異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

白爺質問会

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「さて、儂に聞きたいことがあるんじゃろう?」

白爺が聞いてきた。

「あら、ソウシ、そんなことまで話しておいてくれたんだ」
「ま、まあな」

視線を逸らしているのは、照れ?

「そうそう、聞きたいことが山ほど。はないけど。ドラゴンの長老さんともなれば、知りませんか? 従魔紋の解除方法」
「従魔紋かのう、ふむ」

そして私の左手をじろじろと観察する。

「ふうむ。噂には聞いておったが、目にするのは初めてじゃ。なかなか奇っ怪な術のようじゃのう」
「解けます?」
「いんや。儂には無理じゃ」

がっくり。

「こいつは人の手で作られた魔法のようじゃのう。ならば解除の方法も、人間が知っているべきであろう」
「そうなんですね…」

クロさんの覗き見術による情報によれば、今までに解除の方法を知っている従魔師はいなかったとのこと。

「もしかして、解除の方法が確立されてない?」

そんなバカな。

「いや、それもあり得るかも知れぬぞ主殿。わざわざ捕まえた従魔を解き放とうと思う人間も今までに聞いたこともない。解放しようと思う人間がいなければ、その方法が確立されていないのも頷けるものじゃ」
「た、確かに…。で、でもさ、もし、従魔師が死んじゃった場合とかどうなるわけ? まさか、死んじゃうとかないよね?」

腕を組み考え込むクレナイに訪ねる。難しい顔をしながらクレナイが答えてくれる。

「従魔紋を付けられた魔獣は、主となる従魔師が死ぬとな、自動的に次の主を捜し求めるようになっておるのじゃ。希少な魔獣をいつまでも手元に置きたという人の欲じゃの」
「そ、そんな機能が…」

これはもう、呪いと言っても過言ではないのでは…。

「人の手で作られた魔法じゃ。解析すれば解けないこともないかもしれぬが、実際にかかっていない術を解析するのはちと難しいのう」

白爺が困ったように髭をさする。かかってくれとも言えない。

「なら、クレナイが…」
「妾はまだ知識が足りぬのう。白老様ほど解析能力があるわけでもない。妾にはまだちと難しいのじゃ」

そうだよね。出来たらとっくに解除してるよね。

「儂の方でも解析を頑張ってみよう。何か歪みを感じるのでな、時間がかかるやもしれん」

歪みか。
魔獣の意思を押さえ込んで無理矢理言うことを聞かせるものだものね。歪みがあると言われてちょっと納得出来るよ。
白爺が私の左手に触れた。

「これで、儂の魔力を流して、解析してみよう」
「お願いします」

時間はかかるかも知れないけど、皆を解放してあげられる手段が、まだ確実ではないけど見つかった。これで皆のことは安心だ。

「あと1つ、バレてるから隠すこともないけど、私迷い人で、元の世界に帰る方法を探してるんですけど」

白爺が目を丸くする。

「それこそ突拍子もない事じゃの。世界を超える術など、1ドラゴンの儂に出来るような事ではない。それこそ神の領域の話しじゃ」
「うへえ」

やっぱり絶望的?

「色々調べたら、途中で行方不明になってる迷い人もいるんです。どこかでのたれ死んだかは分かりませんけど、もしかしたらなんらかの手段を見つけて元の世界に帰ったんじゃないかと思ったんですけど…」
「ふうむ。もし、じゃが、もし元の世界に帰る方法があるとすれば、まあ、神に匹敵する者に会うことじゃのう」

神に匹敵する者?

「巫女さんとか?」

あれは神に仕える者か。

「うむ。この世界にはのう、神の代理人と呼ばれる、御使いなる人間がおるのじゃ。その者に会えたなら、もしかしたら世界を渡れるかも知れぬぞ?」

御使い?

「それは、何処に行けば会えるのでしょうか?」

元の世界に帰れるかも知れない?会えれば?確証はないけど、もし、方法があるのなら…。

「御使いというても人間じゃからの。死んでおったら会えぬが、試しに訪ねてみても良いかもしれんのう」
「何処、何処ですか?!」
「人間達が作った場所、光の宮と呼ばれる場所に光の御使い、闇の宮と呼ばれる場所に闇の御使いがいるとは聞いておる。じゃが、この数年、その姿を見ていないとも聞く」

光の宮、闇の宮?
しかもいるかいないか分からない?
あやふやだな~。

「でも、行ってみても良いかもしれない。もしかしたらだけど、帰れる方法が見つかるかもしれないんでしょ?」

行き先、目指す場所は見つかった。これは行くっきゃないでしょ!
まあでも、とりあえず王都に行って、ラーメンを食べてからだけどね!



「主殿、やはり、帰れたら、帰ってしまわれるつもりかのう?」

クレナイが寂しそうな目をしながら聞いてきた。
シロガネもやっぱり悲しそうな顔をしてる。
ふと見ればリンちゃんもちょっとしょげている。

「あ~、うん。ごめんね。やっぱり、帰りたいんだ。向こうには私の家族だっているし。心配してるだろうし。皆の事はもちろん大好きだから、連れて行けるものなら連れて行きたいくらいだよ」
「主殿…」
「主…」

リン…

「だからほら、変な人の手に渡らないようにする為に、これの解除方法を探してるんだからさ。皆にも幸せになって欲しいもの」
「主殿…主殿―!」
「主…むぎゅ」

リンー!

