異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

金猟姫

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「そういえば主殿」
「ん? 何?」
「コハクの名は決まったのじゃろうか?」

ギクギクン!
着替え終えた事をコハクが廊下に出ていたシロガネに伝え、シロガネが入って来た。

「まさか何も考えておらぬなどとは…」
「ま、まさか! ち、ちゃんと、か、考えてましたとも!」
「おお! して、いかなる名じゃろうか!」

ちきそう!忘れてたよ!
クレナイがキラキラとした目でこちらを見てくる。シロガネも興味津々な顔で見てくる。コハクも期待したような目で見つめてくる。ハヤテは、いつも通り。
クロさんがちょっと呆れたような顔をしている。分かってるなら助けてよ!
ぐああ、まだ考えついてませんとも言い辛いいいいい。
く、適当に考えてしまわねば…。

ええと、コハクは黄色で虎だから、黄虎姫、つまらん!黄猛姫、なんか似合わん!
ええと、そうだ、黄色は金の言葉で表すこともあるから、金虎姫、語呂が悪い!
そういえばクレナイとリンちゃん、緋龍姫と翠療姫で後2つの読みが同じなんだよね。んじゃコハクも揃えてみようか。

う~ん、…猟しか思い浮かばん。

金猟姫《こんりょうき》、まあコハクにぴったりくる字面ではあるな。これに決め!

「コハクの名は、金猟姫です!」
「いやに時間がかかったのじゃが…」
「勿体ぶったのよ」

人は嘘をつく時、視線が外れると言う。正にその通りですな。

「まあよい。コハク、喜ぶのじゃ!そなたの名が決まったのじゃ!」
「はい! これで、完成しますね!」
「うむ! 早速試すのじゃ!」

クレナイが声を掛けると、皆が部屋のスペースがあるところに集まった。リンちゃんまで…。
リンちゃんも人形になり、何やら背の順で整列すると、

「緋龍姫クレナイ!」

ビシッ!

「天翔王シロガネ!」

ビシッ!

「翠療姫リン!」

ビシッ!

「金猟姫コハク!」

ビシッ!

「くうちしおーハヤテー」

ピシッ!

「「「「「我ら、従魔戦隊、ジュウマレンジャー!!」」」」」

・・・・・・

「出来たのじゃー!」
「うむ、良い出来である!」
「ヤット出来たネ!」
「出来ました!」
「できたのー」

出来た出来たと何やら楽しそうにはしゃぐ皆。

「いつの間に…」
「八重子が起きるまでの朝の時間に練習しておったの」

私が寝ている間にかい。

「もっと早く起きようかな…」
「出来るものならの」

くう…。

その後も、ポーズがどうだ立ち位置がどうだと揉めていたので、皆を置いて朝食に行こうとしたら泣かれた。
いやだって、白熱議論を遮るような事、私にはできませんぜ?
















やって来ましたいつものギルド。
いつも通りに奥に通され、いつも通りギルドマスターのオンユさんがやって来た。
さっそく皆の冒険者証を集め、ランクアップの手続きを。
そんなにさっくりで良いのかしらとも思うけど、ギルドマスターがやってるんだから問題ないよね。
その後報酬の話があって、いつも通り振り込みの手続きをして。

「この後何か用事はあるかね?」
「ん~、特にないと言えばないですかね。ナットーの街に戻ろうかと思ってましたが」
「そうか。それじゃあ、その前に、ここに行ってくれるかな?」

ぴらりと見せられた、簡易地図。

「何かあるんですか?」
「行ってみれば分かるよ」

詳しく言う気はないらしい。

「行かなくてもいいと?」
「いや、頼むから、行ってあげてくれ。先方が是非この間の子供誘拐事件のお礼を言いたいというのでな。ご息女がその中に紛れていたらしいんだよ」
「ここまで来ればいいのに」
「そこは察してあげてくれ…」

