異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ラーメン!

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「起きたか、八重子」
「おはよう、主殿」
「おはようである、主」
「おはよ~、あるじ」
「おはようございます、ご主人様」

リン!

私が起きたら、皆すでに起きていた。

もそもそもそ

「八重子、何故布団に潜るのだ」
「なんか、恥ずかしい…」

だって、コハクなんか、私より小さいのにすでに起きて身支度を終えている…。
今までは皆従魔で、服なんてえいやっで出来るからだと思ってたんだけど。

「私、実はかなり寝坊してる?」
「よく寝るものだと皆で話していたりしておるの」

そんなに寝てたのか?
いやいや、寝る子は育つ!寝るのは良いこと!
え?育つのは上じゃなくて横だろう?
そこ!いらんこと言わないの!

「ご主人様、お顔を洗うお水と、タオルです」

コハクが水の入った桶と、タオルを持って来る。
なんて良い子なんだ。
布団から素直に出て行く。小さい子にこんなことされたら寝てられません。

「ありがとう、コハク。なんか悪いね~」
「え?」

ん?なんでコハクちゃんは不思議そうな顔をしているのかな?
私も不思議に思いながら、顔を簡単に洗い、タオルで拭く。
すると、すぐにコハクがそれを片付けてしまう。
なんて働き者なんだ…。
着替える時もコハクが服を持って来たくれるし、ホントにまめだ。小さいお母さんみたい。

「そんじゃ、朝ご飯に行きますか」

皆で連れ立って下の食堂へ。
人がまばらな食堂の隅のテーブルに陣取る。
たらふく、は今日は食べさせない。なにせ、ラーメンが待っているのだから。

「むう、主殿がそれほど言うならば、それほど美味いのであろうな…」

クレナイが3人前食べるかどうしようか悩んでいた。
部屋をそのまま取って置いてもらい、荷物を置いて、身軽になってさあ出発。
途中、クロとリンちゃんも人化する。
コハクとハヤテとリンちゃんはお揃いの帽子で仲良く歩く。
その後ろ姿を見ながら歩いていると、クロがそっと話しかけて来た。

「答えは出たのかの?」
「う~ん、分かんない。でも、楽しくやれれば良いかなと思うよ。叔母さんも言ってたけど、楽しい思い出いっぱい作って、私の笑顔を思い出してねって。それでいいんじゃないかなって」
「そうかの」

クロが近づけていた顔を離して、普通に歩き始める。
うん。いっぱい楽しい思い出作ろう。コハクの笑顔を思い出せるように。
何がいいかなんて分からない。ただ、精一杯いいと思うことをやるしかない。

「そういえば、クレナイ、エリクサーって本当にないのかな?」
「エリクサーか。なるほどのう。妾も最初の主殿にちらっと聞いただけで、本当にあるのかどうかは分からぬのじゃ」
「そうか~」

雲を掴むような話ですね。
でもちょっと調べてみてもいいかもね。
そんなこんな言ってるうちに、ラーメン屋さんの前に。
うわ、もう列が出来始めてるよ。











開店は昼頃だというのにすでに行列。
早めに来て正解だった。この分なら一応昼飯と言える時間帯に食べられるかもしれない。
幼子達が飽きないように、簡単な手遊びを教える。
昔やった、ずいずいずっころばしとか、あっち向いてホイとか、せっせっせーのよいよいよいとか(これの正式名称ってなんだ?)。
まあ、最初に教えたのはじゃんけんなんだけども。

「なるほど。これは面白いのう。手の形で勝敗を決めるのじゃな」
「ふむ。面白い仕組みであるな。なかなかどうして便利である」

大人組が感心していた。
あっち向いてホイは勝ち抜き戦をやってみたり、にらめっこしてみたり、往来でやるものじゃないかもしれないけど。そうこうしているうちにお店が開いて、列が進み始めた。
昼を幾分か過ぎた頃、ようやっと来ましたラーメン!
人数が多かったので、ボックス席に詰められました。ハヤテだけお子様用の椅子です。
あるんだね、この世界にも。

私はコハクとリンちゃんに挟まれ、対面ではクレナイが男2人に挟まれている。
まあ、クロとシロガネは隣同士にはならないだろうね。クレナイがちょっと嬉しそうだけど。
皆でラーメンを注文。ラーメンは豚骨醤油に味噌と塩味があった。
とりあえず皆で醤油ラーメン、それと餃子なんて載ってたから、迷わず人数分注文。
大丈夫。食べきれなかったらクレナイが食べてくれるから。

ほどなくして運ばれてくるラーメン、餃子達。ライスはなかった。
みんなで一緒にいただきます。
懐かしい香りを、鼻で目一杯吸い込む。

ああ、なんて美味しそう!

