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黒猫と共に迷い込む
ドラゴンの里の宴
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迷い人だったという事しか分からないそうで、その人はドラゴンの里が落ち着くと、この里から去って行ったのだそうな。その後はさすがに知らないらしい。
「名は覚えておる。シミズサトルというらしい。やはり、元の世界に帰りたがっておったわい」
結構あちこちに出現してるわね、迷い人。その清水悟(当て字)さんは、元の世界に帰れたんだろうが。
「探せば、何かしらの書物なんかを残してる人がいるかもしれないわね…」
そうだ、図書館へ行こう。
「今更かの…」
クロが溜息を吐いた。
その後、宴が執り行われたのだが…。
「凄い量…」
「これ、全部食べるんですかね…」
コハクと一緒にポカン。
皿の上には肉肉肉。わーい、肉で山が出来てるー。
よく見れば野菜もある。うん、肉だけ見てると胃がもたれてくるよ。
「儂らはそこそこ食えば、その後何日か食わずともいられるでのう。まあ普段はこんなに食わんが、今日は一族の娘が無事に戻った祝いじゃ」
乾杯の声で、皆が手に持ったコップを掲げる。ちなみに、コップは木でできた物です。ガラスのコップを使っていた時期もあるけれど、力の加減を間違えて割ってしまう事が多発。ガラスのコップはそれなりのお値段がするので、今は木のコップで統一しているのだと。力がありすぎるのも困りものだね。
「どうせなら、一つ一つに何か彫ればいいのに…」
コハクが呟いた。確かに、皆何の変哲もない一律同じコップなんだよね。模様でも彫れば可愛くなると思うんだけどね。
「彫る、とはどういうことじゃ? お嬢ちゃん」
白爺がコハクに問いかけた。
「ええと、木で出来た建物や小物入れなどに、人は何かしら模様を入れたりするのです。そうした方が見栄えも良くなるし、他人の物と区別出来るようになるし、希少価値も上がるでしょう?」
「ほうほう、どうやってその模様を入れるのかのう?」
「木を削るナイフとかを使っているはずです。すいません、詳しい事は分かりません」
「木を削るナイフ、のう…」
奥さんがすっと立ち上がって、家に戻っていった。そして、何かを手にしてすぐに戻って来た。
「これなんか、使えませんかね?」
そう言って出して来たのは、なんだろう?白くて一方の先が尖ってて、猫の爪に似たような…。
「私の欠けた爪です。綺麗に欠けたので、飾っていたのですけど」
ううん!レア素材!
「これで、その模様とやらは入れられますか?」
コハクにその爪を渡す。しかしコハクもそんなレア素材手にするのは恐ろしいらしく、受け取る時にビビっていた。
「どどどど、ドラゴンの爪…」
コハクがどもっている。なかなかレアなシーンを見た。
「試しに、このコップに入れてみて貰えますか?」
奥さんが空いているコップを差し出してきた。
「え、でも、私に彫れるかどうか…」
「失敗しても構いませんよ。どういうものか知りたいだけです」
知りたい病が始まっている気がする。
「は、はあ…」
コハクが爪とコップを持って、しばし思案したあと、思い切って何かを彫り始めた。
奥さんと白爺はそれを見ながら、大量の肉と野菜を口に運んでいる。
これ見てるだけでお腹いっぱいになりそう…。
私も少し頂く。む、これ、実はかなり美味くない?