ギルドマスターが頭を抱えた。
?わざわざ礼を言うだけに呼びつける?あ、まさか、貴族とか・・・。

「行きたくなくなってきたなぁ」
「先方にはある程度の事情は話しておいたから。変なことはないと思うから」

オンユさんが行ってくれと懇願して来た。
そんなに言われたら仕方ない。とりあえず行ってみて、変なことがあったら逃げよう。そう決めた。
皆の冒険者証が帰って来て、めでたく皆Aになりました。
私とコハクはEのまま。複雑。














簡易地図の場所は、貴族街の中にあるちょっとした庭園のような場所だった。
花咲乱れ鳥は舞い、のような場所だ。

「綺麗な花がいっぱいだね~」
「そうじゃのう」
「であるな」
「綺麗ですね」
「はなー!」
「ハヤテ、むしっちゃだめよ」

そこにあった花を摘もうとしていたハヤテを慌てて止める。
リンちゃんもフワフワと飛んで、花と花を渡っている。気に入ったよう。
しばし花を見ながら散策。良い景色である。

「しかし、人がいないね」

これだけの所なら、貴族街と言えどもう少し人がいても良さそうなものだけど。

「あちらにそこそこおるようじゃぞ」

クレナイが指し示す方向には、バラの花らしき花。ローズガーデンかしら?
ともあれ行ってみると、なにやらこの場所に似つかわしくない黒服のお兄さん?達が・・・。
近づきたくないわー。

しかし、私達の姿を見つけると、どうぞとばかりに道を開けた。やっぱりこの先なんだ。
ちょっとびびりながらもそこを通り抜けると、バラのアーチ型のトンネル。そこを潜っていくと、丸い噴水広場に出た。うわ、結構凝った造りだわね。
そして、そこに7つくらいの身なりのかなりいい女の子と、身なりのやはりかなりいいおじさんが座っていた。

「ハヤテ様! お姉様!」

女の子がハヤテとコハクの姿を見て、駆け寄ってきた。

「お会いしたかったです! お姉様!」

とコハクに飛びついた。

「あ、あなたは、あの時の…」
「はい! お姉様に助けられた者ですわ! 自己紹介が遅くなりました。私、まめ…、じゃなくて、アヤカ=ルーステイン=タナカと申します。お見知りおきを」

と、見事なカーテシーで挨拶する7歳女子。てか、田中って言わなかった?田中彩花って聞こえたよ。漢字は当て字だけどね。

「こら、アヤカ、行儀が悪いだろう」

のほほんと見ていたおじさんが、のんびりと立ち上がってこちらへやって来た。

「こんにちは。ここで偶然出会ったのも何かの縁。しばし一緒に見て回りませんか?」

おじさん、綺麗な身嗜みで渋くてかっこいいおじさんが微笑む。
う~むしかし、街で色とりどりの髪や瞳の色を見ているせいか、黒髪黒目ってなんだか違和感を感じてしまう。日本ではほぼみんな黒髪黒目なのにね。

「ええはい~」

一応にっこり了承して、おじさん達と一緒に見て回ることになりました。

「申し遅れました。私はトオル=ジャポネーゼ=タナカと申します。この度はうちの可愛い娘を助けて頂いて、本当に有り難うございます」

田中透さんかい。

「いえいえ。うちの子達が頑張ってくれたおかげです」

渋いおじさまと一緒にバラの庭園を歩く。皆で一緒にゾロゾロと。
アヤカちゃんはコハクにべったりしている。反対の手で繋がっているハヤテが不満そうな顔をしているのも無理はない。

