異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

文字の大きさ
上 下
128 / 194
黒猫と共に迷い込む

あり?やっちまった?

しおりを挟む
ついでに遅くなったお昼を済ませて、シロガネに女王蟻を背負ってもらって、私達ももちろん乗せてもらって、街を目指した。
多少ふらついていたが、そこは根性を見せ、無事に街の近くに降り立った。
膝を付かなかったことは褒めよう。
人の姿になって、女王蟻を持つだけになって、ほっとしたような顔をしていたのは見ないことにする。
そのまま街に戻って、ギルドに直行。ギルドの扉を開けたら、エリーさんがこちらを見て、にこやかな笑顔を向けたまま固まった。なんか、最初の頃を思い出すなぁ。

「ただいま~、エリーさん。買い取りカウンターでいいのかな?」
「・・・。いいと思います」

何故不確定?
買い取りカウンターに行ったら、おや、いつぞやの臨時のお姉さん。

「お帰りなさいませ! で、何を獲って来たのですか?!」

何故そんなに嬉しそうなんだ。

「え~と、これなんですけど」

シロガネが持っていた女王蟻をカウンターに置いた。

「こ、これは! 女王キラーアント! な、何と見事な…!」

何故そんなに興奮しているのでしょう。

「しかも、傷がこんなに少ない…! 何と見事な…!」

口癖ですか?

「こんな珍しい魔獣を見られるなんて…。ハアハア…」

ちょっと距離を取りたくなってしまうぞ。

「スカーレット、落ち着いて」

エリーさんが買い取り嬢のお姉さんの袖を引っ張り、正気に戻す。

「は! 失礼致しました! あまりに見事なものだったので…。では、査定を致しますので、少々お待ち頂けますか?」

なんだかとても嬉しそうに女王キラーアントを奥に持って行ってしまったよ。いや、査定する為なんだろうけど…。
その間にエリーさんに、1枚だけ終了手続きをしてもらう。

「あら、ヤエコさん、Eに上がってたんですね。頑張ったんですね」
「えへへ、まあ…」

ほとんど従魔ズのおかげなんだけど。

「ああそれと、キラーアントの巣を討伐に行って、その、倒したキラーアントがいっぱい転がってるんですけど、あれはギルドで回収とかしてくれるんですかね?」

トレントの時はやってくれたんだけどな。

「なんですって?」

エリーさんの笑顔が怖くなったぞ。

「だから…、倒したキラーアントの回収を…」
「…何体くらいですか?」
「何体…」

何体あったろう?

「何体くらいあったっけ?」
「さてのう、とにかくあるだけ倒しておったからのう」

クレナイとハヤテとコハクを見るも、倒した数など覚えていないと。シロガネは、うん、期待してない。クロに聞くわけにもいかないし、さて、何体と言ったらいいかな?

「え~と、もしかしたら100くらいあるかもしれないです」

絶え間なく蟻が群がってたものね。
で、エリーさんの顔が笑顔なのに、何故か温度が下がってるんだが…。

「少々お待ち頂けますか?」

怖い笑顔のまま席を立ち、奥へと消えていった。
少しすると戻って来て、

「どうぞ、奥へ」

と奥へと通された。
なんか、このパターンは…。

「やあ、久しぶり」

ギルドマスターのコウジさんがやって来た。
やっぱりこうなるのか…。

「で、何かやらかしたんだって?」

どんな話を伝えたんですかエリーさん。
とりあえず今回の依頼の事を話す。
すると、コウジさんが頭を抱えた。

「どうしてそんなことになるんだよ…」

ええと、何かやらかした?

