異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ハヤテとグリズリー

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「アルダール! 大丈夫?!」

4人が前髪男の元に集まる。大した怪我でもないのに、巨乳プリーストが癒やしの魔法かけてる。これってたしか、悪い例だったような…?

「だ、大丈夫だ」

きりっとした顔をするが、あのウサギが良い仕事をしたおかげで、顔の真ん中にウサギの泥付き足跡がくっきり。慌てて巨乳プリーストがタオルを出して拭いている。
私は笑わないようにするために、頑張って能面を保っている。ふと後ろを見ると、クレナイも能面のような顔をして、肩を震わせている。お互い辛いね。

「ごめんなさい、アルダール。私がきちんと制御出来ないばかりに…」
「うん。いや、イスタは頑張ってるよ。そう落ち込むなって」

今ハッキリうんて言ったよね?
取り繕うようにイスタを宥める前髪男。でも目が笑ってないなぁ。時々ウサギさんの方を睨み付けてるし。
角ウサギは適当に毛繕いしたり、食べられそうな草を食べている。案外自由に見える。
そのままいちゃいちゃが始まりそうだったので、

「うおっほん」

わざとらしく咳払い。
そういえば、という顔でいちゃつきをやめる薔薇達。こやつら、いつもこんな所でいちゃついてるのか?

「そなたらの戦い方、見せてもらった。まあ、及第点と言う所じゃな」
「な、なんだと?! どこか悪いところでもあったとでも言うのか?!」
「マーダーベア程度ならば、その戦いでも良かろう。しかし、其方ら、それ以上の相手じゃと、きついじゃろう?」

黙り込むバラバラ達。さすがはクレナイ。見るところ見てるね。

「チームとしての動きは悪くない。あと問題としては、1人1人の火力じゃな」
「火力?」
「実力と言った方が分かり易いかのう? もし最初の段階で、其方がマーダーベアに剣を止められずに一刀両断していたら? その後に続いた娘も、きちんと首筋に刃を突き立てられていたら? 魔導師の魔法で一気に片を付ける事も出来たじゃろう。補助魔法とて、その力の底上げが出来なければ、ただのお守り程度に過ぎん」

顔を俯かせるバラバラ達。いや、彼らはこれでもかなり強いのだと思いますよ?

「4人全員で倒さずとも、あれくらい1人でこなせるようにならなければこの上は目指せまいよ」

クレナイが冷たく言い放った。

「そ、そんなこと…」

言われなくても分かってるよ、とでも言いたかったのかしら? 唇を噛みしめて耐えているけど。

「まあよい。其方らが暴れてくれたおかげで、妾達の獲物も引っかかったようじゃしな」
「獲物? マーダーベアの事じゃ?」

前髪男が倒れたマーダーベアとクレナイを見る。

「おお、言い忘れておったのじゃ。マーダーベアの生息域に、キングマーダーグリズリーが出たので、退治してくれと。この紙には書いてあるのじゃ」
「き、キングマーダーグリズリー?!」

5人が声を上げる。
なんか、名前的に上位種っぽいけど。
5人の顔が青ざめ、ブルブルと震えだした。

「そ、そんなもの…、どうしてAランクが…」
「妾達にはそれほどの実力があるという事じゃ」

クレナイが降りたので、ついでに私も降りる。

「ほれ、足音が聞こえぬか?」

ずん…、ずん…、ずん…

何かが近づいて来る音がする。

「に、逃げないと…」

慌て出す5人。

「止まれ!」

クレナイの大きな声に、びっくりして固まる5人。ついでに私も固まる。

「生きて帰りたければ、この場から動かぬ事じゃ。よいな?」

クレナイの気迫に、怖々頷く5人。皆泣きそうな顔をしている。

「グルルルルルルル…」

頭の上の方から、何かの唸り声が聞こえて来た。そして、ブンという何かが風を切る音。

ガチン!

「わ!」

頭の上で、何か固い物がぶつかった音がした。
恐る恐る見上げると、何かでかい手のようなものが…。

「おいでなすったのじゃ」

その手を辿っていくと、木立のてっぺんに頭が届いている、凶暴そうな熊さんがこちらを睨んでいた。涎ダラダラ。わー、こわーい。怖すぎると感覚って麻痺してくるのかしら?
熊さんがその大きな手を、こちらに再度振りかぶって下ろしてくる。

ガチン!

