異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

キラーアント

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依頼を片付けに行くには微妙な時間なので、クレナイ要望の食べ歩きをしながら時間を潰し、久しぶりにウララちゃんの宿屋へ入った。

「こんにちは~。お久しぶり~」
「ヤエコさん! 帰って来てたんですか!」

帰って来たなんて、ちょっと嬉しくなっちゃうね。

「ちょっとね~。この街に用があったから立ち寄ったんだけど。部屋空いてる?」
「ええと、お仲間が増えたんですね。あ、従魔さん達は?」

う~ん、どう説明したら良いんだろう…。
従魔達は諸事情により、ちょっと別の所に預けていると説明し、念の為厩舎も確保しておいて貰う。
偽装も大変だ。
話しているとおじさんが出て来て、

「よう、また虹彩雉でも持って来たのかい?」

と笑いながら声を掛けてくれた。

「そんなしょっちゅう獲れませんて」
「そうだよな。ああ、だが、君達のおかげでオーク肉が定期的に入るようになってね。有り難いこった。今晩も期待しててくれよ」

そう言って厨房に戻って行った。
ウララちゃんに部屋の鍵を貰い、以前の部屋より大きな部屋に入った。
ベッドが6つあるのは、元々6人用の部屋なのだろう。

「主、ちと相談があるのだが」

部屋に入るとシロガネが何やら相談事。

「何?」
「いや、その、あの娘、我のブラッシングが出来ない事に酷く落胆しておった故、なんなら、あの娘が少し暇になる時間に、元の姿に戻ってブラッシングさせてやっても良いのであるが…」

まあ確かに、ウララちゃんがっかりはしてたけど、本当はシロガネがウララちゃんにやって貰いたいだけでしょう。ウララちゃんがブラッシングすると気持ちよさそうにしてたものね、シロガネ。

「いいよ。後で聞いてみよう。きっとウララちゃんもやりたがってるはずだから」
「うむ! やらせてやっても良いである!」

素直じゃないねぇ。嬉しそうだよ。

「主殿。妾も相談事があるのじゃが」
「ん? 次はクレナイ?」
「うむ。主殿、虹彩雉を食したことがあるのじゃろうか?」
「あれ、言ってなかったっけ? この街にいた頃にね、偶々クロが獲って来た事があって、その時に。ねえ、クロ」
「うむ。あれは気を失うほどに美味かったの」
「なんじゃと…!!!!」

クレナイが固まってます。

「あの、あの、幻と謳われておる虹彩雉を…。クロ殿! どこじゃ、どこで捕まえたのじゃー!!」
「クレナイ! 落ち着いて!」

ベッドで寛いでいたクロに飛びかかろうとしたクレナイを止める。

「偶々森の中で見かけて、興味本位で獲っただけなのだの。場所も良く覚えておらぬし、他にいるかも分からぬ」
「しかし、1羽でもいたなら、他にいる可能性があるのじゃー!!」
「2羽だったよね?」
「そうだの」
「2羽…」

あ、しまった。

「主殿! 主殿! もうないのか?! 虹彩雉はーーーーー!!」
「クレナイ! 落ち着けーーーーー!!」

目の色が変わったクレナイが落ち着くのに、それからしばらくかかったのだった。














おじさんの食事は相変わらず美味しかった。
それなりにクレナイも満足するほどに。
ただ、依頼をこなしながら、この街の近辺を探すことを約束させられた。
これ、見つかるまでこの街に粘る気か?

お食事の後、ウララちゃんに聞いてみると、シロガネのブラッシングと聞いて目を輝かせていた。好きなんだね~。
シロガネも満足していたようだし、これぞウィンウィンですね。
久しぶりのタライ風呂で、シロガネを追い出して皆で体を、洗うというより拭くに近いかな。
私とコハク以外は皆服は自動だから、便利だ。私とコハクはお互いに拭きっこして、服を着たり着せたり。何故か従魔ズが羨ましそうな顔をしていた。何故だ。

寝る時になって、コハクにどんな歌を知っているのかと尋ねられたので、オーソドックスな所で、遠き山に陽は落ちてを軽く歌ったら、拍手された。
その間にハヤテは眠っていた。寝付きがいいわね。
というか、歌ってる途中でグリフォンの姿になったから、ちょっと驚いたのよね。