「これ、美味しいですね~」
適当な味付けだと思ってたよ。
「むふふ。そうじゃろうそうじゃろう。なにせ、料理を知ってから、里の者皆でその技術を鍛えたからのう。今では人の飯に負けんと思っておるぞ」
どうだとばかりに胸を張る。
「う~ん、確かに、この味なら人の作る物より美味しいかもしれませんけど…」
「む? 何か不満でも?」
「バラエティが少ないんですよ。調味料、同じようなものしか使ってないんじゃないですか?」
「むむ?!」
「ユートピアのお宿のご飯、美味しかったよねぇ? ハヤテ」
「おいしかったー」
「ここのとどっちが美味しい?」
「んーとね、やど!」
「グリフォンもこのように申しておりますが」
「なんじゃとう! あるだけの材料と調味料を使って、まだ人間に負けておるじゃと?!」
「う~んと、塩と胡椒と、何かのソースですかね? 使ってるのって」
「他に何があるのじゃ?」
「よし、シロガネ。鞄から出してきて」
「了解である。主」
シロガネが走って家に戻って、鞄、というかでかいリュック、この大きさだとザック?を持って来た。
そして鞄を開けて、中から色々な調味料を取り出す。
え?料理もしないのになんで調味料をいっぱい買ってるのかって?いいのよ。きっとコハクが使ってくれるから。だって買うの楽しいんだもん。
もちろんだが、大きさはそれほど大きくない。日本のように1Lで売っているものを買う冒険者はいない。もちろん私だって、コハクに止められたし…。
小さな容器に入った様々な調味料を、順に説明し始める。
「これがお酢。これが醤油。これがお味噌に出汁の素。ケチャップにマヨネーズ、七味に一味。これはハーブだったっけ。砂糖に、塩と胡椒はあるんだよね。これは色々な物を煮詰めたソース。ちょっとずつ味が違う物を3種ほど。とりあえず私でもこれだけの調味料を持ってますが」
このソースに焼いた肉絡ませると美味いんだな。焼き肉のタレのようで。
「な、なんじゃこれは? 酢? 醤油? 聞いた事もない」
うん、これはまだ出来て歴史が浅いらしいからね。今までに訪れた迷い人が頑張って作り出したらしいので。ありがとう。おかげで私は美味しく頂けてます。
「試しに、このソースをお肉に付けてみて下さいな。味の違いを楽しめますよ」
小皿を用意して貰って、そこにソースを少したっぷりめに。
それを口に運んだ長老夫婦の目が輝いた。
「こここここれは…」
「ななななな…」
「大人でしたら、こちらをかけても美味しいかもしれません。人により好みがありますが」
と、七味を少しかけてやる。
それを口に入れ、再び顔が輝く。
「む…ふう…」
「ほも…」
気に入ったようだな。ニヤリ。
「こちらは単体で食べるとちょっときついので、この醤油と合わせて酢醤油にするとまた美味しさがアップします」
と、酢醤油を差し出すと、ひったくるように取られた。
それを付けて、さらに顔を輝かせる。
「人によっては、ケチャップとマヨネーズも好みがありますので、どうぞ、お楽しみ下さい」
ケチャップとマヨネーズを更に別々に盛ると、やはりひったくられた。
「うむ。このマヨネーズとやら、美味い!」
「私はこちらのケチャップですね」
マヨラーとケチャラーの違いが出たようです。
てか、私なんで行商人みたいなことしてるんだろう?
「いかがですか? 人の里にはこんなに色々調味料が開発されてますよ? ドラゴンの里ではこの味1択ですよね?」
美味しいけど、同じ味は飽きるよね。
「むむむう…。人の里だと色々な調味料があるのじゃな…」
「難しいですね…。あまり交流を盛んにするのも…」
とうんうん唸っている。
「あの~、持って来て貰うみたいなことが前提になってる気がするんですけど、自分達で買いに行かないんですか?」
「買いに? 怖がられてしまうからのう…」
「いや。人化してるじゃないですか…」
「そうか! この姿なら…」
「しかし、人の街までどうやって行けば…。飛んで行ったらやはり騒ぎになってしまいます」
奥さん…。
「人がこの場所まで来てるんですよね? ってことは、ここからも行けるはずでしょう?」
「「どうやって?」」
「歩いて」
「歩くじゃと?!」
「こんな険しい山を、この姿で?!」
おいおい…。
「それか、山の麓まで元の姿で降りて、そこから街まで歩くとか」
「歩くか…。ふむ。考えた事なかったのじゃ」
「私達は移動は翼を使いますからねぇ」
人には歩く足がある。
「長老様。人の街まで行けば、知らない本、読み放題ですよ?」
「行こう! なんとしてでも!」
どれだけ読みたいんだよ。
「あの、出来ました…」
コハクの声が。
「お、出来た~? どれどれ…。……コハク、器用だね」
「そ、そうですか?」
コハクが照れている。
コップに描かれていたのは、この辺りで見かける、白い花だった。葉の模様まで綺麗に描かれ、風に揺れている感じがなんとも言えない。これ、私でも欲しくなっちゃうぞ。
「どれ、どんな風になるのですか?」
奥さんに手渡すと、驚愕の表情。
「こ、これ、これは…。私のコップにしましょう」
といそいそと懐にしまい込んだ。
「ちょ、ずるいのじゃ! 儂ももっと良く見たいのじゃ!」
「そう言って取る気でしょう! 貴方の事は分かってましてよ!」
夫婦げんかが始まっちゃったよ。
「あ、あの! それは、奥様をイメージして彫ったので、もしなんでしたら、もう一つ、長老様用に…」
「よし、頼んだのじゃ」
さっとコップを差し出してきた。
早ぇ―な。
またコハクが彫りに集中し始める。コハク、食べてね?
