異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

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さっさとレオサークを出て、リュースルーにやって来た八重子達。この国にも然程の用はないので、適当な街に寄って美味しい物を食べ、やはり早々に目的の国へと移動したのだった。
自由な冒険者は楽である。

入国する時、やはり「参拝ですか?」と尋ねられ、「はい」といい笑顔で答える。
親切にも首都への行き方や、参拝には時間がかかるなどの事を教えてもらった。
首都では宿が取りにくいので、その近くの街で宿を取った方がいいなどなど。
クレナイが美味しい物はなんぞやと聞いていたが、特に特産物はないとのこと。

まあ、皆参拝目的だし、そういう宗教家は質素な食事が一応定番…、だと思いたい。ラノベあるあるだと、偉い人ほど良い物、俗物的な物食べてるんだよな…。
そんな思考は振り払い、教えられた道をテクテク歩いて、人のいない所へこっそり行って、やはりシロガネに。
え? 偶には歩け? 乗るまで歩いたでしょう。それに、シロガネも乗って欲しそうにしてるしね。うん、仕事させてあげないとね!

馬車で半日ならば、シロガネで数時間。空の旅を楽しんで、まずは最初の街へ。
あと2つほど街を抜けて、3つ目の街で宿を取った方がいいと言われた。首都はなにせ参拝客が多いので宿がほぼ一年中埋まっているのだとか。
せっかくなので最初の街で1日目を過ごす。この街にも冒険者ギルドはあるんだね。一応顔を出しておいた方がいいかしらと足を向ける。
掲示板を少し眺めるも、なんだかお使い程度の依頼しかなかった。

「低位の魔物くらいしか出ないみたいだね、ここは」
「うむ。これでは冒険者が育たぬのう」

宗教国家だから、何か大きな結界でも張ってあるのかもしれない。シロガネに聞いてみたが、首を傾げた。

「そんな雰囲気は感じぬであるが?」

違うのかしら?
長居して仕事を押しつけられるのもあれだしと、早々にギルドを出た。今まで見たギルドの中で一番人が少なかったな。まあ、視線は痛かったが。原因はまあ、うちの美形ズのせいだろうが。
しかし、白い建物が多い。ギルドも他の街より白かった。これ、夏は眩しくないんだろうか。
教えられた通りに特産品があるわけでもなく、クレナイレーダーも反応が悪かった。

「肉の臭いがあまりせぬのじゃ」

もしかしたら、精進料理系なのか?
クレナイレーダーで多少の反応を示した飯屋で食べることに。確かにお肉料理はメニューに少ない。シロガネにはとてもいい所かもしれない。
量的にも微妙に少なく、クレナイも少ない肉料理を選んで注文するも、さすがに足りぬと懇願してきた。大人1人分をペロリと平らげるようになったハヤテも足りないと言っていたので追加注文。ちなみに私も。
シロガネもサラダを特盛りにしてムッシャムシャ食べていた。余程美味しかったらしく、シロガネもお代わりしていた。
この国は野菜が美味しい国なのかもしれない。

厩舎のない宿もすでに定番。4人部屋に通され、それぞれのベッドに潜り込む。
ちなみに、お風呂はなく、久々のタライ風呂。首都には大衆浴場があるらしいので、早々に首都に向かおうと意見が揃った。
行水するところはあるらしい。
滝行?












馬車で行けば3日はかかる道程も、シロガネのおかげですーいすい。クレナイも飛ばせてあげたかったけど、一応知らない国なので自重。マメダに帰ったら飛ぼうね。もちろん夜に。
次の日の暮れ時には3つ目の街に着く。これがチート能力というものか! 私の力じゃないけど。
有り難いのはこの街にも大衆浴場があったこと。ただ、シロガネご苦労様、好きなだけ入っておいでと言ったのは間違いだった。何時間入ってる気だったんだ。
途中で渋るクロにハヤテと迎えに行って貰った。クロに何を言われたのか、ちょっとしょぼんとなりながらシロガネが帰って来た。いや、今回はシロガネが悪い。

今宵の宿にと選んだ所は、少し街外れの所にあった。まだ幼い看板娘のいる所で、そのちょこまか動き回る姿にほんわかする。時折危なっかしいものの、お客さんの温かい対応で、なんとかこなしていく看板娘。それをお姉ちゃん看板娘が慌ててフォローに入るという。はあ、萌え。
精神的にも癒やされて、明日はとうとう参拝じゃと、早めに床に就いた。

なのに、何故私は朝の鐘を聞けないのだろう?

