異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

晴れ時々、ケルピーの欠片にご注意

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最後の一枚をもらって、早々にギルドを出た。
あまり長居するとまたオンユさんに色々言われそうだ。
ていうか、そんなに実力のある冒険者がいないのだろうか。
まあ、Aランクならまだしも、Sランクとなると激減するのであろうな。それこそ国に5人いるかいないかとか。ラノベ知識だと。

それは置いといて、もらった依頼書を見る。
場所はここから東の方向の川、然程遠くない。
まあでも、時間は貴重なので、いつも通り街を出たらシロガネで、すいっとである。
王都から然程離れていないその川の近くに、小さな村が見えた。その村を飛び越えて、川の近くに舞い降りる。

「ケルピーとな。少し面倒じゃのう」

クレナイが用紙を覗き込んで呟いた。

「え、クレナイでも手こずるような相手なの?」

不安になって聞き返す。

「うんにゃ。大して手こずる相手ではないのじゃが、此奴は探すのが面倒なのじゃ」
「どゆこと?」
「奴らの生息域は川なのでのう。なかなか探知もしにくいのじゃ」
「なるほど。見つけるのに時間がかかるってことね。それじゃあ、もしかしたらこの依頼が一番時間がかかるかもしれないんだ。野宿も考えた方がいいかな?」
「近いのじゃ。ここにテントを張るようなことをせずとも、暗くなったら帰れば良いのじゃ」

その通りですね。

「さて、どうやって見つけようかのう」
「クロは?」
「我が輩でもこんな長い川から見つけるのは難しいの」
「そうか~」

せめて何処に出るというのが分かればなぁ。

「まあ、村に近い所ではないかと思うがの」
「ほう、つまりこの辺?」
「魔獣は人を食らうのだろう?」
「・・・・・・」

そうですね。

「一番簡単な方法があるのじゃが…」
「おお、そんな方法があるの? クレナイ」
「じゃがのう…」
「何何?」
「う~む、その…、囮を使う方法なのじゃが…」

囮。
囮。

「つまり、私か」
「それはさすがにできぬのじゃ」

クレナイが首を横に振る。

「主には傷1つつけさせぬである」

シロガネが鼻息を荒くしている。

「いやでも、私じゃないとなると…」

ちらりと見てしまう。
琥珀色の瞳がこちらを見つめている。

「ご主人様。ご主人様の命ならば、いつでも参ります」
「却下です」

子供にそんなことさせるなんて、私の心が悲鳴をあげます。

「仕方ない。足で稼ぎますか」
「主、疲れたなら我の背に乗るが良いである」
「ありがと、シロガネ。疲れたら遠慮なく乗せてもらうわ」

最初の頃は乗せないなんて言ってたのに、変わったなぁ。
皆でゾロゾロ歩いて行く。とりあえず川上に向かってみる。

「綺麗な川だねぇ」

川幅はかなり広い。水は澄んでいて、魚影もチラチラと見える。泳ぎたくなってくるよね。
そのままピクニックのように皆でブラブラ歩いて行くと、

「む? これは、丁度良いぞ、八重子」

クロの耳がピクピク動き、鼻をスンスンと動かす。ぶふ、可愛い。

「どうしたのクロ?」
「おるの。ケルピーだと思うが、ついでに人も」
「うおい、それは襲われてるとか言うんじゃないだろうね」
「まだ、だの」
「走るよ!」

走り出す。

「クロ殿の探索範囲は広いのう」
「主、我に乗るであるか?」
「何があるか分からないから念の為人型で!」
「分かったである」

たったかたったか走って行く。ていうか、私が一番遅いんじゃね?皆結構余裕で走ってるよ。
コハクでさえも顔色を変えず、ハヤテはもちろん余裕でちょこちょこ走っている。

「色々自信がなくなっていくんだけど…」
「今更だの」

くすぐるぞコノヤロ。
大きくカーブしている所を抜けると、川の側に男の子がいるのが見えた。

「む、いかん! シロガネ殿!」
「承知!」

シロガネが男の子に向かって手を伸ばした。その瞬間。

バチッ!!

何かを弾く音がする。
男の子が、何が起きたか分からずビックリして固まっている。

「ぼうや!」

私が駆け寄ると、男の子が訳の分からん顔をして見上げてくる。

「シロガネ殿はここで主殿らを頼むのじゃ」
「任せるである」

下がる私達の前にクレナイが出る。
すると、川の中から水の弾がいくつも飛び出して来た。

「こんなもの」

クレナイが右手を振ると、水の弾が弾けた。
じゅっと音がしたのをみると、火の弾をぶつけて相殺したのだろうか。

「出てこい! 馬風情が!」

クレナイがそう叫ぶと、ゆっくりと水が盛り上がり、川の中から馬が現われた。
シロガネがちょっと複雑な顔をしているけど、まあ置いておこう。

「妾に会うたが運の尽きじゃのう」

クレナイがゆっくりと腕を上げようとして、下から袖を引かれて止まる。

「うぬ? ハヤテ?」
「ハヤテやりたいー」

おお?いつの間にか近くにいたハヤテがあんな所に。

「ああ! いつの間に!」

コハクも気付いていなかったらしい。

「おお、ハヤテがやりたいのか? しかしのう、今はほれ、ボソボソ…」

うん、ここに男の子がいるから変身出来ないものね。

「ということで、共同戦線といこうではないか」
「きょーどーせんせん!」

一緒にやるんかい。
突進してきたケルピーを、ハヤテが風の刃で切り裂く。
川の水が時に盛り上がり、時に宙で球になり、ハヤテの猛攻を防いだ。
おお、あれ、オートガードっぽいね。
次にクレナイが火の弾を放つ。
現われた水の球が火で相殺されていく。

