異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

誘われて、隠し部屋

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私達の前に入った2組のパーティーと、追い越していったヒゲもじゃさんのパーティーの合計3組が被害に遭った。
残念ながら、亡くなったのは5人。
最初のパーティーがこの部屋に入った時、後ろからミノタウロスに襲われたらしい。
後から何も知らず部屋に入った次のパーティーがミノタウロスと遭遇。逃げようとするも追いつかれ、何とか凌いでいる時にヒゲもじゃさん達が到着。助勢に入るも、ミノタウロスが強すぎて壊滅しかかっていたらしい。

ミノタウロスは本来もっと下層にいるはずの魔物で、こんな上層にはいないはずだとヒゲもじゃさんが語った。スタンピードの余波がまだ残っているのかもしれない。

「なんにせよ、あんたらのおかげで助かったぜ」

5人パーティーだったヒゲもじゃさん。一人が動かなくなってしまっている。
最初のパーティーは6人だったが、不意を突かれたせいか、3人が。

「私が、もう少し早く来ていれば…」

シロガネに乗っていれば、その1人も助かったかもしれない。

「いいや、ダンジョンに入った時点で、こういうことは覚悟している。お嬢ちゃんのせいじゃないさ。運が悪かったんだろう」

このパーティー以外にも沢山のパーティーがここを通って行ったはずだ。本当に偶々ミノタウロスに遭遇してしまっただけで、不運としか言い様がない。

「俺達はここで一度引き返す。死体を置いておくと、ダンジョンに取られちまうからな。お嬢ちゃん達は先に進むんだろ? もしまた変な魔物がいたら、間引いておいて貰えるか?」

チラリとクレナイ達に視線を向ける。お前らなら簡単だろ?みたいに。
まあ、簡単だろうと思います。

「他のパーティーもどこかで俺達みたいな目に合っているかもしれん。遭遇したらで良いから、助けてやってくれるか?」

ヒゲもじゃさん、善い人だ。

「はい。見つけたら必ず」
「頼んだ。俺はミノタウロスが出たことも報告してくるからな」

動かなくなった5人を、手分けして男達が背負い、生き残った者達がそれに続いた。
すすり泣く、悲しげな声が部屋から遠ざかっていき、ダンジョンの部屋が静かになった。
さて、ミノタウロスの素材も教えてもらったので、剥ぎ取らなければならないのだけど…。

「このナイフじゃ無理だな…」

この筋肉に、このナイフは刺さらないだろう確信がある。

「まずは角であろう?」

クレナイが角に手を掛け、根元からベキリと折り取った。
ナイフいらず…。
美味しい部位のお肉とやらも、クレナイのおかげで無事に取り出すことが出来た。
ちょっと目を背けたくなる惨状でしたが…。

死体は置いておけば、ダンジョンが処理してくれるとのこと。そこは片付けいらずで手間いらずです。
お肉は凍らせて、シロガネの背に積む。うん、鞄に入りきらない。
麻袋に小分けして、リンちゃんに縄を出してもらい(縄代わりの丈夫な蔓を出してもらった)シロガネの背に縛り付ける。
道中で食べるのも良し、ギルドに持って行っても良しと言われた。
クレナイが舌舐めずりしてるから、ギルドに持って行く分はないかもね。

「よし、では先に進もうか」

3階はコボルトが出てくると書いてあった。
出て来た出て来た。犬っぽい奴。
スライムより倒しやすいのか、ハヤテが張り切っている。
リンちゃんはハヤテの頭に乗っている。
気に入ったのかしら?










3、4抜けて5階に到着。
ここまで他のパーティーには遭遇しなかった。
もっと先に行っちゃってるのかな?
この辺りからゴブリンなども出てくるらしい。
なんだか、空気が淀んでいる気もする。
何故か私先頭で歩いて行くと、

「後ろから何か来るの」

クロさんが腕の中から後ろを気にした。
最後尾にいたクレナイが後ろを振り向くと、曲がり角の向こうから、大きな人影。

「あれは、オーガじゃな」

鬼だね。
青白い肌、頭に生える角。面相も怖い。つまり、青鬼さんだね。

「オーガもこの辺には出ないはずだけど」
「あれもスタンピードの余波かのう」

クレナイが嬉しそうに戦闘態勢を取る。

オーガがこちらに気付いて、唸り声を上げた。
手にした金棒を振り上げ、こちらに向かってドスンドスンと走って来る。

豆を投げたい。
鬼は~外、って外に出したらまずいですね。

クレナイが地を蹴ると、あっという間にオーガとの距離を詰め、その懐に入り込んだ。

ズム・・・

オーガの背中から、腕が生えた。
腹を貫かれたオーガが、崩れ落ちた。
強すぎでない?

「ふむ。まだこんなものか。もっと下層に行けば、もっと強い者もおるのかのう?」

手に付いた血を舐める姿は、不思議な美しさと残酷さを醸し出している。

「クレナイ、そこまで潜ることはしないよ?」

残念そうな顔しない。











地図を見ながら歩いて行くと、

「む? そこに何やら空間があるぞ?」

クロが壁を指さした。

「え? 地図には何もないけど」
「隠し部屋かもしれんの」

おお、まだ見つかってない秘密の部屋ですな!

「でも、壁にしか見えないんだけど」

どこに開閉スイッチがあるのでしょう。

リンリン!

リンちゃんが壁の一部を指さしている。何かあるらしい。
どれどれと触っていると、壁の一部が引っ込んだ。

ゴゴゴゴゴ・・・

壁が開いた。

「やった! 隠し部屋!」

お宝でもあるのかしら?
いそいそと入って行く。こういう所は魔物もいないだろう。

「モンスターハウスかもしれんぞ」

クロの言葉に、ピタリと足を止める。もう入っちゃってるんですけど!
でも何も起こらない。大丈夫か?

「はて、何の部屋なのじゃろう?」
「クア?」
「何も置いていないであるな」

そう、見回してみるが、そう広くもない部屋、何もない。

「う~ん、もしかしたら、もう誰かが入って取って行っちゃったかな?」

ギルドに報告されていない、発見済みの部屋なのかもしれない。
皆が部屋に入ったところで、

ゴゴゴゴゴ・・・

背後で扉の閉まる音。

「え?! なんで?!」

しかも早い。閉じ込められる!
クレナイが必死に飛び出すも、扉はピタリと閉じられた。

「妾を閉じ込めるとは、不届きな! ぶち壊してやろう!」

クレナイが拳を握りしめた時。

「うわ?!」

突然床が光り始めた。
何かの魔法陣みたいだ。

「ぬ?! これは?!」
「グア?!」
「主!」
「主殿!」

目の前から、皆の姿がかき消えた。
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