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黒猫と共に迷い込む
また来たいぜユートピア
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「なんだか、いつもよりよく寝れた気がする…」
「いつもよく寝ておろうが」
クロさん容赦ない。
乱れた浴衣を直しつつ、起き上がると、やはり皆起きていた。あれ?シロガネだけ向こうの部屋かな?
「主殿がしどけない姿になっておったのでな。閉め出しておる」
なんかすまん。
今朝はお風呂に行くから用意しなくていいよとコハクに言っておいたおかげが、洗顔の代わりにすでにお風呂に行く支度をしていた。
コハクさん、しっかりしておりますね。
「おはようございます。ご主人様。朝食の時間もありますので、さっさと参りましょう」
「そうね~」
コハクが用意してくれた着替えやらタオルやらを持って、閉められていた扉を開けると、シロガネが蹲っていた。
「おはよう、シロガネ」
「! おはようである! 主!」
嬉しそうに立ち上がる。もしかして、いぢけてた?
連れ立ってお風呂に行くと、カウンターに早、女将さんがスタンバっていた。
「おはようございます。良くお休みになれられましたか?」
「おはようございます。はい。もうぐっすり」
朝食の支度はもうすぐ整うから、いつでも来てくれと言われ、早めに上がるようシロガネにも何度も何度も言い含める。
「遅れたら朝食抜きにするからね」
「ぬ。分かったである!」
軽く浴びて風呂に入って、風呂納めとばかりに露天風呂にも入って。
「はああああああ~…。主殿、またここに来たいのう」
「そうだねぇ」
「なんだか、ゆっくり出来ました」
「コハク…。あんたはまだ子供なんだから…。無理しないで…」
体もあるんだから。
「大丈夫ですよ。私が好きでやってるんですから」
この年ですでにワーカーホリック?!
止めさせたいけど、止めさせたら止めさせたで、仕事がないって暗い顔するんだろうな。難しい。
ハヤテとリンちゃんは相変わらず風呂の中を沈んだり潜ったり、じゃなかった、浮いたり潜ったりして遊んでいた。
泳いだらダメと言ったら潜りだしたのよね。リンちゃんは浮いてくるハヤテの頭に止まったりして遊んでいる。まあ、他にお客さんもいないし、お湯も飛び散らないし、いいか。
早々に上がって服を着て出ると、やはりシロガネはいなかった。だがしかし、昨日の夜ほど遅くはないだろう。部屋に帰って支度をしている時に帰って来た。うむ。今日は早かったな。
食堂へ行って朝ご飯を頂く。昨日と同じ席に着くと、やはりご飯が運ばれてきた。
今朝は、鮭の切り身みたいな焼き魚と生卵。お新香みたいなものと味噌汁と他おかず達。
納豆と味付けのりがあったら完璧だったんだけどな。とちょっと残念。
昨日の夜より多めに炊いたというご飯もクレナイが綺麗に平らげ、多めに作ったという味噌汁も空にした。さすがだわ。
お魚はさすがになかったけど、お新香は追加でもらっていた。確かに、これ美味いわ。
ごちそうさまでしたと挨拶して戻る時、やはり奥に人影が。満面の笑みを浮かべていらっしゃいました。
そして荷物を持って、とうとうこのお宿を出ます。
「なんだか、名残惜しいなぁ」
「そうじゃのう」
「であるな」
繁盛して欲しいな。んで、できれば長く続いて欲しい。
「ご飯は本当に美味しかったのにね!」
「そうじゃろう主殿!」
「うむ! 美味かったである!」
「お魚美味しかったです…」
「おいし~」
リン!
