異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ロックチョウを追え!

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宴が終わり、建物の中へ入る。さあ寝るぞとなって、布団がないことに驚き。リザードマンは敷物の上に寝そべるだけなのだそう。ちきしょう変温動物。
リンちゃんにちょっと頑張って貰って敷き草を出して貰った。ありがとう。
クレナイとシロガネはそのままでも大丈夫との事なので、そのままで寝て貰い、コハクを抱きしめ、元の姿に戻ったハヤテに挟まれて眠った。寝相が悪かったらごめんなさい。





次の日、起きてみたらやはりコハクはすでに目を覚まして活動し始めていた。なんてしっかりした10歳児。
朝食ですと、再び丸っと魚を出される。私とコハクとシロガネは失礼して、クレナイにあげた。

「生の魚も微妙なのじゃが…」

そう言いながら全部食べていた。さすが。

「さっさと依頼をこなして、獣人の街に戻ろう」

美味しい物を食べたいクレナイの気持ちが今だけは切実に分かる!

「うむ! 主殿のために頑張るのじゃ!」

クレナイが張り切ってくれた。よしよし、これならすぐに片付くだろう。
まずはロックチョウを探さなければと表に出ると、1匹…、いや1人のリザードマンが走って来た。

「来ました! ロックチョウです!」

これは好都合。
少なくとも2日に1回は現われるのだそうで、良かったぜ今日現われてくれて。もう1日泊まれなんて言われたら全力で逃げてしまいそうだ。

「シロガネ! 結界!」
「は! すぐに!」
「クレナイ! 追いかけて!」
「承知!」
「珍しくやる気に溢れておるの~」
「当然!」

ちゃっちゃと片付けて、美味しい物食べに行くよ!
クレナイが翼を広げ、養殖池に向かう。ハヤテも一緒に飛んで向かった。
私達はシロガネに乗せてもらって向かう。え?周りにばれるって?大丈夫大丈夫。ここは人間の街じゃないから。
養殖池は、上から見た川から水を引いてたあれだった。その上空を、馬鹿でかい鳥が旋回している。
何度か池に向かって降りようとするも、シロガネの結界に弾かれてしまう。
鳥に向かってクレナイが迫る。

「今夜は焼き鳥じゃーーー!」

クレナイも魚ばかりに飽きていたのだろうか。

「キャーーー」

甲高い声を上げ、ロックチョウが羽を羽ばたかせると、不思議な事に空に大岩がいくつも現われた。
それが雨あられとクレナイに降り注ぐ。
おお、これが有名な「いわおとし」という技か。

「なんの!」

クレナイが腕を振るうと、炎の壁が出来、それらを燃やし、溶かして行く。それでも迫ってくるものは、拳で破壊していた。
おおい、防ぎきれなかったのが地面に落ちてくるんだが。

「火事になる!」
「任せるである!」

川も近くにあると言うことで、シロガネが水を操り、落ちてきた燃える岩に向かって水鉄砲。火事は防げた。
燃えなくなったただの岩は、シロガネの結界に当たり、ゴンガラゴンガラと結界の外に落ちて山積みになっていく。これ、いいのだろうか。

「鳥如きがーーーーー!!」

燃える岩を際限なく生成していたクレナイが吠えた。岩が邪魔で未だにロックチョウに辿り着けていない。そして、体に震えが走った。

「こ、これは…」

クレナイが気配を消すのを止めたのか。切れたのかしら?
クレナイの気配を察知したのか、鳥が岩を落としながら慌ててそこから離れようとする。

「させぬ!」

岩の切れ間を縫ってクレナイがロックチョウに近づき、その腹に拳をめり込ませた。

「キ・・・」

ロックチョウは叫ぶこともできず、そのままお山の方へと吹っ飛ばされていった。

「鳥如きが、妾に手間をかけさせおって…」

クレナイ、人の姿なのに声が低く聞こえる気がするよ。

「主殿、このまま追いかけるのじゃ」
「分かった。シロガネ、よろしく!」
「分かったである!」

吹っ飛ばされていったロックチョウを追いかけ、皆山へと向かった。





















あの巨体だからすぐに見つかるだろうと思ったのに。

「おかしいのう。気配はこの辺りからするのじゃが」

何故か見つからなかった。

「ふむ。クレナイ殿もまだまだだの」

なんだかクロが偉そうなことを言って、私の腕の中から飛び降りる。

「どうしたのクロ?」
「こっちだの」

スタスタと歩き出す。大人しく付いて行くと、少し崖になっている手前で止まり、上を見上げる。

「あそこだの」
「どこでしょう」

岩肌しか見えませんが。

「面白い鳥だの。岩に擬態しておる」
「ええ?!」

鳥が岩に擬態?!