クレナイが飛びついてきて、リンちゃんも私の顔に縋り付く。
クレナイのように飛びつこうとしたシロガネは、クロに足蹴されていた。
クロさんが素早い。

「解除の方法はまだ見つからないけど、いずれ皆を自由にしてあげるから、それまで、一緒にいてくれる?」
「もちろんじゃ! 何が何でも主殿について行くのじゃ!」

リリリン!

「も、もちろんである…」

抱きつきそこねたシロガネ、ちょっと声に元気がない。

「ほっほっほ。これほどに従魔に懐かれておるのも珍しいものじゃのう」

白爺が温かな視線を向けてくる。

「それで、クレナイ、じゃったかのう。お主、父と母に会いたくはないのか?」
「父と、母じゃと?!」

クレナイが私から離れて、白爺を見つめた。

「およそ50年ほど前に卵が盗まれたと騒いでおった赤の者達がおったのじゃ。多分其奴らがお主の両親であろう。盗人は殺したが、卵は見つからなかったと嘆いておったのじゃ。きっとその時の子じゃろう」
「父と、母…」

クレナイが固まっちゃったよ。
そりゃ、会いたいよね。
生まれる前に攫われて、顔も見たこともなくても。

「クレナイ、ドラゴンの里にもいつか行こうって約束してたものね」
「主殿?!」
「だってほら、お婿さんも見つけたいって言ってたじゃない」
「主殿…」

クレナイがまたしがみついてくる。

「く、苦しいよ…」

腕に力が入っているみたいで、ちょっと首が絞まってる…。

「ほっほっほ。面白い人間じゃのう。ドラゴンの里に行きたいなどと」

名前を聞きにも行ってみたいよ?

「よかろう。もし里に訪れたなら、お主らには一切危害は加えないと約束しよう。里の者達にはきちんと言い含めておくでのう。特に、其奴の両親にはのう」

ご両親に?

「卵を盗んだ人間に良い感情は持っておらん。里に入った途端に襲いかかるやもしれんしのう」
「十分に説得しておいて下さい!」

ドラゴンに襲われたら、さすがにたまったもんじゃないよ!

「うむ。里の皆を説得出来たら、ソウシに伝令を任せるのでな。いつでも来やるが良いぞ」
「なんで私が?!」
「この者達に慣れており、顔見知りであるからじゃ」

ソウシ、長老様に言われてシュンとなる。いやしかし、愛しのクレナイに会えるんだからいいじゃないの。

「あ、それと、名前を付けた事による縛りなんかは発生しないの?」

真名なんて、その者の存在を縛る名前じゃないか。ファンタジーでは名前が契約の証みたいになるし。

「まあ、親と子みたいな繋がりは出来るがのう。お主には、儂を縛ることは出来ぬじゃろうな」
「ホワッツ? 何故に?」
「魔力がほとんど感じられんからじゃ」

あー、はい。私その筋の権威の方に、まったく才能がないとは言われましたよ。

「真名で縛るにも、ある程度の魔力は必要じゃよ」

そーなんすねー。

「じゃあ、私がムクって呼んでも来てくれるとかはないんだね?」
「呼ばれたと感じることはあっても、強制されることはないのう」
「だったら安心」

しかも、白爺って心の中で言ってるし。

「分かった。ありがとうです、いろいろ情報を頂いて」
「なに、儂も儂に似合った良い名をもらった。お互い様じゃ」

互いに礼を言い合って、ソウシと白爺は静かに部屋を出て行った。



「まずは王都。それから、ソウシから連絡が来たらクレナイの里帰り。そして、光か闇の宮に行く、と」
「随分行き先が決まったの」
「ドラゴンさん達のおかげだわね」
「妾のおかげということじゃな!」

胸を張るクレナイ。確かに、クレナイのおかげだね。
シロガネはしょぼんぬしている。まあまあ、これから足として役に立ってもらうんだから。
あれ、慰めの言葉になってない気が…。
随分時間も経っていたので、皆で仲良く就寝。

さて、明日は…、ムニャムニャ…。







朝、北の門の衛士達の交代の時間がやって来た。

「おい、交代だぞ。お疲れ」
「・・・。俺、疲れてるのかな・・・」
「なんだ? どうした?」
「夜中、街から少し離れた所から、ドラゴンが2体飛び去っていったのを見たんだ…。あれは、現実なのかな?」
「何をバカなことを。ドラゴンが2体も来たら、この街なんてあっという間になくなっちまうよ。夢でも見たんだろ」
「だよな。夢だよな。ドラゴンが2体も、そんな、こんな所にいないよな」
「ああ。ほれ、早く帰って休め。そんな幻を見なくて済むようにな」
「ああ。お疲れ」

特になんの問題もなく、見張りは交代されたのだった。
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