故郷の味に似てるってのもあるけど、それを置いても美味しいと思うんだが。
「なんとか、宣伝出来ないかな~?」
「行く先々でこの宿の事を触れ回るしかないのう」
「我にはさっぱりである」
良い案が浮かぶわけもなく、カウンターに行ってお支払い。
規定の料金よりも、多めに払わせて貰った。え?施しじゃないよ。クレナイが食べた食費だよ。あれだけお皿の上を綺麗に食べ尽くしちゃねぇ…。
リンちゃん用の浴衣は、取って置いて貰う事に。必ずまた来ますからと。
女将さん、ちょっと複雑そうな顔をして、取って置いてくれると約束してくれた。
出来るだけ早めに来よう。
お支払いが終わると、ヤトさんが出て来た。
う、何を意識してるんだ私は。
「ヤエコさん、良かったらまた来て下さいね」
「はい。もちろんです。居心地いいしご飯は美味しいしお風呂も気持ち良いし、また来ます!」
できるだけ普通に装う。そうそう。名前を教えられただけなんだから、気にする事はないのだ。
「これ、良かったら、持って行って?」
そう言って私の手を取って、掌に何かを乗せた。
てか、手…、手…、触れて…。いやいや、落ち着け!そんなことで動揺してどうするのだ!
「え、えと?」
「僕のお古で悪いけど、幸運のお守り。良い旅が出来ますように」
「あ、ありがとうございます」
お守りを渡す?うん、普通だよね!きっと!
そして、掌には、良く神社でもらうようなお守りのミニチュア版が…。
「こ、これって…」
「昔うちで売ってた、幸運グッズなんだけどね。これ持ってたら、ここぞって時に良い結果が出たから。ヤエコさんの旅も、良い事があるように」
うん!迷い人だね!
「あ、本当に、ありがとうございます。また、必ず来ますね!」
「はい。お待ちしてます」
ふと気付いたら、なんだか皆がニヤニヤしながら見てるんだけど。
「何見てるの! 行くよ!」
「はいなのじゃ」
「はい!」
「あい!」
「もが…」
シロガネだけクレナイに口を押さえられてた。何故?
見送りに出て来てくれた女将さんと旦那さんとヤトさんに、見えなくなるまで手を振りながら、私達はユートピアを後にした。
街を出てまたシロガネに乗る。
「ほかの温泉にも入ってみたいし、いろいろ片付いたらまた行こう!」
「そうじゃのう!」
「我はどうかと…痛!」
「何か言ったかのう? シロガネ殿」
「い、いや! 是非また行きたいなと!」
「そうじゃろうそうじゃろう!」
なんだか2人が変な掛け合いをしている。
「八重子、で、お守りはどうした?」
「鞄にちゃんと入れたよ。失くせないよね。なんか、思いが籠もってるっていうか…」
「想いが籠もっておるだろうの」
「うん? クロさん? なんかニュアンスが違くない?」
「そうかの?」
そんな事を言いながら、私達は一路、ドラゴンの里を目指すのだった。
で、クレナイ?ナビをよろしくだよ?
八重子達が去った後の宿で、
「これ、ドラゴンの鱗だって、あの子達が」
「まさか、なんでそんなものが風呂に浮いてるんだ」
「でも、確かに品質は良さそうだよ。どこかに売れっていうのも納得出来るよ」
八重子達が持って来たドラゴンの鱗を前に、まさか本物だとは思っていない女将、主人、その息子ヤトはどうしようかと悩んでいた。
「あれだけあの子が捨てないでくれって言ってたし、ここは素直に雑貨屋にでも売りに行こうかと思うの。まあ、質が良さそうだし、多少は足しになるかなとも思ってね」
本当なら武器屋か防具屋、ギルドに持って行った方がいい品物なのだが、そうとは気付いていない3人は、雑貨屋で良いだろうと結論づけた。
「じゃあ、買い出しついでに僕が行ってくるよ」
「そう? じゃあお願いするわね」
「おう、よろしく」
母は腰を痛めているので無理はさせられない。父は今晩のおかずの魚を捕りに行かなければならない。ヤトはいつものように宿の整理、清掃などを片付けると、街へと買い出しに向かった。
顔見知り、というか幼い頃から顔なじみの雑貨やに立ち寄る。
「よう」
「よう。まだ潰れてなかったか?」
「縁起でもないこと言わないでくれよ」
「いや、すまんすまん」
