87 / 194
黒猫と共に迷い込む
名字?
しおりを挟む
リンちゃんもお風呂が好きなようで、妖精の姿のまま、ちょこんと風呂の縁に腰掛けたり、湯気の中を飛んだりとフラフラしていた。
それをその場に居合わせた女性陣が、ほっこりと見守る。
リンちゃん、お風呂で大人気。
風呂から上がり、待合室に行くと、クロとハヤテが既に寛いでいた。
「シロガネは?」
「そろそろ良い出汁が出ているかもしれんの」
長湯しているようです。
皆で寛いでいると、シロガネが慌ててやって来た。
「何故置いて行くのだ!」
「声は掛けたぞ。なあ? ハヤテ」
「うん!」
シロガネ、がっくり膝を付く。
さて、皆も揃ったし、宿に帰りましょう。
ご飯も食べて、お風呂にも入って、後は寝るだけ。
みんなの髪をブラッシングして、シロガネはちょっとだけ丁寧に長く。とても嬉しそうにしていたとさ。
ハヤテが早うとうとし始めた時、
コンコン
部屋の扉がノックされた。
え?こんな時間に誰?
この街に知り合いなんて…、いなくもないけど、こんな時間に訪ねてくる知人はいない。
戸惑っていると、
「主殿、どうやら妾の同胞らしい。敵意は感じられぬ故、扉を開けて良いじゃろうか?」
クレナイが扉に向かった。
チラリとクロを見ると、扉に目は向けているものの、特に警戒する様子もない。
ならば大丈夫だろう。
「分かった。開けて良いよ」
許可を出すと、クレナイがノブに手を掛け、ゆっくりと開いた。
「夜分に失礼致す。このような時間でなければ、我らは目立つ故、失礼とは知りながら今時分に参った。少し話しをしたいのであるが、時間はあるだろうか?」
青い髪の青年、ソウシが立っていた。
「なんだ。ソウシか。いいよ、入っておいでよ」
思わぬ珍客に驚いたが、とにかく部屋へと通す。
ソウシの後ろに、少し小さい白いお爺さんが着いてくる。
え~と、クレナイが同胞と言って、ソウシの知り合いっぽい所からして…。
このお爺さんも?
「突然の訪問でご無礼致す。儂はドラゴン族の長老じゃ。以後見知りおきを」
お爺さんが軽く頭を下げる。
「ああ、はい。私は八重子です。よろしくお願いします」
「うむ。なんとも利発そうなお嬢さんではないか」
あら~、いや~、なんか褒められてるよ私。
「え~と、それで、こんな時間にこんな所まで、何しに?」
用件はなんぞ?
「うむ。ズバリなのじゃが、儂に、名を付けて欲しいのじゃ!」
ずいっと胸を張る。
え~と、名前?なんで?
「名前? その、私、人間ですよ? ドラゴン族にはドラゴン族なりの名前があるのでは?」
「確かに、ドラゴンの名はある。ドラゴンは成長し、一人前になったと認められた後、長老によって名を授けられるのじゃ。ところが、その、ドラゴン族は名前にセンスがなくての…」
長老様が項垂れる。
「儂も名をもらう時はワクワクしたものじゃったが、儂の代の長老が適当での。本当に適当に名付けられてしまったのじゃ。長老からもらった名じゃて、己で変える訳にもいかぬし。ずっと己の名が恥ずかしくてのう。そうしたら此奴が、何やら立派な名を授けられたと言っておるではないか。ずるいのじゃ! まだ成人もしてない若造が、なにやらカッコイイ名前をもらうなど! 儂もカッコイイ名前が欲しいのじゃ!」
後半は駄々っ子みたいだよ。
「いや~、でも、私人間ですけど、良いんですか? ドラゴンからしたらちっぽけな生き物じゃないんですか?」
「良い。お主、只者ではなかろう?」
ギクリ。
「ソウシの名に、青、水を司るという意味を持たせた。そんな言葉聞いたこともない。お主、迷い人ではないかのう?」
ギクギクリ。
「試しに、そのソウシという言葉を文字にしてみてくれんか」
と、ペロリと紙を出して来た。