「キラーアントについて説明は聞かなかったの? 誰かに倒し方を聞くとか…」

そうか、普通は情報を集めて倒し方なんて調べるものか。

「適当に依頼を取ったから、気にしておらんかったのう」

クレナイが答えた。

「・・・。こちらの女性は?」
「ええと、途中で仲間になった…」

これまでのあらすじを話す。
さらに頭を抱える事になってしまった。なんか、すんません。

「その話を知っているのは、コーヒーの、闘技場の人達と、王都のギルドマスターなんだね?」
「そうです」

何故そこで盛大に溜息を吐く。

「なんで君はそんなにチートな力を集めるかな? 何がしたいの?」
「いや、普通にのんびり暮らしたいだけなんですけど」
「そんな過剰戦力持ってて、のんびり暮らせると思う?」
「・・・・・・」

思えない。

「まあ、まだ国が動いてないだけましなのかな…。気をつけてね。国が動いたらまた面倒な事に…」
「そういえば、この国の王様って人とバラ園で会いましたね」

コウジさんが固まった。

「あ、でも、非公式だって言ってましたよ」

また盛大な溜息を吐かれてしまった。
慌ててそうなった理由を話す。決して私のせいではない。

「そうか。そういう事なのか。てことは…」

何かをブツブツ呟いている。

「ある意味この国では自由は認められたんじゃないかな? 変な奴がちょっと手を出すかもしれないけど、そうなったらそうなったで、王様も嬉々としてそいつをふん縛るだろうな。ただ、この国から出て、他の国に行ったら、また気をつけてね。何処が手を出してくるか分からないから」

やはり戦力が過剰過ぎるのか…。まあ、ドラゴンがいるしね。

「ちなみに、キラーアントの駆除の仕方はね…」

コウジさんの話によると、キラーアントはある特定の花の匂いを嫌がる事が分かっているので、うん、それ、戦いの最中に分かったね。なので、その花の匂いを抽出したエキスを持って行って、巣の周辺にばらまくのだそうだ。
これだけ聞くと簡単そうなのだが、その周辺には大概、キラーアントを好んで食べる蛇がいるらしい。その名もキラーサーペントというのだそうだ。キラーアントのキラーとキラーをかけたのではないかと思える名だ。
こやつが体長10メートルにも及ぶほどの巨大な蛇で、キラーアントは好物だけど、その他の動物も好きらしい。つまり、人間も襲う。

そしてこの蛇には花の匂いは効かないので、出会ったら全力で逃げろと言われているらしい。もちろん、倒せる実力のある者なら倒すのだろうけど。
しかし、体長10メートルとなると、どれだけ素早く動くのだろうか…。蛇って何気に素早いしね。
つまり、キラーアントの駆除をしに行くには、その蛇との遭遇率が高くなるわけで。なので、キラーアントの依頼を受ける=キラーサーペントも相手にせねばならん、ということで不人気なのだそうだ。

「そういえば、そやつの討伐依頼も持っておったのじゃ」
「うん。大体キラーアントが見つかると、そいつも出るよ」

なるほど。近い、ね。
ちなみに、キラーサーペントはCランクなのだそうだ。キラーアントはDなのにね。
キラーアントは弱点が見つかっているからDなのだそうで。まあそうだわね。匂い振りまけば寄って来ないものね。

「しかし、どうやって女王キラーアントを…?」
「それはまあ、我が輩の企業秘密ということだの」

クロが喋った。ああそうだ。このコウジさんにはクロのこと知られてるんだっけ。

「ああ、君の力か。納得だ」

納得された。

「そのエキスって奴を、村の周りに撒けば良いんじゃないのかな?」

そうすれば蟻んこ寄って来れないよね?

「エキスはそこそこ値が張る物で、村の周りに撒く程買うなら、冒険者に依頼した方が安く済む。それに、匂いは雨で流れてしまうからね」

いくら買っても足りなくなるね。
その後、キラーアントの回収について、人を回してもらえることになり、

「早めにキラーサーペントも頼むよ」

とにっこりお願いされた。
















査定やらなんやらひっくるめて、報酬を振り込んでもらって、ギルドを出た。

「もう1つの依頼って何?」
「ん、最後の依頼かや? さて、此奴は何じゃったかのう?」

クレナイがペラリと紙を見る。
それを横から覗き込むと、

「ビッグフロッグ?」

蛙?

