異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

文字の大きさ
上 下
135 / 194
黒猫と共に迷い込む

噂を流そう

しおりを挟む
街を出て、人が少ない所を目指す。

「また夜になるのを待って、クレナイに頼むしかないか」

皆で一緒に密入国状態になっているので、このまま国境を通るのは怖い物がある。
そしらぬ顔で、クレナイの背に乗って、夜の闇に紛れて国境を越えてしまえば大丈夫だろう考える。しかし、

「いや、昼間のうちにできるだけこの国の隅々までクレナイ殿に飛んで貰って、山脈を越えて戻ろう」

とクロさん。

「いや、ドラゴンが飛んでたら大騒ぎになるでしょうが」
「それが狙いだの」

何を狙ってるんだ。

「王都に戻ったら、ギルドマスターに相談して、とある噂を流してもらう。その時に信憑性を持たせる為に、クレナイ殿に飛んでもらわなければならんの」
「ほう、どんな噂?」
「こういう噂だの」

・・・・・・。

「それって…。似たような話を昔なんかのドラマで見た気がする」
「良い案だとは思わぬか?」
「・・・。う~ん、面白そうではあるけど、上手く行くのかしら?」
「その噂を流すと、どうなるのじゃ?」
「まあ、上手く行けば、この国から人がいなくなる」
「人がいなくなる?」
「動ける者はこの国から逃げ出すだろう。動けぬ者は、希望を見いだせなくなり活力がなくなる。結局国とは、人がいて成り立つ物であるからの。人がいなくなれば、動かなくなれば、徐々に滅んでいくしかなくなるものよ」

結構怖い事言ってるよ?

「ということで、クレナイ殿、よろしく頼むのだの」
「うむ! 任せるのじゃ!」

人気のない、少し広い場所に来て、クレナイがドラゴンの姿に変わる。
またえっちらおっちらクレナイの背に登頂して、シロガネに結界を張ってもらって、クレナイに飛んで貰う。
まずは、あのおでこさんのいた街から。
見せつけるように街の上を2周して、それから道沿いに街々を巡り、帝国の各都市でクレナイの姿を見せつけるように飛び回った。

しかし、

「シロガネの背から見る景色とはまた違う味わいがあるね~」

飛んでる私達は楽しい空の旅を楽しんでいた。

「夜は星空が美しかったですが、昼は広がる森や山々が綺麗ですね~」

コハクも楽しんでいるようだ。

「ハヤテよりはやい~」
「そうなんだ~。まあ、クレナイだからね~」
「あい」

シロガネの時とは違い、街の上空をゆっくり回る時はともかく、移動はかなり早い。景色が左から右にまさに流れていく。

「我も、本気を出せばこれくらい…」
「出さなくていいから、シロガネ。変な所で張り合わないで。シロガネは安全運転でいいのよ」
「うむ! 主の為に安全運転なのである!」

シロガネちょろい。
帝都らしき街の上空もこれ見よがしに飛び回り、大体見せつけたところで、東にそびえる山脈を目指す。

「うふふ。妾も昼間にこんなのびのび飛べるのは気持ちいいのじゃ」

クレナイも楽しそうで良かったね。でも、ドラゴンの姿だと、重低音…。

高い山並みも軽々飛び越え、寒かろう高い所も、シロガネの結界のおかげで気温も気圧も変わる事なく、そびえる山並みを歓声を上げて下に見て飛び越え、あっという間にマメダ王国に帰ってきた。
さすがにこの先はクレナイのドラゴン姿で飛び回る事も出来ないので、人影のない山裾で地面に降りて、シロガネと交代。陽が暮れる直前までシロガネに飛んで貰い、陽が暮れた後は再びクレナイの背に乗り、あっという間にマメダ王国の王都の近くに。

なんて便利。

その日は遅くなったけど野宿して、次の日早めに、私にとっては早い時間に起きて支度して、早々に街へと入った。真っ直ぐギルドへ向かい、人が少なくなり始めているギルドの扉を開けると、

「ああ! 帰って来ました! ヤエコさんです!」

誰が発したか、ギルド内に声が響き渡った。
視線が集まる。
とカウンターの向こうから受付のお姉さんの1人がズカズカと凄い勢いでやって来て、

「どこに行ってたんですか! 心配していたんですよ!」

怒られた。
あれ?ギルドマスターに一応断って行ったはずなんだけどなぁ?














