異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

報償をもらえることになりました

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「お待たせして申し訳ない」

入って来たのは、ダンディーなおじさまだった。
うおっふ、この人が貴族だって言うのは納得出来るわ!なんか、高貴なオーラが出てるもん!
茶色い髪に茶色い瞳、ついでに茶色口ひげを生やし、ぱりっとした服を上品に着こなしている。
おおお、なんか世界が違う!
なんとなく畏まって、思わず立ち上がる。
私が立ち上がったからか、皆もソファから立ち上がった。

「ああ、そのまま、座ったままで大丈夫だよ」

おじさまがのこのこ歩いて来て、お誕生席のソファの横に立つ。

「私がこの街を治める、マルコ・ガーラット子爵だ。よろしく」
「わ、私は、冒険者をやってます、八重子と申します!」

ペコリと頭を下げると、おじさまも軽く頭を下げた。

「どうぞ、お座り下さい」
「は、はい、失礼して」

おじさまが座ったので、私達も座る。うう、なんか緊張する。
皆は全然緊張していないようだ。まあ、人間じゃないしね。

「この度は、この街を救って頂いたと言うことで、改めてお礼を言いたい」

おじさまが私を見てにっこり笑う。
うう、ダンディーの笑顔、ごちそうさまです。

「いえいえ、救ったなんて、なんというか、偶々と言いますか。偶然この街に立ち寄っただけで、頑張ったのは私じゃなくて皆だし…」

緊張で早口になってしまう。

「いえ、あなた方がこの街に来られなければ、この街は今回のスタンピードで壊滅的に被害を被っていたかもしれない。偶然とは言え、この街を救って下さったのだ。ありがとう」
「いへいへ、そんな、ははは」

ダンディーの笑顔、破壊力が!

「まあのう。妾達がいなければ、この街は今頃影も形もなかったやもしれぬ。存分に感謝するがよいぞ」
「ちょ、クレナイ!」

上から目線で偉そうに言わない!

「確かに、死者も出なかったのは、我らのおかげであるな」

シロガネも偉そう!こいつら!

「ええ、本当に。ドラゴンのおかげでほとんどの魔獣は倒せて、ペガサスがこの街を結界で守ってくれたおかげで、怪我人もほとんど出なかったと聞いております。そして、その妖精のおかげで、怪我人、死ぬかもしれない重傷者までもが治されたと。本当に感謝してもしきれません」
「ハヤテもがんばったのー!」
「はいはい。ハヤテ、ちょっと黙ってようね~」

ハヤテが頑張ったことは私がよく分かってるから!自分から言いふらさないで!
ぷくっと膨れるハヤテの頬を突っつきたくなったけど、そこは我慢。
膨れた顔も可愛いな!
ていうか、このおじさま、皆の正体知っているのだろうか?

「そこで、この街を救って下さった英雄、一番の功労者の貴女に、何か報償を差し上げたいと思いまして」
「ええ?! いえいえ、そんな! 私は何もしてません!」

実際に何もしてない!

「この街を壊滅の危機から救って下さった。偶々だろうが偶然だろうが、それは変わりません。そんな方に報償もあげられないようでは、私の領主としても立場もありません。どうか、受け取って頂けませんか?」
「う…」

そんな風に言われたら、受け取るしかないでしょう。

「何がよろしいでしょうか? お金でしょうか? 武具でしょうか? 何かお好きなものを仰って頂ければ、可能な限り用意致しますよ」

え、そんな、そんなこと…。
欲深い私に、好きなものを1つだけなんて!
てか、今欲しい物なんて特にないよ!
元の世界だったらいくらでもあるんだけど…。パソコン、iPhone、ゲーム機、漫画にラノベ…。言い出したら切りがない。じゃなくて。
どどど、どうしたらよろしいのだろうかかかか。
お金、は、まああるし、武具、なんて使ってもいないし。
とりあえずお金をもらっておけば、いいかな?あって損はしないものだしね。

「高級肉! 虹彩雉などあれば尚良しじゃ!」
「く、クレナイ!」

そこで口を出してくるか!

「梳き心地の良いブラシだな」
「シロガネまで!」
「ん~? おかし?」
「ハヤテ…」

お茶菓子が気に入ったようです。

リンリン!

リンちゃんまで何か主張している。

「ははは。これはまた、面白い要求ですな」

おじさま、本当に面白そうに笑ってる。
なんかすいません。うちの子達が…。
まあ、頑張ったのはこの子達なんだけどね。

「え~と、まあ…」

私が言い出しにくくなっちゃったじゃんか!

「では、どうでしょう。今晩の夕飯に、あなた方をご招待致しましょう。そこで今用意出来る高級な肉をお出し致しましょう。いかがですかな?」
「うむ! よかろう!」

クレナイ、涎が出かかってるよ。

「ブラシは私は詳しくないので、詳しい者に用意させましょう」
「うむ。よいであろう」

シロガネ、嬉しそうだな。

「お菓子も、夕飯が済んだ後に、お土産に用意いたしましょう」
「何から何まで、すいません」
「おかしー?」
「後でもらえるって」

ハヤテの頭をナデナデ。
一気に食べないように見張らないと。

「妖精には…どうしましょう?」
「ええと、何が良いんだろう…」
「蜂蜜を食べてみたいと言っておるぞ」

クレナイ!正体バレる!てか、バレてる?

「では高級な蜂蜜を用意致しましょう」

リン!

さりげなく流してくれた。これ、バレてる感じがするのだが。

「貴女には、お金がよろしいかな?」

心読まれた?!

「いえ、そんな、そこまで…」
「いやいや、受け取って下さい。実は元々用意していた物があるのです」
「はあ…」

これ、受け取らないわけにいかないパターンだな、ここは素直に受け取っておこう。

「ありがたく、頂戴いたします」

ペコリと頭を下げる。

「いえいえ。当然の報酬ですよ。それと、1つ貴女に頼みたいこともありまして」

ああ、そうきましたか。そのお金はその依頼料ってのも含まれてるんですね。

「ええと、なんでしょう? 内容如何によっては、ギルドを通して頂くことになりますけど」

ギルドを盾にすれば、怖いものはない。と思う。

「いやいや、そんな難しいものではありません。お恥ずかしながら、身内のことでしてな」

身内?のなんじゃらほい。

「実は、貴女がとても従魔に懐かれていると話しを聞きましてな。娘につい先日、犬が飼いたいというので犬をプレゼントしたのです。ところが、この犬が娘に懐かないと、娘がえらく怒っておりまして。貴女なら、何か動物に好かれるコツでもご存じではないかと」

犬の躾教室でしたか。
おじさま、ちょっと困ったお父さんの顔になった。こういう所は普通の親なのだな、と感心する。

「犬はちょっと専門外ですけど、まあいいです。やってみましょう」
「本当ですか?! よろしくお願いします!」

おじさまが頭を下げた。
すると、するりとクロが肩に乗ってきて、耳元で囁いた。

「八重子、2、3条件を付けておけ」

条件?とな?

「すいません。引き受けるに当たって、2、3条件を付けさせて頂きたいんですけど」
「条件、ですか。なんでしょうか?」

クロに言われた通りの条件を口にした。
ちょっと渋い顔をしたおじさまだったが、娘の為と、条件を受け入れてくれた。
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