異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

再び階段にて

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「お願いだからもう虫は勘弁して下さい…」
「祈ったところでダンジョンが聞いてくれるわけもなかろうが」
「祈りたくなるよう…」

ダンジョン内の安全地帯、階段で一休み。

「では、またちと様子を見て来るでの。ここで大人しく待っておれ」
「今回ばかりは早めにお願いします」
「サイクロプスの時は全く平気だったのにの」
「上がGと知ってたら寝てられなかったよきっと」

大きいのも嫌だが、小さいのが出て来ても嫌だ。そんなことを考えたら眠ってなどいられない。

「まあ、すぐに戻る」

またクロが壁に溶けるように消えて行った。













「ぬおおおおお! 階段はどこぞおおおおお!」

叫びながら馬が走っていた。いや、正確にはペガサスだが…。

「何をやっておるのだあやつは…」

6階ほど上ったところでシロガネの気配を見つけ、出てみれば、やはりクロの姿などお構いなしに走り去る馬の姿。しかも…。

「あそこにあるではないか」

シロガネが走って来た方向、クロのすぐ斜め前に、その階段があった。

「馬は弱視だったかのう?」

確か馬は広い視野を持つと言われていたと思ったが、と首を捻るクロ。
およそその視覚野は350°。真後ろ以外はほぼ見えているとか。
ただ、立体的に見える範囲はその分狭くなるとか。
ちなみに、猫は近視だと言われています。
仕方がないので再び追いかけるクロ。空間を渡って先回り。

「おい馬…」
「ぬおおおおお! お?」

今度はクロに気がついた。

「クソ猫か。なんだ、何か用か?」
「いや、一応現状を確認しに来たのだが…」
「ぬ。我ならば問題ない。こうして2階ほど上がって来られたのである」
「そうか。問題ない・・・・のであるな」
「うむ。順調であるぞ」
「そうか。ならば用はない。おっと、また水と、それから食料を少し貰っていくぞ」
「うむ。主の為だ。よかろう」

ペットボトルに水を入れて貰い、また少し食料を取り、

「では、我が輩は参る」
「ふん。主によろしく言っといてくれ」
「ああ、もちろん・・・・

クロはそのまま壁に溶けるように消えて行った。

「よし、我も一番に出る為に頑張るぞ!」

また風を纏い、シロガネは走り出した。
シロガネが無事に上に戻れるのを、祈るばかりである。














ハヤテとリンが、階段を上って、ようやく上の階に辿り着いた。

「グア」

リンリン!

何がいるのか分からぬのだから、用心するようにとリンちゃんが注意する。
そろりそろりと通路を歩き出す。
さてどっちに進もうかと2体で相談していると、

「ほお、無事に上に上がれたかの」

クロがするっと現われた。

「クア!」

リン!

喜び勇んで飛びつくハヤテとリン。

「これこれ、ダンジョンはまだ終わってはおらぬぞ」

ハヤテの頭を撫で、リンちゃんの頭も優しく触れて、2体を引き剥がす。

「グア~?」
「どうやってここまで来たと? うむ、我が輩は空間を通ることが出来るのでな。それで来たのだ。良く分からない? もう少し大きくなったら分かるであろうの」

リリン!

「八重子は無事だの。ハヤテとリンの事をとても心配しておったぞ」
「クア!」

リン!

喜ぶ2体。

「浮かれるのは早いぞ。まずはどうにかして、ダンジョンから出なければならん。この先も大変かもしれぬが、頑張れるか?」
「グア!」

リン!

2体が力強く頷いた。

「よしよし。ではこの先も頑張るのであるぞ。ハヤテ、少しだが肉だ。食っておけ」

クロが持っていた干し肉をハヤテに分け与える。

「クア~」

嬉しそうに頬張るハヤテ。
それを優しげに見守るリンちゃん。
しっかり上下関係が構築されたようだ。

「では、我が輩はクレナイ殿の様子も見るでな。クレナイ殿はお主らの助力の為にこちらに向かってきているはずだの。できたら合流して、クレナイ殿と共に地上へ向かえ。何よりもお主らの無事を優先するのだぞ?」
「クア!」

リン!

やる気に満ちた2体の顔を見て、クロも満足げに頷く。

「ではの」

そう言って、壁に溶けるように消えて行った。

「グア~?」

リン?

