異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

みんなで一緒に、ココアドコ?

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「ココアドコ・・・」

再びこの台詞を言う羽目になるとは…。
目の前に広がるのは、先程までいた隠し部屋ではなく、ダンジョンのどこかの通路。
そこに居たはずの皆の姿もなくなってしまっている。
腕に抱いた可愛いニャイドルのクロだけは一緒だ。

「ふむ。これはちとまずそうだの」

クロが耳をピクピク、鼻をスンスンさせながら呟く。

「まずそう、とは?」
「先程のはどうやら転移の罠のようだの。ここは、5階のフロアではなさそうだぞ」

5カイデハナイ?ウェアイズ?つまり、ココアドコ?

クロが腕の中からヒラリと飛び降りると、あっという間に人の姿に。
その姿は、私の心臓に悪いのだが…。

「さて八重子、おんぶと抱っこ、どちらを希望する?」
「いきなり何を?」
「うむ。詳細は分からぬが、明らかに先程の階とは違う気配を感じる。しかも先程より強力に凶悪だの。下手に移動すると危険かもしれぬから、我が輩が八重子を担いでいく。さて、おんぶかの? 抱っこかの?」

つまり、危険だからクロに乗りなさいということですね。

「ちなみに抱っことは…」
「子供のように前でもいいし、横でも良いぞ」
「おんぶでお願いします!」

花の乙女に姫抱っこは、まだ免疫がないよ!
クロが屈んだので、素直に背中に乗る。

やべ、広いよ。

本とか小説とかで見たり聞いたり、いや、本は聞かないけど、したりしてたりするけど、男の人の背中は広いとか。すんません。私まだ男の人とまともに付き合ったこともないっす。

タスケテ。

ええい!無になるのだ!心を無にするのだ!

「八重子、しっかり捕まっておれよ」
「い、イエスサー!」

どどど、動揺してないよ。

落ちたらまずいのでクロの首にしがみつく。

「あまり締めると苦しいのだが…」

力入りすぎてました。
あああ、これって、胸が当たるとか言う…、ドッキリラブコメ?!
いやでも、クロは猫だしねぇ。

「ふむ。小さくても多少は分かるものなのだの」
「小さい言うなあ!!」

平均と言ええええ!!

「まあ、我が輩にはあまり関係ないのだが…」
「そうよね! クロは猫だもんね! 去勢済みだしね!」
「何を力を入れておるのだ…」
「べつに!!」

なんでもないよおおお!

「だからあまり締めるな…」

締めてないよおおお!
ちょっと力が入っちゃっただけだよおおお!

そんなコントをやりつつ、クロが歩いて行くと、

「でかいな…」

ピタリと足を止めた。

「何が?」

そういえば、この通路、先程までいた5階の通路よりも、幅が広くて天井が高い。
クレナイが元の姿に戻っても、余裕で歩けそうなくらいはある。
と、私の耳にもそれは聞こえて来た。

ズゥンン・・・ズゥンン・・・

規則的に聞こえてくるその音は、まるで足音のよう。
足音?
その音は段々と近づいて来て、とうとうすぐ前の曲がり角の向こうまで来た。

「く、クロさん? に、逃げた方が…」

嫌な予感しかしませんよ?

「一応姿は確認せんとの」

確認したら向こうにも確認されるでしょうが!
しかもこの通路きちんと整備されてるから身を隠す所なんてのもないし!

ガッ

曲がり角に、手を付いた者がいた。
その手の付いた所が、遙か上の方なんだけど。
そのまた上の方から、にゅっと顔らしき物が出て来て、向こうを見てこちらを見て、その一つしかない大きな目を見開いた。