「えと…」
「ほれほれ」
書かないと先に進まないなこれ。
鉛筆を出し、紙にさらさらと、「滄司」と書いた。
「「滄」が水、青を表す言葉で、「司」が司る、支配するみたいな意味かな。つまり水の支配者みたいな感じかな?」
「なんと、こんな文字は初めてじゃ…」
長老さんが文字をガン見。滄司が改めて名前の説明を受け、なんか嬉しそうにしている。
「主殿、妾の文字は?」
クレナイも聞いてきたので、紙に「紅」と書く。
「クレナイの言葉の由来は言ったよね? 最上級の赤を示すって」
「もちろんじゃ!」
クレナイが自分の名前をガン見。覚えようとしているようだ。
「主、我の字は…」
「シロガネはこう」
白銀と書いてやる。
「む、二つ目が難しいであるな…」
覚えようとしている。
リン・・・
「おっと、リンちゃんも漢字あるよ。「鈴」ね。鈴の音みたいな綺麗な音だから、リンちゃん」
鈴と書いてやると、リンちゃんが降りてきて、その文字をなぞっている。
可愛い。
「あるじ~…」
眠い目を擦りながら、ハヤテもやってきた。
「はいはい。ハヤテ、書いてあげるから、無理しないで寝て良いよ」
疾風と書いて、ハヤテに渡す。
「?」
文字を見て首を傾げている。
疾風にはまだ早かったかな。
「儂も! 儂もこの文字の名が欲しいのじゃ!」
長老さんが手を挙げた。
「え~と、本当にいいんですね?」
「良い! 今の名よりもカッコイイ名前になるなら何でも良い!」
良くないだろ。
「ちなみに、今の名前は?」
長老が目を伏せた。
言いたくないらしい。
「そういえば、私も長老様の名を知らぬな」
ソウシがぽつりと呟いた。
そうなると、気になるもので。
じいっとみんなで長老さんを見つめる。
ばつが悪そうにする長老さん。
見つめる。
見つめる。
見つめる。
見つめ・・・
「分かった! 分かったのじゃ!」
耐えきれなくなり、長老さんが声を上げた。
「わ、笑わぬでおくれよ? 決して笑うではないぞ?」
「はいはい。で、お名前は?」
「・・・じゃ」
「はい?」
「・・・じゃ」
「小さすぎて聞こえませんよ」
「ピピ! じゃ!」
「へ?」
「どれだけ耳が遠いんじゃお主!」
「いや、はい、聞こえました聞こえました。えと、ピピさん?」
「その名で呼ばぬでくれ~!」
顔を覆ってしまう。
小さい「つ」が入ったら…。考えないでおこう。
「前に付けたのがプピじゃからピピで良いじゃろうなどと、適当に名付けおって! 儂がどれだけ恥ずかしい思いをしてきたか!」
まあ、なんというか、確かに可哀相な名前ではあるかな。
女の子ならまだしもねぇ。
「じゃから儂も名付けは適当にしてやってるのじゃ! 儂よりもカッコイイ名前など許さぬ!」
「だからおかしな名前が多かったのか…」
ソウシが呟いた。そんなに変な名前なのか?ちょっとドラゴンの里、行ってみたいぞ。
ていうか、自分が変な名前だからって、他の人の名前も適当にしちゃだめでしょ。
「頼む~、後生じゃ! 儂にもカッコイイ名前を~!」
両手を祈るように組んで、縋るような目つきで頼み込んでくる。
うん、しかし、その名前は確かに同情できるので、
「え~と、カッコイイ名前になるかは分からないけど、考えてはみます」
「頼む! 頼む!」
すんげー頭下げてる。
さてさて、そんなにカッコイイ名前なんて、すらっと出てこないんだけどねぇ。
それに、カッコイイかどうかなんて、その人の主観だしねぇ。
さ~て、どうしましょう。
ハヤテが堪えきれなかったらしく、ベッドで横になった。間もなくグリフォンの姿に戻るだろう。
白、白、ドラゴン…。パイロン、はそのままだしな。漂白剤。違う。白くするんじゃない、元から真っ白。真っ白、穢れのない、綺麗な白…、となると…?