いつものように奥に通されて、今まで何処で何をしていたんだと詰問される。
いえいえ、私はナットーの街に戻ると言いましたよと反論。
そこで話を突き詰めていくと、どうやらギルドマスターはナットーの街に戻ると言っても、その日のうちにではなく、また後日の事になると思っていたらしい。それなのに私達が夕方に街を出て、幾日経っても戻ってこないので、何かあったのかと心配していたらしい。

なんか、すんません。

その後、ギルドマスター達が落ち着いた頃、それまでにあった経緯を話したら、また怒られた。

いきなり馬車に乗るとは何事だとか、警戒心がなさ過ぎだとか、隣国に行って屋敷を破壊するなとか…。

散々怒った後は、ギルドマスターのオンユさんと、一緒に付いてきていた凜とした受付のお姉さんがげんなりとなって頭を抱えた。

「もう少し、色々自覚を持ってくれ…」

オンユさんが力なく発言。
そして、一段落した後。

クロに言われていた事を、2人に相談した。こういう噂を出来るだけ早めに隣国とその周辺に流せないかと。ついでに、王国で流れてきた人を受け入れる場所なんかを作ってはどうかと。
オンユさんの目が輝いた。早速動いてくれる事になった。受付のお姉さんも話を聞いて、噂を流す当てがあると息巻いた。

「帝国はね…。色々あってね…」
「帝国を潰せるかもしれないなんて…。そんな面白い話…」

2人共黒い笑顔になっていたよ。そんなに帝国って嫌われてたの?














それから数日後。
帝国内部とその周辺で、とある噂が流れ始めた。
帝国がドラゴン持ちの従魔師に喧嘩を売り、従魔師がその喧嘩を買ったと。準備が出来次第、その従魔師がドラゴンをけしかけて、帝国を滅ぼそうとしていると。
噂は瞬く間に広がり、帝国内部ではドラゴンが飛行しているのを目撃されている事もあり、その噂が真実であると人々は信じた。

そして、素早い者、冒険者や他国に店を構えている者、流れの者などがいち早く帝国から脱出していった。なにせ、その従魔師の準備とやらがどれくらいの期間なのかはハッキリ分からないからだ。
そして、なんとか動ける者が後に続いた。出来るだけ財産を持ち、新天地を求めて旅立っていった。
農村でも、一部の者は早めに見切りを付け、帝国から去って行った。
どうしても動けない者は、我が身の不幸を呪いながら、いつ来るともしれない破滅の日を恐ろしい思いで待ち続けた。

そして、一部の貴族も、我が身可愛さに逃げ出す者が出て来た。
色々言い訳しながら、諸国で体を休めるのだとか、ちょっと旅に出るとか。
一部の領民がそんな貴族に憤慨して、屋敷を襲ったなどとの話も出て来た。

帝国からどんどん人が出て行き、あれほどに栄えていた帝都も、ほとんどの商業施設が閉まり、賑わいはなくなり、どこか寂れた空気を醸し出し始めた。
最初は返り討ちにしてやろうと頑張っていた帝国も、どんどん人がいなくなっていく惨状を見て、最初の意気込みもだんだんと消えて行った。
民がいなければ、人がいなくなれば経済は回らない。物資の仕入れも難しくなっていく。
頑張っていた帝国も、さすがに寂れて行く帝都に焦りを感じたのか、はたまたこの事態の真の意味に気付いたのか。

しばらく経った後、マメダ王国に連絡を取り、正式にドラゴン持ちの従魔師に謝罪する旨を発表。
堅苦しい場を嫌う従魔師に合わせ、出来るだけフランクな場を用意し、正式に謝罪した。
ドラゴン持ちの従魔師はこれを受け、以降危害を加えられなければ決して手は出さないと約束。
こうして、帝国とドラゴン持ちの従魔師の争いは幕を閉じた。

しかし、人がいなくなった帝国が持ち直すのは、かなりの時間を要する事となってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

安全第一異世界生活

笑田
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 異世界で出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて 婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の冒険生活目指します!!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...