異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

私達は前へ

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「シロガネ、ご苦労様~」

クレナイがコハクを抱っこして、私はいつの間にか現われたクロを抱っこする。はあ、モフモフ。
シロガネに声を掛けながら近づくと、何やらふんぞり返っている。

「我は命を守り通しましたぞ!」
「うん、偉い偉い。でも番人の人達は通しても良かったよ? その辺りの柔軟な対応も覚えてね?」
「…、誰も通してはならぬと…」
「確かに言ったけど、その辺りは臨機応変に対応して欲しかったかな」

シロガネが目に見えてしゅんとなった。

「ま~、でも、シロガネも頑張ってくれたし、次のブラッシングは楽しみにしててね!」

シロガネの顔が明るく輝いた。ブラッシング好きだな。
山の通路では交代の人達がわやわやとやっている。そこから離れた所で止まったままの馬車。その前で項垂れているおじさん。見ていて痛々しい。

「村八分宣言されちゃったし、これからどうするんだろう…」

心配してもしょうがないんだけど、あの項垂れる姿は哀愁を誘う。
いやいやいや、あの人は形は違えど、連続誘拐犯なのだ。同情は禁物。

「村八分とはなんじゃ? 主殿」
「村八分って言うのは、私の国のちょっと昔の言い方で、まあ、仲間外れにされるってことだよ。昔の私の国では小さな村が幾つもあって、その村の中で罪を犯すと村八分にされたんだって。小さな村だと助け合わなきゃ生きていけないから、村八分は遠回しの極刑みたいなものかな」

小さな村だと使える井戸なども限られる。食料だって皆で助け合わなきゃいけない。水と食を奪われたら、人は生きてはいけない。つまり殺しはしないが勝手に死ねって感じだね。
誰も助けないと宣言されたあのおじさんは、つまり殺しはしないが的な感じになっている。
人は1人じゃ生きていけないものだ。

「私が…、愚かだったんだな…」

その呟きが聞こえ、おじさんがゆっくりと立ち上がった。どうするのかと見ていたら、フラフラと馬車から離れ、上の方に登って行く。その先に道はなく、崖になっている。

「私は、ただ、助けたかった、だけなんだ…。すまない…」

おじさんの呟きが聞こえる。

「どうすれば…、どうすれば良かったんだ…」

私にもその質問に答えることは出来ない。ハッキリとした正解など分からない。
ただ、おじさんの取った行動は、悪手だったとは思っている。
おじさんがブツブツ言いながら、私達の横を通り過ぎて行く。

この後の行動は予想が付く。だけど、止めてもいいものなのだろうか。このまま生きるにしても、この街の住人からは総スカンを食らうだろう。そんな孤独まっただ中の人に、「強く生きろ」などとアホすぎて言ない。
何も言わずに固まっていたが、おじさんはブツブツ呟きながら足を止める事はない。

「…お、おじさん…」
「コハク?! 目が覚めた?!」

まだぐったりはしているが、意識は戻ってきたようだ。

「おじさん…!」

弱々しい声で、おじさんを呼んだ。おじさんの足が止まる。
クレナイがおじさんの姿が見えるようにと、体をずらした。

「お食事…、美味しかったです…。ありがとうございました」

小さな声だった。しかし、おじさんの耳には、なんとか届いたようで、少し項垂れていたよいうな頭が、少し持ち直した。

「コハク…?」

それ以上はないんかいと覗き込んだら、再びコハクはブラックアウト。寝ていた。
おじさんが止めていた足を再び動かし、崖の方へと進んで行った。背中しか見えないのでどんな表情をしているのかは分からない。
私達は視線をおじさんのいる方と反対方向へと向けた。見ていて気持ちの良いものでもない。

「もっと早く、こうするべきだったかな…」

そんなおじさんの呟きが、風に乗って聞こえた気がする。
私達は歩き出した。おじさんと反対の方向へ。街の方へ。

少しして、

ドサ!

と、何か重い物が落ちる音が遠くから聞こえた。
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