「「無垢」、はどうでしょう?」
「ムク? とな?」
「純真無垢という言葉があるのですけど、清らかで純粋であることを示す言葉なんです。その中でも無垢は汚れのない事を表す言葉です。確か、白色でしたよね? 私の国の言葉で、白無垢という言葉があるのですけど、それこそ何色にも染まらずに一切の穢れがないということを示します。と言うわけで、「無垢」と」
「ふむ。何色にも染まらずに、一切の穢れもない…」
ちょっと意味が違うかも知れないけど、多分こんな感じであってると思う。
ちなみに、白はどんな色にも染まってませんと言う意味と、貴方色に染めて下さいという意味を持つ。白無垢は婚礼衣装だしね。
「なるほど。ムクか。良い! 儂の名はこの時より、ムクじゃ!」
と、長老さん改め、ムクさんの体が微かに光り出した。
「な、なんか光ってますが…」
「うむ。真名が書き換えられたようじゃ。良い名をありがとう」
「て、真名?!」
書き換えていいんかい?!
「うむ。儂が認め、儂に適した名じゃったからのう。自動的に書き換えられたようじゃのう」
「い、いいんですか? それって…」
「ピピよりはましじゃわい」
そっすね。
「あ、じゃあなんか申し訳ないから、白老って呼び名もいかが? 白は人の間でお年寄りを差す言葉でもあるんです。年を取ると髪が白くなるから。そこに敬意を込めて、「白老」と」
体の色も白だし。
「白老ムクか! うむ。良い呼び名じゃ!」
「いや、白老でも無垢様でもいいんだけど…」
敬称のつもりで言ったんだけどな。まあいいか。
「主殿、妾は?」
クレナイがせがんできた。
「いや、クレナイはいいでしょうが。まあ、なんとなく前から「緋龍姫」って言葉が浮かんではいたけど…」
「緋龍姫?」
「「緋」は赤を示す言葉で、「龍」は私の国でドラゴンを表す言葉。「姫」はそのまま姫だし。赤いドラゴンの姫で緋龍姫」
「うむ! 気に入ったのじゃ! 妾は緋龍姫クレナイじゃ!」
勝手に名乗ってるよ。
よほど気に入ったらしく、ブツブツ口の中で反芻している。足元もちょっとソワソワしている。そんなに嬉しいのかしら。
「あ、主…」
シロガネが自分の顔をちょいちょい指し示している。シロガネもそういうのが欲しいらしい。
「え~…? シロガネは考えてなかったなぁ」
「わ、我も欲しいのである…」
「う~ん、しかし、すぐに思い浮かぶわけじゃ…。あ、ペガサスは漢字で天馬だったけ、そんじゃぁ…。天翔王ってのはどうだろう?」
「てんしょうおう?」
「空を駆けるって書くのよ。まさにシロガネのことでしょ?」
「空を駆ける…。うむ! 気に入ったのである!」
天翔王シロガネ…。シロガネもブツブツ呟く。
う~ん、名字が出来た感じなのかな?
ツンツンと髪が引っ張られた。
肩の所でリンちゃんがこちらを見つめている…・
見つめている…
見つめている…
見つめて…
「分かったから。視線が痛いです」
リン!
ここまで来たなら、みんな付けてやるわい!
「そうだね~、リンちゃんは…。緑だし、んで癒やしの力を使えるとなると…」
「翠」って、みどりとも読むんだよね。
「よし、リンちゃんは「翠療姫」でどうだ?! 癒やしの翠姫ってことよ!」
リンリン!
リンちゃんが嬉しそうに音を鳴らした。
あとはハヤテだけど、寝てるからいいか!
