異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ダンジョンに潜る

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「どちらへ行くのじゃ? 主殿」

うっきうきのクレナイが聞いてきた。
「むぅ、右か左か…」
「地図があるだろうの」

そうですね。
1階はほぼ初心者のお試し場みたいになってるらしい。
隠し部屋なども荒らされているので、新しい発見はない。
地図を頼りに進んで行くと、道の先に何か蠢く物が…。

「で、出た! スライム!」

思ったよりもぐにょぐにょしている。ゲームみたいに栗みたいな形になってるわけじゃないのね。どちらかというと、はぐれみたいな…。
核を壊せばやっぱり倒せるのだろうか?
うん、核みたいなものが真ん中辺りにある。

「つまらん」

クレナイが溜息。まあ、クレナイからしたら弱小すぎてつまらないかもね。

「クウ?」

ハヤテが首を傾げている。初めて見るのかな?

「ハヤテ、やってみるかの?」
「クア」

初めての相手ということで、クロがハヤテに勧める。
ハヤテがずんずん近づいていく。怖いもの知らずだな。

「グアー」

ハヤテが手を振り上げて、その爪で切り裂こうとすると、スライムがピョンと跳ねた。

「・・・!」

ハヤテの顔に張り付いた。
藻掻くハヤテ。口と鼻を塞がれて、パニックになっている。

「あわわわ。だ、誰か、ハヤテを助けて…」

シロガネ、クレナイ、見てないで助けないと!

「あのような相手に、まだまだ未熟よのう」
「油断大敵である」

いや、助けてってば。

「仕方ない」

シロガネが翼をバサリと羽ばたかせると、風が巻き起こり、ハヤテの顔に張り付いていたスライムを切り裂いた。
ハヤテもちょっぴり切られてるよ!
核を壊されたスライムが溶けていく。
おお、ああやって死ぬのか。

「油断しすぎであるぞハヤテ。弱い魔物も追い詰められれば何をするか分からぬのだ」
「クウ~…」

しょんぼりするハヤテ。
リンちゃんがフワフワ飛んで行って、ハヤテの傷を治してやった。

「初めてだったんだし、しょうがないよね。これから先はもう大丈夫でしょ?」

ハヤテの側に行って頭を撫でてやる。

「グア!」

うん、良い返事だ。
リンちゃんがハヤテの頭の上で腕を組んで、何やら怒ったような顔。
油断しすぎだと怒ってるのかしら?
いや、ただ可愛いだけなんだけど。
また歩いて行くと、またスライムが現われた。

「よし、ハヤテ、リベンジよ!」
「クア!」

ハヤテが走って行って、素早くスライムを切り裂いた。

「グアー!」
「やったハヤテ!」

パチパチパチ。

リンちゃんもハヤテの頭の上で良くやったみたいな顔してる。
うん、リンちゃん、いつでもハヤテの怪我を治せるように頭の上で待機してるのね。

「うむ。まあまあじゃ」
「それくらいは簡単にしてもらわないとな」

クレナイとシロガネもまあ満足そうだ。

「八重子も1匹くらい相手にしてみたらどうだの」
「え?! あたし?!」
「スライムくらいならやれるのではないかの?」
「おお、良いではないか。主殿、1匹くらい手に掛けてみてはどうじゃ?」
「いや、主にそんなことはさせては、我らの存在意義が…」
「そうそう、シロガネ、そうだよね!」

私は非戦闘員です。

「レベルシステムがあったら喜んで突撃しそうだがの」
「ないじゃん。この世界」

あったら、まあ、頑張って突撃してるかも。

「グアグア」
「ハヤテが全部やっつけると言っておるぞ」

クロさん翻訳ありがとう。

「ハヤテ~。ありがとうね~」
「クア~」

ハヤテに抱きついてスリスリ。うう~ん、気持ちいい。

「足音が近づいて来るの」

クロが囁いた。

「妾達の後ろにいた冒険者達かのう」

クレナイも後ろを振り向いた。
待ってる間、山賊みたいな冒険者達が後ろにいたのよね。
目つき顔つきが怖くてあまり見なかったけど。

「お、そこにいるのは先に行ったねーちゃん達か?」

先頭を歩いてきたヒゲもじゃさんが声を掛けてきた。

「あんた、噂のペガサスを連れた冒険者だろ? ダンジョンは初めてか?」

顔つきは怖いけど、笑うと人懐っこそうな顔になるから不思議だ。

「はい、そうです」
「立派な従魔だな。こんな良い従魔がいるなら安心かもしれないが、初めてならあまり深く潜らない方がいいぞ。下に行くほど魔物も強くなるからな。最初は3階くらいまでにしておけ。あそこまでは初心者でも大丈夫だからな」
「はい。ありがとうございます」

道を開け、その人達を先に通す。

「気をつけてな」

山賊風の冒険茶達が、シロガネやハヤテを珍しそうに眺めながら、追い抜いていった。
良い人達だな。

「むう…」
「どうしたの? クロ」
「いやなに、あの男達、死相が見えているのでな…」

不吉なことを言わないでよ。

「え、何? あの人達危ないの?」
「さあのう。どやって死ぬかは我が輩でも分からぬ」
「そうじゃなくて!」

どどどどうしよう。あなた達死にますよなんて言ったら、危ない人にしか思われないし。
冒険者に冒険するななんて言っても聞かないだろうし。

「まあ、ダンジョンなんて、常日頃人が死んでいる所でもあるしの。放っておいてよいのではないかの?」
「知らなかったらそうできたけど、知っちゃった以上知らんぷりは出来ないよ!」