「うわわっ!」

音がでかくて怖い。いや、そっちかい!
バラバラの面々もしゃがみ込んでしまっている。さすがに振り下ろされてくるあの大きな手を見ているのは怖いよね。

「我の結界はこの程度では壊れぬである」

シロガネがエヘンと胸を張る。

「さすがはシロガネ殿じゃ。妾が婿と認めた御方…」
「クレナイ殿…、ち、力が抜けるので、冗談もほどほどにして欲しいである…」
「冗談などではないのじゃ」
「・・・・・・」
「クレナイ、後にしてあげて」

シロガネの結界壊れたら大惨事だからね。
ちょっと名残惜しそうな顔をしながらも、クレナイは大人しくなってくれた。でも、視線がシロガネを追っている。どうしよう、この異種族過ぎる恋愛問題…。

その間にもガッチンガッチン、頭の上で鳴ってるんだが。

「グオオオオオ!」

熊さんが吠えた。さらに攻撃が激しくなる。

「ささ、主殿。ハヤテの出番じゃ」

今回は従魔の実力を見せる為なので、クレナイは大人しく見守る係。

「ハヤテ、行ける?」

マーダーベアを見下ろしていたハヤテが顔を上げた。

「クル…」

目が泣きそうになっている。ああ、コハクの事を思い出していたのかしら。
寂しそうな目をしたハヤテを抱きしめてあげる。クロさんは背中に移動した。

「ハヤテ。辛いね。でも、悲しんでばかりじゃ駄目よ。ハヤテ、思い出してごらん、今ここにお姉ちゃんがいたら、ハヤテになんて言ってたと思う?」

ハヤテの目を見て問いかけると、ハヤテが目をぱちくりさせながら、ちょっと考える仕草をする。

「グアグア!」

なんて言ってるのかは分からないけど、きっと、しゃきっとしなさい!みたいな感じで、ハヤテをたきつけていたんじゃないかと、私は思う。ハヤテもきっと同じ事を考えているはず。目の輝きが戻って来ている。

「そうよ。お姉ちゃんに心配させない為にも、今ハヤテがするべき事は何?」

ハヤテが私の顔を見て、その後に、後ろで暴れているキングマーダーグリズリーをキッと睨み付けた。

「そう、良い子だね」

頭をナデナデ。

「行ける? ハヤテ」
「グア!」
「良し! 行ってこい!」
「グアー!」

元気いっぱいに羽を広げ、ハヤテが熊さんに向かって行った。
よく見たらこの熊、腕が4本あるぞ…。
ハヤテが素早い動きで腕を躱し、背後から頭を蹴ったり噛みついたり、はたまた少し距離を開けて風の魔法で攻撃する。

「グオオオオオ!」

キングマーダーグリズリーも標的をハヤテに絞り、その腕を繰り出すも、ハヤテの方が素早い。熊の腕を器用に躱し、視界の外から攻撃を繰り返す。

「いけいけハヤテ! 頑張れ!」
「そこじゃ! ハヤテ! 行くのじゃ!」
「むう! ハヤテ! もっと素早く躱すである!」

リンリン!

皆で応援。
それを呆然と見つめる薔薇さん達。あ、もちろん、シロガネは馬のままです。

「ペガサス…」

ん? 何か聞こえたような…?

ハヤテが何を思ったか高く舞い上がり、風の魔法を駆使した。強い旋風に辺りの木の葉が舞い踊る。

「グオオオ!」

熊が邪魔そうに葉を切り裂くも、風は止まらず舞い続ける。
そこへ、いつの間に熊の下に移動したのか、ハヤテが熊の足元から熊の顔目がけて飛び上がる。
完全に死角を突かれた熊は、迫り来るハヤテに気付かない。ハヤテはそのまま、熊の首筋を切り裂きながら上昇した。

「!!!!!」

声帯をやられたのか、熊がくるしそうに蠢く。まだ動いてる! しつこいな!
しかし、首元は赤く染め上がっている。このまま時間が過ぎれば、勝手に倒れるだろう。
しかし、ハヤテはそんなことは許さなかった。

「クアーーーーー!!」

一気に力を込めた風の魔法、多分エアカッターとでも言うのだろう。それを熊の首に向けて放つ。
防御しようとした熊の手も一緒に切り裂きながら、風の刃は見事に熊の首を跳ね上げた。

うわ、血の雨が…。シロガネの結界のおかげで被らずにすんだよ…。

「クアー…」

ヨロヨロとハヤテが戻って来た。最後の一撃に力を込めすぎたようだ。

「お疲れ、ハヤテ。よく頑張ったね~」
「クア」

倒れ込みそうになるハヤテを抱きしめてなでさすってやってから、ゆっくり休ませてやる。
眠るのはまずいけど、目を瞑るくらいなら大丈夫でしょう。シロガネもいるし、虎の子のクレナイもいるし。

「す、すごい…」

言葉を失っていたバラバラ達も、ゆっくりと再起動し始めたようだ。
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