そして、皆名付け終わったのに、1カ所から熱い視線が…。
「いや、さすがにソウシは従魔でもないし、付けないよ?」
がっくりするでない。
それをその場に居合わせた女性陣が、ほっこりと見守る。
リンちゃん、お風呂で大人気。
風呂から上がり、待合室に行くと、クロとハヤテが既に寛いでいた。
「シロガネは?」
「そろそろ良い出汁が出ているかもしれんの」
長湯しているようです。
皆で寛いでいると、シロガネが慌ててやって来た。
「何故置いて行くのだ!」
「声は掛けたぞ。なあ? ハヤテ」
「うん!」
シロガネ、がっくり膝を付く。
さて、皆も揃ったし、宿に帰りましょう。
ご飯も食べて、お風呂にも入って、後は寝るだけ。
みんなの髪をブラッシングして、シロガネはちょっとだけ丁寧に長く。とても嬉しそうにしていたとさ。
ハヤテが早うとうとし始めた時、
コンコン
部屋の扉がノックされた。
え?こんな時間に誰?
この街に知り合いなんて…、いなくもないけど、こんな時間に訪ねてくる知人はいない。
戸惑っていると、
「主殿、どうやら妾の同胞らしい。敵意は感じられぬ故、扉を開けて良いじゃろうか?」
クレナイが扉に向かった。
チラリとクロを見ると、扉に目は向けているものの、特に警戒する様子もない。
ならば大丈夫だろう。
「分かった。開けて良いよ」
許可を出すと、クレナイがノブに手を掛け、ゆっくりと開いた。
「夜分に失礼致す。このような時間でなければ、我らは目立つ故、失礼とは知りながら今時分に参った。少し話しをしたいのであるが、時間はあるだろうか?」
青い髪の青年、ソウシが立っていた。
「なんだ。ソウシか。いいよ、入っておいでよ」
思わぬ珍客に驚いたが、とにかく部屋へと通す。
ソウシの後ろに、少し小さい白いお爺さんが着いてくる。
え~と、クレナイが同胞と言って、ソウシの知り合いっぽい所からして…。
このお爺さんも?
「突然の訪問でご無礼致す。儂はドラゴン族の長老じゃ。以後見知りおきを」
お爺さんが軽く頭を下げる。
「ああ、はい。私は八重子です。よろしくお願いします」
「うむ。なんとも利発そうなお嬢さんではないか」
あら~、いや~、なんか褒められてるよ私。
「え~と、それで、こんな時間にこんな所まで、何しに?」
用件はなんぞ?
「うむ。ズバリなのじゃが、儂に、名を付けて欲しいのじゃ!」
ずいっと胸を張る。
え~と、名前?なんで?
「名前? その、私、人間ですよ? ドラゴン族にはドラゴン族なりの名前があるのでは?」
「確かに、ドラゴンの名はある。ドラゴンは成長し、一人前になったと認められた後、長老によって名を授けられるのじゃ。ところが、その、ドラゴン族は名前にセンスがなくての…」
長老様が項垂れる。
「儂も名をもらう時はワクワクしたものじゃったが、儂の代の長老が適当での。本当に適当に名付けられてしまったのじゃ。長老からもらった名じゃて、己で変える訳にもいかぬし。ずっと己の名が恥ずかしくてのう。そうしたら此奴が、何やら立派な名を授けられたと言っておるではないか。ずるいのじゃ! まだ成人もしてない若造が、なにやらカッコイイ名前をもらうなど! 儂もカッコイイ名前が欲しいのじゃ!」
後半は駄々っ子みたいだよ。
「いや~、でも、私人間ですけど、良いんですか? ドラゴンからしたらちっぽけな生き物じゃないんですか?」
「良い。お主、只者ではなかろう?」
ギクリ。
「ソウシの名に、青、水を司るという意味を持たせた。そんな言葉聞いたこともない。お主、迷い人ではないかのう?」
ギクギクリ。
「試しに、そのソウシという言葉を文字にしてみてくれんか」
と、ペロリと紙を出して来た。
「えと…」
「ほれほれ」