「グオオオオオオ!!」

一つ目の巨人・・・。
サイクロプスとか言った気がする・・・。

「ほお、こんな奴もおるのだの」
「暢気に言ってないで、逃げて!」

生きた心地がしないよ!
巨人が手に持っていた棍棒らしき物を振り下ろしてくる。
棍棒というより、巨木の幹だ。

「ひいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!」

恐ろしさのあまり、気を失いそうになる。

「慌てるな八重子。こんなトロイ物に当たるわけがなかろう」

そう言って軽くバックステップを踏むクロ。
今まで立っていた所に、棍棒が突き刺さる。

き、気絶したい・・・。

めり込んだ棍棒を巨人が引き上げる前に、クロがその棍棒の上にひょいっと乗った。
もう軽々しく。
巨人が、空いた手で棍棒の上にいる私達を捕まえようと、手を伸ばしてくる。
それもダッシュで躱すクロ。

気絶させてくれ・・・。

そのまま腕を伝い、肩に登り、その勢いのまま、巨人の顔に突っ込んだ。
そして足を巨人の顔面目がけて突き刺した。
その顔面のほとんどは一つ目が占めており、結果的に足は巨人の目を潰した。
いや、狙ってやったのだと思う。

「ギャオオオオオオオオ!」

巨人が悲鳴を上げて、目を押さえてのたうちまわる。

「これで我が輩達を追っては来れまい」

軽やかに着地したクロの背中で、私はもう巨人が出てこないことを祈った。
絶叫系苦手なんだけど…。













「く、罠であったか…」

目の前から主の姿が消え、ついでに何処ともしれぬ通路に放り出されてしまったシロガネ。
見渡すも、同じような通路が広がってはいるが、何か気配が違う。

「とにかく、主を探さねば」

主の腕にはあのクソ生意気ではあるが、実力は信用出来る黒猫がいた。だから主の身は大丈夫であると考える。しかし、長い距離を移動するのに、やはり自分がいないと不便ではないかと心配になる。
実際は背に乗って移動しているのだが、そんなこと知る由はない。
それに、荷物はシロガネが全て背負っていた。

食料、水、それらはシロガネが預かっている。リンがいれば水には困らないだろうが、生憎リンはハヤテの頭に乗っていた。つまりリンとハヤテはやはり同じ所にいるだろうと察しが付く。
クロはおかしな術は使えるが、水を出したりすることはできない。

つまり、自分がいないと主はとても不便になる!

そう考え、シロガネは風を纏い走り出した。早く主の元へと馳せ参じる為。

実はシロガネは近頃、なんだかしょっちゅう仲間はずれにされている気がしていた。
まあ、お風呂なんかは仕方ないのだけれど、シロガネは寂しかったのである。
たまには主といちゃいちゃしたい!ハヤテとリンばかりずるい!
などと考えていたのだった。

そして、すぐに魔物に遭遇した。
ところが、その魔物は、骸骨だった。骸骨兵とでも言うのか。
八重子がいたら、「スケルトン!」と叫んでいたところか。
カタカタと無気味に骨を鳴らしながら、シロガネ目がけて剣を振り上げる。

しかし、シロガネはそんな物など目に入らぬとでも言うかのように、骸骨兵に向かっていった。そして、体当たりした。
風の防御膜を纏い、走りまくる馬…。つまり、ダンプカーに衝突されたようなものか。
骸骨兵は無残にも砕け散って行った。その後に何やら赤い石が残っていたのだが、それに気付かず、シロガネは走り去る。

その後も幾多の骸骨兵が現われるも、シロガネは全てを吹き飛ばし、なぎ倒し、蹴飛ばして走り去っていった。
シロガネの頭には、主を迎えに行くことしかなかった。














「グア?」

リン?

ハヤテとリンは、突然変わった景色と、目の前から主がいなくなってしまったことに戸惑っていた。

「グアグア」

リリリン

2人は話合い、よく分からないが、とにかく主を探そうと言うことになった。
リンを頭に乗せたまま、ハヤテがほてほてと歩いて行くと、向こうに魔物の影。
なんだかカクカクとした、石のような物で出来た像が動いている。

「グアー!」

リン!

見たことのない魔物だったが、ハヤテは敵と見るなり、先手必勝と攻撃を仕掛ける。
リンはハヤテに、怪我しないように気をつけろと忠告する。
今までにもハヤテはしょっちゅう怪我をして、主を心配させていたから。

ハヤテはリンの言葉が耳に入ったのかどうか、その石の像の魔物に、風の刃をぶつける。
しかし、風はその石の像に傷を付けることは出来なかった。
それならばと、火の玉をぶつけてみる。これは少し効いたようだった。
動きはそんなに速くない。
ハヤテは宙を蹴り、その鋭い爪を突き立てる。

ガリ!

あまりにも固く、表面を引っかいただけに終わった。
それならばと、連続で火の玉をぶつける。
多少は効いているようだが、その石の像はへでもないとでもばかりに、攻撃を受けながらも前進してくる。
ハヤテは距離を取り、攻撃を受けないようにしながら、火の玉で徐々に徐々にその石の像の動きを鈍らせていった。
上手い所に当たったのか、石の像がぐらつき、足が砕けた。石の像が動けなくなる。

「グアー!」

倒したと喜ぶハヤテ。

リン

良かったと胸を撫で下ろすリンちゃん。

ところが、

ズシン・・・ズシン・・・

新たに足音が近づいて来た。
ハヤテがそちらを振り向くと、同じような3体の石の像が、向かってきているところだった。














「むう…。転移の罠かのう…」

クレナイは顎に手を当て、考え込んでいた。
目の前から主殿の姿が消え、どことも知れぬダンジョンの一角に佇んでいる。
そして、明らかに先程とは違う魔物の気配。

「転移の魔法陣など、余程の高位の魔術師でなければ使えんと聞いたことがあるが…」

魔力に溢れたダンジョンならではのことかと納得する。
転移するには相当の魔力が必要だと教わったことがあるのだ。

「さて、それよりも、皆の所在じゃ」

ある程度の気配は感じられるので、周りの気配を探るも、どうやら近くに知った気配はないようだった。

「もしかすると、違う階層に飛ばされた可能性もあるのう」

あれがどれほどの物かは分らないが、同じ階に飛ばされた可能性は低いだろうとクレナイは考える。
主殿にはクロが付いているので大丈夫。
シロガネはおいそれとやられるほど柔な者ではない。

「となると、ハヤテとリンじゃな」

ハヤテはまだ戦闘に甘さが残る。油断が多い。リンが付いているならば、怪我などの心配はないのであるが…。

「戦いには体力がいるでのう」

ハヤテはまだ長時間戦ったことはない。心配であった。
クレナイは何気にハヤテがお気に入りだった。
何れは自分の子を持ちたいと考えるクレナイにとって、ハヤテは理想の子供像だったのである。

「妾の子も、あのように元気な子であれば良いのう…」

うっとりと呟くクレナイ。
その前にお婿さんを探さないといけないんだけどね。
ザワザワと、複数の気配が近づいて来た。

「ふむ。久々、と言ってもつい先日思い切りぷっぱなしたばかりじゃが、真の姿で暴れてやろうかのう」

ニヤリと笑うと、クレナイの体が光る。

そして、

むぎゅ・・・

詰まった。

「む…、むう…?!」

この階層では、ドラゴンが歩けるほどの広さはなかったようです。

「ぬ…、むう…」

身動きの取れなくなってしまったクレナイ。
はっきり言って、マヌケな姿である。

「う…、く、くくく、くくくくくく」

クレナイの口から何故か笑い声が漏れてきて、そして、再び体が光ると、また人の姿になっていた。

「ふふふ、はは、はーっははははははは!」

大声で一頻り笑うと、迫り来る魔物をキッと睨み付けた。

「ダンジョンめ! 妾を虚仮にするとは、良い度胸ではないか!!」

ちょっと目に涙が浮かんでいたのは、知らないふり。
クレナイもお年頃。体型を気にする普通の女子だった。
確かに、今の主殿は好きな物を好きなだけ食べさせてくれるとても良い主だ。
だが、そのおかげか、ちょっと肉付きが良くなって来てしまっているかもしれないと、ちょっとクレナイは気にしていたのだった。

「このようなダンジョンなど! 燃やし尽くしてやる!!」

クレナイが炎を纏い、それを全方向に放った。
あっという間に魔物達が焼き尽くされていく。

一つ言っておこう。
ダンジョンは、何もしてないよ。
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