異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ウサギとドラゴン

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朝、欠伸をしながら通りを歩く。

「う~ん、朝早は苦手…」
「主殿、すまぬ。もう少し遅い時間を指定するべきじゃった」
「うんにゃ。クレナイの判断は間違ってないよ」

私が朝に弱いだけの話。

「主、我の背に乗ったらいかがか?」
「街中でそれは目立つからねぇ…」

今朝はシロガネとハヤテは元の姿になっている。クレナイだけ人型。
もちろん、従魔の戦いを見せなければならないためである。向こうに行って、へ~んしん!は出来ないからね。
クレナイはって? 大きさを考えておくれよ。
今回はドラゴンを出すまでもないとの理由でも付けて、適当にあしらうつもり。実際にハヤテだけで十分だろうとクレナイも言ってるし。

「頑張ってね、ハヤテ…ふぁ…」
「クウ」

ハヤテに心配そうに見上げられてしまった。大丈夫。眠いだけよ。
しかし、通りすがりの人達が、ジロジロ見てくるなぁ。こういうのも久しぶりだ。この所ずっと街中では人型だったしね。
鐘が鳴る頃に南門に到着。

「やあ、おはよう」

朝から前歯キラリンイケメンスマイル。さすがはイケメン。

「おはようございます」
「おはようございます」

お互いに挨拶を交わす。おや、イスタの足元にいる子って…。

「その子が、従魔にした角ウサギ?」
「あ、はい。そうです」

白い毛並みにおでこに生えた白い角。ぶふううう、可愛い…。
クロさんのお手々が私の頬にめり込む。はい、余所見している場合ではありませんね。
でもさでもさ、ウサギって、絶対に、モフリがいありそうだよね!
まるで触って下さいとても言うかのようなあのふわっふわな毛並み…。触りてぇ…。

「なう」

クロさん、爪、爪腕に食い込んでる…。いたたたた…。

乗り合い馬車を探して、途中まで乗せてもらうことに。
でも良く考えたら、私、馬がいるのよね。

「ペガサス…」

何か聞こえたような。

というわけで、私達はシロガネに乗り、氷の薔薇さん達は馬車に乗り込む。
おや、角ウサギさんは? 乗り込まないようだけど。

「一緒に乗せないの?」
「従魔なんだ。付いてこれるだろう?」

だからって、馬の足にウサギが?
ああ、そういえば、従魔に触るなんて汚らわしいとか言ってたっけ。

「良かったら、おいで?」

ウサギに声を掛けるも、ガン無視。ちょっと悲しい。

「主殿がおいでと言ってくれているのじゃぞ? 無視する気かのう?」

クレナイが声を掛けると、ビクッとなるウサギさん。最強捕食者に睨まれ、プルプル震え出す。可哀相。

「クレナイ、止めてあげて」
「う、うむ」

クレナイもやり過ぎかと思ったのだろう。

「ねえ、イスタ、だったよね? 角ウサギ、私が運んでも良いかしら?」

クロさん、私の太腿に爪が食い込んでます。いたいいたい。
主の従魔師が良いと言えばなんとかなるかしらと声を掛けると、ちょっと不思議そうな顔をして、

「い、いいですよ…」

了解はもらったぜ。

「クレナイ、あの子抱きかかえて行ける? 私は、クロがヤキモチを焼いてるみたいで…」

私のあんよが傷だらけになりそう。

「分かったのじゃ。これ、そこの。妾の元に来ることを許す。近うよれ」

なんか、ガクブル状態になってるんだけど。

「来ぬか」

クレナイの声が一段低くなった。クレナイから冷たい空気が流れてくるんだけど。

「クレナイ、迎えに行ってあげてください」
「うむ。分かったのじゃ」

腰を抜かしているように見える。
角ウサギを抱いて、クレナイが戻って来る。潰さないようにシロガネの背に乗ると、馬車も動き出した。

「なるほど…。これが主殿の言うモフモフか…」

クレナイがウサギさんをナデナデしている。あれ、ウサギ、気絶してないか?

「い、今のうちなら…」
「なおう」
「クロ、ちょっとだけ、ちょっとだけだから…」

クロの尻尾がぺしんぺしんしてるけど、クレナイからウサギをちょっと渡して貰う。

「ふああああああああああああああああああああ…。も、モッフ~…」

襟巻きにする人の気持ちが分かる気もする…。でも私は襟巻きより生きてる方が良い。
気絶しているのを良いことに、お腹も触らせて貰う。ふああああああああああああああああああああ…。

「主殿、顔が溶けかかっておるのじゃ」

どんな顔だよ!

















