異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ドラゴンの里のゲーム

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言うは易し行うは難し。
いつまで経っても姿を現さないシロガネを一応心配し、様子を見に行くついでに、ドラゴンの皆さんの修練状況を見に行く事に。なんだかすんごい集まってる。皆いる勢いじゃないか?

「じゃからのう、全身を巡る魔力を一部変化させて、それを背中に集中して形作るのじゃ」

魔力がない私が聞いてもさっぱりな説明に、ドラゴンの皆さんはふむふむと頷いて、どうにか実現させようと踏ん張っていた。

「力んで出来るわけではないのじゃ。妾の場合、1度元の姿に戻った方が感覚を掴みやすかったのじゃ。もしなんじゃったら、1度元に戻られた方が…」
「むう、さすがにこんなに大勢で元の姿に戻ったら里が潰れる。というわけで、儂からあちらの闘技場に移って試してくるのじゃ」
「あなた、1人抜け駆けしようとしても許しませんよ?」
「わ、儂の他にもあと3人くらいなら行けるじゃろう。誰が行くかのう?」

皆揃って勢いよく手を挙げる。

「今日ばかりは、私達と、あとクレナイのご両親で行きましょう。その他の者達はそれぞれに話し合って、明日からの順番を決めておいて下さい」

奥さんの方が纏めるの上手い気がする。

「うむ、そうじゃのう」

白爺頷いてるだけじゃん。
ということで、白爺夫婦とクレナイのご両親が、闘技場、クレナイとソウシが闘った場所へと、白爺のみがドラゴンの姿になって移動していった。
少ししてズズン!と地響きがしたから、向こうに無事に着いたのだろう。
しかし、白爺ってドラゴン形態になると、クレナイやソウシよりも小さいのね。年だからかな?それともホワイトドラゴンだからかな?

残った皆さんはどうやって決めるか議論していた。皆早く修練したいが為に、話合いは平行線。
いや、ジャンケンとかで決めたら?
ということで、クレナイにアドバイス。こうして決めたら如何かしらと。

「皆の者、聞くのじゃ!」

クレナイが声を張り上げる。

「話合いで決めるは難しかろう。よって、ジャンケンで決めようぞ!」

ジャンケン、と聞いて、首を傾げる者が…。今までどうやって争いを収めていたのだろう。
ジャンケンを簡単に説明し、というか簡単だろう、大勢の場合でやるジャンケンのやり方も説明する。
よくやる奴だ。代表1人が出すのに勝ったら勝ち抜き、負けたら座る、と言う奴。
クレナイが代表になって、全員でジャンケンを始める。もちろん、後出しや嘘報告したら最後に回すペナルティ付き。

4人ですんなり決まればOK。3人など中途半端に足りない場合は、その直前まで勝ってた人達で勝負。
文句を言う人には、「運も実力のうち!」という説得と、クレナイの圧力で黙らせる。
何気にクレナイが里の中でも上位の実力者になってしまっている。

お婿さん見つからなかったらどうしよう…。

そうして次々と決まっていくのを見て、もういいかとそこを離れることにした。
で、シロガネはどこよ?













「あ、あれじゃないですか?」

コハクが指さす方で、シロガネが地面に座って何か作業をしていた。
隣に薪が積んである。薪置き場で作っていたらしい。

「シロガネ~」
「おお、主、もうすぐ出来るである」

リバーシ制作頼んだら帰って来なくなっちゃったんだよね。

「ちと木の加工に手間取ったである。どうであろう、これで」

とシロガネが差し出して来たものは、

「いいじゃん、十分だよ」
「よかったである」

嬉しそうにシロガネが笑った。
簡単な作りだ。四角い板の上にマス目を書いて、そこに裏表のある丸いコマを置いて行くだけだ。
シロガネは凝り性なのか、板は歪みもなく真っ平ら。コマも綺麗な正円形だった。

「あれ、色は?」
「うむ。何で色を塗ろうか悩んでいたである」

あらまあ。そうか、下手に水性のもので色づけしたら、なにかのきっかけで色が落ちちゃうかもしれない。板の方はマス目を彫っているので消えるものじゃないけど。

「裏、表、って書くわけにもいかないしねぇ」

文字じゃ間違いが起こりかねん。

「あ、そうか。これが木なら…。ハヤテ、これちょっと炙れるかな?」
「あぶ…?」

う~ん、分かりにくかったか。

「小さな火をね、このコマの1面だけに当てて欲しいんだ。燃やさないように」
「もやさない?」

火は燃やすだけじゃないのよ。
ハヤテができうる限りの小さな炎を出した。うん、素手じゃヤケドするわ。
コハクが気を利かせて、鉄製のトングを借りてきてくれた。マジコハク天才。
コマを慎重に火に近づける。燃えないように様子を見ながら。私もやり方がよく分かっていないが、多分これで焦げ目が付けば…。