「ひひひひひぃーーーーん!」

ケルピーが嘶き、2人にぶつかると思った所で、風が巻いた。

ゴウ!!

風が鳴り、勢いよく巻く。つまり、竜巻だ。

「そうじゃ、良いぞハヤテ。そしてその風をだのう…」

クレナイが何か指示して、竜巻の勢いが増し、ケルピーの嘶きなのか悲鳴なのかの声が聞こえた。
そして、竜巻が消え去ると、空からボトボトと、ケルピーだったものが落ちてきた。

「これなら、討伐証明部位をなくすこともないのじゃ!」

エヘンとクレナイが胸を張っているけど、空から色々落ちてくるのは、精神的にちょっとなんだけどね。しかもぼうやも青い顔をしているじゃないか。
誇らしげに帰ってくる2人に、ちょっと説教しなきゃ駄目かしら?










「君はなんであんな所にいたの?」

ボウヤに問いかける。名前はルービット。空から見た時に見えたあの村に住んでいる少年だった。

「あいつが、ケルピーが出るようになってから、川で漁が出来なくなって…。生活も苦しくなって来て…。だから、なんとか魚を捕まえられないかと思って、来たんだ」
「そっか。でも危なかったでしょ? お母さんとか心配してるよ」
「それは分かってるよ。でも、姉ちゃん達があいつをやっつけてくれたろ! だから、もう漁に出られるんだ! 有り難う姉ちゃん達!」

喜ばれるのは嬉しいけど、ここは注意しなければ。

「結果的には、私達が間に合ったから君はここにいられるのよ。分かってる?」
「そ、それは、反省してるよ…」

俯いて、申し訳なさそうな顔をしている。
まあ、私からはこれくらいにして、あとは親御さんにみっちり叱ってもらおうね。

「じゃ、村まで送るから。きちんとお家に帰るんだよ?」
「あ、その前に、ちょっとでいいから、魚を捕まえてきていいかな?」

なかなかに良いお子様だわねぇ…。
なんか良い方法無いかと問うたなら、シロガネが問題ないと言って、一気に水を掬い上げ、その中から魚をバラバラと岸に落とした。
余った水は川に戻し、多すぎると言って半分以上魚を川に戻した。
加減というものを知ろうね。

ルービットが持っていた籠に魚を入れ、村まで案内して貰う。
村が見えた所で、一人の女性が駆けてくるのが見えた。

「あ、母ちゃん!」

ルービットが手を振ると、

「ルービット!!」

ルービットが首を竦める。
後ろを振り返っても私達がいて逃げられません。
そのまま捕まったルービット君は、お母さんにこってり絞り上げられたそうです。










「本当に、なんとお礼を言っていいか…」

村長さんの家に案内され、もの凄く歓迎されてます。

「いえいえ。それが仕事ですから」
「冒険者ギルドに依頼を出しても中々冒険者は来ず、来ても適当な者ばかりで…。口先だけで退治出来ずに逃げ帰るのならまだしも、盗賊まがいの脅しをしてくる者まで。いい加減うんざりしていた所ですじゃ。いやはや、こんなに腕の良い方がおられるなら、もっと早く来て貰いたかったものじゃ」
「なんか、すみません」

帰ったらギルドマスターに報告しておこう。

「いえいえ、是非、獲れ立ての魚を召し上がっていって下され。やっと漁が出来るようになって、皆喜んでおります」

なんの魚かはよく分からないけど、テレビでよく見る鮎の焼いたものっぽいものが出て来た。これは美味しそうだ。

「なんかすいません。いただきます」
「こちらこそ。ケルピーを退治してくれただけでなく、ルービットの命まで救って頂いたのですから」

魚を運んで来た中に、さっきのルービットのお母さんがいた。目が合うとペコリと頭を下げられた。
魚はやっぱり美味しかった。魚ならシロガネも多少は食べられるらしい。骨があると文句を言っていたけど。
クロも頂いて、コハクとハヤテも美味しそうに食べていた。
クレナイ、お代わりは2匹までね。



少し話をしてみると、なにやら保存食的な知識があまりないようだった。
日に干したり、塩で漬けたりすれば、長持ちしますよ、とうっかり言ってしまい、村長さんの目の色が変わった。
やり方を根掘り葉掘り聞かれたけど、料理スキルがマイナスに振っきれている私に聞かれても…。
なんとなくこんな方法だったと思いますと知っている部分だけ話、あとは創意工夫してもらうことにした。
なんか、すんません…。
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