異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ドラゴンの里を出立

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そして、ドラゴンの里を出立する朝となった。
しっかり朝ご飯を頂き、ちょっと用事があると席を立つ。もちろんクロは腕の中ですぜ。
キョロキョロととある人物を探し、見つけて近寄る。

「滄司! 話があるんだけど!」
「ぬ? なんだ?」

物陰に連れて行った。









出立前に、クレナイのご両親にも挨拶をする。てか、家に帰ってないんですか。
しっかり白爺の家でリバーシ大会を継続していた。
これ、置いて行っても大丈夫か?
今更取り上げるのも無理だし、自分達でどうにかしてもらおう。
クレナイが出立すると聞いて、残念がるご両親。

「すいません。従魔紋解除する方法が見つかったら、必ずお返しに上がりますから」

なんだか変な言い方な気がする。

「うむ。こちらも無礼な態度で失礼した。もし良かったら、またこの里にお寄り下され」
「お待ちしております」
「はい。気が向いたら参ります」

はっきり言って、何もないのよね、ここ。ドラゴンと人間とじゃ、やはり余暇の過ごし方に色々違いがあるのだろう。
クレナイがご両親と最後の挨拶をしている間に外に出ると、なんとまあ、家の周りに皆ズラリ。部分変化の鍛錬はどうしたのだろう。もう飽きた?

「見送りしたいとな。皆集まったのじゃよ」

白爺が後ろから出て来た。

「今まではのう、人間と言えば、我らの子供達を狙うだけの、危険な生き物じゃったが、お主のように面白い知恵を持っておる者もいると知った。長らく付き合いを断絶しておったが、少しずつ付き合いを広げても良いかもしれんと思えるほどにのう」

「私みたいな人間は極少数ですよ?」

「分かっておるわい。じゃから、部分変化を習得しようと必死になっておるんじゃろうが。これが出来るようになれば、山の麓から続く道を壊してしまう事が出来る。さすれば、人間は入れぬが、儂らは出入り自由の居心地の良い里が出来るわい。ドラゴンの姿は目立ち過ぎるし、ともすれば街に近づいただけで剣を向けられるかもしれん。じゃが、部分変化ならば、同じように飛んで行ってもそこまで警戒はされんじゃろうしな。人間と良い感じに物々交換が出来るようになるわい」

「え、物々交換なのね…」
「ふん。儂らのいらなくなった鱗や欠けた爪だけで人間共は大喜びして大金を置いて行くぞ。儂らもゴミを処分出来て大助かりなんじゃがな」

物々交換と言えども、ドラゴンの鱗とお金の交換でした。それ交換じゃなくて換金。

「まあいいか」
「そして、人間共の持つ知恵を吸収し、はびこる調味料を集め、新たな遊びや料理などに勤しむのじゃ! うむ。これからもっと楽しくなるのう。長生きせねば」

十分している気がするんだけど。突っ込まないでおこう。
クレナイが出て来て、ご両親も出て来た。挨拶は終わったようだ。

「じゃ、行こうか」
「うむ! 共について行くぞ。主殿」
「行くのである」
「いくー!」
「はい」

リリン

私達を先頭に、最初に通った岩の道の所まで皆でゾロゾロ。

「ありがとうございました! また気が向いたら来ますね!」
「行ってくるのじゃ、父君、母君!」

皆に向かって手を振る。

「達者でなー!」
「体に気をつけてー!」
「また来いよー!」
「コハク師匠―! また絶対来て下さいよー!」

そんな言葉に背を押され、私達は岩の道を下っていった。
てか、コハク、師匠呼ばわりされてますけど…。










「クレナイ殿、次こそは、振り向かせてみせますぞ」
去って行く赤い髪の女性を見つめ、ソウシは呟いた。
先程、ヤエコ殿に物陰に引っ張り込まれた時、ソウシは名を貰っていたのだった。

その名も、「青龍王 滄司」。

名付けが安直ではないかなどとは言わないように。
何故名をくれるのだ?とソウシが聞き返せば、

「クレナイが思ったよりも強くなっちゃってたから。お婿さんが欲しいって言ってるのに、誰もなれなかったら可哀相でしょ。今の所ソウシが一番クレナイのお婿さんになる可能性が高そうだから、これから頑張って貰う為よ」

名を与えるだけで、実力があがり、お婿さんが欲しいクレナイを見事振り向かせる事が出来れば、万々歳だ。

「私は、もっと強くなる。貴女を超えてみせます」

ソウシは強く拳を握り締め、クレナイの後ろ姿に誓うのだった。










さて、里から離れた所に行って、再びシロガネに騎乗。
悠々空の旅、の前に、軽くジェットコースターだった。
なにせ空気が薄いものだから、風の魔法が操りにくかったらしく、

「主、申し訳ないである。少し揺れるである」

シロガネがそう宣言したとたん、急降下。
思わず悲鳴。

この内臓を持って行かれるような感覚苦手なんだよ…。
少しすると、急降下が治まり、普通に滑空するようになった。
しかしその時にはすでにゲンなり。後ろからクレナイが背中をさすってくれた。ありがとう。
同じように急降下していたハヤテとコハクを見るが、どちらもケロリンとした顔をしている。コハク、絶叫系いける口だったのね。

「して主、この次はどこへ向かうであるか?」
「ええとね。ああ、ちょっとコハクに確認したいんだけど。コハクー!」
「はい、なんでしょう」

ハヤテが聞こえるくらいに近くまで飛んで来てくれた。なんて良い子。

「あのね、次は獣人の国に行ってみようかと思ってるんだけど、コハクは大丈夫?」

嫌な思い出があるとか、行きたくない理由があるとか。

「大丈夫ですよ? ご主人様の行きたい所に行って下さい。私はついて行くだけです。けれども、ご主人様が大丈夫ですか? 確か獣人の国では、反対に差別を受けると思いますが…」
「それがあったか。大丈夫、なんとかなるでしょ。みんなもいる事だし」
「光の宮へ行くのではなかったのかの」

ボソリと聞こえたクロの呟きは無視。

「大丈夫じゃ! 主殿には指1本触れさせぬ! 何かあったら国ごと消してやるのじゃ!」
「国までは消さないで」

クレナイの発言はいつも危ないよ。

「それじゃあ、獣人の国に向かってみようか。ええと、進路は…。ゴメン、シロガネ。真逆だわ」

ドラゴンの里のある山脈を越えなければならなかった。
飛び越えるのは大変なので、迂回して行く事に。時間かかるけどしょうがないよね。
クレナイが飛び越えようかと言ったけど、まだ明るいうちはね。夜になったら頼もうかしら。












後日談。
クレナイから話を聞いた両親は、クレナイを狙ったという帝国に怒りを示す。しかし、無闇に人に手を出すわけにもいかない。
そこで、不思議な黒猫から聞いた話をちょいと実行することになった。
時折、帝国の上空を特に寄るでもなく滑空するようになった。ただ帝国の空を飛び回り、里へと帰って行く。
それが噂に拍車をかける事となったのだった。
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