「まあ、もう本当にやばいんだけどね」
「勿体ないよなぁ。この街一番の老舗なのになぁ」
「仕方ないよ。うちは古いってのが一番の売りだから。綺麗な建物には叶わない。あ、でも、昨日久しぶりにお客さんが来てくれたんだ。冒険者の割にはなんだか不思議な格好をした人達だったけど」
「おお、良かったな…。やべ、涙が…」
「なんでお前が泣くんだよ」
「だって、あのボロ旅館に、お客さんなんて…」
「ボロは余計だよ。それで、そのお客さん達が、お風呂場でこれを拾ったって言ってさ。なんか値打ち物っぽいから売りに行けって母が言われたらしいんだ」
と、持っていた袋の中から、ドラゴンの鱗を取りだした。
「へ~、こりゃなんだか珍しい素材だな」
「だろ? 凄い固くてとても綺麗な赤で。どう? どれくらいの値になりそう?」
「ちょっとまて。これ、なんの素材なんだろう…」
「なんかの鱗みたいだよね。彼女らはドラゴンの鱗だって言ってたらしいけど」
「ドラゴンの、鱗?」
「うん、そんな物がなんでお風呂場にあるんだよって話だよね」
「・・・・・・」
「って、あれ? ソージ?」
「お前…、噂聞いてないか?」
「噂? なんの?」
「隣のレカーテン帝国にドラゴンが現われたって噂」
「え? 本当?!」
「ああ。俺もちょっと聞いただけだけど、どうやら帝国がうちの国にいるドラゴン持ちの従魔師に喧嘩を売ったらしいって。それで報復するために、今いろいろ準備してるんだと。空を飛んでいたのも、どこから破壊するかの偵察だったとか」
「ええ?! そ、そんな…。帝国は何考えてんだ!」
「そう、皆そう言ってるんだ。で、これな。俺にもドラゴンの鱗に見えるんだが」
「えええ?! いやだって、そんな、なんでそんなものがうちの風呂に…」
「でな。その冒険者、猫を連れてなかったか?」
「え? う、うん。猫を抱いてたよ」
「聞いた話でな、ドラゴン持ちの従魔師は、猫を抱いた女冒険者らしいんだ」
「・・・・・・」
「分かったか?」
「いや、でも、なんで、そんな、そんな物…」
「考えられるとしたら、よっぽどお前んとこのボロ旅館が気に入ったから、そのお礼。もしくは、帝国から飛んで来て偶々落ちてきた鱗が、偶々そのお客さんが来た時に、木の枝にでも引っかかっていたのが落ちてきた。どうだ?」
「・・・・・・。偶々の方が説得力がある」
「まあな。いくらドラゴン持ちっつったって、こんな希少素材ポンとくれちまうわけない。余程その客、お人好しだったんだろうな。こんなものあったら、普通はネコババしちまうだろ」
「・・・・・・。ソージ、それ、売れない? なんか、持ってるのが怖くなって来ちゃったんだけど」
「うちにはこんなもの買い取れる余裕はない! 売りたきゃ冒険者ギルドにでも行くんだな」
「怖くて行けないよぉ…」
「それか、これで客寄せしたらどうだ?」
「客寄せ?」
「ドラゴンの鱗が飾ってあるっつったら、物好きがやって来ると思うぞ?」
「物好き以外の危ない人も来そうだけど…」
「弱気になってんじゃねえよ! お前、宿を残したいんだろ?!」
「う…、そうだけど…。うん、分かった。これで、ちょっと客寄せ、出来るか分からないけど、やってみるよ」
「おう! 噂流すのは俺に任せとけ!」
「まず、どうやって飾ろう…」
「そうだな~。やっぱそこは本職に聞いた方が良いかもな」
「本職って?」
「冒険者ギルド」
「結局行くのか…」
渋るヤトをソージが同行し、冒険者ギルドに相談に行った。
当初はこれを売ってくれと掴みかかって来たギルドマスターも、ヤトの宿の復興に使いたいとの想いを汲み、厳重な保管箱を用意すると約束した。
一応1面だけガラス張りになっており、中が見える仕様。ただ、何重にも盗難防止の付与魔法を施されたそれは、街の奥まった場所にあるちょっとボロい宿屋に飾られる事になった。
以来、噂を聞きつけた冒険者が、一目でも見ようと押しかけて来るようになり、宿の経営も持ち直したそうな。
「いつもよく寝ておろうが」
クロさん容赦ない。
乱れた浴衣を直しつつ、起き上がると、やはり皆起きていた。あれ?シロガネだけ向こうの部屋かな?