しばらくモフッた後はクレナイに返す。クロさんのお爪が痛いです。ズボンで爪研ぎは止めて。
後ろでクレナイもモフリ倒していた。ドラゴンにもモフリの良さが分かるのね。ふふふ。

「何故ドラゴンには毛がないのじゃろう…」

などと呟きが聞こえて来た。まあ、爬虫類だしね。

その後はシロガネの背中でこっくりこっくり。揺れ始めると、クレナイが支えてくれる。贅沢だ。
ハヤテは自由に、走ったり飛んだりして、私達の周りでフラフラしていた。時折寂しそうな顔をしているのは気のせいではないだろう。
依頼の場所に近づくと、薔薇の人達が馬車から降りてくる。後は徒歩だ。まあ、私達はシロガネに乗っているが。
乗り合い馬車はそのまま街道を次の街へと向かい、私達は右手の森へと向かう。

うん、大分原生林だわね。

シロガネが先に立って歩き、草を掻き分けて進む。邪魔そうな枝はシロガネが風の魔法でいちいち折ってくれたりして助かった。バラバラの面々もシロガネの後から歩きにくそうに付いてくる。

「うむ。おるのう」

しばらく進むと、クレナイが右手の方向を睨んでいた。クロも顔を向けている。

「では早速じゃが、其方ら、まずは戦ってみてはくれぬか?」

クレナイが後ろの薔薇の一団に声を掛けた。

「はあ? 僕らは君達の戦い方を見に来たんだぞ?」
「そのついでに、指南でもしてやろうと言っておるのじゃ。其方らに足りぬ物があれば、容赦なく口出ししてやる。どうじゃ? 人に教えを請う機会もそうあるわけでもないぞ?」
「僕らもAランクなんだが…」
「妾は3日でAランクになった」

前髪男が黙った。

「Aランクのくせに、マーダーベアが怖いのか?」
「そんなわけないだろう!」
「では、やって見せよ」

有無を言わせぬクレナイの言葉に、渋々薔薇の面々が、マーダーベアが来ると言っている方向に体を向けた。気絶から立ち直った角ウサギを、クレナイが地面に下ろした。
早速イスタの元へと駆け寄っていく。
木立の間に、何かが見え始める。焦げ茶色の体毛、獰猛そうな瞳。

「グオオオオオ!」

マーダーベアが吠えた。そして、こちらに駆け寄ってくる。

「くそ、戦いにくいな…」

確かに、足元が草に覆われているし、木立も邪魔をしている。

「大丈夫なのだよ! アルダールはいつものように引きつけて!」

身軽なチタが、器用に木に登って気配を消す。

「準備するわ!」

魔女ッ子ウーリィが呪文を唱え始める。

「補助します!」

プリーストシンカが何かを唱えると、前髪男の体が少し光った。

「よし! 行くぞ!」

木立の間を縫って迫り来るマーダーベア。

「こっちだ!」

マーダーベアの気を引きつける前髪男。
マーダーベアが狙い通りに前髪男に迫り、渾身の一撃!
それを前髪男が上手く避け、カウンターでマーダーベアに切りつける。しかし、読まれていたのか、その剣はマーダーベアの手で防がれた。

その時、上からチタが降りてきて、マーダーベアの首筋と足の腱を狙う。マーダーベアがそれに気付いたのか、上手く首元の剣を避けた。しかし、足はざっくり持って行かれる。

「グオオオオオ!」

マーダーベアが吠え、滅茶苦茶に腕を振り回し始めた。側にあった細い木が何本も倒される。

「行って! アルダールと一緒にあいつを倒して!」

イスタの声が聞こえると、角ウサギが渋々といった感じで走り出した。おお、角ウサギの戦いが見られるとは。
さすがはAランクと豪語するだけあって、マーダーベアの滅茶苦茶な腕にも怯まず、上手く捌いている前髪男。

「アルダール、下がって!」

魔女ッ子ウーリィの声がして、前髪男が下がる。そこへ、氷の矢がマーダーベアに襲いかかった。

「グオオオオオ!」

氷の矢に串刺しにされながらも、必死に腕をふるマーダーベア。

「遅い」

そう言って前髪男がマーダーベアに接近すると、持っていた剣でマーダーベアの体を…

ゲシ!

「ぶふぅ!」

角ウサギが前髪男の顔を踏み台にして、思い切り跳躍。それは見事な矢の様に、一直線にマーダーベアの喉元に飛び込んだ。
そして首に一突き。角ウサギが角を抜いて飛び上がると、マーダーベアの体が揺れ、地響きを立てて倒れ込んだ。

「見事!」

拍手しそうになり、ぐっと堪える。ここであのウサギを褒めたら、またウサギがどんな扱いされるやら。

「こら! お前! なんでいちいち僕の顔を蹴るんだ!」

蹴られて倒れていた前髪男が起き上がりながら角ウサギに怒鳴る。
ところが、ツンツンとしている角ウサギ。確信犯ぽい。
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