異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

同じ黒でも違います

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クロがまたまた空間を渡って、八重子のいるところまで戻ってきた。

「八重子、戻ったぞ」

空間からするりと抜け出して、クロが見たものは…。

「んかー」

階段に座り、壁に頭をもたれかけ、アホな顔して眠る八重子の姿だった。

「此奴…」

いくら安全地帯であろう階段であっても、何かしらのトラブルが発生する可能性がなくもない。そんな所でアホ顔を晒して眠りこける飼い主…。

(本当に、我が輩がいなければ、今日まで生きてこられたかも分からぬな)

自分がいて本当に良かったと思うクロであった。

「八重子、起きろ」
「ンが?!」

変な音を発して目覚める八重子。
よく電車でうっかり眠りこけてしまって、変な音を発して思わず目覚める、なんて経験、誰でも1度はあるはず。と思う。

「あ、やべ、寝てた」

半分虚ろな顔で慌てて態勢を整える八重子。

「お帰り~。クロ」

あきれ顔のクロ。

「我が輩、確かにここなら安全であろうとは思ったが、眠りこけられるほど安全とは思わなかったがの。普通はこういう所でも、それなりに見張りを立てなければ寝られぬものではないのかの?」
「いや~、私ってば、どこでも寝られるのが特技なもので…」
「こんな所でそんな特技を披露しなくても良いと思うがの」

クロの突き刺すような視線に、目を逸らす八重子。

「はあ。まあよい。ほれ、食料と水だの」
「おお! そういえば、お腹空いてるわ」

良いタイミングで、お腹がクウと鳴った。

「正直な腹だの」
「根が正直だとお腹も正直になるのかしら?」

クロから手渡された食料を、八重子は遠慮せずに頬張る。
それを見ながら、クロは会ってきた皆の様子を話し始めたのだった。













「シロガネとクレナイはヤッパリって感じだね。ハヤテとリンちゃんは心配だなぁ」
「クレナイ殿が向かってくれておる。なんとかなるであろう」
「そうね。しかし、フロア全部を火炎地獄って…」
「さすがドラゴンというか…。我が輩もクレナイ殿は敵にしたくないの」

クロが持って来た食料を食べ、水も飲んで、そうなると…。

「ダンジョンに、おトイレって…」
「設置されているとは思えんの」

ええい!野宿ですでに経験済みではあるけど!

「見ないでね! 聞かないでよ!」
「無茶な事を…」

後で知ることだが、ダンジョンはそういうものも吸収してくれるらしい。
えと、清潔になって良かったね?

スッキリしたところで、

「また負ぶさるの?」
「嫌なのか?」
「食べた直後にフリーフォールはちょっと…」

出て来そう。

「なら、食後の腹ごなしに、運動するかの?」

くいっとクロが指し示すその先には、上りの階段が延々。

「さっきのフロア、天井が高かったから…」

その分階段の数が多いんですね!

「最近八重子は運動不足気味であるし、丁度良いのではないのか?」
「え? いやいや、結構歩いてると思うけど」
「その大半は馬の背中ではないのか?」

う…。普通の乗馬だと色々筋肉を使うんだろうけど、私の場合、シロガネ補正が付いてるから、それほど苦もなく乗れちゃうんだよね。

「腰のくびれがどうとかクレナイ殿と話しておらんかったかの?」
「クロのエッチ!」
「いや、我が輩がシャワー係を担っておるのだがの」

そうですけど!

クロの言うこともちょっと胸にチクリと来たので、階段を上り始める。
いや、寸胴ではないよ?そこそこくびれはあるよ?!18の乙女ですよ?!
しかし、階段は長かった。

「ひー、ひー、もう足上がんない…」
「だらしないの。たかだか6階分くらいの距離ではないか?」
「なんでエレベーターがないのよう…」
「ダンジョンだからだの」

その通りですね!

なんとか上の階に辿り着く。
そこからは素直におんぶしてもらった。ああ楽ちん。
この階はそこまで天井も高くないから、そんなに大きな魔物も出てこないだろう。

「これならフリーフォールもないだろうし。安心安心」
「ふむ。しかし、ここにいる魔物というのは…」

クロが鼻をひくひくさせる。

「ん? どんな魔物がいるか分かるの?」
「なんとなくだが、よく見知っているもののような気配が…」

見知ってるもの?なんだそりゃ?
と、先の曲がり角から、何やら二つの長い棒がにょっきり出て来た。
良い感じに曲線を描いたそれは、ピクピクと動き、何かを探っているようだった。
というか、あれ、見たくもない見たことある気がするけど…。

「クロさん、もしかして、それは、あの…」
「どこかの書物に、グレートギブリオンという名を見たことがある」
「結局『G』ってことだろがーーーーー!!」

それが、曲がり角から、にょっきり頭を覗かせた。

ゾワゾワゾワ!

一気に鳥肌が立つ。
てか、でかいよ!普通のGの何倍だよ!

「確か、彼奴は雑食性で何でも食べると聞いたことがあるの。あれだけの巨体になったなら、動物の肉なども食するようになるのかの?」
「変な講釈垂れてないで逃げーーーーー!!」

そいつが素早くこちらに向かってきた。

カサカサカサ
ゾワゾワゾワ

あの足音!いぎゃーーーー!

「八重子、パニクるな。落ちるぞ」
「落とさないで! 落とさないでぇぇぇ!!」

落ちたら死ぬ!精神的に!

「首も絞めるな…」

放したら死ぬ!
黒い奴が近づいてくる!走れ!逃げろ!

「いやいや、逃げていては出口に近づけぬが」
「だってだってだってえええええええ!!」

キモイよキモイよキモイよおおおおお!!

「無理! 生理的に無理! やだやだやだやだあああああ!」
「喚いていてもいなくならんぞ」

足元!近づいてるよ!
クロがひょいと飛んで、黒いあいつの突進を避ける。
そして、空中で奴に向かって足を振った。

スパ!

黒いGの頭と体が分かたれた。
う!頭がないのに、まだ体が動いてる…。
頭を置いて、体はカサカサと走って何処かへ消えて行ってしまった。
Gの生命力が半端ないって本当だね…。
とにかく、視界から消えてくれたことにほっとする。(頭は無視)

「さっさと行こう。こんな階長居したくないよ」
「うむ。そうしたいのはやまやまなのだがの」
「ん? 何か?」
「忘れたか八重子? あいつが1匹いるということは、そこには30匹以上いる…。これは常識であろう?」

カサカサカサ…

足音が、しかも複数近づいて来ている…。

「気絶したい…」

今度こそ本当に気絶するかもしれない。というか、したい。させてくれ…。
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