「ただの寝坊だの」

クロさんうっさい。
人が少なくなっている食堂に降りて行く。

「おはようございます」

お姉ちゃん看板娘が良い笑顔で声を掛けてくれた。

「おはようございます」

こちらも返す。
朝食セットを人数分+2人前注文して、テーブルに座って待つ。ほどなく良い匂いのする朝食が運ばれてきた。ここでも料理は野菜中心メニューだった。クレナイの顔がちょっとがっかりしている。

「お客さん達、参拝の方ですか?」

お姉ちゃん看板娘が聞いて来た。

「うん。そうよ。参拝に来たの」

美味しく頂きながら答える。野菜だけでも十分美味しい。
すると、お姉ちゃん看板娘がちょっと言いにくそうな顔をした。

「何か?」
「いえ、その…」

口元に手を当て、何かを迷っている。

「?」

言おうかどうしようか迷っている風だったので、一応待つ。
お姉ちゃん看板娘が意を決したように、こちらの目を見た。

「あの、今からだと、今日の参拝は無理だと思いますけど…」

あんだってぇ?














初心者には良くあることだと、お姉ちゃん看板娘のミンティスが教えてくれた。
参拝にも限りがあるので、朝早く、それこそ夜明け前に並ばないと、その日のうちの参拝は難しいのだと。
ぬあにぃ? 夜明け前だとう?

「ど、どれだけ人が並んでるんだ…」
「一応、見に行ってみた方が良いですよ。あれを見たら、夜明け前も納得出来ます」

ミンティスちゃんも見たことあるのね。
ミンティスちゃんは12歳くらいだろうか。ちょっとコハクのことを思い出してぐっとなる。コハクも大きくなったら、こんな風に大人っぽくなったんだろうか…。
妹ちゃんの名前も聞いてみたら、フリスというのだそうだ。7歳の可愛い盛り。今は朝のごたごたが一段落したので、朝食を摂っているとのこと。可愛いなぁ。

礼を言って、とにかく見に行ってみることにする。行けばすぐに分かるとのこと。
この街は首都から1時間程しか離れていない街ということなので、朝食が終わり次第、ポクポク歩いて向かってみた。さすがにこの距離でシロガネに乗るのは、人に見つかる恐れが大だからね。

ところが、30分も歩かないうちに、人が並んでいるのが見えて来た。ずらっと。綺麗に2列で。
時折団体さんなのか、列が3列になっていたりしたが、ほぼ綺麗に2列に揃っている。
なんじゃこりゃと、列の横を首都に向かって歩いて行くと、首都の門らしき物が見えてくる。列はそこに続いていた。
門の所で冒険者証を出し、この列は何の列かと問いかければ、苦笑いして答えた。

「参拝者の列だよ」

うわお。
思った通りの答えが返ってきた。

参拝用の大聖堂は街の中心の方にあると聞いて、試しに行ってみることにした。
参道なのか、綺麗に整えられた道幅のあるほぼ真っ直ぐの道を、ズラズラと列はどこまでも続き、周りには色々な屋台が並んでいた。皆お昼は屋台で買うんだろうな。

「確かにこれは…、夜明け前、下手すると徹夜で並ばないと駄目かも…」
「人間は物好きじゃな」
「そうであるな」

いつの間にか何かを買っていたクレナイが、それを食べながら列を眺める。シロガネも呆れたように同意した。

「いや、あのね、こういうのは順番というものがあってね、それを破ると、すんごい顰蹙を買うのよ。あ~、明日はあたし達もあそこに並ばなきゃいけないのか~」
「あれに並ぶのかえ? 主殿」
「参拝ならば、すっと行って帰ってくれば良いである」

そうはいかないのよ。
大聖堂まで一応見に行ってみると、どうやら中に入るのに人数制限みたいなものがあるらしく、最低でも1人、もしくは一緒に来た団体さんが5、6人で入って行き、その人達が出て行くと、次の待っている人達が入って行った。そりゃ時間かかるわ。
しかも入る手前にいるシスターのような人の持っている籠に、お布施らしきものを入れている。
お賽銭か。

「やっぱりお参りにお金がいるのね」

まあ当然か。

「皆で一緒に入ってしまえばすぐに終わろうものじゃがのう」

ふと、正月のテレビでよく見る○○神社の光景が思い出された。
ギュウギュウのすし詰め状態で、お賽銭を遠くから投げ、下げられている鈴を鳴らしたんだか鳴らさないんだかで、とりあえず手を合わせて帰って行く人達。
目の前には荘厳な教会のような建物。あれをこの中でやれと?