どうやって消えたの?と聞くハヤテに、リンちゃんも分からないと首を捻る。
その時、ズシリズシリと、何かの足音が聞こえて来て、2人は身構えた。













すぐ上の階に、クレナイはいた。

「クレナイ殿」
「おお、クロ殿」

相変わらずダンジョンが火の海になっている。
やはり天井近くから出て来たクロが、火の海を悠々と進むクレナイに声を掛けた。

「よっと」

クレナイが袖を一降りすると、あっという間に火が消えていく。

「相変わらず、凄いの」

天井から降りてきたクロが、クレナイの前に立つ。

「これくらい。軽いものじゃ」

クレナイが扇で口元を隠しながら笑う。何処に持ってたその扇。

「さすがはクレナイ殿だの。一番進行が早い」

ハヤテとリンはやっと1階。
シロガネは2階。
八重子とクロは3.5階。
そしてクレナイは5階も進んでいた。

「まあのう。火を付けて、それを目印に階段を探しておるでの。道も然程迷うてはおらぬ。おお、そういえば、先程階層主らしき所を通ったぞ。そやつを倒した後、後ろの小さな間に、転送陣らしきものが書いてあったのじゃ。もしかすると、地上へ戻る転送陣かもしれぬ」

「ほお。それは良い情報だの。その階層主の所へ行けば、ダンジョンから出られるかもしれんのだな?」

「恐らくではあるが、10階ごとに階層主がいるのではないかと思うのじゃ。そこに毎度転送陣があるのではないかと踏んでおる」

「なるほど。我が輩達もやっと3階ほど上がったばかり。クレナイ殿の証言と考えると、あと3階ほど上れば階層主のいる階に辿り着くかも知れぬということか」

「おお、それではすぐであるな?」

「うむ。これを知れば八重子も喜ぶであろうの。そうそう、ハヤテとリンであるが、すぐこの下の階におる。恐る恐るではあるが進めておるがな、早めに迎えに行ってやって欲しいのだの」

「おお、この下の階じゃな。分かったのじゃ。すでに階段も見つけてある。すぐに参ろうぞ」

「うむ。頼んだの」
「任せるが良い」
「では、後はよしなに」
「主殿によろしくなのじゃ」

クロが壁に溶けるように消えて行った。

「さて、では、2人を迎えに行くかのう」

クレナイが真っ直ぐ歩き出した。













「帰ったぞ八重子…」

クロが急いで八重子の元へと戻ってくると、

「んかー」

やっぱり寝ていた。

「Gがいようがいまいが、結局寝ていたのではないのか?」

呆れつつ、八重子の肩を揺さぶる。

「八重子、ほれ、起きろ」
「んあ? ああ! お帰り。じゅる」

涎を垂らす寸前だったようだ。

「お主、やはり肝が太いのではないか?」
「そんなこと! 怖くて怖くて! 何も考えないようにしてたら、いつの間にか意識が飛んでただけよ」

十分だと思うが…。

「ほれ、食料と水だの」
「あは、ありがとう~。やっぱりお腹空くと余裕がなくなるものね~」
「八重子は背で目を瞑っているだけではないか」
「目を瞑る力を消費してます」
「やれやれ」

クロの溜息もなんのその、しっかり食べた八重子は、また生理現象にも悩まされながらも、元気に階段を上り始める。

「少しは運動しないとね」
「ダンジョンなのにほとんど歩いておらんの」

ほとんど負ぶわれたままだね。
えっちらおっちら階段を上がり、その間にクロから皆の様子や階層主などの話を聞く。

「ていうか、シロガネ大丈夫なの?」
「大丈夫なのではないか?」

ハヤテとリンちゃんより、シロガネの方が心配になってきた。

「あと3階上ればフロアボス…」
「我が輩達はそやつに構わずに転送陣にさっさと入るがの」
「まあ、そうですよね」

戦わずして行けるものならその方が早い。
わざわざ危険に飛び込むこともない。
あと3階ということで、八重子も元気が出て来た。いや、元から元気だった。

「うっしっし。あと3階でここともおさらばね!」
「多分。だがの」

確実にあるとは言ってないのだが。
上の階に着くと、またクロの背に。

「今度こそ虫ゾーンを抜けてますように…」
「ふむ。今度はカサカサとは聞こえてこんの」
「良かった。やっと虫ゾーンを抜けたのね」
「ふむ。しかし…」

クロが曲がり角の手前で、ふと足を止めた。

「この音は…?」

スルスルスル

何かが床を滑っているような音。

「なんの音だろ?」

その音が角まで近づいて来て、その顔を覗かせた。

「シャー!」
「八重子があんなこと言ったからではないか?」
「私のせい?」

八重子が両手で抱えられそうなほどの頭を持った、蛇が鎌首を持ち上げた。

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