異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

仮名、虎子

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「う・・・」

女の子が身じろぎして、目を開けた。

「こんにちは。大丈夫? どこか痛いところはない?」

ぼけっとした顔で、こちらを見る少女。

「う…、えと、貴女は…?」
「私は八重子。一応冒険者やってます。この子がクロで、この子がリンちゃん。ハヤテにシロガネ、クレナイね」
「クア」
「クレナイじゃ」
「ひ!」

ハヤテの姿を見て、女の子の顔が青くなる。

「あ~、大丈夫よ。この子は私の従魔だから、噛みついたりしないよ」
「従魔…?」
「クア」

子供に見慣れてきたのか、ハヤテが女の子に顔を近づける。
ビビってるビビってる。

「ハヤテ、怖がらせちゃダメよ」
「クウ」

ちょっとしょぼんとして、ハヤテが身を引く。

「それで、貴女はここで何をしてたの? 酷い怪我だったけど」
「怪我…。あ!」

女の子が慌ててお腹を見る。
服がボロボロになってしまっているが、お腹は綺麗に治っている。
さすがに服は治せません。

「あれ?」

女の子が首を傾げる。

「ああ、リンちゃんに治してもらったんだよ。この子は妖精なの。怪我を治すのは得意なんだよ」

リンちゃんが肩に降りてくる。

「よ、妖精?」

まじまじと見つめる女の子。まあ、妖精も珍しいものね。
リンちゃんも怖がる風もなく、同じように女の子を見つめ返している。
リンちゃんも大分人に慣れたね。

「そ、その妖精が、治してくれたのですか?」
「そうよ。リンちゃんは治療のスペシャリストだからね!」

リンちゃんエヘンと胸を張る。うん、可愛い。

「あ、ありがとうございます。で、でも、私、お金なんて持っていませんが…」
「え? 治療費なんて取らないから、大丈夫よ。ところで、貴女のお名前は? こんな所で何してたの?」

お金いらないと言ったら女の子がびっくりした顔していた。普通は取るのかしら?

「あ、私は、JCS-89です。レンタル奴隷で、今日とある冒険者の方に借りられました。荷物持ちとして借りられたはずなのですけど、狩りの囮役をやらされまして。ワイルドボアを見事に誘い出したまでは良かったのですけど、横からシルバーウルフが現われて、逃げようとしたところを、その冒険者の方に突き飛ばされて、逃げる為の囮になれと…。なんとか逃げたんですけど、ここで追いつかれて、お腹を…」

「あああ、それ以上は喋らなくてもいいです。辛いことは言わなくてもいいです。無理に話せとは言いません。その前に、貴女の、名前? その、ジェイシーエスとか、89とか、名前じゃないよね?」
「私に特に個人名はありません。幼い頃に奴隷商に捕まって、それからずっとこの呼び名で呼ばれています。親が付けてくれた名があったのかもしれませんが、記憶にありません」

う、目が熱くなってくる。

「そ、そか。なんか、大変だったんだね。えと、それで、これからどうする?」
「はい。もう冒険者の方々も街に逃げおおせたと思われますので、このまま街に向かおうかと思います」
「そっか、んじゃ、私達も丁度街に向かってる所だし、一緒に行こうか」
「え?! いえ、そんな、お気遣いなく…」
「いいからいいから、子供が遠慮しないの。あ、そうだ、1つ、聞いて良い?」
「はい、なんでしょうか?」
「失礼に当たったらごめんね。貴女、獣人なの?」
「はい。私は虎人族と呼ばれる獣人の1人です」

獣人来たーーーーー!!
黄色いショートの髪は、虎のせいか?
立ち上がると、お尻の辺りにプラプラと揺れる尻尾もある。

うああああ、触りてぇ…、あの尻尾触ったらめっさ気持ちよさそうだべさ…。

クロのお手々がほっぺにめり込んだ。
はい、トリップしてすいません。

「あ、あの…」
「はい」
「そ、そのお耳は、本物で…?」
「? はい」

ピコピコ耳が動いた。

ぶふぅおう!

ま、丸い耳が…、ピコピコ動いてるばってん…。

やべ、可愛い、可愛いいいいいいいいいいい!

クロのお手々がまたほっぺにめり込んだ。

「クロさん!」

モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ!

「にゃあ」

モフ欲をクロで晴らしていたら、クロさんが嫌がって鳴きました。
その声も可愛ゆす!

「主殿、奇行もほどほどにせぬと、子供が引いておるぞ」

ふと見れば、ちょっと白い目で見る女の子。
視線が痛い痛いだわよ。











さて、どうやって移動するかと言う話しになり、軽そうだから、ハヤテの背に乗せてみてはどうかと私が提案してみた。

「出来るかのう? ハヤテ」
「グア!」

ハヤテはやる気満々のようだ。
シロガネの方には私とクレナイが乗るともういっぱいいっぱいなんだよね。

「ハヤテ、人を乗せるってことは、いつもと飛び方が違ってくるからね? 絶対にこのお姉ちゃんを落としたらだめよ?」
「クア!」

虎子ちゃん、推定10歳。ハヤテよりお姉ちゃんです。

「あ、あの、無理でしたら、私は構いませんので…」
「いいや、ハヤテがやる気になってます! ので、虎子ちゃん、是非実験的にも乗ってみて下さい!」
「虎子ちゃん?」
「あ、なんとなくね。番号みたいので呼ぶのってやだから」
「は、はあ…」

嫌だったかしら?顔を俯かせてしまったよ。
でもねえ、89ちゃんなんて、呼びにくいし、なんかおかしいし。
とりあえずのあだ名って事で。

「嫌だった? 嫌なら呼ばないけど…」
「い、いえ! いいです! 大丈夫です!」

顔を上げていいよと答えてくれました。良かった良かった。
まずはハヤテに乗ってみてもらう。

「なんか、グラグラします…」
「クア~」

ハヤテも初めての経験で、おっかなびっくり。

「ハヤテ、落としそうになったら風を纏うのだ。それで乗り手を安定させてやるのである」
「クア!」

シロガネはその辺りプロです。態勢を崩しそうになると風の力で戻される。
さすがの安定感です。
ハヤテの首の辺りの毛に捕まって、態勢を整える虎子ちゃん。
おや、リンちゃんがハヤテの頭の上に。心配してるのかな?

「ふふふ。背を見れぬハヤテの代わりに、リンが虎子のことを見ててやると。なかなか気が利くのう」

クレナイもその姿をみてほっこりと微笑む。
クレナイもハヤテ達の事、可愛がってるものね。
ハヤテが翼をゆっくりと動かす。
虎子ちゃんもハヤテの首筋にしがみつく。
うんうん、そうやって体勢を低くしておいた方が安心だ。

ハヤテが軽く地面を蹴ると、フワリと宙に浮かんだ。
虎子ちゃんもリンちゃんも、ちゃんとハヤテの背に乗っている。

「ハヤテ、念の為にあまり高く飛ばないのよ!」
「クア~!」

言うことを理解したのか、木の一番上の梢の辺りの高さ以上は行こうとしない。

「大丈夫そうじゃな」
「そうみたいだね」

思ったよりも安定して飛んでいる。
もう王都の外壁も見えてきていたし、このまま飛んで行っても大丈夫だろう。
ということで、私達もシロガネの背に乗り、森の中から飛び立つ。
ハヤテに合わせて低めに飛んで、一路王都を目指した。
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