異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ブルちゃんと契約っす

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「父は従魔の効率の良い使い方を研究してたっす」

探すと言いながら、一定の方向へ向かっている。不自然にも程がある。
道々チャージャのお父さんの話を聞くことになった。
しかし、効率の良い使い方って…。

「父の研究では、従魔契約すると、何故か従魔は自分の実力を隠して行動することが多いことが分かったそうっす」

従魔契約をするには、契約したい魔獣や魔物をある程度弱らせなければならない。
某ポ○モンのゲームのようだ。
その時に、例えば魔法を使える魔物などが、中級の魔法などを使っていたのに、契約してみると初級の魔法しか使わないなどと言うことが多々見られた。
多くの人は契約することにより、某かの枷が出来るのかもしれないと考えていたのだが、チャージャのお父さんは違った。
魔物達が意識的に使わない様にしているのではないかと考えたのだった。

「おかしいと笑われたっす。魔獣なんかがそんなことを考えるものかって」

なので、散々変わり者と言われたらしい。
チャージャのお父さんは諦めず、契約した魔物達と信頼関係を結ぼうと努力した。
そのおかげもあったのか、魔物達はお父さんの言うことを可能な限り全力で応えるようになっていたとか。

「まあ、それも死んじゃったから、証明は出来ないんすけどね」

最後にチャージャが寂しそうに笑った。

「いや、それはありうる話じゃ。魔物達も虎視眈々と契約主と離れる方法を探っておるものじゃ」
「うむ。言葉の裏を取ってみたりして、契約主をあざ笑っておることもしばしばである」

クレナイとシロガネが口を挟んで来た。
そういえばシロガネ、背中に乗せろというから乗せたけど、すぐに暴れて落としてやったって言ってたっけ。言葉の裏ね…。

「ち、父の言うことを信じてくれるっすか?!」
「もちろんじゃ」
「もちろんである」

当事者だもんね。

「う、うう、嬉しいっす…」

あああ、涙ぐんでるよ。余程嬉しかったのかね。

「私も、お父さんの意見に賛成かな。魔物だろうと魔獣だろうと、契約しても心を蔑ろにしたら、お願いには応えてくれないと思うよ」
「心?」
「魔物にも心があるんだから、誠実に対応すれば向こうも誠実に応えてくれるだろうってことよ。彼らも道具みたいに扱われたら捻くれちゃうよ」
「心…。心っすか。そっすね。確かに、自分もブルちゃんを大切に思ってたから、ブルちゃんも自分のこと、良く守ってくれてましたもん」

何度か父親について行ったこともあるらしい。その時に何かあるとブルちゃんが助けてくれたのだそうだ。
う~ん、信頼って奴ですね。
そんな話をしていると、

「あるじ~」

木々の間からハヤテが手を振っていた。頭にはリンちゃんが張り付いている。

「ハヤテ~。何処行ってたの~?」

珍しく駆け寄ってこないハヤテに足早に近づいていく。

「あっちにね、やったの」

何をだ。

「あっちに何かあるの?」
「うん。あっち」

だから何だ。
ハヤテが指さす方に行くと、ちょっとした崖になっていた。
その下の窪地になった所で、先程見た3人組が、凄い数の魔物に囲まれていた。
崖を背にしているので辛うじて防いでいるように見える。
連れていたコボルトらしき姿はない。やられてしまったのだろうか?
3人の前で、あの青銀の狼が、1頭で踏ん張っていた。あの狼がいるから辛うじて頑張れているんだな。

「おやおや、これは面白い場面に出くわしたものじゃなぁ」

いや、図ったでしょ、クレナイ。
しかも考えたのはクロだね。

「な、なんて数の魔物…」

ぱっと見、ゴブリンやコボルトっぽい雑魚ばかりに見えるが、雑魚も数が揃えば怖い物である。チャージャが下を見て腰を抜かしそうになっている。

「お、おかしいっすよ! なんでこんなに魔物が集まってるんすか?!」

チャージャの声に気付いた下にいた男達が上を見た。

「お、おい! そこに誰かいるのか?! た、助けてくれ!」

悲鳴を上げる。

「おお、助けよと申しておるぞ」

クレナイが白々しい。

「娘、どうする。助けるか?」

クレナイがチャージャに問いかける。

「え? いや、助けないとまずくないっすか?」
「よいのか? あの者達がいなくなれば、あのブルーシルバーウルフは其方の物になるのじゃぞ?」
「あ…」

チャージャが固まる。

「いや、しかし、こういうのは、違うと思うっす」

下を向き、考えながら、チャージャが言葉を絞り出す。

「こういう、見捨てるみたいなのは、やっぱ、自分は気持ち悪いっす! 嫌な奴でも、見ちゃったら助けたいっす!」
「ふむ。よう言うたわ」

クレナイがニヤリと笑った。

「おい! 下の者ら! 不本意ではあるが、助けてやろうぞ!」

不本意って言っちゃってるよ。正直すぎるって。

「は、早く! 助けてくれ!」

あらま、よく見たら、これやばいんじゃない?さっきよりも輪が狭まってるよ。

「ただのう、妾達もただで助ける訳にはいかぬでのう」

チャージャはただで助けちゃったけどね。

「な、なんだ?! 金か?!」
「金はいらん。腐るほどあるでのう」

確かに。私何気にお金持ちなんだよね。色々あって。
金額考えると、顔から血の気が引きそうになる。

「じゃ、じゃあなんだ?!」
「そうじゃのう。その珍しいブルーシルバーウルフかのう」
「な、なんだって?! こ、こいつは、もう、売る先が決まってて…」
「はて、それでは他に欲しい物もなし、助ける義理もないのう…」

