異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

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クロがまた空間を渡っていくと、ハヤテとリンの気配が近くなってきた。

(ふむ。今度は近いな)

シロガネがいた階から上ること5階。その階の中に2体の気配がある。

「しかし、動かぬの」

先程のシロガネと正反対。全く動こうとはしない。

「とりあえず死んではいなさそうだが、リンがいるというのにどうしたのだ?」

少し急いで2体の元へと進んで行く。
通路を進んで行くと、何やら変な壁を見つけた。
石造りの壁が、そこだけツタで覆われている。

「中におるのか」

クロがそこを潜り抜けた。
少し狭い部屋の中。特に何があるわけでもない、ただの四角い空間だった。
2体の姿もない。
気配を辿ってみれば、部屋の隅にツタに覆われた一角があった。
そこに近づき、優しく声を掛ける。

「リン、我が輩だ。無事か?」

リン!

鈴の音のような音が聞こえ、ツタの一角が寄れて、リンが顔を覗かせた。

リリン!

リンがクロに飛びついて来る。

「おお、よしよし。怖かったかの?」

飛びついて来たリンが、なにやら身振り手振りで慌てたようにツタの中を指さす。
クロが中を覗くと、ハヤテがぐったりと横になっていた。

「怪我は、リンが治しておるのだろう?」

リンリン!

もちろんとリンちゃんが頷く。
リンちゃんの話を聞いてみれば、迫り来る石の像をハヤテが何度も何度も攻撃したが、なかなか倒せない。最後は魔力も尽きかけ、急いで逃げ出したのだと。
なんとかこの部屋に逃げ込み、リンちゃんが入り口をツタで隠し、念のため部屋の隅にもツタで覆って、目を眩ませていたのだと。
怪我はリンが治したのだが、ハヤテがぐったりしたまま動こうとしない。
心配で心配で心細くなっていたのだそうだ。

「ふむ。魔力切れで動けなくなったか、戦闘で疲れすぎて動けなくなったか。なんにせよ、大丈夫だろうの。此奴もグリフォンだ。このまま眠り続けることもあるまい」

リン・・・

本当に?と言う顔でクロを見上げる。

「うむ。大丈夫だの。ハヤテを信じてやれ。子供と言えど、グリフォンだの。すぐに起きだしてまた戦い始めるであろう」

リン

リンちゃんの顔がキリッとなる。
幼いとは言え、ハヤテはグリフォン。すぐにまた走り始めるはずだ。

「そこでだの、ハヤテが起きたら、上に上る階段を見つけて上るのだと伝えておくれ。そうそう、八重子は我が輩と共におって無事だの。ハヤテとリンの事を殊更心配しておったぞ。バラバラではこの広いダンジョンでは危ないのでな、まず1度ダンジョンを出て集まろうという話しになったのだ。分かったかの?」

リンリン!

リンちゃんが大きく頷いた。

「よし。一応少し食料を置いて行くのでの、目が覚めたらハヤテに食わせるといい。水も飲ませてやるのだの」

リン!

クロが脇に携帯食料を少し分けて置いた。
リンはまたハヤテの側に寄り添った。

「ではの。気をつけるのだぞ。お主らに何かあったら、八重子が泣くのでな」

リィン・・・

リンちゃんがコクリと頷いて、ツタの寄れた部分が元に戻った。
それを確認して、クロがまた溶けるように消えて行った。














クロが更に空間を渡っていくと、クレナイの気配が近くなってきた。

(ふむ。微妙に遠いかの)