少しして、ハヤテがダウン。火力を絞るのはなかなか気力がいるらしい。そうだよね。
というわけで、火を丁度そこにある薪に…。危ないから竈を借りよう。
竈の所へ移動し、小さく並べた薪に火を付け、コマをジリジリと焼いていく。根気がいるな、これ。
しばらくしたら、どうにか表面が黒くなった。

「どうよ! これ!」
「なるほど。これは上手い手である」

シロガネが感心している。ふ、私も最初から上手く行くとは、ちょっと驚きだよ。
てっきり、今までの流れからして、最初は燃え落ちてしまうのではないかと…。なかったからいいか。

「では、早速」

とシロガネもコマを炙り始める。

「あ、近づけすぎたりすると燃えるかもよ」
「あーーーー!!」

燃えた。
シロガネがやりましたか…。







里は見て回っちゃったし、里の人達は今部分変化習得で忙しいし、やる事なくて暇なので、焼きの手伝い。コハクがまたトングを借りてきてくれた。マジコハク秀才。
ハヤテは遊びに行ってきてもいいよと言ったのに、炙るこの様子にどうやら興味津々。コハクと一緒にやり始めていた。
それぞれに小さな火と木片と格闘し、なんとか全部のコマを1面だけ黒くした時には、すでに夕方。

「う、腕が重い…」

ずっと同じ姿勢を保っていたせいか、体がバキバキだ。
すると、リンちゃんの淡い光に包まれた。途端に体中の重さが取れる。

「ありがとう、リンちゃん」

リン!

なんて良い子達…。
で、里の皆さん帰って来ないんだけど。うちらの夕飯どうしてくれるのよ。勝手に作っちゃっていいのか?
勝手に炊事場を使うわけにもいかず、ドラゴンの皆さんの元へ再び。薄暗くなる世界の中で、やはり皆さんがうんうん唸っていた。
暇なのか、ドラゴンて。

「おや主殿。おおそうか。そろそろ夕飯の時間か」

クレナイが空を見上げる。赤くなっていく空が、時間の経過を表している。

「さて、今日はここまでじゃ。皆の者、修練は明日にして、今日はもう休むのじゃ」

ところが、誰1人として動くものはいない。

「おい、休みも必要じゃぞ?!」

クレナイの言葉に反応する者はいなかった。

「全く、下手に体力があるというのも問題じゃのう」
「クレナイ、つまり皆さん…」
「ドラゴンはまあ、睡眠も10年に1度でも支障はないのじゃ。普通の生き物のように毎日寝なければならないと言う事もない。じゃから、まあ、多分じゃが…」
「修練するまで皆止めないと」
「そういうことじゃな」
「さすがにご飯は食べるでしょう?」
「人の姿を取っている時は、定期的に摂取しないといけないのではあるが、昨日たらふく食べたしのう」
Oh、悪い事が重なるってこういうことかしら。
「まあ、妾は休ませてもらうがのう。皆の者、妾は休む故、助言を聞きたくば明日にせよ!」

何人かがこっちを向いて、え~という顔をした。クレナイからアドバイスが欲しかったのか。でも明日ね。
炊事場はクレナイに使用許可をもらって、だって他に人いないし、適当に自分達の夕飯を作って食べた。
食べた後は、シロガネ作のリバーシゲーム。表が木面、裏が黒面、ルールはオセロと同じで、宿の時のように対戦。ふ、まだ私が勝てるぜ。でも、コハクの成長が早すぎて怖いんですが。何この子、天才児?!
クレナイの両親も帰ってこないし、長老の家で皆で集まってゲームをしながら、帰ってくるかどうかも分からない家主を待った。帰って来なかったら勝手に寝ちゃおうと思っている。
暗くなって月明かりが里を照らし始めた頃、帰って来ないと持っていた長老夫妻とクレナイ両親が帰ってきた。

「いやさすがに、お客さんがおるでのう」

ほぼ忘れられてましたよね、私達。
クレナイのご両親も中に入ってきて、私達がやっていたゲームは何ですかと聞いて来た。
簡単に説明、シロガネとクレナイが実践。2人の実力は拮抗している。
ギリギリでクレナイが勝つ。喜ぶクレナイに悔しがるシロガネ。そしてご褒美にクレナイの頭をナデナデ。シロガネが羨ましそうに見ているが、勝者にはご褒美をあげねばね。あれ、私が勝った時は、誰が…。ああ、クロがいたわ。

「我が輩を出すな」

思考読んだね?
私がクロにモフリの刑を執行している最中に、コハクが長老達にやってはいかがと勧めた。
試しに長老夫妻の対戦。奥様が勝った。奥様の方が知力に長けておいでのようです。
もう一回!と駄々をこねる長老を奥さんが抑え、次にクレナイ夫妻。お父さんが勝った。
そしたらお母さんがぷんぷんになって臍を曲げてしまった。一生懸命ご機嫌を取るお父さん。ここにも尻に敷かれている者がおりましたか。
熱中し始めるドラゴンの2組の夫婦。しまった、教えるの明日にすれば良かった。
後悔しつつも、ゲームを止めようとしない人達を置いて、幼少組と共に布団に転がったのだった。
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