異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

虹石のブレスレット

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「後は、無力化する方法だの…」
「つまりは、そいつの魔力を封じてしまえば良いのよね? だったら、良い物があるわね。ちょっと待ってて」

そう言って、イレーナは部屋を出て行った。

「八重子、この隙に体を休めておけ」
「え? だって、イレーナさんが戻って来るでしょう」
「いや、大分時間がかかりそうな感じだったの。詳しくは見えなかったが。さすがは神の力の一端を担う者だの。考えが読めぬ」

クロも出来ない事があるんだね。
お言葉に甘えて、ベッドに横になる。
色々考えてしまって眠れないかとも思ったけど、不思議とすぐに意識が落ちて行った。














「八重子」

そう呼ばれて、目が覚める。

「うわ、どれくらい寝てた?」
「3時間くらいかの。もうすぐ昼だの」

朝食べて、少し話してまた眠り、起きてみたらばもう昼だとは…。

「私…、よく寝る子だわね…」

顔を手で覆って、ちょっと反省。

「色々あって疲れていたのだろう。そういう時は眠って良いのではないのかの?」

クロさん優しい…。

「そして、もう少しで来るようだぞ。その寝ぼけ眼で迎える気かの?」

慌てて身支度し始めた。











コンコン
扉がノックされる。
クロが扉を開けると、イレーナと、もう1人男性が入って来た。

息を飲む。

黒いフードを取ると、黒髪に黒い瞳。ちょっと地黒の肌。切れ長の鋭さを思わせる目つき、整った顔立ち。
イレーナが息を飲むほどの美少女であるならば、この人は息を飲むほどの美青年。
心臓バックンバックン。これ程のイケメンが、いるものなのか…!

「遅くなってごめんなさい。ちょっと手間取っちゃって」

イレーナが小首を傾げて謝ってくる。
クロが私の側に立つ。新しく入って来た人を警戒してるのだろうか。

「あ、紹介するわね。さっき話してた、もう1人の協力者、テルデュクス。口は悪いけど、悪い人じゃないから」
「お前な、どういう紹介の仕方だ…」
「あら~? 真実を言っただけだけど?」

今の会話でよく分かる。この2人の仲が。
小さく溜息を吐いた。

「テルデュクスだ。ふん…、なるほどな。確かに、異質な気配だな。だが、確かに、俺に似ている…」
「でしょう? 面白いわよね」
「何の話だの」
「いや、系統的に俺によく似た力の持ち主だなとな。まあその話はどうでもいい。ええと、あんた…」
「八重子さん、ね」
「ヤエコ、さん。これを」

テルデュクスがポッケから何かを取り出して、私の方に差し出してくる。

「なんだの?」

クロが警戒している。

「大丈夫だ。魔力のないあんたらが触っても、何の害もない」

差し出して来たそれをクロが受け取り、私に渡してきた。
みれば、虹色に輝く石を連ねたブレスレットのような物。付けられている石が、荒削りで四角かったり六角だったりしているのがまたお洒落。じゃなくて。

「これは?」
「それは、所謂魔力を封じる石を装飾品にしたものだ。結構大変だった…」

テルデュクスが顔を青くしている。魔力を封じる石に触れていたのだ、体調を悪くしたか?

「人の身の制約を受けてるからね…。辛かったわ…」
「だな…。俺もこんなに大変だとは思わなかったぞ…」

なんか、ご苦労様?

「そうか、これを、あの子爵野郎に取っつけてやればいいのね!」

それくらいなら私でも分かるわ!

「いえ、それだけだと、外した途端に効果がなくなってしまうから」

いそいそとイレーナが側に寄ってきた。

「ちょっと掲げててくれる?」
「? はい」

掌に乗せて、イレーナに捧げるように持つ。
そこに、なにやらイレーナが目を閉じて、ブツブツ言い始めた。
ほどなくして、ブツブツ言うのをやめ、目を開ける。

「うん、なんとか定着させたわ…」

疲れた様に言った。

「何をしたのだの?」

クロが聞いて来た。

「一定の魔力を持つ者に触れた時に、その者の魔力回路を狂わせる魔法を仕込んだの。だから、触れた途端にその人は魔法を使えなくなってしまうというわけ。だから、それをターゲット以外に触れさせないように気をつけてね」
「あわあわあわ…」

それって、今目の前にいる2人に触れたら、途端に2人は魔法を使えなくなっちゃうわけだよね?