「貴女方は冒険者、なのでしょうか?」
「一応そうです」

そうは見えないと何度か突っ込まれているのだけど、しょうがないじゃない。
私とコハク以外は着る物が皆自動だから、変えるに変えられないのよね。

「僕も昔、冒険者をやっていた時があるのですよ。懐かしいなぁ」

それから、おじさんの昔の武勇伝などと聞きつつ、それほど大きくないバラの庭園の端に着いた。

「ああ、もうこれで終わりか。短い間でしたが、とても楽しかったです」

と、おじさんが手を出してくる。
話を聞いていただけなんだけど、その手を握り返す。

「こちらこそ。面白い話を聞けて楽しかったです」
「ところで、うちの子を助けて頂いたお礼なんかをしたいのですけど」
「いえいえ。偶々うちの子達が攫われて、偶々助けただけのことですから。そんなお礼なんていりません」

こうやって断らないと、全部の助けた子達からの親からお礼の品を受け取らなければならなくなってしまう。
実際、コハクが上手く断ってくれないと大変だった。

「折角ですから、この国で自由に動けるように手配致しましょう。下手に変な者達が貴女方に手を出さないように」
「はあ?」

それはどういう事でしょう?

「我が国と致しましても、貴女方に永住して頂ければ幸い。まあ、縛り付ける真似などするなと、重々きつく言われてはおりますが。気に入ったらこの国に居を構えて下さい。歓迎致します」

な~んか、発言が、とてつもなく偉い人っぽいんだけど…。

「お姉様、王都に居を構えましたら、お知らせ下さい! 抜け出してでもお尋ね致しますわ!」
「こらこら、そうやって抜け出して、攫われたのを忘れたのかい?」
「でもお父様…」

コハクから離れようとしないアヤカちゃんを、そのお父様が引っぺがした。

「あの、失礼な質問かもしれないんですけど、その、もしかして、王様だったりとか…」

魅力的なウィンクをしながら、おじさんが口元に手を当てる。

「今日は偶々庭園に散歩に出かけて、偶々貴女方と出会ってお話したというだけのことです。あまり気になさらずに」

気になるわ!

「さて、そろそろ時間です。では、私どもはこれで」
「お姉様、ハヤテ様、またお会い出来る日まで」

そう言って、2人はバラの庭園を引き返していった。

「私達は、この先に進んだ方が、いいんだよね?」
「多分そうじゃのう」

進んで行くと、また黒服さん達がいた。頭を下げて、私達を通した。



その後は普通に庭園を見て回って、特に何もないようなので、リンちゃんの気が済むまで皆で芝生やベンチでダラダラ。
先程の事は思い出すと冷や汗が出る。

「あれは、私達に気遣って、公式な挨拶は避けたって事なのかな?」
「それもあろうが、国として関わってはいないというアピールもあるのかもな」
「国として関わってない?」

「我が輩達は過剰戦力であろう。いわば核兵器が野ざらしで歩いているものだの。国が関わるとなると諸外国に対する圧力にもなってしまう。それで公式な挨拶を避けたのかもしれんの」
「我が国は関わってませ~ん、て?」
「そうだの」

「国としてはそういう戦力持ちたいのじゃないのかな?」
「過剰な力は周辺諸国から睨まれる。持ちすぎもいかんという事だの」

そういうものか。
まあ確かに、武力を世界に見せつけてる国は、周辺諸外国並びに全世界から警戒されてるものね。そんで輸出規制とかもらったりして。うん。やっぱり自ら火の粉をまき散らそうとする人は見逃して置けないものね。

「国として関わることはないけど、居を構えてくれたら嬉しいなっと?」
「そういうことだの」

まあ、束縛されないのは有り難いかな。
その辺りはギルドのほうも動いてくれたみたいだし。
自由にさせてくれるなら、この国に居着いてみても良いかもしれない。

「まあ、まだ先の話だけどね~」
「元の世界に帰るのでは?」
「そうなったら一番いいけど」

皆の従魔紋を外して、向こうの世界に帰る。できるならそれが一番いい終わり方なんだろうけど。

「こっちの世界でウダウダ過ごすのもありかな~…」
「八重子?」
「いや、探すよ? きちんと探しますよ? でもほら、ないかもしれないわけで…」

クロのジト目に耐えられなくなった頃、リンちゃんが戻ってきてくれたので、出発することにした。

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