夢中になっているコハクの邪魔も出来ないし、そのまま一段落するまで見守る事に。
そして、色々な調味料に興味を示したドラゴンの皆様に、囲まれました。
持っていた調味料をほぼ全てぶんどられたので、ちゃんと金を払えと脅迫。ただで物をあげるほど、私はお人好しじゃない!
さすがに悪いと思ったのか、きちんと払ってくれました。
「お金、持ってるんですね」
「儂らがいらなくなった鱗や欠けた爪なんかを、人間は喜んで持って行くからのう」
でしょうね。
七味と一味以外、容器は空になっている。味噌と出汁の素もこうやって使うのだと説明したらお金に変わった。せっかく買ったのに…。お味噌はなかなか売ってないんですぜ?
白爺用のコップの彫りも終わらせ、ようやっと食事を取り始めるコハク。いっぱいお食べ。
白爺用のは、また別の花だった。菖蒲やアヤメのような葉っぱが凜と尖っている花だった。そんな花あるんだ。
白爺はさっそくそれを使って酒を飲んでいた。それを目敏く見つけたドラゴンの人々がまた集まって来て…。
コハクが食事中なので後にして貰った。
そんなこんなで宴もたけなわになった頃。
「クレナイ殿!」
誰かがクレナイの名を呼んだ。
クレナイは両親と共に食事を取っているから、私の側にはいない。肉山の向こうに辛うじてその姿が見えた。
「なんじゃ?」
クレナイがその声に答えた。
「クレナイ殿! 決闘を申し込む! 私が勝ったら、私の物になってもらおう!」
もしやこれ、滄司か?
「ふむ。良かろう! 受けて立つ!」
肉山の向こうを覗くと、立ち上がっている滄司とクレナイが見えた。
「ほほ、若い者はええの~」
「ふふ。私も貴方と戦ったのですよね。辛うじて貴方が勝って、番になりましたが」
「あの時は…、ほんに大変じゃった…」
白爺が疲れたような、遠い目をした。そんなに大変だったのか。
てか、ドラゴンの求婚て、決闘なの?
「名は覚えておる。シミズサトルというらしい。やはり、元の世界に帰りたがっておったわい」
結構あちこちに出現してるわね、迷い人。その清水悟(当て字)さんは、元の世界に帰れたんだろうが。
「探せば、何かしらの書物なんかを残してる人がいるかもしれないわね…」
そうだ、図書館へ行こう。
「今更かの…」
クロが溜息を吐いた。
その後、宴が執り行われたのだが…。
「凄い量…」
「これ、全部食べるんですかね…」
コハクと一緒にポカン。
皿の上には肉肉肉。わーい、肉で山が出来てるー。
よく見れば野菜もある。うん、肉だけ見てると胃がもたれてくるよ。
「儂らはそこそこ食えば、その後何日か食わずともいられるでのう。まあ普段はこんなに食わんが、今日は一族の娘が無事に戻った祝いじゃ」
乾杯の声で、皆が手に持ったコップを掲げる。ちなみに、コップは木でできた物です。ガラスのコップを使っていた時期もあるけれど、力の加減を間違えて割ってしまう事が多発。ガラスのコップはそれなりのお値段がするので、今は木のコップで統一しているのだと。力がありすぎるのも困りものだね。
「どうせなら、一つ一つに何か彫ればいいのに…」
コハクが呟いた。確かに、皆何の変哲もない一律同じコップなんだよね。模様でも彫れば可愛くなると思うんだけどね。
「彫る、とはどういうことじゃ? お嬢ちゃん」
白爺がコハクに問いかけた。
「ええと、木で出来た建物や小物入れなどに、人は何かしら模様を入れたりするのです。そうした方が見栄えも良くなるし、他人の物と区別出来るようになるし、希少価値も上がるでしょう?」
「ほうほう、どうやってその模様を入れるのかのう?」
「木を削るナイフとかを使っているはずです。すいません、詳しい事は分かりません」
「木を削るナイフ、のう…」
奥さんがすっと立ち上がって、家に戻っていった。そして、何かを手にしてすぐに戻って来た。
「これなんか、使えませんかね?」
そう言って出して来たのは、なんだろう?白くて一方の先が尖ってて、猫の爪に似たような…。
「私の欠けた爪です。綺麗に欠けたので、飾っていたのですけど」
ううん!レア素材!