ハヤテとリンがいた階から上ること7階。その階の中にクレナイの気配がある。

「なんだか、変な気配だの?」

クレナイの他に、動く気配がない。

「しかも、なんだか熱いような…」

空間から出ようとして、クロは少し考え、天井近くに出ることにした。
出てみれば、

「灼熱地獄?」

火の海だった。
天井を伝ってクレナイの気配を追っていくと、火の海の通路を平気で歩いて行く女性がいた。

「おお、クロ殿」
「クレナイ殿。やはり無事であったか」

天井から逆さにぶら下がりながら、クロはクレナイに声を掛ける。

「おお、これは失敬。下に降りられませなんだ」

クレナイが袖を振ると、一気に炎が沈静化していく。

「これはクレナイ殿が?」
「うむ。ちょいと、ダンジョンに腹が立ちましてのう」
「ダンジョンに腹立つ?」

言っている意味が理解できないクロだった。
地面から熱気も消えたところで、クロが降り立つ。

「主殿はご無事か?」
「うむ。安全な場所に一先ず置いてきたの。我が輩だけなら空間移動が使えるのでの。伝言を伝えるついでに皆の様子見だの」

「なるほど。して、その伝言とやらは?」
「バラバラではまずいので、一先ず上で合流しようということだの」
「やはりそうであったか。うむ、分かったのじゃ。先程上に上がれそうな階段も見つけたし、先に上がろうかのう。して、他の者達は如何じゃった?」

「馬は問題ない。ハヤテとリンが一緒に居るが、ハヤテが慣れない戦闘で疲れてしまったようで、今倒れておった。回復次第、ハヤテとリンも上を目指すであろうな」
「む、やはりハヤテ、無理をしておるのか」
「相手がゴーレムらしいのだの。倒し方が分からず苦戦しておるようであった。我が輩もさすがにその手の者は相手にしたことがないのでの」
「なるほど。ならば、妾がハヤテ達の加勢に参ろうではないか」
「下を目指すということかの?」

「問題はなかろう? 妾も多少ならば、気配を探ることが出来る。間違えて焼くことはない、と思う。ハヤテの事を考えるなら、ありじゃろう?」
「一瞬言葉を詰まらせたのは?」
「大丈夫じゃ。妾が仲間を焼くわけなかろう!」

それは視線を合わせながら言って欲しいものである。

「分かったのだの。ハヤテ達の助力を頼む。それなら八重子も安心するであろうの」
「うむ。承知したのじゃ!」

ただ強い相手と戦いたいだけなのでは…。
ふと浮かんだ疑問を、クロは頭の隅に追いやった。

「水や食料は? 多少は持って来ているのだが」
「食料は大丈夫じゃ。先程ここいらにいた者を丸焼きにして食った。味は良くなかったのじゃが、まあ腹に少しは溜まったのでな。水は少し頂いておこうかのう」

この階にいた魔物は、食べられる系の魔物、魔獣だったらしい。

「ついでに、こいつも拾っておいたぞ。魔石というのじゃろ? 人間の間ではそこそこの値で取引されるものじゃったと思ったが」

クレナイが袖から赤い綺麗な小石のようなものを取り出した。

「上のスライムは弱すぎて魔石が小さすぎたか、倒しても何も出てこなかったが、ここいらに来るとそこそこ落として行くぞ。それなりに溜まったわ」
クレナイの袖がジャラジャラと音を立てた。

「ほお、そんな物が出ていたか。これは今後注意して魔物を倒さねばならぬな」

クロの目がキラリと光る。

「袋でも持っておらぬかの? 袖でも良いのじゃが、これ以上溜まると袖から零れ落ちそうでのう」
「ふむ。これでどうだの?」

クロがどこからか、袋を差し出してきた。

「・・・。どこから…。まあ、いいわ。貰っておくのじゃ」
「うむ。では、我が輩は八重子の元へと戻る。ハヤテとリンはここから7階下の階層におる。頼んだの」
「任せるのじゃ。主殿にもよろしく伝えて欲しいのじゃ」
「分かった」

クロが壁に溶けるように姿を消した。

「さてと、下に降りる階段は確かこちらの方にあったかのう?」

炎をまき散らし、この階の隅々までをマッピング済みであった。
迷うことなくその足は下へ降りる階段へと向かい、その姿を階下へと消していった。
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