かなり酷いこと言ってません?

「そ、そんな…」
「うああ! 来るな!」

あ、まじやばそう。

「く、クレナイさん…?」
「主殿、もう少しの辛抱じゃ。待たれよ」

ハラハラするんですけどね?

「わ、分かった! こいつを譲る! 助けてくれ!」

あ、折れた。

「良かろう。では、正式に手放すと宣言せよ」
「分かった! ブルーシルバーウルフを手放す! どこにでも勝手に行っちまえ!」

そう男の人が叫んだ瞬間、ブルーシルバーウルフが思いっきり地を蹴り、ひとっ飛びで崖の上にやって来た。そしてそのままチャージャに飛びつき、

「ぶひゃあ!」

押し倒したチャージャに跨がり、顔中をベロベロベロベロ舐め出す。

「ぶひゅ! ブル、ひゅん…。やめ…」

舐められ過ぎて喋ることもままならない。
ああ、あれ、後で顔中べたべたになる奴だ…。

「おい! ちょっと待て! あいつ、あんなに…」
「それよりも前! まずいぞ! おい! 早く助けてくれ!」

下から悲鳴が聞こえてくる。

「おおそうじゃ。忘れる所であった。これ娘、早う従魔契約をせぬか」

クレナイの言葉を聞き、ブルーシルバーウルフがチャージャの上から降り、チャージャの顔を見つめる。

「うべ、わ、分かったす…」

ああ、顔中ベトベトになってるよ。後でリンちゃんにでもお水を出して貰おう。
懐から何やらを取り出し、ブルーシルバーウルフの胸に紋様を書き始める。
そして何事かを唱え、紋様が光った。
無事に契約を終えられた。

「ぶ、ブルちゃん…」
「ウオウ!」

嬉しそうにチャージャに抱きつくブルちゃん。抱きつき返すチャージャ。ブルちゃんの尻尾が千切れんばかりに振れてます。

「うわあああああ!!」

崖下から悲鳴が聞こえて来ているよ。

「おお、一応約定を結んだでな。助けてやらねば」

見れば、1人がゴブリンにのしかかられて、殴りつけられてる。おい、やばくないかい。

「これ、ブルーシルバーウルフ。其方、折角だからやってはみぬか?」

クレナイの問いかけに、ブルちゃんが1度クレナイを見て、次にチャージャの顔を見た。

「娘。其方に命じて欲しいらしい。試しに命じてみよ。そのブルーシルバーウルフの実力を見るいい機会じゃろう」
「え? あ、はい。そすね。でも、ブルちゃんに出来るかな…?」
「出来なければ妾達も加勢しよう。それ、早うせんと、下の奴ら、死ぬるぞ」
「あわわ。ぶ、ブルちゃん! 下の人達を助けるっす!」
「ウオウ!」

一声元気に吠えると、ブルちゃんが再び崖下へと飛び降りた。
着地と同時に、のしかかっていたゴブリンを吹き飛ばし、男の人達に近づいていた魔物達を走って突き飛ばす。
そして、男の人達と魔物達の間が少し空くと、その間に立ち、何やら気合いを込め始め、

「ウォン!」

と大きく吠えた。
すると、何故か魔物達は固まって、そのままバタバタと倒れていった。
何をした?

「威圧を使ったのじゃな。なかなかやりよるわ」

ああ、クレナイが使っていたあれね。へえ、あの子も出来るんだ。
動く魔物がいなくなると、再び跳躍し、崖の上に戻ってきた。
チャージャの足元へ行って、褒めろとばかりにチャージャの顔を見つめる。

「す、凄いっす。ブルちゃん、こんなに凄かったんすね…」

チャージャも嬉しそうにブルちゃんの首にしがみついて、その毛並みを撫でた。
お互いに嬉しそうだ。

「うむうむ。自ら仕えたいと思う主に会えるというのは、幸運な事じゃのう」
「誠であるな」

クレナイとシロガネがその光景を見て、なんだか頷いている。

「あるじ~」

あら、ハヤテも甘えたくなったかな?
頭をナデナデしてやると、嬉しそうに笑う。可愛い。
コハクはと見ると、唖然とした顔をしている。
うん。この反応が一番普通の反応なのかもしれないね。
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