箸を掴んで、麺をすくい取る。
熱そうなので少しフーフーして、口の中へ。

ん~~~~~!至福!!

レンゲでスープを口元に運ぶ。

ん~~~~~!至福!!

「なるほど! これは美味い!」

クレナイはズルズルいい食べっぷり。てか、クレナイ啜れるのね。さすが。

「ふむ。面白い味である」

シロガネもお上品に口元に運んでいる。シロガネは啜ってない。

「ン~、不思議~」

リンちゃんも食べている。動物性のスープだから飲みにくいかもしれない。

「おいちい!」

ハヤテは箸は持てないので、フォークで食べてます。散ってる散ってる。
それをフキフキ食べているのがコハク。
ん、でもその顔はとても美味しそうに輝いている。気に入ったようだ。

クロも無言で箸を進めている。フーフーしている回数が多い気がするのは、気のせいじゃないと思う。
私も久しぶりのラーメンを堪能。
おかわりしたクレナイのを半分もらうほど。
いや、さすがに2杯は無理です。

シロガネは1杯で満足したようだ。チャーシューとスープが残っていたが、それもクレナイが。
リンちゃんも同じように残していたが、それもクレナイが。
ハヤテは全部食べきりました。さすが。餃子も1皿ぺろり。よく食べるなぁ。
クロも1杯ぺろり。餃子も1皿。こちらはスープが半分ほど残っていた。それもクレナイが…。
コハクはなんとか具を食べきり、スープはほとんどお残し。それもクレナイが…。
で、クレナイは皆の残りをもらいつつ、しっかり3人前食べてましたよ。あ、私の分を差し引いて、3.5人前かな?注文は4回したので。良く食べるなぁ。

餃子も各々の前にあって、クレナイが残っていた物をいち早く回収していた。
ラーメンを十分堪能し、お金を払って店を出る。次の人もいるから、回転は早くしないとね。
まだまだ行列は続いていた。

「うむ! なるほど! これは主殿が美味いというのも頷けるのじゃ!」
「うむ。なかなか面白い味であった」
「おいちかった~」
「とても美味しかったです。ごちそうさまです」

皆が満足そうに腹をさする中、コハクがぺこりと頭を下げる。
リンちゃんとクロは元の姿にさっさと戻り、リンちゃんは頭の上、クロは腕の中で寛いでいる。リンちゃんの帽子はクレナイの袖の中でお預かり。

「や~、本当、美味しかったね~。食い過ぎた…」

食べ過ぎたので、宿に帰ることに。
今日はもう宿でゆっくりしましょうか。










「そういえば、奴隷紋は消せるんだよね?」
「は、はい」
「消しちゃう? 嫌なら」
「え?!」

コハクの瞳が驚きで見開かれる。
なんか、ことあるごとに驚かれてる気が…。

「それはやめておいた方が良いかもしれぬぞ」

腕の中からクロの小声。

「さて、何故でしょうクロさん」
「奴隷紋がある限りは、コハクは八重子の持ち物だから、それを無理矢理奪っていくこともなかろう。しかし、これで奴隷紋が外れたなら、心ない連中が攫っていくことも考えられる」
「なるほど。確かに」

奴隷紋があるということは、例えるならリードをちゃんと付けている犬状態。リードを無理矢理奪っていくのはかなりリスキーである。
奴隷紋がないというのは、リードのない犬。つまり、いつでも攫って下さい状態になるのだね。
奴隷紋がある限りは、コハクの身の安全は保証されると言うことか。

「てなわけで、奴隷紋はコハクの身の安全の為に、付けっぱなしにしようと思いますが、OK?」
「は、はい。大丈夫です!」

なんか、ちょっと態度が硬いのよね。
まあ、それはおいおいで、いいでしょう。
やっと宿屋が見えてきた。ゆっくり歩いていたから大分時間かかった気がする。
腹が粉えたら、あとで街を皆と散歩しても良いかもしれないな。
そんなことを考えながら、宿屋へと入っていった。









しばらく食べ過ぎでベッドから動けなかったという。
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