「私も歌ってみたいです」

とコハクが恥ずかしそうに言うので、てかそんな顔されたらハアハアしちゃうよ。じゃなくて。
簡単な所でキラキラ星を教えてあげる。もちろん、簡単な振り付け付き。
簡単な歌だから、コハクもすぐ覚え、私が教えた振り付けも覚えた。
それを歌う姿は…。

誰かカメラ…。ハアハア。

ついでに見ていたクレナイとシロガネも一緒に歌って踊って…。
なんか、保護者懇談会に来た保護者のようだった。
リンちゃんも振り付けだけ真似していた。可愛い…。ハアハア。
見かけで言うなら、クレナイはハードロック系、シロガネは賛美歌なんかが似合いそう。
生憎私はそれ系の歌は知らないけれど。
最後に皆で合唱して、あまりやると周りに迷惑だからと、その後は灯りを消して皆で就寝。
なんだか、色々懐かしい歌が、頭の中を回り始めていた。


















朝起きるといつもの通り。ただし、ハヤテもキラキラ星を歌いながら踊っていた。
いかん、このままだとキラキラ星がチームソングになってしまう。
次は何の歌を教えようかと悩みながら、朝ご飯へ。
今朝は生姜焼きだった。グッジョブおじさん!

弁当はいるかいと聞かれ、せっかくなので作って貰うことに。
クレナイの分だけ3人前作ってもらう。それを聞いておじさんが目を丸くしていた。
まあ、そうよね。
今日は依頼を片付けに行こうと、さっさと街を出た。

「ええと、この街から南、国境の近くになってるね」

大分字が読めるようになって来ているよ。ふ、努力の賜物だわね。
シロガネの背に乗って書いてある場所まで行く。
森の入り口に降り立って、クレナイを先頭に歩き出した。

「なになに、キラーアントの巣が近くに出来たから、追い払って欲しいと」

キラーアントって、殺人蟻?ふと、元の世界の軍隊蟻を思い出す。
軍隊蟻が通った後には、動く生物が1匹もいなくなるという話を聞いた事がある。テレビで。それが妙に怖かったんだよな。だって、あんな小さな生物に襲われたら、1匹ならまだしも、何匹もいたら叶うわけがない。日本にいなくて良かったと安堵したんだよな。
まあ、その日本にも今はヒアリという怖い蟻が来ているとかなんとか。

「蟻かあ。蟻は怖いよね」

シロアリも家中の木を食べてしまって、家が倒れる原因にもなると聞いたことがある。
小さいのに蟻の持つ力は本当に凄い物がある。

「蟻のう。確かに群れじゃと厄介じゃのう」
「だよね。しかも、今回は巣の退治かぁ」

元の世界の蟻の殺虫剤が欲しいな。

「じゃがのう。今回は人里に近い所に出来てしまったから駆除対象になってしまったが、蟻は貴重じゃぞ。主殿」
「そうなの?」
「蟻は、まあ言ってしまえば悪食じゃ。それこそなんでも食べる。特にキラーアントは動物や魔獣の死骸を片付けてくれる、掃除屋と呼ばれておる。此奴らがおらなんだら、森にも草原にももっと死体が溢れておる。近くにその巣がなければ、害はない。それこそなくてはならぬ存在ではあるらしいのじゃ」
「へ~、そうなんだね~」

そういえば、元の世界でも蟻はいろんな昆虫の死骸を片付けてくれる掃除屋さんでした。蟻がいなかったら、もっと蝉の死体があちこちに転がっているんだろうな。

「ただのう、此奴らは獰猛でのう。食べる物がなくなると、それこそ動く者を捕食するようになるらしい。そして、それこそなくなると、周辺の植物を根こそぎ食べ始めるらしいのじゃ」

環境破壊も甚だしい。

「それこそ滅多にはないし、キラーアントにも天敵はおる。じゃが、人里に近いと、人が襲われる事もあるし、時には家畜を攫われることもあるらしい。じゃから、人里近くに出来た時は、こうやって駆除に動くらしいのじゃが」
「じゃが?」
「う~ん、妾もよく分からぬが、それこそ面倒らしいのじゃ」
「面倒…」