人道的に見て見ぬ振りは難しい。

「影ながら、見張るしかないじゃろう?」
「そうだよね…」

クレナイの言う通りです。

「こっそり後を付けて行くしかないか」
「八重子の亀の歩みで行けるのかの?」

私がびびりまくって歩が進んでいないのは事実です。
よく小説なんかでもずんずん進んで行くけど、アレ凄いよね。だって、曲がり角とか、すんごい怖いもの。この恐怖心を克服しながら進んでるんだろうな。

「我の背に乗っていくか? 主」
「確かにそれなら早いし安心だけど…」

ダンジョンに来た意味がない。
いやだって、自分の足で進んでこそでしょ!
そんなこと言ってられないか?

「う~ん、頑張って歩く!」

やっぱり歩きたい。

「頑張れ」

クロさん、投げやりな応援ありがとう。

「では主殿、さっさと進まぬと、あの男達を見失ってしまうぞ?」
「おおっと?! 急ごう!」
「グア!」

リン!

ちょっと早足で進み出す。
でもやっぱり曲がり角は怖いです。










2階に降りたところで、見失った。

「なんで迷路みたいになってるのよ!」
「いや、ダンジョンだからだの」

ツッコミありがとう。
仕方ないので、地図を片手に歩き出す。

「様子からして、かなりの頻度でこのダンジョンに潜っているのであろう。となれば、10階層くらいを目指していてもおかしくはないの」
「3階までは初心者だって言ってたものね」
「一応腕は立ちそうな者達だったからの。そう簡単にはくたばらないだろうの。とりあえず3階までは駆け足で通り過ぎてもよいだろうの」
「そうだね」

地図で示してある道をできるだけ早く通り過ぎて行く。
この階もスライムのみらしいが、1階よりも出会う頻度が高くなる。そして数も多くなる。
最高で10匹纏めて出て来た時にはちょっとビビった。
しかし、慣れてきたのか、ハヤテが瞬殺。さすがです。
3階に続く階段を降りて行くと、

「うああああ!」

悲鳴が聞こえた。
急いで駆け下りて行く。
降りて行くとまた左右に延びる道。どっちだ?

「右の方からドタバタと音がするの」

猫も耳が良いのです。

「む。血の臭いがしてくるのじゃ」

クレナイさん、血の臭いに敏感なのね。

「急ごう! シロガネ、乗せて!」
「もちろんである!」

シロガネに跨がる。クレナイも跨がった。

「クレナイ殿は走って行ってもよいのでは…」
「乙女に走れと?」
「いえ、参るである!」

シロガネが走り、ハヤテも飛んで付いてくる。
リンちゃんがハヤテの頭の上に乗っているのが、なんだかハヤテを操縦しているように見えて可愛い。
長い廊下を走って行くと、少し開けた場所。部屋か?

そこに突っ込んでいくと、牛が立っていた。

手に棍棒のような物を持っている。
あれ、ミノタウロスって奴じゃね?
牛がこっち向いた。

「ぶもおおおおおおおお!」

牛みたいに鳴いた。牛だ。今夜はステーキだ。いや違う!
牛が角を向けて突っ込んでくる。このままだと轢かれる!
シロガネが避ける。
牛が突っ込む。
当たらないと分かるやいなや、今度は棍棒振り回してくる。
ぎゃー!怖い!

「グアー!」

ハヤテが後ろから牛の頭を蹴倒す。
突然の攻撃に顔から倒れる牛。
綺麗な大の字…、いや、腕が伸びてない。

「ぶもおお!」

怒った牛が起き上がって、ハヤテに攻撃。
しかし、ハヤテはこれをひょいひょいと軽やかに躱す。
早さはあるけど、攻撃が単調だから軌道を読みやすいのだろう。
シロガネが牛から距離を取り、私達を下ろす。

「主は下がっておれ!」

がってんだ!

見回すと、転がる人、人、人。
すぐ側にあの山賊風の冒険茶のヒゲもじゃさんがいた。

「大丈夫ですか?!」

駆け寄ってみるが、動かない。
目立った外傷はないように見えるけど、口元から血が流れてる。
あの棍棒で思い切り殴られたのかもしれない。

リン!

リンちゃんが飛んで来た。さすがリンちゃん、分かってる!
すぐさまヒゲもじゃさんの治療を始めるリンちゃん。
ヒゲもじゃさんが緑の光に包まれる。
あちらではハヤテとシロガネとクレナイが、牛に攻撃を仕掛けていた。

「ぶもおおおおおおおお!」

3方向からのえげつない攻撃に、為す術もなくやられていく牛。
ヒゲもじゃさんの治療が終わるやいなや、リンちゃん次の人の所へ。離れているから、エリアヒールが使えないのかもしれない。
牛が片膝を付き、両膝を付き、ゆっくりと、俯せに倒れた。さすがは3匹。3頭? 3人?
リンちゃんが、その側にいた人を飛び越え、その向こうの人の治療を始めた。
その意味は…。考えたくない。
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