「まあ見ておれ」

そう言うと、クロの側にあった小石がフワリと浮かんだ。おお、クロの念動力ですね。
一直線にその小石が飛んで行って、崖の一部分に当たる。

「キャーーーー!」

痛かったのか、ロックチョウが身動きして、その身を現わした。
再びロックチョウが襲いかかる。
ところがシロガネの結界がそれを易々と防ぐ。
鋭い爪も弾かれ、翼をはためかせて起こした風もなんのその。降り注ぐ岩にもビクともしない。

「でも生き埋めになりそう」

量がね、すごいね。もうすぐ天井も見えなくなりそうだよ。

「任せるのじゃ」

クレナイが飛んで、岩を蹴散らした。

「ハヤテもー」

と飛んで行きそうになるハヤテを慌てて止める。いや、いくらなんでも、大丈夫かもしれなくても、幼児にやらせたくないよね。

「主殿に手を出すなど! 不届きな!」
「キャーーーー!」

クレナイの声とロックチョウの声が重なり、少ししてズズン、と地響きがした。見れば、ロックチョウが地面に落ちていた。藻掻いている様子から、まだトドメを刺していないようだ。

「さあて、今夜は焼き鳥…」
「待った。クレナイ」
「? 主殿?」

気になる声が聞こえて来た。ピーピーという甲高い声。

「この声…」
「気付いてしまったかの、八重子」

クロが溜息を吐く。何故に?

「クロ、分かってたの?」
「親鳥の気配に紛れておって、気付いたのはついさっきだがの。八重子なら止めると思っておった。しかしだの、我が輩達が受けた依頼は、此奴の退治ではないかの?」

それはそうなんですが…。

「そういえば、これほどのものが2日に1回食事を漁りに来るというのは、気付いてみれば不自然じゃのう」

クレナイが顎に手を当てて考え込む。

「体が大きくなるほどに食事の量は増えるものじゃが、それに比例して、食事を取らぬ期間も長くなるものじゃ。なるほど。此奴、子育て中じゃったか…」

先程までの食事を前にした表情とは打って変わり、クレナイの眼差しが優しくなる。

「う~ん、ただ害をなすってんなら、そのままトドメと言っても頷けたんだが…。子育て中となると…」

弱い。
駄目だ。
無理だ。
分かってるんだけどね、分かってるんだけどね!

「私の我が儘なんだけど、このまま殺さずにっていうのは…」

クロが呆れた顔をした。
クレナイが困った顔をした。
シロガネが渋い顔をした。
コハクは何故か微笑んでいる。
ハヤテとリンちゃんは首を傾げている。

「此奴がおる限り、リザードマンの養殖魚が狙われるのだぞ」
「そうなんだよね~…」

それがあるんだよね~。どうしたらいいのでしょう。

「ふむ。ちと話してみようかのう?」

誰と?
クレナイがそう言うと、ロックチョウへと近づいていった。
クレナイが近づいたことにより、ロックチョウがバタバタと余計に藻掻き始める。

「これ、慌てるでない。主殿の命により、其方にもう手は出さぬ」

クレナイがそう声を掛けると、ロックチョウが大人しくなった。おや、話せるのか?
しかしその後の会話はどうやら人の言葉ではないようで、聞き取れなかった。

「では主殿に確認をとろう。主殿!」

クレナイに呼ばれてロックチョウに近寄る。ロックチョウもこちらを見ている。う、鳥の目って可愛いな。

「此奴の傷を癒やしてやっても良いじゃろうか?」
「もちろん。暴れないならば。リンちゃん、お願いね」

リン!

リンちゃんがフワリと飛んでロックチョウの体に乗った。そのまま緑色の光に包まれる。

「此奴と話したのじゃが、元々此奴はここに住んでおったらしい。で、今年雛が生まれてのう、その世話の為に餌を探しておったのじゃが、その時偶々リザードマンの集落の池を見つけたらしいのじゃ。苦もなく餌を取れるので、これは良いとあそこを餌場にしていたようじゃ。他にも餌になるものはおるから、あそこは狙わぬようにと話はつけたのじゃ」
「そっか。それなら安心だね。でも、餌場が変わると大変だろうね」
「まあ、それは仕方ないことじゃ。餌も毎度同じ所にいるとは限らぬのじゃからな」

まあ、そうなんだけど。

「リザードマン達も、ドラゴンじゃなくてこのロックチョウを崇めれば良いのにね。こんなに近くにいて、しかもかなり強いでしょ。ドラゴンよりも頼りになると思うんだけど」
「それはドラゴンなんかは頼りにならぬと…」
「そうじゃないよ。ドラゴンの里まではここからだと距離があるでしょ? そんなんでドラゴンに祈りを捧げてても絶対に聞こえないだろうしさ。それなら、ロックチョウに捧げ物して守って貰った方が余程良いんじゃないかと思ったのよ。なにより近いし」

実際、ここからリザードマンの集落までは目と鼻の先だ。飛んでいけるならほんの数分。

「それを使ったらどうだの?」
「何を?」

クロがまた何やら考えついたようだ。
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