だから残ってたんですねこの依頼。

「そろそろ巣が近いのう」

クレナイがそう呟くと、ちょっと開けた場所に出た。
そこには、もっこりと積まれた土の山。これって、蟻塚って奴ですかね。
いくつかある穴から、時折蟻が顔を出したりしまったりしている。

「てか、でか」

でかい。
元の世界の平均1.5㎝とかいう大きさじゃなく、その10倍くらいある。
私の腕でも、その頭は一抱えくらいあるんじゃなかろうか。

「蟻って、あんなに大きいの?」
「キラーアントは特に、蟻種の中でも巨大らしいのじゃ」

巨大にも程があるでしょう。

「で、どうやって駆除するのでしょう」
「焼くのがてっとり早いと思うのじゃ」
「そうだね。じゃ、よろしくお願いします」
「うむ。シロガネ殿、結界を頼むぞ」
「承知」

まあ、結界はすでに張ってあるのだけどね。

「では」

クレナイが腕を向けると、その指先から炎が零れた。
そのまま渦を描きながら、蟻塚に一直線。

ボゴン!

蟻塚が吹っ飛んだ。

「簡単な依頼じゃったのう」
「本当にこれで終わり? あっけなさ過ぎる様な」
「焼いてしまったのじゃ、生きている者はおるまい」
「だけど、頭が見えて来てますが」
「頭?」

蟻塚が吹っ飛んだ場所の土が盛り上がり、蟻の頭が見え始めている。

「おや?」
「クレナイ、表面しか焼いてないんじゃない?」
「はて、巣とはあの上の物を言うのではないのかのう?」

ああああ、蟻の巣は地面の中を無数に延びている物なのですよ。
そして、蟻塚に見えたあの土の山、小さな蟻でも、巣の周りは掘った土などが盛られていたりするから、もしかしたらそういう物だったのかもしれない。
蟻が1匹巣穴から出て来て、チチチチチと鳴き出した。

「これって、警戒音なんじゃ…」

そう言った途端、周りからガサガサという音が聞こえ始める。

「おや? 囲まれてしまったようじゃのう」
「ようじゃのうじゃない!」

凄い数の蟻がやってきて、一気に襲いかかってくる。しかし、そこはシロガネの結界。しっかり私達を守ってくれる。

「う~ん、こんな所で蟻の観察なんてする羽目になるとは…」
「さすがに、気持ち悪いの」

結界で入れないせいか、結界の上を蟻が取り囲んで、360度、蟻で埋め尽くされた。
蟻の足とか、蟻の腹とか、別に見たいわけじゃないんだけど、どこを見ても蟻蟻蟻…。
ああ、この世界の蟻も、頭、胸、腹に分かれてて、胸の所から足が生えてるんだね~。ははは…。
なんて逃避している場合じゃない。

「クレナイ、どうすんのよこれ」
「う~む。一気に焼いたら、森が焼けるかのう…?」
「焼けると思う」

蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻有り。もういらない。

「風の刃で、ちまちま片付けて行くしかないかのう…」
「それでいいよ。やって下さい」

ということで、クレナイとハヤテが風の刃で、適当に蟻を切り刻み始めた。
なにせ、どこに向けてもどこでも当たる。
コハクも結界から出ないようにして、蟻の腹などに攻撃していた。
強いな…。コハクちゃん。

「そうだ。リンちゃん、地面を探って、蟻の巣がどれくらいの大きさか調べられる?」

リン!

リンちゃんは地の魔法が得意なのだから、ここは餅は餅屋だろう。
頭の上から地面に降りて膝を付き、地面に手を当てて何かをし始めた。
私に何が起こっているか分かる訳もなく、1人暇だった。
その間にも群がる蟻達がクレナイ達によってみじん切りにされていく。
でも一向に減る気配がない。どこから現われているのか、切れば切るだけ蟻が溢れ来ているような。

「やっぱり、蟻って怖いわ…」

1人ぼんやりと呟きながら、蟻がとにかく減るのを待った。
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