「これで、その模様とやらは入れられますか?」
コハクにその爪を渡す。しかしコハクもそんなレア素材手にするのは恐ろしいらしく、受け取る時にビビっていた。
「どどどど、ドラゴンの爪…」
コハクがどもっている。なかなかレアなシーンを見た。
「試しに、このコップに入れてみて貰えますか?」
奥さんが空いているコップを差し出してきた。
「え、でも、私に彫れるかどうか…」
「失敗しても構いませんよ。どういうものか知りたいだけです」
知りたい病が始まっている気がする。
「は、はあ…」
コハクが爪とコップを持って、しばし思案したあと、思い切って何かを彫り始めた。
奥さんと白爺はそれを見ながら、大量の肉と野菜を口に運んでいる。
これ見てるだけでお腹いっぱいになりそう…。
私も少し頂く。む、これ、実はかなり美味くない?
「これ、美味しいですね~」
適当な味付けだと思ってたよ。
「むふふ。そうじゃろうそうじゃろう。なにせ、料理を知ってから、里の者皆でその技術を鍛えたからのう。今では人の飯に負けんと思っておるぞ」
どうだとばかりに胸を張る。
「う~ん、確かに、この味なら人の作る物より美味しいかもしれませんけど…」
「む? 何か不満でも?」
「バラエティが少ないんですよ。調味料、同じようなものしか使ってないんじゃないですか?」
「むむ?!」
「ユートピアのお宿のご飯、美味しかったよねぇ? ハヤテ」
「おいしかったー」
「ここのとどっちが美味しい?」
「んーとね、やど!」
「グリフォンもこのように申しておりますが」
「なんじゃとう! あるだけの材料と調味料を使って、まだ人間に負けておるじゃと?!」
「う~んと、塩と胡椒と、何かのソースですかね? 使ってるのって」
「他に何があるのじゃ?」
「よし、シロガネ。鞄から出してきて」
「了解である。主」
シロガネが走って家に戻って、鞄、というかでかいリュック、この大きさだとザック?を持って来た。
そして鞄を開けて、中から色々な調味料を取り出す。
え?料理もしないのになんで調味料をいっぱい買ってるのかって?いいのよ。きっとコハクが使ってくれるから。だって買うの楽しいんだもん。
もちろんだが、大きさはそれほど大きくない。日本のように1Lで売っているものを買う冒険者はいない。もちろん私だって、コハクに止められたし…。
小さな容器に入った様々な調味料を、順に説明し始める。
「これがお酢。これが醤油。これがお味噌に出汁の素。ケチャップにマヨネーズ、七味に一味。これはハーブだったっけ。砂糖に、塩と胡椒はあるんだよね。これは色々な物を煮詰めたソース。ちょっとずつ味が違う物を3種ほど。とりあえず私でもこれだけの調味料を持ってますが」
このソースに焼いた肉絡ませると美味いんだな。焼き肉のタレのようで。
「な、なんじゃこれは? 酢? 醤油? 聞いた事もない」
うん、これはまだ出来て歴史が浅いらしいからね。今までに訪れた迷い人が頑張って作り出したらしいので。ありがとう。おかげで私は美味しく頂けてます。
「試しに、このソースをお肉に付けてみて下さいな。味の違いを楽しめますよ」
小皿を用意して貰って、そこにソースを少したっぷりめに。
それを口に運んだ長老夫婦の目が輝いた。
「こここここれは…」
「ななななな…」
「大人でしたら、こちらをかけても美味しいかもしれません。人により好みがありますが」
と、七味を少しかけてやる。
それを口に入れ、再び顔が輝く。
「む…ふう…」
「ほも…」
気に入ったようだな。ニヤリ。
「こちらは単体で食べるとちょっときついので、この醤油と合わせて酢醤油にするとまた美味しさがアップします」
と、酢醤油を差し出すと、ひったくるように取られた。
それを付けて、さらに顔を輝かせる。
「人によっては、ケチャップとマヨネーズも好みがありますので、どうぞ、お楽しみ下さい」
ケチャップとマヨネーズを更に別々に盛ると、やはりひったくられた。
「うむ。このマヨネーズとやら、美味い!」
「私はこちらのケチャップですね」
マヨラーとケチャラーの違いが出たようです。
てか、私なんで行商人みたいなことしてるんだろう?
