異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

獣人の国へ行こう

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再び不法上空侵入を繰り返し、ドラゴンの里のある山から更に北西へ。
山に囲まれた土地が見えてくる。

「地図的にはあそこら辺だわね」

私が地図オンチでなければ。

「分からなければ、降りて聞いてみれば良い」
「そうだね、クレナイ」

ということで、ちょっと関所っぽくなっている所から離れた所に降りる。
そして歩いて関所、じゃないか、国境なのかな?だとしたら随分小さな国に見えるけど。
山をくり抜いて道を敷いており、その前に衛兵さんらしき人…、じゃない、モフモフさんが立っている!しかもあの立派な鬣は、猫科の動物の中でも大型で、百獣の王と呼ばれるあの有名なお方ではないか!

「ハアハア、鬣…」
「八重子、まて、まずは命の危険を感じろ」
「は! そうでした」

最強肉食獣の前に行くのにハアハアしてたら駄目ですね。

「何者だ?」

近づく私達を見つけ、ライオンさんが睨んできた。
あああ、その眼光も殺されそうで恍惚…。じゃなくて。

「こんにちは。ここは、獣人の国ですか?」
「…。そうだが。何しに来た?」
「観光に」
「・・・・・・」

あれ?変な事言った?

「観光、だと?」

何故そんなに怖い顔をされるのでしょうか。

「そう言って我が国の者を攫って行くのだろう?」
「ええ?! そんな事しませんよ?!」

くそう、ここでも同じ人間の仕業で何か疑われているのか!

「あの、私も同じ獣人です」

そう言ってコハクが帽子を取る。
可愛い黄色の丸いお耳がぴょこんと出てくる。いつ見ても可愛い。ハアハア。

「ん? お前は…、攫われた虎人族か?! なんで人間と…! そうか、奴隷か…」

確かに奴隷ではありますけどね。なんでさっきより目つきが怖くなってるのでしょう。

「奴隷を捕まえに来たのか? 新たに奴隷が欲しいとでも? どこまで我らをバカにするのか…」
「いいえ! 違います! 奴隷なんていりませんて!」
「確かに私はこの方の奴隷ですが、この方には助けて頂いているのです!」

コハクが前に出た。

「奴隷になっているのに、助けられている? どういうことだ?」
「私は幼い頃に捕まって、奴隷にされました。その後、酷い扱いを受けて、それまでの記憶をなくしました。そして、病も患ってしまったのです。でも、この方は、そんな私を買い取ってくれて、しかも妖精さんに頼んで、毎日痛みを取ってくれているんです! そんなお方の元で、私が不当な扱いを受けていると思いますか?!」

コハクの剣幕に、ライオンさんもタジタジとなる。

「だ、だが、お前は奴隷のままで…」
「それも買い上げた直後に、奴隷紋を外そうかとも仰って下さいました! でも、只人の街にいては、私のような子供の獣人はいつ攫われてしまうかもしれない。なので、奴隷紋をあえて取らず、私を保護していてくれたのです!」

そうなのよね。いくらコハクが力があるっていってもまだ10歳の少女。しかも成長不良で小さめ。大男にひょいっと担がれて持って行かれちゃうかもしれないってね。現に1度誘拐されたし…。

「い、いや、だが、しかし…」

ライオンさんはまだ理由を探しているようだ。

「その子の言う事は本当じゃぞ。妾達がそれを証言するのじゃ」

クレナイが前に出て来た。

「ふん、只人の言うことなぞ、誰が信用するものか」
「おや? 其方には妾達が人に見えると?」

クレナイからあの怖い気配がだだ漏れてきた。

「え…? なん…」
「そうじゃのう。見ないと分からぬか。と言っても妾では危ないし。ハヤテ、元の姿に戻ってみい」
「あい!」

良い返事をして、ハヤテがグリフォンの姿にドロン。目を丸くするライオンさん。

「こちらの白いお方はペガサス。そして妾はドラゴンが人化しておる。さて、これでも妾の言葉は信じられぬか?」
「ど、ドラゴン…?!」

ライオンさんの顔が引き攣っている。

「ま、まさか、いや、だって、あの誇り高きドラゴンが、何故只人なんかと…、ってこっちの只人もまさか?!」
「いや、そのお方は紛れもないただの人じゃ」

ただの人です。なんか寂しいな。

「え? 只人? え? なら、なんでドラゴン…?」
「妾はまだ卵の頃に人間に攫われてのう。生まれてすぐに従魔紋を付けられたのじゃ。それからずっと人の従魔よ」
「なんと…」
「じゃが悪い事ばかりでもない。今のこの主殿はほんにようできたお方でのう。妾は今の生活を存分に楽しんでおるのじゃ」
「うむ。我も人間に捕まった当初は絶望しかなかったが、今は主に会えて幸せと思っておるである」
「クア!」

リン!

いやだなあ。皆にそんな事言われたら、嬉しくて目から汁が出て来ちゃうよ。

「私も、ご主人様に買われてから、生活が一変しました。普通の人のように扱って頂けるし、食事もお腹いっぱい食べられて、ふかふかの布団で眠らせてもらってます。時折ご主人様は私が奴隷だとう言うことも忘れてしまって、普通の子供のように寄り添って下さいます。本当に、私はご主人様に出会えて幸せです」

いやいや、ちょっと言いすぎじゃない?くすぐったいんだけど。
モジモジしていると、ライオンさんがこっちを見た。

「…。なるほど。余程慕われているか、余程魔紋の扱いに長けているのか…」
「其方、それ以上主殿を愚弄すると、国ごと滅ぼすぞ?」
「ひ?!」
「クレナイ、抑えて」

単体はまだしも、国ごとはやめようね。
言わせているなんて言われるのは私も心外だけれども。

「あのう、それで、ええと、獣人の国に入るのは、難しいですか? 出来ればこの子が、いたかもしれない所とかに寄ってみたいんですけど」
「よ、寄ってどうするのだ…」

ライオンさんが怯えてしまっているよ。

「いやまあ、何て言うか、いやな思い出は思い出させたくないけど、ご両親と過ごした楽しい思い出なんか思い出せたらなと。この前にこのクレナイの為にドラゴンの里に行ってきたので」
「ドラゴンの里?!」

ライオンさんが百面相になっている。

「ま、まさか、ど、ドラゴンの里なんて、じょ、冗談…」
「何故主殿が冗談なぞ言わねばならんのじゃ。行って来たぞ。のう、皆?」
「うむ。そこでリバーシ作りに駆り出されたのである」
「私はコップに模様を付けろと…」
「あそんだー」

リンリン

ライオンさん、お口大きいのは分かったから、出来れば閉じて下さい。

「妾も両親に会えて、無事を報告出来て、ほんに主殿と出会えて良かったのじゃ。他の人間じゃったら、妾の故郷へ行こうなどと言わなかったじゃろうからな」

ライオンて目が小さくて可愛いなとは思うけど、点になるとまた可愛いね。
ぎぎぎ…と音が鳴りそうな程不自然にライオンさんがこちらを見て、

「あんた、本当に只人か?」

いやいや、私は本当にただの人です。って言ってて悲しいから!
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