん男の言葉をあっさり信じるなどと言うわ…まさか魔女の差し金?)

ちらりと観察してみる。
しかしにっこ~~~とあほな笑いを返すだけだ。

(邪気がなさ過ぎる! もしや頭が少しおかしい奴なのでは…)

「あーーーー!わかった!」

突然少女が声を上げたのでビクリとなる男。

「何がだ?」
「旅してる理由!元に戻る方法を探してるんでしょ!」

なんだか嫌な予感がして男の顔が再び曇る。

「その通りだが…」
「な~んだ、だったら尚更僕を連れてってちょ!」
「どうしてそうなる!」

やっぱりそう来た。

「僕も元の世界に戻る方法を見つけたいし、 一人より二人の方が効率も良いよ! それにその姿だといろいろ不便なんじゃないの? 僕みたいのがいたほうがやり易い事とかもあるでしょ?」

にやり、と少女が笑う。

「…確かにお前の言うことには一理ある」
「そうでしょう♪」

姿を隠して行動しなければならない男にとって、手足となって動いてくれる者がいるのは有り難い。

「だがダメだ! 連れては行かん!」

男は強く言い放った。

「え~?なんで~?」
「なんでもだ。行くぞ。街道までもうすぐだ」

そういうとスタスタと歩き出した。

「ぶ――――――」
(どうしてそんなに頑なに拒むのかな?)

ぶーたれながらも男の後についていった。
その時だった。
少女の首筋めがけて何かがはしった。

「うわっ!」

気付いた少女が間一髪慌てて避ける。と、後ろの木がスパッと切り裂かれた。

ドサッ

幾本もの枝が落ちる。

「なんだ!?」

男が振り向いた。

「い、今、今の…」

驚きで言葉がうまく出てこない。

「どうした?何があった?」
「今、当たってたら、首が…」
「?!」
「首と体を切り離してやろうと思ったのに。うまく避けたこと☆」

どこからともなく美しい女性が現れた。長い黒髪、黒いタイトなドレス。だが身に纏う気配は邪悪なもの…。

「お前は! 魔女!」

男が少女を後ろに庇う。どうやら男の言っていた質の悪い魔女らしい。

「なんだ、近くで見ても大した事ないわね。一文の値打ちもない小娘があたしの玩具に近寄るなんて許せないわ。それはあたしのものよ。消えなさい」

そういうと左手を前に掲げた。力が迸る!

「ウル・ロー!」

男が叫んだ!

ズギャウウウウウウン!

男の作り出した結界が力を防ぐ!

「そんな小娘を庇うなんて、あなた正気なの? テルディアス。どうなるか分かってるんでしょうね?」

テルディアスと呼ばれた男は魔女を睨みながら、

「元より、貴様に従った覚えはない!」
「そうだったわね。あなたは唯一、あたしの元から逃げ出した人形♪ ああ、なんて面白いものを手に入れたんだろう。でも、人形は人形なりに、大人しくしていないといけないときもあってよ♪」
「カウ・ギ・ラチ!」

ゴウッ

風が刃となり魔女に襲い掛かった!しかし、魔女は微動だにせず全てを防ぐ。
風がおさまると、二人の姿は消えていた。

「逃げても無駄なのに」










「今のが魔女?!」

少女が走りながら問いかける。

「そうだ! 捕まったら殺されるぞ! とにかく街道へ! あそこには結界が張ってある。少しは目を眩ませられるかもしれん!」

飛ぶように走っていく。魔女はどこまで追いついてきているのか。

「街道だ!」

木々の間から道らしきものが見えてきた。

(これで助かるの?)

と、その時!

「わ!」

木の根っこにつまづいてしまった! とっさにテルディアスが少女の体を庇った。勢いづいて転がっていく!

ずざざざざ・・・
なんとか街道には辿り着いた…。

「大丈夫か?」
「うん、にゃんとか…ごめんにゃ」

鼻を打った。

「ひ・・・・・・」

人の気配がしたと思った途端、

「きゃああああああ! ダーディン! 誰か―――!」

見知らぬ女の人が逃げていった。

「ダーディンてあなたのこと?」
「そうだ。じゃあな。ここでお別れだ。達者でな」

男は短く別れの言葉を言うと、あっという間に反対側の茂みへ消えていってしまった。

「え! ちょ、ちょっと! まってよぉ―!」

独り置いていかれてしまった。行く当てもなく頼れる人もなし。
さあ、どうする?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...