「いかがですか? 人の里にはこんなに色々調味料が開発されてますよ? ドラゴンの里ではこの味1択ですよね?」
美味しいけど、同じ味は飽きるよね。
「むむむう…。人の里だと色々な調味料があるのじゃな…」
「難しいですね…。あまり交流を盛んにするのも…」
とうんうん唸っている。
「あの~、持って来て貰うみたいなことが前提になってる気がするんですけど、自分達で買いに行かないんですか?」
「買いに? 怖がられてしまうからのう…」
「いや。人化してるじゃないですか…」
「そうか! この姿なら…」
「しかし、人の街までどうやって行けば…。飛んで行ったらやはり騒ぎになってしまいます」
奥さん…。
「人がこの場所まで来てるんですよね? ってことは、ここからも行けるはずでしょう?」
「「どうやって?」」
「歩いて」
「歩くじゃと?!」
「こんな険しい山を、この姿で?!」
おいおい…。
「それか、山の麓まで元の姿で降りて、そこから街まで歩くとか」
「歩くか…。ふむ。考えた事なかったのじゃ」
「私達は移動は翼を使いますからねぇ」
人には歩く足がある。
「長老様。人の街まで行けば、知らない本、読み放題ですよ?」
「行こう! なんとしてでも!」
どれだけ読みたいんだよ。
「あの、出来ました…」
コハクの声が。
「お、出来た~? どれどれ…。……コハク、器用だね」
「そ、そうですか?」
コハクが照れている。
コップに描かれていたのは、この辺りで見かける、白い花だった。葉の模様まで綺麗に描かれ、風に揺れている感じがなんとも言えない。これ、私でも欲しくなっちゃうぞ。
「どれ、どんな風になるのですか?」
奥さんに手渡すと、驚愕の表情。
「こ、これ、これは…。私のコップにしましょう」
といそいそと懐にしまい込んだ。
「ちょ、ずるいのじゃ! 儂ももっと良く見たいのじゃ!」
「そう言って取る気でしょう! 貴方の事は分かってましてよ!」
夫婦げんかが始まっちゃったよ。
「あ、あの! それは、奥様をイメージして彫ったので、もしなんでしたら、もう一つ、長老様用に…」
「よし、頼んだのじゃ」
さっとコップを差し出してきた。
早ぇ―な。
またコハクが彫りに集中し始める。コハク、食べてね?
夢中になっているコハクの邪魔も出来ないし、そのまま一段落するまで見守る事に。
そして、色々な調味料に興味を示したドラゴンの皆様に、囲まれました。
持っていた調味料をほぼ全てぶんどられたので、ちゃんと金を払えと脅迫。ただで物をあげるほど、私はお人好しじゃない!
さすがに悪いと思ったのか、きちんと払ってくれました。
「お金、持ってるんですね」
「儂らがいらなくなった鱗や欠けた爪なんかを、人間は喜んで持って行くからのう」
でしょうね。
七味と一味以外、容器は空になっている。味噌と出汁の素もこうやって使うのだと説明したらお金に変わった。せっかく買ったのに…。お味噌はなかなか売ってないんですぜ?
白爺用のコップの彫りも終わらせ、ようやっと食事を取り始めるコハク。いっぱいお食べ。
白爺用のは、また別の花だった。菖蒲やアヤメのような葉っぱが凜と尖っている花だった。そんな花あるんだ。
白爺はさっそくそれを使って酒を飲んでいた。それを目敏く見つけたドラゴンの人々がまた集まって来て…。
コハクが食事中なので後にして貰った。
そんなこんなで宴もたけなわになった頃。
「クレナイ殿!」
誰かがクレナイの名を呼んだ。
クレナイは両親と共に食事を取っているから、私の側にはいない。肉山の向こうに辛うじてその姿が見えた。
「なんじゃ?」
クレナイがその声に答えた。
「クレナイ殿! 決闘を申し込む! 私が勝ったら、私の物になってもらおう!」
もしやこれ、滄司か?
「ふむ。良かろう! 受けて立つ!」
肉山の向こうを覗くと、立ち上がっている滄司とクレナイが見えた。
「ほほ、若い者はええの~」
「ふふ。私も貴方と戦ったのですよね。辛うじて貴方が勝って、番になりましたが」
「あの時は…、ほんに大変じゃった…」
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