「主殿がしどけない姿になっておったのでな。閉め出しておる」
なんかすまん。
今朝はお風呂に行くから用意しなくていいよとコハクに言っておいたおかげが、洗顔の代わりにすでにお風呂に行く支度をしていた。
コハクさん、しっかりしておりますね。
「おはようございます。ご主人様。朝食の時間もありますので、さっさと参りましょう」
「そうね~」
コハクが用意してくれた着替えやらタオルやらを持って、閉められていた扉を開けると、シロガネが蹲っていた。
「おはよう、シロガネ」
「! おはようである! 主!」
嬉しそうに立ち上がる。もしかして、いぢけてた?
連れ立ってお風呂に行くと、カウンターに早、女将さんがスタンバっていた。
「おはようございます。良くお休みになれられましたか?」
「おはようございます。はい。もうぐっすり」
朝食の支度はもうすぐ整うから、いつでも来てくれと言われ、早めに上がるようシロガネにも何度も何度も言い含める。
「遅れたら朝食抜きにするからね」
「ぬ。分かったである!」
軽く浴びて風呂に入って、風呂納めとばかりに露天風呂にも入って。
「はああああああ~…。主殿、またここに来たいのう」
「そうだねぇ」
「なんだか、ゆっくり出来ました」
「コハク…。あんたはまだ子供なんだから…。無理しないで…」
体もあるんだから。
「大丈夫ですよ。私が好きでやってるんですから」
この年ですでにワーカーホリック?!
止めさせたいけど、止めさせたら止めさせたで、仕事がないって暗い顔するんだろうな。難しい。
ハヤテとリンちゃんは相変わらず風呂の中を沈んだり潜ったり、じゃなかった、浮いたり潜ったりして遊んでいた。
泳いだらダメと言ったら潜りだしたのよね。リンちゃんは浮いてくるハヤテの頭に止まったりして遊んでいる。まあ、他にお客さんもいないし、お湯も飛び散らないし、いいか。
早々に上がって服を着て出ると、やはりシロガネはいなかった。だがしかし、昨日の夜ほど遅くはないだろう。部屋に帰って支度をしている時に帰って来た。うむ。今日は早かったな。
食堂へ行って朝ご飯を頂く。昨日と同じ席に着くと、やはりご飯が運ばれてきた。
今朝は、鮭の切り身みたいな焼き魚と生卵。お新香みたいなものと味噌汁と他おかず達。
納豆と味付けのりがあったら完璧だったんだけどな。とちょっと残念。
昨日の夜より多めに炊いたというご飯もクレナイが綺麗に平らげ、多めに作ったという味噌汁も空にした。さすがだわ。
お魚はさすがになかったけど、お新香は追加でもらっていた。確かに、これ美味いわ。
ごちそうさまでしたと挨拶して戻る時、やはり奥に人影が。満面の笑みを浮かべていらっしゃいました。
そして荷物を持って、とうとうこのお宿を出ます。
「なんだか、名残惜しいなぁ」
「そうじゃのう」
「であるな」
繁盛して欲しいな。んで、できれば長く続いて欲しい。
「ご飯は本当に美味しかったのにね!」
「そうじゃろう主殿!」
「うむ! 美味かったである!」
「お魚美味しかったです…」
「おいし~」
リン!