「うん、事故が起きそうだからそれは無理ね」

人雪崩が起きそうだよ。しかも室内だと余計に被害者が…。
しかも中で手を合わせて祈っているんだかなんだか、1人1人が出てくるのがこれまた結構時間がかかっている。こりゃ、今日は絶対無理だわね。
少し離れた所で、何かを売っているシスターらしき人達がいたので、ちょっと様子を聞いてみることにした。

「ようこそ、光の神に一番近い所へ。あなたに光の神の祝福がありますように」

声を掛ける前にそう言って祈られてしまう。なんだかむず痒い。

「あの、参拝についてお聞きしたいのですけど…」
「はい。初めての方ですね? ではこちらなどいかがでしょう。初めての方への参拝手順書ですわ」

と言って、何か書かれている薄い本らしき物を差し出してくる。う~ん、商売上手いわね。
それを手に取らず、にっこり話しかける。

「私文字があまり読めないので。参拝するには夜明け前から並ばないといけないと聞きましたが、前日から並ぶことは可能ですか?」

シスターの顔が若干引き攣ったが、

「左様ですか。はい、参拝は一日の来館者の人数が限られておりますので、その日の朝の鐘が鳴る頃に並んでいた者に、整理札を差し上げております。それをお持ちであれば、その日のうちに参拝可能となりますので、お時間は好きな時に来て頂いて構いません。まあ、皆さんそのまま並ばれておりますけど。
それと、前日から並び始めるのは許されておりません。この街では、夜が明け始める頃に開門されますので、そのくらいの時間に来て頂いて並んで頂くしかありません。一番いいのはこの街の宿に泊まることですけど、この街の宿は年中満員なので、余程の事がない限りは泊まる事も難しいでしょう。
もちろんですが、その辺に寝転がるのは禁止されております。通行の邪魔になりますし、この街とて安全とは限りませんしね。数年前に宿に泊まれないと道端で眠る人が多くなって、邪魔な上に治安も悪くなり始めたので、それ以来道端で野宿するのは禁止されております。なので、周りに泊まる用に街が開けたのです。夜が明け始める頃に門の前に並ばれていれば、上手くすれば数日のうちに参拝出来ると思いますよ」

にっこり。

うわあ…。これ、何かの試練かしら…。

「して、その参拝にて、光の御子とやらには会えるのかえ?」

クレナイが聞いて来た。おおそうだ。私は光の御子さんとやらに会いに来たんだ。

「光の御子? まさか、お会いできませんわ。そういう用事でしたら、あちらに見えます相談所にて承っておりますわ」

とにっこり、やはり白い建物群を指さした。うん、どれだ? そちらの方向にいっぱい建物ございますよ。
簡単に道を教えてもらい、テクテクそちらの方向へ歩いて行く。

「いや~有り難い。あんな行列に並ばないで済んだなんて。クレナイ、ナイスプレー」
「ないすぷれーというのは分からぬが、褒められていることは分かるのじゃ」

とほくほくのクレナイ。
教えてもらった方へ行くと、先程の礼拝所の大聖堂よりも立派な建物が見えて来た。やはり白。目がチカチカしそう。
立派な建物が並ぶ前に、少し小さめの建物があり、そこにまた列が出来ていた。あそこらしい。少し小さめと言っても、大聖堂並にでかい。うわあ、金かかってるなぁ。
これならすぐかと後ろに並ぶ。しかし列はなかなか進まない。ハヤテもしばらくしたら我慢できなくなってきたのか、うずうずし始めた。

「確かに、これは忍耐の試練だわね…」

ようやっと半分という所で、そろそろ昼だと鐘が鳴る。
クレナイに頼んで、しばらくハヤテを連れて散歩に行って来てくれと頼んだ。ついでにお昼も見繕って来て貰う。
シロガネはただ立っているだけでも全然苦にならないのか、平然としている。さすが馬。

「ペガサスである…」

ん? 何か聞こえたような?

しばらくして、食べ物と飲み物を買ってきてくれたクレナイ達が帰ってくるも、列は3人程進んだだけ。食べるだけ食べて、また散歩に行って貰った。
シロガネにクレナイと変わるかと聞いたら、

「我はここで大丈夫である」

ときりっと答えたので、クレナイに付き添って貰った。
さすがは馬だね!

「ペガサスである…」

ん? 何か聞こえたような?














3時の鐘が鳴る頃、あと数人でやっとこさと言った所で、すっと1人のシスターが近寄って来た。

「申し訳ありませんが、予約を取っておりますか?」

まさか、予約がいるのか…。

「い、いいえ…」

そう正直に答えると、

「左様でしたか。申し訳ありませんが、こちらは予約がないと対応出来ないようになっておりますので、先に予約を入れて頂けますか?」

ここまで並んでおいて!

さすがにちょっと腹に来たが、そこは抑える。知らなかった自分も悪いのだ。聞かなかった自分も悪いのだ。

「分かりました。えと、予約はどこで出来るのですか?」
「はい。こちらになります」

笑顔で案内してくれることに。
丁度帰って来たクレナイ達も合流し、予約を取る為に列から離れて建物中へ。列が並んでいる所とは違う扉へと導かれ、その中で予約する為に記帳することに。

そこでふと、日付が気になった。この世界も12ヶ月あり、1月は30日。年の終わりに年が変わる準備をする1週間があるのだそうな。
そんで、確か今日は、5月の18日くらいだったはずなのだが、この日付、8月27日と書いてある。

「あの、予約って、3ヶ月待ちですか?」

恐る恐る聞いてみた。

「いいえ。3年と3ヶ月ですね」

3年だぁ?!
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