書かないと先に進まないなこれ。
鉛筆を出し、紙にさらさらと、「滄司」と書いた。
「「滄」が水、青を表す言葉で、「司」が司る、支配するみたいな意味かな。つまり水の支配者みたいな感じかな?」
「なんと、こんな文字は初めてじゃ…」
長老さんが文字をガン見。滄司が改めて名前の説明を受け、なんか嬉しそうにしている。
「主殿、妾の文字は?」
クレナイも聞いてきたので、紙に「紅」と書く。
「クレナイの言葉の由来は言ったよね? 最上級の赤を示すって」
「もちろんじゃ!」
クレナイが自分の名前をガン見。覚えようとしているようだ。
「主、我の字は…」
「シロガネはこう」
白銀と書いてやる。
「む、二つ目が難しいであるな…」
覚えようとしている。
リン・・・
「おっと、リンちゃんも漢字あるよ。「鈴」ね。鈴の音みたいな綺麗な音だから、リンちゃん」
鈴と書いてやると、リンちゃんが降りてきて、その文字をなぞっている。
可愛い。
「あるじ~…」
眠い目を擦りながら、ハヤテもやってきた。
「はいはい。ハヤテ、書いてあげるから、無理しないで寝て良いよ」
疾風と書いて、ハヤテに渡す。
「?」
文字を見て首を傾げている。
疾風にはまだ早かったかな。
「儂も! 儂もこの文字の名が欲しいのじゃ!」
長老さんが手を挙げた。
「え~と、本当にいいんですね?」
「良い! 今の名よりもカッコイイ名前になるなら何でも良い!」
良くないだろ。
「ちなみに、今の名前は?」
長老が目を伏せた。
言いたくないらしい。
「そういえば、私も長老様の名を知らぬな」
ソウシがぽつりと呟いた。
そうなると、気になるもので。
じいっとみんなで長老さんを見つめる。
ばつが悪そうにする長老さん。
見つめる。
見つめる。
見つめる。
見つめ・・・
「分かった! 分かったのじゃ!」
耐えきれなくなり、長老さんが声を上げた。
「わ、笑わぬでおくれよ? 決して笑うではないぞ?」
「はいはい。で、お名前は?」
「・・・じゃ」
「はい?」
「・・・じゃ」
「小さすぎて聞こえませんよ」
「ピピ! じゃ!」
「へ?」
「どれだけ耳が遠いんじゃお主!」
「いや、はい、聞こえました聞こえました。えと、ピピさん?」
「その名で呼ばぬでくれ~!」
顔を覆ってしまう。
小さい「つ」が入ったら…。考えないでおこう。
「前に付けたのがプピじゃからピピで良いじゃろうなどと、適当に名付けおって! 儂がどれだけ恥ずかしい思いをしてきたか!」
まあ、なんというか、確かに可哀相な名前ではあるかな。
女の子ならまだしもねぇ。
「じゃから儂も名付けは適当にしてやってるのじゃ! 儂よりもカッコイイ名前など許さぬ!」
「だからおかしな名前が多かったのか…」
ソウシが呟いた。そんなに変な名前なのか?ちょっとドラゴンの里、行ってみたいぞ。
ていうか、自分が変な名前だからって、他の人の名前も適当にしちゃだめでしょ。
「頼む~、後生じゃ! 儂にもカッコイイ名前を~!」
両手を祈るように組んで、縋るような目つきで頼み込んでくる。
うん、しかし、その名前は確かに同情できるので、
「え~と、カッコイイ名前になるかは分からないけど、考えてはみます」
「頼む! 頼む!」
すんげー頭下げてる。
さてさて、そんなにカッコイイ名前なんて、すらっと出てこないんだけどねぇ。
それに、カッコイイかどうかなんて、その人の主観だしねぇ。
さ~て、どうしましょう。
ハヤテが堪えきれなかったらしく、ベッドで横になった。間もなくグリフォンの姿に戻るだろう。
白、白、ドラゴン…。パイロン、はそのままだしな。漂白剤。違う。白くするんじゃない、元から真っ白。真っ白、穢れのない、綺麗な白…、となると…?