「えと、一定の魔力って、どれくらいの人?」
「下手をすると、その辺を歩いている人とか」
「それ、持ってたら不味くない?」
「一度きりしか使えない魔法だから。ターゲット以外に触れたら、その人が使えなくなって、ターゲットには使えなくなっちゃうから」
「あわあわあわ…」

なんか、重要アイテムをもらっちゃった?

「我が輩が預かっておこうか…」
「私が持ってます! 万が一クロに何かあったら大変だし!」
「いや、我が輩も魔力はないのだがの…」

急いで胸ポケットにしまった。これで滅多矢鱈に人に触れることはないだろう。

「あら、でも何か同じような回路はあるから、そこに影響するかもしれないわね?」

イレーナ、ナイスフォロー。
クロが渋面になる。

「これで必要な物は揃った。後は、どうやって彼奴の屋敷まで行くかだの」

クロが考え込む。
また国境を越えて、なんてやってたら、見つかる可能性大だしね。

「その家の詳細な場所は分かる?」

イレーナが聞いて来た。
クロを見る。もちろんだが、私に分かる訳ないのである。なにせずっとクロに負ぶわれて運ばれていたのだし、クロがどこに向かっているのかも分かっていなかったし。てへ。

「分かるが、何か方法があるのかの?」
「この人が、そういうの得意だから」

とテルデュクスを手で指し示した。
テルデュクスが渋面を作る。

「あまり、理をいじるのもなぁ…」
「緊急事態でしょう。堅いこと言わない」

おお? 転移とかの魔法が使えるとか? この世界ではそういう魔法は聞いた事なかったなぁ。あ、いつもシロガネ達に運んで貰ってたし、あまり関係なかったかな。
紙とペンをクロがどこからか取り出し、大まかに地図を書いていく。

「なるほどな…。そういう使い方もあるのか…」

何を感心しているのでしょう、テルデュクスさん?

「まあ、だいたいこんな感じかの」
「凄いわ。この世界にこれだけ正確な地図も作られてないから…」

イレーナが感心している。
私が覗き込むも、そこまで正確に書かれている様にも見えなかった。大まかに国境と森と道などが書かれているだけだ。これだけで正確な地図になるんだろうか?

「テル、テル、見て、見て。凄くない?」
「ほう…、確かに、こんなに細かく描かれてるのは初めて見るな…」

そんなものなのか?

「うん。これだけ正確なら、分かりやすい。開けるのもやりやすいな」

地図を見てうんうん感心している。

「さすがに屋敷の中とはいかぬか?」
「さすがにそこまでは無理だ。行ったことがあるならともかく、見たこともないとなると、下手すりゃ壁の中にってこともある」
「ふむ。それはまずいの」

あ、それ見たことあるよ。転移で失敗して壁にめり込むって奴。動けなくなるどころか、下手すりゃそのまま…。ブルブル。

「屋敷の前がいらぬほどにだだっ広かったのでの。その辺りに行かせて貰えれば、なんとか屋敷に潜入しよう」
「分かった。となると、位置は、この辺りか?」

テルデュクスが何か手を空中で動かし始めた。

「すぐ行くのか?」
「いや、暗くなってからの方が良かろう」
「それもそうだな」

という話しになったので、夕方までのんびり過ごす事になった。
2人はなにやら忙しいようで、お昼を一緒に食べた後、また夕方に来ると言ってどこかへ行ってしまった。
クロはなにやら考えているようで、あまり私の相手をしてくれない。
仕方ないのでぼんやりしていたら、いつの間にか夢の世界へと旅立って行っていた。
寝る子は育つ。ですね。横にとか突っ込んじゃだめよ。







泡沫の夢の中で、私は必死に前に進もうとしていたが叶わず、遠くでクレナイ達が藻掻いている姿が見えた。
ただの夢だと思いたい。
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