「近くの沼地で大量発生しておる故、退治して欲しいとな。はて、そう難しい依頼でもないと思うのじゃが」
「きっとキラーサーペントが原因だよ」
「なるほど。近場ならば遭遇率も確かに高まるが。そんなにひょこひょこ出会うものでもあるまいに」

確かに、今日は出会わなかったね。
そんな話をしながら、私達はとある食堂を目指していた。
ふふふ、それはもちろん、「猫耳亭」である。
一応お世話になったし、あそこの賄い美味しかったし、折角なのでご挨拶していこうかと。
お店に来ると、すでに営業しており、扉を開けて中に入った。

「いらっしゃいませー!」

元気な声が出迎える。

「って、あー! ヤエコ!」

キシュリーが私の姿を見て駆け寄ってきた。

「あれぇ?! 街を出たって聞いてたけど!」
「ちょっと帰って来たのよ。それでご挨拶と、久しぶりにここのご飯食べたくなって。席空いてる?」
「今の時間なら大丈夫よ! さ、こっち!」

少し奥まった所のテーブルに案内された。人数多いけど、ここなら邪魔にならないだろう。
ふと見れば、チャーちゃんもいつもの籠に入っていた。うん、いつも通り可愛い。
今日のおすすめを注文して、待っていると、リルケットがやって来た。

「久しぶりヤエコ!」
「お久しぶり~。足はもう大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! この通り!」

ぺしっと足を叩く。うん、大丈夫そうだ。
そして、顔を近づけ、

「で、2人の仲はどの程度?」
「それがさ、未だに微妙な距離なのよ。全く、全然進まないのも見てて呆れるわ」

相変わらずらしい。

「なんか2人がひっつく良い方法ない?」
「う~ん、良い方法あるかな~?」

頭を悩ませるが、そうそう良い方法なんて浮かぶものでもない。

「どうにか進展させたいのよね。なんか良い方法浮かんだら教えてよ。あたしも考えるけど、仕事が忙しくてね」
このお店、結構繁盛してるものね。

リルケットも忙しそうにテーブルから離れていった。
う~ん、何か良い方法ないかしら?

「主殿、つまり何か? あの先程の娘と、この食堂の男が、恋仲になっておるのか?」

クレナイが鼻を膨らませながら聞いて来た。うん、好きだよね、そういう話題。

「そうなのよね。この食堂の息子さんとさっきのキシュリーって子が良い感じなんだけど、仕事も忙しくてなかなか距離が縮まらないみたいなんだよね。なんか、吊り橋効果みたいなことがあればいいんだけどな」
「吊り橋効果とは、なんじゃ?」

クレナイが興味津々で聞いてくる。

「吊り橋効果って言うのは…」

吊り橋などの不安定な場所だと、怖くて胸がドキドキする。その時に異性なんかがいると、その胸のドキドキを恋のドキドキと勘違いしてしまい、2人の距離が縮まるのだそうだ。
ある種錯覚を利用しているとも言える。
マンネリ化した恋人や夫婦にも効くのだと昔テレビでやっていた。
マンネリ化したら吊り橋へ。ちなみにドキドキすればいいので、ホラー映画やお化け屋敷なども良いそうです。って、なんの勧めだ。

それを聞いてクレナイが興奮し始める。落ち着け。
コハクもかなり興味津々で聞いてるところ、興味あるのかな?
男2人はつまらなそうにしている。これは性別の差なのか、種族の差なのか…。
まあハヤテにはまだ早すぎる話題ではあるが。

「ご主人様、あの、あまりですけど、ちょっと考えたのですけど…」

おや?コハクが何やら考えついたようです。
その作戦を聞いて、ちょっとにんまりしてしまった。
確かにそれは、私達にしか出来ない事だねぇ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

安全第一異世界生活

笑田
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 異世界で出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて 婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の冒険生活目指します!!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...