「「無垢」、はどうでしょう?」
「ムク? とな?」
「純真無垢という言葉があるのですけど、清らかで純粋であることを示す言葉なんです。その中でも無垢は汚れのない事を表す言葉です。確か、白色でしたよね? 私の国の言葉で、白無垢という言葉があるのですけど、それこそ何色にも染まらずに一切の穢れがないということを示します。と言うわけで、「無垢」と」
「ふむ。何色にも染まらずに、一切の穢れもない…」
ちょっと意味が違うかも知れないけど、多分こんな感じであってると思う。
ちなみに、白はどんな色にも染まってませんと言う意味と、貴方色に染めて下さいという意味を持つ。白無垢は婚礼衣装だしね。
「なるほど。ムクか。良い! 儂の名はこの時より、ムクじゃ!」
と、長老さん改め、ムクさんの体が微かに光り出した。
「な、なんか光ってますが…」
「うむ。真名が書き換えられたようじゃ。良い名をありがとう」
「て、真名?!」
書き換えていいんかい?!
「うむ。儂が認め、儂に適した名じゃったからのう。自動的に書き換えられたようじゃのう」
「い、いいんですか? それって…」
「ピピよりはましじゃわい」
そっすね。
「あ、じゃあなんか申し訳ないから、白老って呼び名もいかが? 白は人の間でお年寄りを差す言葉でもあるんです。年を取ると髪が白くなるから。そこに敬意を込めて、「白老」と」
体の色も白だし。
「白老ムクか! うむ。良い呼び名じゃ!」
「いや、白老でも無垢様でもいいんだけど…」
敬称のつもりで言ったんだけどな。まあいいか。
「主殿、妾は?」
クレナイがせがんできた。
「いや、クレナイはいいでしょうが。まあ、なんとなく前から「緋龍姫」って言葉が浮かんではいたけど…」
「緋龍姫?」
「「緋」は赤を示す言葉で、「龍」は私の国でドラゴンを表す言葉。「姫」はそのまま姫だし。赤いドラゴンの姫で緋龍姫」
「うむ! 気に入ったのじゃ! 妾は緋龍姫クレナイじゃ!」
勝手に名乗ってるよ。
よほど気に入ったらしく、ブツブツ口の中で反芻している。足元もちょっとソワソワしている。そんなに嬉しいのかしら。
「あ、主…」
シロガネが自分の顔をちょいちょい指し示している。シロガネもそういうのが欲しいらしい。
「え~…? シロガネは考えてなかったなぁ」
「わ、我も欲しいのである…」
「う~ん、しかし、すぐに思い浮かぶわけじゃ…。あ、ペガサスは漢字で天馬だったけ、そんじゃぁ…。天翔王ってのはどうだろう?」
「てんしょうおう?」
「空を駆けるって書くのよ。まさにシロガネのことでしょ?」
「空を駆ける…。うむ! 気に入ったのである!」
天翔王シロガネ…。シロガネもブツブツ呟く。
う~ん、名字が出来た感じなのかな?
ツンツンと髪が引っ張られた。
肩の所でリンちゃんがこちらを見つめている…・
見つめている…
見つめている…
見つめて…
「分かったから。視線が痛いです」
リン!
ここまで来たなら、みんな付けてやるわい!
「そうだね~、リンちゃんは…。緑だし、んで癒やしの力を使えるとなると…」
「翠」って、みどりとも読むんだよね。
「よし、リンちゃんは「翠療姫」でどうだ?! 癒やしの翠姫ってことよ!」
リンリン!
リンちゃんが嬉しそうに音を鳴らした。
あとはハヤテだけど、寝てるからいいか!
そして、皆名付け終わったのに、1カ所から熱い視線が…。
「いや、さすがにソウシは従魔でもないし、付けないよ?」
がっくりするでない。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる