異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

白金貨250枚

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奥の部屋に通されて、向かいのソファに座る。
さすがにそんなに大きくないので、クレナイの膝にハヤテが座った。
目の前にはなんとなく圧のあるおば様。背が高いというだけではないだろう。

「あたしはこのギルドのマスターやってる、サーティ・トウェーティ。よろしく」

30、20?

「私は八重子です。この子がクロ、上の子がリンちゃん。クレナイにハヤテにシロガネです」
「ハヤテ!」

名前呼ばれて嬉しいのか、ハヤテが手を上げた。

「クレナイじゃ」
「シロガネである」

大人しく名を名乗る2人。そのまま大人しくしててくれ。

「それで? 新しいダンジョンの情報だって?」

聞かれて、ダンジョンにあった罠の事を話す。
隠し部屋に転移の魔法陣。別々の場所に飛ばされた私達。

「それで、よく生きて帰って来れたものだね」
「ええ、ク…」

言いかけてはたと気付く。クロは猫で、今膝の上で寛いでます。
出来ればクロは普通の猫で通していきたいので…、

「ク、クレナイ、が、助けに来てくれました…」

ちょっと辿々しくなっちゃったけど、大丈夫だよね?

「そちらのお嬢さんね。確か、ドラゴンの化身とか噂が流れてたけど」

あ、やっぱり広まってましたか。
もうこの街で秘密にすることは難しそうですな。

「え~と、まあ、そうなんです。なので、ダンジョンでも無敵の強さでした」

実際そうであったとクロから聞いているしね。ダンジョン火の海にして平然と歩いていたとか?

「ははは。さすがだね。そのおかげで生きて帰って来れたと」
「はい。そうです」
「しかし、ダンジョンのど真ん中なんだろ? よく1人で、このお嬢さんが来るまで持ち堪えられたね?」

ギクギク。

「え~と、か、階段が目の前にあったんです。偶々」
「なるほどね。階段なら安全地帯だ。それで救助が来るまで待ってたと」
「そ、そうです」
「んで、その飛ばされた階は何階だったか分かるかい?」
「多分ですけど、クレナイが36階、ハヤテとリンちゃんが43階、シロガネが48階で、私とクロが56階かと」
「ほお、よく他の子達の飛ばされた階も分かったね」

ギクギク。

「ク、クレナイが降りながら数えてくれたみたいです」
「ほお、そうか。しかし、よく自分の主が下にいると分かったね?」

ギクギクギク。

「飛ばされる前に見た転移の魔法陣で、多分ではあるが、陣の真ん中に近い方ほど深く潜ったのではないかと思ったのじゃ。妾には従魔紋があるでの。これで、主殿の気配が下からする気がしたからじゃ」
「なるほどね。確かに、従魔紋はあまり離れすぎると痛みが走ると言うしね」

納得してくれたらしい。
クレナイグッジョブ!

「早速通達することにしよう。それと、その階層にいた魔物なんかは分かるかい?」
「え~と、朧気ながら…」
「分かる範囲で良いよ」

サーティさんが、紙とペンを用意してきた。

「え~と、私が初めに降りた階には、一つ目の巨人がいて…」

自分が通ってきた階の様子を話していく。

「シロガネの所には何がいた?」
「我の所…? 確か、骸骨のような者がいたような…?」

一心不乱に走っていたそうで、覚えていないらしい。

「このお嬢さんが見てるんじゃないのかい?」

ギクギクギクギク。

「さて、妾はそんな弱小な者など気にせんかったからなぁ」

自分が初めに降りた階にも、何がいたか覚えていないらしい。
クレナイグッジョブ!

「ハヤテはねー、いしのぞうとたたかったのー。かたかったのー」

動く石像?いや、ゴーレムか?苦戦していたとクロが言っていたけど。

「そうかい。頑張ったんだね」
「がんばったのー」

ハヤテを見てサーティさんもほっこりしている。
やはり子供好きなのだろうか。

「で、40階と50階に階層主がいなかったかい?」
「ああ、40階のはキメラがいたんだっけ?」
「うむ。キメラじゃったな」
「50階は?」

そう問われ、答えに詰まる。
やっべ、50階でクロと一緒に魔法陣に乗ったけど、下から行く分には階層主と戦わなくても魔法陣に乗れたんだよね。だから、見てない。
でも、答えられないと話しの流れからしておかしいし…。
どうしようと焦っていると、クロがひらりと肩に乗り、耳元で囁いた。

「50階の階層主は骸骨の騎士だったの。5メートルくらいのでかい奴」

スケルトンナイトか?

「お、思い出しました! 骸骨の騎士だったです。とってもでかいの! ね、クレナイ」
「う、うむ。そうじゃったな。そんな感じの奴じゃった」

クレナイ、合わせてくれてありがとう!

「ほお、そんな者が出たのか。これはいよいよ、攻略が難しいね…」

今の所到達階は32階。あのダンジョンが何階まであるのか、いまだに分かっていないのだそうだ。
一説では50階までではないかと言われていたのだが、今回私が56階まで行ってしまったことにより、50階以上であるということが証明された。
降りるほどに魔物も強くなっていくし、50階以上も潜るのであれば、必要な物資も相当な物になるのではないかと思える。
踏破される日は来るのだろうか。

「貴重な情報を有り難うよ。料金を精査するから、ちょっと待ってて貰えるかい?」
「え? 料金?」
「ダンジョンの新しい情報を提供した場合、報奨金が出るんだよ。知らなかったかい?」

知りませんでした。

「あ、そうだ。査定して欲しい物が。クレナイ」
「うむ。よく分らぬが、魔石とやらは金になるのじゃろう? 一応目に付いた物だけ拾って来たのじゃ」

そう言って、袖からその袋を取り出した。
ジャラリと置かれたその袋を見て、サーティさんが目を丸くする。

「こ、これ、中に、全部、魔石かい?」
「そうじゃ」
「こ、こ、こ、これ…?」

そんなに驚くほどのことなのか。
恐る恐る袋の中を確かめるサーティさん。

「こ、これは! こんなに大きい…!」

大きいと言っても、ゴルフボ-ルかピンポン球くらいの大きさだ。そんなに大きいのだろうか?
しばらく魔石とその袋を見つめて固まっていたサーティさんが、再起動すると、渋い顔になった。

「こ、これだけの大量の魔石…。すまないが、一括で買い取れるほどの資金が、今このギルドにはないよ」

え? そうなの?

「え~と、どこだったら買い取ってくれますかね?」
「王都のギルドに行けば買い取ってくれるとは思うが。一応ここでもある程度は買わせてもらうよ。3分の1も買えれば良い方か…」

え、そうなの?

「これだけの魔石か…。危険を冒してでも潜る価値がある? いやしかし、どこに飛ばされるかも分からないとなると…さすがに無理か…」

何かブツブツ言っている。

「あの~…」
「ああ、すまないね。じゃ、査定するから、ホールで待ってておくれよ」

後はお願いして、部屋を出る。
ホールとはつまり、まあ、入り口の所の冒険者達がたむろしている所だろう。
壁際に椅子があったので、そこで座って待つことに。
ハヤテが私の膝に乗りたがったので、クロが肩に上った。
頭の上にリンちゃん、肩にクロ、膝にハヤテ。う~ん、ちょっと重いぞ。
羨ましそうに大人組が見てるけど、無理だからね。

「しかし、魔石がそんなに金になるとは、思わなかったのじゃ」
「わ、我も…、拾って来るべきであった…」

シロガネ悔しそう。まあ、馬の姿だったのだからしょうがない。

「ん? 馬?」

ペガサスでした。心の声が聞こえたか?
やけに長い時間待たされて、やっと呼ばれた。
役所じゃあるまいし、何がそんなに時間がかかったのか。
受付の方ではなく、買い取りカウンターの方に呼ばれたので、そちらに行く。

「大変お待たせ致しました。こちら、金貨になります。ご確認お願い致します」

そう言って、買い取りカウンターのお姉さんが、重そうに袋をカウンターに乗せた。

「ダンジョンの新情報の報奨金が金貨42枚。念の為白金貨4枚に金貨2枚にしてあります。魔石の買い取り額が、厳選して50個ほど買い取りで、金貨2500枚です。金貨ですと数えづらいかと、白金貨を250枚にしてあります」

誰が数えるの?
私です。
いやちょっと待て、き、金額が…、金額がーーーーー!
50個2500て、1個金貨50枚?!
高くね?!

「あ、あの、あの魔石にその値段て、良いんですか?」

つい聞き返してしまう。

「もちろんです。状態もいいし、なによりあの大きさ。ご存じの通り、普通の魔石はこれくらいの小さな物ではないですか」

そう言って、親指と人差し指で、大豆くらいの大きさを示す。

「それが、あんなに大きいんですよ! これはもう大発見と言っても過言ではないですよ!」

買い取りカウンターのお姉さんが興奮している。
紺色の一つに縛った髪が、ゆさゆさと揺れ動く。

「ソ、ソウナンデスネ…」

なんか、またやっちまった感があるんだけど…。

「良かったのう主殿。これでまたしばし金には困らぬじゃろう」

クレナイがほくほくしている。
まあ、貴女の食費は稼げましたよ。
シロガネはしょんぼりだ。まあ、次があるよ。多分…。
しかし、金額がでかすぎて怖いわ。
カウンターで数を数えて、間違いがないことを確認する。
もちろんであるが、必要経費だけもらって、あとは銀行に預けた。
あんな大金、精神的にも物理的にも、持って歩けません。
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