故郷の味に似てるってのもあるけど、それを置いても美味しいと思うんだが。
「なんとか、宣伝出来ないかな~?」
「行く先々でこの宿の事を触れ回るしかないのう」
「我にはさっぱりである」
良い案が浮かぶわけもなく、カウンターに行ってお支払い。
規定の料金よりも、多めに払わせて貰った。え?施しじゃないよ。クレナイが食べた食費だよ。あれだけお皿の上を綺麗に食べ尽くしちゃねぇ…。
リンちゃん用の浴衣は、取って置いて貰う事に。必ずまた来ますからと。
女将さん、ちょっと複雑そうな顔をして、取って置いてくれると約束してくれた。
出来るだけ早めに来よう。
お支払いが終わると、ヤトさんが出て来た。
う、何を意識してるんだ私は。
「ヤエコさん、良かったらまた来て下さいね」
「はい。もちろんです。居心地いいしご飯は美味しいしお風呂も気持ち良いし、また来ます!」
できるだけ普通に装う。そうそう。名前を教えられただけなんだから、気にする事はないのだ。
「これ、良かったら、持って行って?」
そう言って私の手を取って、掌に何かを乗せた。
てか、手…、手…、触れて…。いやいや、落ち着け!そんなことで動揺してどうするのだ!
「え、えと?」
「僕のお古で悪いけど、幸運のお守り。良い旅が出来ますように」
「あ、ありがとうございます」
お守りを渡す?うん、普通だよね!きっと!
そして、掌には、良く神社でもらうようなお守りのミニチュア版が…。
「こ、これって…」
「昔うちで売ってた、幸運グッズなんだけどね。これ持ってたら、ここぞって時に良い結果が出たから。ヤエコさんの旅も、良い事があるように」
うん!迷い人だね!
「あ、本当に、ありがとうございます。また、必ず来ますね!」
「はい。お待ちしてます」
ふと気付いたら、なんだか皆がニヤニヤしながら見てるんだけど。
「何見てるの! 行くよ!」
「はいなのじゃ」
「はい!」
「あい!」
「もが…」
シロガネだけクレナイに口を押さえられてた。何故?
見送りに出て来てくれた女将さんと旦那さんとヤトさんに、見えなくなるまで手を振りながら、私達はユートピアを後にした。
街を出てまたシロガネに乗る。
「ほかの温泉にも入ってみたいし、いろいろ片付いたらまた行こう!」
「そうじゃのう!」
「我はどうかと…痛!」
「何か言ったかのう? シロガネ殿」
「い、いや! 是非また行きたいなと!」
「そうじゃろうそうじゃろう!」
なんだか2人が変な掛け合いをしている。
「八重子、で、お守りはどうした?」
「鞄にちゃんと入れたよ。失くせないよね。なんか、思いが籠もってるっていうか…」
「想いが籠もっておるだろうの」
「うん? クロさん? なんかニュアンスが違くない?」
「そうかの?」
そんな事を言いながら、私達は一路、ドラゴンの里を目指すのだった。
で、クレナイ?ナビをよろしくだよ?
八重子達が去った後の宿で、
「これ、ドラゴンの鱗だって、あの子達が」
「まさか、なんでそんなものが風呂に浮いてるんだ」
「でも、確かに品質は良さそうだよ。どこかに売れっていうのも納得出来るよ」
八重子達が持って来たドラゴンの鱗を前に、まさか本物だとは思っていない女将、主人、その息子ヤトはどうしようかと悩んでいた。
「あれだけあの子が捨てないでくれって言ってたし、ここは素直に雑貨屋にでも売りに行こうかと思うの。まあ、質が良さそうだし、多少は足しになるかなとも思ってね」
本当なら武器屋か防具屋、ギルドに持って行った方がいい品物なのだが、そうとは気付いていない3人は、雑貨屋で良いだろうと結論づけた。
「じゃあ、買い出しついでに僕が行ってくるよ」
「そう? じゃあお願いするわね」
「おう、よろしく」
母は腰を痛めているので無理はさせられない。父は今晩のおかずの魚を捕りに行かなければならない。ヤトはいつものように宿の整理、清掃などを片付けると、街へと買い出しに向かった。
顔見知り、というか幼い頃から顔なじみの雑貨やに立ち寄る。
「よう」
「よう。まだ潰れてなかったか?」
「縁起でもないこと言わないでくれよ」
「いや、すまんすまん」
「まあ、もう本当にやばいんだけどね」
「勿体ないよなぁ。この街一番の老舗なのになぁ」
「仕方ないよ。うちは古いってのが一番の売りだから。綺麗な建物には叶わない。あ、でも、昨日久しぶりにお客さんが来てくれたんだ。冒険者の割にはなんだか不思議な格好をした人達だったけど」
「おお、良かったな…。やべ、涙が…」
「なんでお前が泣くんだよ」
「だって、あのボロ旅館に、お客さんなんて…」
「ボロは余計だよ。それで、そのお客さん達が、お風呂場でこれを拾ったって言ってさ。なんか値打ち物っぽいから売りに行けって母が言われたらしいんだ」
と、持っていた袋の中から、ドラゴンの鱗を取りだした。
「へ~、こりゃなんだか珍しい素材だな」
「だろ? 凄い固くてとても綺麗な赤で。どう? どれくらいの値になりそう?」
「ちょっとまて。これ、なんの素材なんだろう…」
「なんかの鱗みたいだよね。彼女らはドラゴンの鱗だって言ってたらしいけど」
「ドラゴンの、鱗?」
「うん、そんな物がなんでお風呂場にあるんだよって話だよね」
「・・・・・・」
「って、あれ? ソージ?」
「お前…、噂聞いてないか?」
「噂? なんの?」
「隣のレカーテン帝国にドラゴンが現われたって噂」
「え? 本当?!」
「ああ。俺もちょっと聞いただけだけど、どうやら帝国がうちの国にいるドラゴン持ちの従魔師に喧嘩を売ったらしいって。それで報復するために、今いろいろ準備してるんだと。空を飛んでいたのも、どこから破壊するかの偵察だったとか」
「ええ?! そ、そんな…。帝国は何考えてんだ!」
「そう、皆そう言ってるんだ。で、これな。俺にもドラゴンの鱗に見えるんだが」
「えええ?! いやだって、そんな、なんでそんなものがうちの風呂に…」
「でな。その冒険者、猫を連れてなかったか?」
「え? う、うん。猫を抱いてたよ」
「聞いた話でな、ドラゴン持ちの従魔師は、猫を抱いた女冒険者らしいんだ」
「・・・・・・」
「分かったか?」
「いや、でも、なんで、そんな、そんな物…」
「考えられるとしたら、よっぽどお前んとこのボロ旅館が気に入ったから、そのお礼。もしくは、帝国から飛んで来て偶々落ちてきた鱗が、偶々そのお客さんが来た時に、木の枝にでも引っかかっていたのが落ちてきた。どうだ?」
「・・・・・・。偶々の方が説得力がある」
「まあな。いくらドラゴン持ちっつったって、こんな希少素材ポンとくれちまうわけない。余程その客、お人好しだったんだろうな。こんなものあったら、普通はネコババしちまうだろ」
「・・・・・・。ソージ、それ、売れない? なんか、持ってるのが怖くなって来ちゃったんだけど」
「うちにはこんなもの買い取れる余裕はない! 売りたきゃ冒険者ギルドにでも行くんだな」
「怖くて行けないよぉ…」
「それか、これで客寄せしたらどうだ?」
「客寄せ?」
「ドラゴンの鱗が飾ってあるっつったら、物好きがやって来ると思うぞ?」
「物好き以外の危ない人も来そうだけど…」
「弱気になってんじゃねえよ! お前、宿を残したいんだろ?!」
「う…、そうだけど…。うん、分かった。これで、ちょっと客寄せ、出来るか分からないけど、やってみるよ」
「おう! 噂流すのは俺に任せとけ!」
「まず、どうやって飾ろう…」
「そうだな~。やっぱそこは本職に聞いた方が良いかもな」
「本職って?」
「冒険者ギルド」
「結局行くのか…」
渋るヤトをソージが同行し、冒険者ギルドに相談に行った。
当初はこれを売ってくれと掴みかかって来たギルドマスターも、ヤトの宿の復興に使いたいとの想いを汲み、厳重な保管箱を用意すると約束した。
一応1面だけガラス張りになっており、中が見える仕様。ただ、何重にも盗難防止の付与魔法を施されたそれは、街の奥まった場所にあるちょっとボロい宿屋に飾られる事になった。
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